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【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第十三話 戦場に舞う銀狼

幽玄の深森ミスティルナ・シルヴァ。そこは、光を拒むように濃密な闇が漂い、木々は天を覆い隠し、地には霧が立ち込めていた。森そのものが呼吸しているようにざわめき、重く湿った空気が漂っている。

ヒゥゥゥ——サッサッサッサッ——

「ふー、ここが私の戦場……」

彼女の銀の髪が、わずかな月光を受けて淡く輝く。代表に選ばれてからというもの、彼女は日々の修行に身を投じ、狼族フェンリルの特性を磨き続けてきた。

ズシンッ……ズシンッ……ズシンッ……

「ブヒヒヒ……見つけたぞォ、最初の獲物を……アポカリプス最初の脱落者になる奴をな!」

霧を割って現れたのは、豚族ポルコの戦士、オーク・ハウラー。全身を覆う分厚い脂肪と筋肉、手には丸太のような木製の棍棒を握りしめている。小さな目がギラつき、鼻息が白く霧をかき分けた。

「お前を倒せば、俺が一歩前に出る……そうだよなァ!」

言葉と同時に、オークは地を蹴った。巨体に似合わぬ速さで突進し、棍棒を振り上げる。空気を裂く音が、ミラの耳を打った。

だが——

「遅い。」

ミラの体が、風のように滑る。棍棒が振り下ろされた瞬間、彼女の姿はすでにそこにはなかった。地を蹴り、木の幹を蹴って宙を舞い、オークの背後に着地する。

「なっ……!」

驚愕するオークに、ミラは一閃を浴びせた。鋭く、しなやかな双剣が、月光を受けて煌めく。

「まだよ。」

オークは咆哮を上げ、再び棍棒を振るう。ミラはその攻撃を紙一重でかわし、木々の間を縫うように動いた。狼族フェンリル特有の嗅覚に、修行で磨き上げた俊敏性が加われば、彼女の動きはまるで未来を予知しているかのようなだった。

「ブヒィィィィッ!」

怒りに任せて突進するオーク。しかしその動きは粗く、隙だらけだった。ミラは冷静に距離を取り、呼吸を整える。

ザァァァ……ザァァァ……

蛤族メレトリクスのパール・シェルミュレア、死亡。残り49人!」

グリムの声が、森全体に響き渡った。まるで空間そのものが喋っているかのような、重く、冷たい声。

その瞬間、オークの動きが止まった。

(……もう、やられた奴がいるのか?)

その一瞬の隙を、ミラは見逃さなかった。

(——今だ!)

彼女の双剣が月光を浴びて輝く。地を蹴り、空を裂き、彼女はオークの懐へと飛び込んだ。

月牙双閃げつがそうせん!」

一閃、そしてもう一閃。交差する二つの斬撃が、オークの胸元に十字の軌跡を刻む。時間が止まったかのように、オークの動きが止まり、次の瞬間、巨体が地に崩れ落ちた。

「ぐっ……ブヒ……まさか……こんな……」

オークの目から光が消え、静かに息絶える。

豚族ポルコのオーク・ハウラー、死亡。残り48人!」

再び響くグリムの声。ミラは剣を収め、静かに息を吐いた。だが、安堵の色はない。むしろ、その瞳はさらに鋭く、深く、戦場の闇を見据えていた。

(これが、アポカリプス……。一瞬の油断が、命取りになるのね……)

彼女は空を見上げた。月は、深森の霧の向こうで、静かに輝いていた。

霧が濃くなり、木々のざわめきが止んだ。ミラはその変化を、鼻先で感じ取っていた。

「……何か来る。」

「誰かと思えば、こんな小娘とは……俺は、熊族ウルサスの代表、ガロン・べアルガン様だぁ!」

その声と同時に現れたのは、全身を覆う黒褐色の毛皮、岩のような筋肉を持つ戦士。そして手には、ミラの背丈ほどもある巨大な黄金の戦斧がキラリろ光る。

「あなたのことは、知っているわ十二支有力候補の一人のガロン。私の集落にも熊族ウルサスの噂は、伝わってきてたし……」

「ファッファッファ、嬉しいねぇ、狼族フェンリルの小娘を手にかけるのは気が滅入るが、仕方ない。これは生き残りをかけた戦いなのだからなぁ……。ここで死んでもらう!」

咆哮と共に、ガロンが突進する。その巨体からは想像できない速度。だが、ミラはすでに動いていた。その嗅覚が、ガロンの筋肉の動き、汗の匂い、呼吸の乱れを読み取る。

(右足に重心……左から来る!)

ガロンの斧が左から唸りを上げて振り下ろされる。ミラは双剣で受け止めるが、圧倒的なパワーで数十メートル後方の巨木に叩きつけられる。

——バァン!

「うっ……、ハァ………ッ、ハァ………ッ!」

(ヤバい……背骨が軋む。視界も白むし、呼吸も苦しい……。)

ミラの両手から双剣が零れ落ちる。

「ほう、まだ息があるのか。その根性だけは認めてやろう。」

ガロンが大股で近づく。一歩ごとに大地が悲鳴を上げ沈み込む。

ミラはよろけながら立ち上がり、双剣を拾い上げ握りなおす。

「まだ……これからよ……」

次の瞬間、ミラは白銀の閃光となり、ガロンの懐に飛び込む。

月牙連閃げつがれんせん!」

無数の斬撃がガロンの重装鎧のような関節部、首筋、わきの下の急所を的確に捉える。火花が散り、鋼鉄を削るような嫌な音が響く。

しかし、ガロンは動じない。彼はあえて防御を捨て、肉を切らせて骨を断つ構えで戦斧を横一文字に振りぬく。

「目障りだ、消えろッ!」

轟斧ごうふ・ベアーズクラッシュ!」

死の影が彼女を覆い、斧の刃がわずかな月光を反射した。その時だった。

―—————ドォォォォォン!!

一打。

重厚な、しかしどこか透き通った太鼓の音が森を支配した。
ガロンが振りぬこうとした戦斧が突如として飛来した『瑠璃色の衝撃』によって粉砕された。

「……何者だッ!」

ガロンの問いかけと同時に顔を上げたミラの目に、屈強な戦士の影が映っていた。


👈十二・五話 領域と代表者

👉第十四話 幻獣降臨

👇目次・あらすじ
目次・あらすじ

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