【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十四話 狩りの始まり
——ヒュュュッ……ゴォォォ……
「逃げねぇと、狩りにならねぇだろ?」
「……!?」
「こんなとこで戦うのかよ、クソッ!視界も足元も悪ぃのに……」
——ビュオオオッ……ババァン!
「うっ……! 風が……強い……!」
「な、なんだよこれ……! さっきより吹雪が強くなってるじゃねぇか!!」
「違う……これは自然の吹雪じゃない。シャバルが……動いたんだ!」
「あいつの踏み込みで、雪が舞ったってこと?それにしても、吹雪くのはおかしいじゃない!」
「シャンバルの動きが速すぎて、舞い上がった雪が吹き荒れてるってことか……どんな化け物だよアイツ!!ミラ、匂いで奴を探れねぇのか?」
「出来たら、とっくにやってるわよ!」
——フッ
「……遅ぇよ」
ミラの耳元で、低く冷たい声が囁かれる。
「……っう!!」
——ガリガリガリガリッ……ドガッ!
(危なかった……躱せなかったら、この氷みたいに抉られていた)
「ミラ!大丈夫か!」
「だ、大丈夫……少しかすめただけ。 でも、速度が速い分、当たれば、致命的よあの攻撃……」
「やはり、絶対零度の氷原に来て始めに見つけたあの獣が引っ搔いたような傷は……こいつの鉤爪か……」
「えぇ……おそらくね」
シャバルはゆっくりと立ち上がり、鉤爪についた氷を払う。
「おいおい……今のを避けるとはな。やっぱり獲物にして正解だったぜ。狼族の嗅覚ってのは、大したもんだなぁ……」
「匂いなんて……ただの勘よ……」
「それより、なんでお前ぇは、そんな嬉しそうなんだよ!!」
シャバルは舌なめずりをした。
「狩りってのはな、すぐには死なねぇ獲物がいてこそ楽しいんだよ、トサカ。弱者を狩るのもいいが、やはり逃げ惑う強者を狩る方が楽しい 」
彼は飛龍を指差す。
「龍族の生き残り。今の攻撃を避けた狼族……どっちも最高だ。お前も楽しませてくれよ、トサカ……」
「っ!?何だと!この野……」
「お前らは、狩る価値がある。俺の血が……そう叫んでる。」
飛龍は雷鼓に手を添えた。
「……ミラ、テトラ。一旦引くぞ。この状況でやつに勝つのは至難の業……せめて視界を確保できる場所まで行かなくては、今の俺には勝てぬ」
(飛龍がここまで言うなんて……それほどの敵という事ね……)
「引くったって、この状況であいつを撒くのは無理だろ!」
「逃げるのか?いいぜ、少し待ってやっても……追う楽しみが増えるしな。ハッハッハッ!」
(吹雪で見えなかったけど、この感じ後ろは坂ね……)
「飛龍、テトラ、こっち!!滑り降りるわよ!」
「なるほど……よし!」
「おうよ!」
——シュルル……サァァ……
「ハッハッハッ、すぐに追いついてやる。狩りの再開だ!」
——ザッ……ザッ……ザッ……
その足音は、雪を踏んでいないかのように軽やかで、軽快な音。
「逃げろ逃げろ……! もっとだ……もっと俺を楽しませろ!!」
(速い……滑り降りている俺達を追い越す勢いだな……)
「2人とも、シャバルの姿は見える?」
「いや、足音は聞こえるが……」
「見えるのは雪だけだ!足音的に確実に近づかれてるだろうけどな!」
——ズバァァァン!!
「ミラ! そっち……うわぁぁぁぁ!」
「飛龍ッ!」
(まずい……背中が……)
「その背中の雷鼓、傷一つ付かねぇな……さすがは幻獣様だぁ」
——シャィン!!
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「ミラ!」
(シャバルの発言から、飛龍は背中をやられたのね……私は腕……)
「2人とも、大丈夫か!」
「まだまだこんなもんじゃねぇよ、お前ら……次はトサカ、お前だぜぇ」
「こいつ……この雪の上を、なんて速度で……!」
「あぁ……あいつは狩人だ。狩猟のための特別な歩法があるのだろう……」
「捉えたぜ、トサカ」
「……!?」
「テトラ!伏せろ!」
—————ドォォォォォン!!
「第一鼓———『雷拳』!」
「……!?」
雷光がシャバルの腕をかすめ、彼は軽やかに後退した。
「へぇ……やるじゃねぇか。龍族の技、初めて見たぜ。腕が火傷してやがる、ハッハッハッ」
シャバルは腕を軽く振り、焦げた毛を払う。
「……ますます気に入った。 お前らは“狩る価値がある”。もっと……もっと俺を楽しませろ。ハッハッハッ……」
吹雪が再び強くなる。絶対零度の氷原で高らかに響くシャバルの笑い声。
黒豹の狩りは、まだ続くのであった……
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