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【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第三話 銀牙の試練ー影狼の回廊①

3日が過ぎ、満月の夜が訪れた。フェンリルの森は銀色の霧に包まれ、木々の葉は月光を反射して淡く輝いている。森の奥深く、古代の石柱が林立する広場の中央に、それは静かに佇んでいた。

❝月牙の迷宮❞

満月の夜にだけ姿を変えると言われる古代の遺跡。狼族フェンリルにとって、ここは成人の証を得るための“銀牙の試練”の舞台であり、数多の若者がここで己の限界と向き合ってきた。

迷宮の前に立つ族長ヴォルグは、3人の候補者を見渡した。

ルガ・ハウル——冷静沈着な銀毛の若者。
ミラ・グレイ——孤児から成り上がった双剣の天才少女。
トルン・ファング——豪腕と咆哮を誇る猛者。

「えー、これより銀牙の試練を執り行う。力だけでは足りぬ。知恵、感覚、そして一族への想い——すべてを示せ」

ヴォルグの声は低く、しかし迷いのない響きを持っていた。

迷宮の入口が重々しく開く。冷たい風が吹き出し、月光が裂け目から差し込んで古代の文様を淡く照らす。

「行こう」

ルガが静かに言い放つ。

「ええ……」

「あぁ……」

3人は月牙の迷宮へと足を踏み入れた。

迷宮に入った瞬間、空気が変わった。

冷たい風が僕たちの毛並みを揺らし、天井の裂け目から細く差し込む月光が、壁に刻まれた古代フェンリル語の文様を照らしている。

床には無数の爪痕が残り、ここが長い歴史の中で幾度も試練の場となってきたことを物語っていた。

「ここが影狼の回廊なのね……」

「聞いたことあるぜ。月光に宿る幻獣、影狼が出るってな」

「幻影だからって侮るな、トルン。ここで何にもの戦士たちが、命を落としているんだから……」

「分かってるって、しかし代表候補は、やっぱりルガとミラか。俺の予想通りだぜ」

「そうだね、僕たち3人の誰かだとは思ってたけど、こんな試練があるとは思わなかったよ」

——シュゥゥゥゥゥ……

「2人とも、何か変よ!」

「……!?」

3人の前で、黒い影が蠢き始めた。そしてゆっくりと形を成し、狼の姿へと変わっていく。

「もしかして、これが……」

「影狼だ……」

その数は十、二十……やがて三十を超え、無音のまま3人を取り囲んだ。瞳だけが青白く光り、月光を反射している。

「囲まれたわね……」

「仕方ねぇ……ぶっ飛ばすぞ!」

「……待て!」

「影狼は月光に反応して増える。無闇に攻撃すれば、倍になる」

「じゃあどうすんだよ、ルガ!」

ルガは天井を見上げ、月光の角度と影の濃さを計算するように目を細めた。

「影狼は、影が濃い場所にしか現れない。つまり、影の薄い場所を通れば……」

「抜けられるってことね」

「おそらく……。3人で動こう。僕が光の筋を読む。ミラは右側の影を牽制して注意を逸らしてくれ。トルンは後方を頼む。お前の咆哮なら影狼の動きを鈍らせられる」

「任せろ!」

「了解ッ!」

3人は息を合わせ、影狼の群れの間を縫うように走った。

ミラの剣が影の注意を逸らし、トルンの咆哮が背後の影を牽制する。

ルガは月光の筋を読み、最も安全なルートを導き出す。

「次、右へ三歩!ミラ、影が!」

「わかってる!」

ミラが影狼の前を横切り、影の動きをずらす。

トルンは振り返りざまに吠え、影狼の群れを押し返すように威圧した。

「トルン、左後ろから来る!」

「任せろ!」

トルンが拳を振り抜き、影狼の軌道を逸らす。拳は影を貫かないが、衝撃で影の形が揺らぎ、進行を遅らせることはできた。

「ミラ、前方の影が濃い!右に寄るんだ!」

「了解ッ!」

ミラは軽やかに跳躍し、影狼の注意を引きつけるように剣を振る。刃は影を切らないが、光を反射して影狼の視線を奪う。

「今だ、左に跳べ!」

3人は同時に跳躍し、影狼の爪が空を切る。その瞬間、月光が雲に遮られ、影狼たちは一斉に消えた。

静寂が戻る。

「……やったか?」

「まだ終わってないわ」

そこには、他の影狼とは異なる、巨大な影が立っていた。体は黒く、月光を吸収するように揺らめいている。瞳は赤く、牙は銀に輝いていた。

「……影狼王だ」

「こいつがここの門番ってわけか」

影狼王は咆哮とともに突進してきた。その速度は通常の影狼の比ではなく、三人はそれぞれ回避するのがやっとだった。

「うっ……速い!」

「攻撃が通らねぇぞ!」

「月光の角度が悪い。影が濃すぎる!」

「なら、光を動かすしかないわね……」

「ルガ、あの鏡を使って光を当てて!」

ミラの指さす方向に、古びた何枚もの鏡があった。

「わかった。トルン、時間を稼いでくれ!」

「任せとけぇ!」

トルンが影狼王の前に立ちふさがり、咆哮で注意を引く。影狼王の爪がトルンをかすめるが、彼は踏みとどまった。

「ルガ、急げ!」

「今、調整してる!」

ルガは鏡の角度を変え、月光の筋を影狼王に向けて集中させた。影狼王の体が揺らぎ、実体が現れ始める。

「ミラ、今だ!」

ミラは双剣を構え、深く息を吸った。

「行くわよ、2人とも!」

3人の視線が交わる。影狼王との決戦が始まろうとしていた。


👈第二話 月に吠える者たち

👉第四話 銀牙の試練ー影狼の回廊②

👇目次・あらすじ
目次・あらすじ


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