【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十二話 凍える大地
——ゴォォォッ……ビュオオオオッ……
「……っ、さむ!」
ミラは反射的に目を開いた。 視界に広がったのは、どこまでも続く白銀の世界。さらに、呼吸をするだけで肺が凍りつきそうな、異常な温度。
吹き荒れる氷雪。凍りついた大地。空は灰色に沈み、太陽の光すら氷に閉ざされている。
ミラは震える身体を抱きしめながら、周囲を見回した。
「テトラ! 飛龍! いる?」
「お、おいら……ここに……っ、寒っ!!」
テトラは全身を抱え込み、歯をガチガチ鳴らしていた。 普段は陽気な彼でさえ、この寒さには耐え難いらしい。
その横で、飛龍がゆっくりと立ち上がる。 彼の息は白く、龍の髭にはすでに霜がついていた。
「……ここは……神獣界第二領域、“絶対零度の氷原”か。まさか、ここに飛ばされるとはな」
「獣王神、本当に容赦ないわね……こんな場所で戦えっていうの?」
「戦う前に凍え死ぬっての! くそっ、脚も手も痛ぇ!」
「2人とも、寒さに気を取られ過ぎるな……ここに誰がいるか分からない」
「誰かって……」
——ヒュオォォォォォ……ボンッ!
ミラは思わず身をすくめる。
(……今の音、何?)
「これは……2人とも、これを見てみろ……」
飛龍が、雪の上に膝をついて地面を触れた。その指先に何かがついていた。
「な、なんだよ飛龍?それ……」
「……血だ」
「え……?」
ミラは思わず足元を見る。 白銀の雪の上に、赤黒い染みが点々と続いていた。
「ちょ、ちょっと待てよ……こんな寒さで血なんて……すぐ凍るだろ?それが凍ってないってことは……」
「あぁ……つまりはそういう事だろう……」
「さっきまでここでは、誰かが戦っていたってことね……」
飛龍は雪を少し掘り返し、血の跡を指でなぞる。
「そういう事だな。傷を負っただけなのか、死んでしまったかは分からないが……」
「おいおい、マジかよ!じゃぁすぐ近くに誰かが……」
(血が線になってるってことは……)
「いや、多分近くには居ないわ……」
「そうだな……よく見ろ、テトラ。この血の跡を」
「先に続いてるってことは、怪我しながらも、逃げてるってことか」
(この吹雪で、敵を見失っちゃったて事かしら……)
「2人とも、あれ何?」
少し離れた場所に雪が大きく抉れた跡があった。まるで巨大な何かが地面に叩きつけられたような、深い穴。
「な、なんだよこれ……地面が……砕けてる?」
飛龍はその穴の縁に立ち、慎重に観察する。
「……衝撃の跡だ。しかも……相当な力だ」
「このパワー、夢幻喰より……強い?」
「総合的な戦闘力は夢幻喰の方が上だが、純粋な力だけで言えば、おそらく……な」
「お、おいおいおい! 夢幻喰より強いって……冗談だろ!? あいつだって十分化け物だったのに!」
「この領域……ただの氷原じゃない。ついさっきまで、誰かがここで戦っていた。2人とも、気を引き締めて行くぞ……」
「えぇ……」
「あぁ……」
吹雪の中、3人は血の跡を辿りながら進んでいく。その途中、さらに異様な光景が広がっていた。
——巨大な氷柱が、根元から折れている。 ——雪の上に、深くえぐられた爪痕。 ——氷の壁に、何かが叩きつけられたような衝撃痕。
ミラは震える声で言う。
「これ……全部……誰かがやったの……?」
「あぁ……一人かどうか分からないが」
「やめろよ……怖ぇだろ!」
(さっきの大穴とは、攻撃の感じが違う……おそらくは、別のやつの仕業だろうが……)
飛龍は歩みを止め、吹雪の向こうを見つめた。
——ドォン…… ドォン…… ドドォォォン……
(この鈍い音……かなり遠くだが、誰かが戦っているのか?)
「飛龍、どうしたんだ、急に止まって?」
「2人とも、静かに……遠くで何か大きな音がする」
「……!?」
(吹雪で匂いが飛んでる……私の鼻が利かない……近づかれても、気づけない……)
「ミラ、飛龍、とにかく一度どこかで作戦立てようぜ……こんなとこで突っ立ってても、危ねぇだけだ……」
「……そうだな」
「……そうね」
絶対零度の氷原。その中心で、3人の新たな戦いが静かに幕を開けようとしていた——
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