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【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第五十三話 灯の中で

絶対零度の氷原グレイシャル・ネメシスでは、再び吹雪が巻き起こり、視界一面白に染められていた。

シャバルの亡骸が雪に包まれ、ミラたちがその場を離れてから、ほんの数分後のことだった。

————ザァ……ツゥ——ツゥ——ツゥ——

神獣界アルガディア全土の上空に、黒いローブを纏った影がゆらりと映し出される。

獣王神アル=ラグナ様が領域を移動させて、さっそく1人目の脱落者だぁ~!数百年に一度生まれる“黒豹ネロパルド”の血を引く最速の狩人……豹族レオパルドの代表選士、シャバル・ナイトパルマ死亡ぉ~! 残り39名!」

淡々とした声が、神獣界アルガディアの空気を震わせた。

グリムは一度だけ目を閉じ、短く息を吸う。

「スゥ……さぁ、次は一体誰が倒れるのか……十二の神座につくのは、どこの一族なんだぁぁぁ!戦士達よ……喰らい合えッ!」

————ザァ……ツゥ——ツゥ——ツゥ——

その叫びと共に、グリムの姿は霧のように掻き消えた。

その頃、ミラたちは、氷原の端にぽっかりと開いた洞穴を見つけていた。

「ここなら、風も雪も防げそうね。寒さも多少和らぐでしょう……」

ミラが洞穴の奥を確認し、頷く。飛龍フェイロンとテトラも続いて中へ入る。

「見た目より、中は暖けぇな。氷も雪もねぇ場所もあるぜ……」

飛龍フェイロンが壁に触れ、驚いく。

「地熱……か?近くに業火の火山地帯ヴォルカニック・ヴァルカンがあるのかもしれんな……」

——ガシャン……

ミラは洞穴の中央に腰を下ろし、双剣をそっと置いた。その刃には、まだシャバルの戦気の余韻が残っているように感じられた。

「どうしたミラ、大丈夫か?」

「ええ……でも、やっぱり少し胸が痛むわね。シャバルの言葉が……ずっと頭から離れない……」

「ミラ……あいつは最後、笑ってたじゃねぇか。お前に倒されて、救われたって……」

「……わかってる。でも、ちゃんと、助けたかった。生きて……また笑えるように……」

飛龍フェイロンは洞穴の入口に立ち、外の吹雪を見つめながら言った。

「ミラ。 お前が救えなかったと思うのは自由だ。だが、シャバルがどう感じていたかは、あいつ自身が言っただろう」

ミラは目を閉じる。

(“ありがとう。俺を狩ってくれて”か……)

その言葉が、胸に深く刺さっていた。

「取り敢えず、ここで立ち止まってばかりもいられない。この絶対零度の氷原グレイシャル・ネメシスでどう動くか、考えよう……」

「そうね……私たちもこの戦いに勝たなくちゃいけない。作戦を練りましょう」

「そうだな。 この絶対零度の氷原グレイシャル・ネメシス……環境そのものが敵って感じだぜ、まったく……」

飛龍フェイロンが、洞穴の壁に文字を彫りながら話を進める。

「まずはここ、絶対零度の氷原グレイシャル・ネメシスの特徴についてだが、大地のほとんどが氷と雪で覆われている。気温は常に危険域。吹雪が来れば、視界は数メートル。体温を奪われれば、戦うどころか歩くことすら難しくなる……」

「それだけじゃねぇ……山があって、この雪だ。いつ雪崩が起きてもおかしくねぇ……」

「つまり、絶対零度の氷原グレイシャル・ネメシスでは、敵より先に環境に負ける可能性が高いのね……」

飛龍フェイロンが頷く。

「そうだ。どれだけ強くても、凍えれば終わりだ。逆に、環境を読める者は……生き残るとも言える」

「この領域を出るってのは、どうだ?もっと戦いやすい場所があんだろ?」

「もちろん、それが理想だとは思うけど……今どこにいるか分からない以上、あんまり動き回るのは得策じゃないと思うわ。体力が消耗するだけで」

「うむ……さて、どうするか……」

しばらく沈黙が続いた後、ミラが口を開く。

「シャバルが、吹雪の中、私達を正確に捉えていた……あれって、匂いとか音じゃなくて、多分風向きとか足元の感じで私達が移動しそうな場所に行ってたんだと思う。もちろん、野生の勘みたいなのもあったと思うけど……」

「風向き?」

「えぇ。風向きとか吹雪くタイミングが分かれば……」

「なるほど。比較的動きやすい時に別の領域に歩みを進め、無理な時は、その場で備えるという訳か……」

テトラが頭を掻く。

「なるほどな~。となると、問題はどっちへ進むかじゃなくて、どう進むかってことになる。吹雪のタイミング、風向き、索敵……全部に気を張り続けるのはしんどいぜ?」

飛龍フェイロンが顔を上げ、ミラへ視線を向ける。

「ミラ、どうだ? 風向き読めそうか?」

「ええ、多分。風向きや吹雪の前兆は、私の嗅覚で察知できると思うわ。でも、雪崩までは……」

「それだけ分かれば、十分だ。地面の動きは、俺が何とか掴めるかもしれん」

「よし!決まりだな!進む方向は、この洞穴の先にしようぜ。もしかしたら、ずっと暖けぇかもしれねぇしな……」

——ビュォォォ……ボオゥゥゥゥゥ……

「そうね。どのみち今は、外に出れそうにないないし」

「あぁ……方針は決まった。吹雪が止むまで、もうしばらく休もう……」

3人は洞穴で、再び訪れる戦いへの英気を養う。

その背中を、洞穴の奥の氷柱が静かに照らしていた。

——残り生存者、39名。

絶対零度の氷原グレイシャル・ネメシスでの戦いは、まだ始まったばかりだった。


👈第五十二話 解放

👉第五十四話 氷の獣

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