【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十三話 氷原の狩人
吹雪の中、3人が音のする方向、そして血の跡から遠ざかるように歩みを進めていた。
「ハァ……ハァ……くそっ、脚を取られて進みずれぇ……それに、やっぱり寒ぃ……」
「お前たちは毛があるから、まだマシだろう……テトラ」
「そうね。私達と違って、飛龍は体毛が無いから、より辛さが増すわよね」
「……ッ!?」
「どうしたの、飛龍?急に足を止め……」
「しっ……誰かがいる」
ミラとテトラが身構える。
その瞬間、吹雪の奥から、低くしなやかな声が響いた。
「気づくとはな。さすが龍族。幻獣種族の勘ってやつか……」
ミラが振り向くと、そこに立っていたのは、黒い肌に黒い斑点模様のしなやかな筋肉を持つ獣人。
(気づかなかった!こんなに近づかれて……それにあいつの右手、巨大な鉤爪の武器……まさかあれで……)
「……お前は……」
「俺は、豹族の戦士、シャバル・ナイトパルマ だ」
「マジかよ!?」
「知ってるの、テトラ?」
「あぁ “最速の狩人”って呼ばれてる奴だ……! やべぇ……こんなとこで会っちまうなんて……!」
「残念だったな、トサカ。だが、安心しろ。今俺は、狩りの途中……お前らを殺すことは、考えていない……今のところは」
彼は雪の上に落ちていた血の跡を指でなぞり、 その指先を舐めた。
「その血……いったい誰の?」
「これかい? これは、河馬族の血だ」
飛龍が眉をひそめる。
(河馬族……? 体表が分厚く、切り傷すら負わないといわれる奴に傷を負わせたのか?)
「あいつは、いい鴨だぜ。本来なら凶暴で手強い河馬族もこの氷の世界では、赤子の手をひねるようなもの。そんな奴を追いながら、狩りを楽しんでいたのに……」
シャバルの表情が険しくなる。
「た、楽しんでたって……お前……河馬族の戦士はどうなったんだ!」
「っく……雪崩だ」
「なるほど、雪崩で見失った……というわけか」
——ギリ…ッギリ…ッギリ…ッ
「あぁ。 奴は雪崩に飲まれた……ように見えた。 だが、硬い皮膚と筋肉で、近距離肉弾戦が得意といわれる河馬族だ。奴があれくらいの雪崩で死ぬとは思えない。それに……」
——スゥ……ハァ——
「それに、グリムとか言うやつの声がしない。つまりは、そういう事だろう……」
「じゃあ……まだどこかに……?」
シャバルは声を荒げ、吹雪の中で獣のように吠えた。
「生きてる。“最速の狩人” と言われるこの俺が、獲物を逃がした! この屈辱、お前らに分かるか!」
ミラは思わず一歩後ずさる。
「……だが、しかしだ」
だが次の瞬間、シャバルはふっと口角を上げた。
怒りではない。 悔しさでもない。
それは、獲物を見つけた捕食者の笑み。
シャバルはゆっくりと三人へ視線を向けた。 その豹族特有の黄色みがかった眼は、完全に狩りの目をしていた。
「雪崩で河馬族の野郎を見失った時は、さすがに苛立ったが……代わりの“獲物”が見つかった。」
「……代わり……?」
「おいおい……まさか……」
「……」
「クックックックッ!そうだ、狼。河馬族よりも……ずっと面白そうな獲物がな」
「お、おいら達を……狩る気かよ……!」
「察しがいいな……トサカ」
「さっきから、トサカってのは、なんだ!この野郎ぅ!おいらは、太陽の化身、テト……」
テトラの言葉を遮るように、シャバルは鉤爪を構え、低く身を沈めた。 その動きは、吹雪の中でも一切ブレない。 まるで氷原そのものが彼の縄張りであるかのように。
「そもそも、これは十二の神座をかけたバトルロイヤルだ。そして、俺は狩人。弱い奴でも容赦なく狩らせてもらうぜぇ」
——ギリ…ッギリ…ッギリ…ッ
「龍族の生き残り。 そして……この氷原で迷ってる無防備な獲物が2人……クックックックッ」
(こいつ、明らかに飛龍を狙ってる)
——ジュル……
「まったく、最高じゃねぇか」
「飛龍……こいつ、あなたを……」
「あぁ、分かってる」
飛龍が前に出る。
「おい、シャバルとか言ったな……」
「?」
「俺たちも、黙ってお前に殺されるつもりはない……目的のために全力で戦わせてもらうぞぉ!」
「ふんっ、戦い? 違ぇよ……そんなんじゃねぇ、そんなんじゃねぇんだ……」
(何を言ってるの……こいつ……)
「お前らはただの“獲物”だ」
——ヒュュュッ……ゴォォォッ……バァン!
シャバルは一歩踏み出しただけで、雪が爆ぜた。
「さぁ……逃げろよ」
(やばい!?)
「逃げねぇと、狩りにならねぇだろ?」
豹族の戦士シャバル・ナイトパルマ。 その冷酷な狩人の眼は、完全に3人を捉えていた。
ミラ、テトラ、飛龍。3人は、絶対零度の氷原で最悪の敵……狩人と出会ってしまった——
👇目次・あらすじ
目次・あらすじ
