【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第五十四話 氷の獣
洞穴に吹き込んでいた風が、次第に弱まっていった。 外の吹雪はまだ荒れ狂っているものの、洞穴の奥にまで届くほどの勢いはない。
ミラは壁にもたれ、深く息を吐いた。
「もう少し、休みましょう。体力を戻さないと……」
「ミラも飛龍も、傷は大丈夫か?」
「あぁ、傷口が瞬時に凍ったおかげで、出血量が抑えられている。この環境の唯一の利点だな……」
3人はしばし沈黙し、呼吸を整えた。 洞穴の奥から流れてくる地熱が、じんわりと身体を包む。
(それにしても、静かね……各地で戦いが起きてるのが、嘘みたいに……)
ミラが目を閉じかけた時。氷原全土に、再びあの声が響き渡った。
————ザァ……ツゥ——ツゥ——ツゥ——
「これは……」
「グリムの野郎か。また、誰か死んじまったんだな……」
「また1人、沈んだ戦士が出た……河馬族の代表、ホアン・タスクホールド死亡ッ! 残り38名!」
————ザァ……ツゥ——ツゥ——ツゥ——
「お、おい……ホアンって……シャバルが追い詰めたって言ってた河馬族の戦士か!?」
「あぁ……シャバルの言い草から推測すると、かなりの負傷を負っていたはずだ……そこに誰かが、とどめを刺したのだろう……」
ミラは唇を噛む。
「そう考えた方が良さそうね……問題は、誰が殺ったかってことよ」
「まさか、おいらたちの近くに居る……ってことはないよな?」
飛龍は洞穴の外を見つめる。
「分からない。だが、この氷原で戦闘が起きれば、吹雪の音に紛れて気づけないこともあるだろう……」
「私、あまり河馬族の事について、知らないんだけど、どんな種族なの?」
「河馬族は、硬い表皮と圧倒的な筋肉量を持つ種族。ホアンがどんな者か知らないが、近距離パワー型の戦士とみて間違いないだろう」
「てことは、そいつを倒せる奴も半端ねぇパワーの持ち主ってことか?」
飛龍は、腕も組み、考えながら答える。
「河馬族を正面から突破できる奴は限られる。それよりも、どこかで急襲したとみる方が可能性が高いな……」
「そうね。シャバルが追い詰めてたのなら、相当傷を負っていたはずだし、その可能性の方が高いわね……」
(そうなると、この環境を熟知してる戦士、もしくは相当計算高い戦士がいるってことになるわね……)
「とにかく、落ち着こう……俺たちは、さっきの作戦通り動くだけ。周りに乱されては、命を落とすことになる……」
「えぇ、今は力を溜めておきましょう。いざ戦いとなった時に為に……」
「じゃあ、おいら、ちょっと外の様子でも見てみるかな。よいしょっと……」
テトラが立ち上がり、洞穴の入口へ歩く。
——ズズズズッ……モコモコッ……
「……ッ!?テトラ!後ろ!」
「あん?」
——モコモコッ……ドフンッ!モコモコッ……
「な、なんだこれ!?地面が……盛り上がってきてやがる?ありえねぇだろ、こんなの!」
「落ち着いて、テトラ!ただの自然現象かもしれない!」
「いや、よく見ろ。地面ではなく、雪だけが盛り上がっている。自然にこんな現象は無い。明らかに、人為的……誰か他の戦士の仕業だ」
(確かに、動きもまるで、生き物のように蠢いている……気持ち悪い……)
——キュゥゥゥゥゥ……バサァッ!
「動くぞッ!気を付けろ!」
白い破片が四方に飛び散り、小さくなって3人を襲う。
「……ッ!?はぁぁぁぁ!」
「くっ……これは……」
「これで確定だぜ!こんな、動き自然じゃありえねぇ!」
「えぇ、完全に私達を狙ってきてる!」
「氷原の下に潜んでいたのか……! くそっ、こんなタイミングで!」
(下に潜んで居たなら、気づけたはず……私の鼻にも、飛龍でも気づけなかったなんて……)
——ズボッ、ボコッ、ムクムクン……
「おい、今度は弾いた雪が固まりだしたぞ!」
「こ、これは……」
(何これ?氷の……獣?)
その姿は、氷のように白く、狼のようにしなやかで、しかし異様に長い爪を持つ氷の獣だった。
ミラは双剣を交差させ、力を込める。
「来なさい……!」
——ゴワァァァァァァァァ!!!
氷の獣が咆哮し、洞穴が震えた。
「ミラ、テトラ、大丈夫か?」
「全然平気よ……ねぇ、テトラ?」
「おうよ!おいら、いつでも行けるぜぇ!」
「だったら……休憩は終わりね」
「フッ、そうだな。テトラ、遅れをとるなよ」
「何だと!あんな奴、一瞬でぶっ飛ばしてやらぁ!」
「言い争ってないで、さっさと片付けるわよ!こんな奴……」
「おうよ!」
「あぁ!」
洞穴の中で、3人と氷の獣の激突が始まった。残り生存者、38名。
氷原の戦いは、さらに苛烈さを増していく。
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