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【連載S1-③】「雑談」を対話へ変えよう:ナナメの関係が臨床(ACP)を研ぎ澄ます理由

【連載:対話という処方箋 S1】

1. 【連載S1-①】:「指導」と「相談」を分けないと人は潰れる:プリセプター制度の構造的欠陥
2. 【連載S1-②】:評価を捨てよ、枠の外へ出よう:「ナナメの関係」が組織を救う唯一の理由
3. 【連載S1-③】「雑談」を対話へ変えよう:ナナメの関係が臨床(ACP)を研ぎ澄ます理由

前回までの記事はこちら



後輩の話を聴ける人だけが、患者の話も聴ける

連載の最終回です。
第1回では「プリセプター制度の構造的欠陥(タテのジレンマ)」を、
第2回では「ナナメの関係(評価しない隣人)」が組織の風通しを良くする理由をお話ししました。

最終回となる今回は、この「ナナメの関わり」を一歩進めてみましょう。
単なる「息抜きの雑談」を、組織と個人を救う「対話(Dialogue)」へと昇華させる話です。

結論から言うと、「ナナメの対話を通じて後輩の『Be(在り方)』に寄り添うこと」と「患者さんの人生会議(ACP)で話を聴くこと」は、全く同じ筋肉を使います。


「何を言いたいのかわからない人」の話を、聴けますか?

ICUで終末期の患者さんやそのご家族と話をしていると、よくこんな場面に出くわします。

「延命治療は……でも……やっぱり……」
「お父さんならきっとこう言うと思うんですけど、でも私たちは……」

言葉にならない。結論が出ない。
矛盾したことを同時に口にする。

医療者として、私たちはつい「で、どうされますか?」と結論を急ぎたくなります。
なぜなら、私たちは「問題を解決する訓練(Doing)」を徹底的に受けてきた専門家だからです。

しかし、ACP(Advance Care Planning/ 人生会議)の本質は、早急に結論を出すことではありません。

その人が「何を大切にして生きてきたか」「これからどうありたいか」
つまり、目に見える行動(Do)の奥にある「在り方(Being)」を一緒に探り、言葉にするプロセス(対話)そのものが目的なのです。


組織の「ナナメの対話」は、臨床(ACP)の練習試合である

ここで、第2回でお話しした「ナナメの関わり」を思い出してください。
始まりは「最近どう?」という、たわいもない雑談からでいいのです。

しかし、そこから一歩踏み込んで:

  • 評価を保留して、ただ相手の「割り切れなさ」を受け止める

  • 「それで、どうするの?」と結論を急がず、モヤモヤに共鳴する

  • 相手が自分の内側にある言葉を探す「沈黙」を、一緒に待つ

これ、ACPで患者さんやご家族と向き合う時に必要なスタンスと、全く同じではないでしょうか。



つまり、職場の仲間の「割り切れなさ」に寄り添えない人は、患者さんの「割り切れなさ」にも寄り添えません。
逆に言えば、部署に「ナナメの対話」を取り入れることは、スタッフのメンタルケアになるだけでなく、最高の臨床コミュニケーション・トレーニングになるのです。


部署全体で「ナナメ」を実装する:臨床版2on2

このナナメの関係を「個人の資質」に頼らず、部署の文化にするためのヒントが、経営学者・宇田川元一氏の提唱する「2on2」という構造です。

これをDr.J流にアレンジしたのが「臨床版 2on2」です。


仕組みは簡単です。2組の教育ペアが、クロスして相手の新人さんの「ナナメの先輩」になるだけ。

  • 自分の新人(タテ)には、「Do(業務、手技、成果)」を指導する。

  • 隣のペアの新人(ナナメ)には、「Be(状態、価値観)」を聴く。

部署の中で、誰もが「自分を評価しない先輩」を一人確保している状態。
このクロス・サポート体制が、スタッフを心理的安全性で守り、同時に「対話の筋肉」を鍛える練習場になります。

「雑談」を「対話」へと進化させ、それを部署のインフラにする。
それは結果的に、現場の離職を防ぎ、さらに患者さんに提供するケアの質(ACP実践力)を飛躍的に高めることにつながるのです。


おわりに

3回にわたって、組織の慢性疾患に対する「対話」という処方箋を考えてきました。

「組織を変えよう」と身構える必要はありません。
まずは「雑談」から。そして少しだけ、相手の「Be」に耳を澄ませる。

職場の仲間の声を聴くその姿勢は、巡り巡って、いつか必ず目の前の患者さんを救う力になります。
あなたの「対話」が、組織を、そして臨床を、より豊かに変えていくことを願っています。


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