【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四話 銀牙の試練ー影狼の回廊②
影狼王の咆哮が回廊に響き渡る。空気が震え、床の影が波紋のように揺れる。ルガ、ミラ、トルンの3人は散開し、それぞれの位置から影狼王を見据えた。
影狼王の体は黒い霧のように揺らぎ、月光を吸い込むたびに輪郭が濃くなったり薄くなったりする。実体を持つ瞬間は一瞬だが、その一瞬を逃せば攻撃は通らない。
「ルガ、光はどう?」
「あと少し……角度を合わせれば、影が薄くなる!」
「なら、俺が時間を稼ぐ!急ぎで、頼むぜぇ!」
「無茶はしないでよ!」
「フンッ……無茶しねえと勝てねえだろ!」
影狼王がトルンに向かって突進する。黒い影が床を裂くように走り、赤い瞳が獲物を捉える。
トルンはその巨体を正面から受け止めるように見えたが、直前で身をひねり、影狼王の肩をかすめるように避けた。
「おらぁっ!」
——バァァァァァン!!
トルンの拳が影狼王の側面に叩き込まれる。しかし、影は霧のように揺らぎ、拳は深くは入らない。それでも衝撃で影狼王の動きが一瞬止まった。
「トルン、ナイス!」
月光が反射し、影狼王の背後に光の筋が伸びる。影が薄くなり、輪郭がわずかに実体を帯びた。
「ミラ、トルン、もっとかく乱してくれ!もう少しで、実体が出るはずだ!」
「任せて!」
双剣が月光を受けて輝き、彼女の体が銀色の軌跡を描く。
「こっちよ!」
ミラが影狼王の注意を引くように剣を振る。刃は影を切らないが、光を反射して影狼王の視界を奪う。影狼王がミラに向き直った瞬間、トルンが背後から吠えた。
「おい、こっち向け!」
影狼王の動きが一瞬揺らぐ。その隙に僕は鏡の角度を決定的な位置へと合わせた。
「……よし!」
月光の筋が一直線に影狼王を照らす。黒い体が揺らぎ、霧のような影が剥がれ落ち、内部に銀色の骨格のようなものが浮かび上がった。
「実体化した!」
「ミラ、トルン、今だ!」
2人は同時に動いた。
ミラは空中で体勢を整え、双剣を交差させる。
トルンは地を蹴り、影狼王の足元へと突進する。
「トルン、右脚を狙え!」
「任せろ!」
トルンの拳が影狼王の右脚に叩き込まれた。今度は確かな手応えがあった。影狼王の体がわずかに傾く。
「ミラ、今だ!」
「ええ!」
ミラは落下の勢いを利用し、双剣を影狼王の肩口へと突き立てた。銀色の刃が影狼王の体を裂き、黒い霧が噴き出す。
影狼王が咆哮し、暴れる。ミラは吹き飛ばされそうになりながらも剣を引き抜き、壁に着地した。
「くっ……まだ倒れないの?」
「影が濃くなってきてる……!」
「雲が月を覆い始めたんだ!」
天井の裂け目から差し込む月光が弱まり、影狼王の体が再び霧のように揺らぎ始める。
「まずいな……」
「ルガ、どうするの?」
僕は迷宮の壁を見渡し、複数の鏡が規則的に配置されていることに気づいた。
(この鏡……全部、規則的に配置されているんだ。だったら……)
「ミラ、トルン!鏡を全部使う!」
「全部?」
「そうだ。月光を一点に集めれば、雲に遮られても光量を確保できる!」
「なるほどね……」
「よし、やってやる!」
3人は散開し、それぞれの鏡へと走った。
ミラは軽やかに壁を駆け上がり、鏡の角度を調整する。トルンは力任せに鏡の台座を動かし、光の筋を変える。ルガは中央の鏡を軸に、2人の光を集めるように調整した。
「ミラ、少し右!トルン、もう少し上だ!」
「こう?」
「こうか!」
光の筋が交差し、一本の強い光となって影狼王を照らす。
影狼王の体が激しく揺らぎ、黒い霧が剥がれ落ちていく。
「今だ……!」
ミラが双剣を構え、銀色の気流が彼女の体から立ち上る。
「私が決める!」
「森羅万象を断つ双牙——月牙双閃!」
ミラの奥義が放たれた。彼女は地を蹴り、光の筋をなぞるように影狼王へと突進する。双剣が交差し、銀色のX字が影狼王の胸に刻まれた。
影狼王は咆哮を上げ、体が崩れ落ちるように霧散していく。黒い影が月光に溶け、静寂が回廊に戻った。
「ハァ……ハァ……やったな」
「2人の力がなければ、突破できなかった……ありがとう。」
「何言ってんの、ルガの指示があったからよ。あ、後トルンの力もね!」
「おい!ついでみたいに言うなんじゃねぇよ!」
3人は回廊の奥へと進む。その先には、第二の試練——「月霧の庭」が待っている。
影と光の試練を越えた3人の歩みは、次なる運命へと続いていった。
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