見出し画像

【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十話 夢の話

現実夢境レアルファンタズム内に滲み出した夢の中で、夢幻喰ムクロは弱々しく笑っていた。

「私は……愚かだったな。キラキラと輝くお前を……妬み、羨んでいた」

飛龍フェイロンは拳を握りしめる。

夢幻喰ムクロ……なんで言ってくれなかった。お前がそんなに……孤独だったなんて」

「言えるわけがないだろう! 私は “夢を喰らう怪物” だ。お前のように、誰かと共に生き、誰かを愛する資格など……」

「資格なんて……」

ミラが静かに首を振る。

「資格なんて、誰が決めるのよ。あなたは……ただ、寂しかっただけじゃない」

「……そうかも、知れないな」

夢幻喰ムクロの身体が光に溶け始める。もう長くはない。

飛龍フェイロン夢幻喰ムクロの肩を掴んだ。

「行くな! 俺は、お前を……!」

「フフッ……飛龍フェイロン、私もお前のように……」

光が弾け、夢幻喰ムクロの身体は霧散した。

最後の声は、風のように優しかった。

静寂が訪れた。飛龍フェイロンは拳を握りしめ、空を見上げる。

夢幻喰ムクロ……俺はお前を、家族だと思っていた」

ミラとテトラは黙ってその背中を見守った。

風が吹き、黒い靄の欠片が空へと昇っていく。 まるで夢幻喰ムクロの魂が、ようやく悪夢から解放されたかのように。

飛龍フェイロンはそっと目を閉じた。

「いつか……また会おう。今度は、ちゃんと話そう。お前の夢の話を……」

空は晴れ渡り、世界は静かに再生を始めた。

夢幻喰ムクロの残した“夢”は、確かにそこにあった。

そして、夢幻喰ムクロが消え、現実夢境レアルファンタズムが崩れ落ちる。

空が元に戻り、地面が安定し、森が静寂を取り戻す。暗く不気味な幽玄の深森ミスティルナ・シルヴァになっていた。

「……終わったのね」

飛龍フェイロンは肩で息をしながら、 笑みを浮かべる。

「あぁ……本当に終わったんだな」

テトラは翼を広げ、 空を見上げた。

「おいら達、勝ったんだな……勝ったんだよな!」

ミラは2人に微笑む。

「ええ、3人で勝ったのよ!」

立ち尽くす3人を、真珠の泉の光が照らす。その水面には3人の姿が映っていた。

その中で、飛龍フェイロンだけは空を見上げる。夢幻喰ムクロの夢に想いを馳せるように……。

テトラは笑いながら言う。

「さぁ! とにかく飯食おうぜ!! 腹減ったぁぁぁ!!」

ミラと飛龍フェイロンは思わず吹き出した。

「テトラ……ほんと、あなたって……」

「最後までブレないな……」

3人の笑い声が、 静かな森に響いた。

————ザァ……ツゥ——ツゥ——ツゥ——

「おっ!なんだ、なんだ!?」

「空からだ……」

「えぇ……」

「スゥ……代表選士及び観戦者諸君! お待たせぇぇぇ!! ここで“生存者アナウンス”の時間だぁ!!」

「!?……またあの声ね」

「グリム……」

「チッ、あいつ、ほんと腹立つ声出しやがる!」

空に映し出された実況者グリムは、満面の笑みで手を振っていた。

そして、芝居がかった声で読み上げる。

獏族タピルス——夢幻喰ムクロ鯱族オルカ——ミオス・オルカディオス、 土竜族クロート——モール・グラウネス、 鷲族アクイラ——エイダ・オルニセラス、死亡ぅ〜〜〜!!」

鯱族オルカの戦士に……鷲族アクイラの戦士……一気に4人も……」

「おいら達が、夢幻喰ムクロと戦ってた間に、そんなに……」

「あぁ……容赦のない、バトルロイヤル。その残酷さが、際立ってきた……」

「以上、今回の脱落者は4名! 残り生存者は……え~っと……」

指を立て、 ゆっくりと数を刻む。

「40人!!40人だぁぁぁぁぁぁ!」

その数字が、 空間に大きく表示された。

「さぁ〜、十二の神獣の座をかけた戦い…… “アポカリプス” はまだまだ続く!! 最後に生き残るの12名は一体、どの種族なんだぁ!」

————ザァ……ツゥ——ツゥ——ツゥ——

グリムの姿がノイズを発し、 消え去る。

残されたのは、 静寂と、 胸に重くのしかかる“現実”。

「まだ……終わってないのね……」

「あぁ、夢幻喰ムクロを倒しても、まだ先がある……」

「上等だ……!! 何人残ってようが…… おいら達は絶対に生き残る!! 3人で、最後まで行くんだ!!」

ミラとフェイロンは頷く。

「ええ……必ず」

「最後まで戦い抜くさ」

3人は誓う。しかし、悪夢を断ち切った3人の背に、そして、生き残っている40人の戦士達に更なる恐怖と絶望が訪れることを、 まだ誰も知る由もなかった……


👈第三十九話 悪夢からの解放

👉第四十一話 幻獣、動く

👇目次・あらすじ
目次・あらすじ

いいなと思ったら応援しよう!