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待っていたのは、あの人ではなく結末だった

副題
祝福と違和感と、戻ってきた力を誰かに背負わせないために

はじめに


ずっと待っていたのだと思う

けれど
待っていたのは
彼女そのものではなかったのかもしれない

もう一度会える日を待っていた
というより

あの時間には意味があったのか

自分の誠実さは間違っていなかったのか

自分は彼女を傷つけたのか

自分は誰かの人生を止めてしまったのか

その結末を
どこかで待っていたのだと思う

だから
今日すべてを知ったとき
心は一度空っぽになった

彼女はすでに、別の家庭と未来の中にいた

そして
自分が連絡した時には
すでにその現実の中にいたこと

それを知った瞬間
何かが終わった

けれど
不思議なことに
終わったあとで
力が戻ってきた

これは失恋の話ではない

たぶん
未完了だった物語が
ようやく閉じた日の話である


第一章|待っていたのは彼女ではなく結末だった


人は
自分でも気づかないまま
何かを待っていることがある

もう期待していないつもりでも

もう戻りたいわけではなくても

もう会わなくてもいいと思っていても

心の奥に
閉じていない部屋が残っていることがある

そこには
相手そのものではなく
問いが置かれている

あの時の選択は正しかったのか

待たせなかったつもりだったけれど
本当にそうだったのか

自分は誠実だったのか

それとも
傷つくのが怖くて
誠実という名前で逃げただけだったのか

そういう問いは
簡単には消えない

誰かを好きだった記憶よりも
自分がどう振る舞ったのかという問いの方が
長く残ることがある

だから
自分は彼女を待っていたようで
本当は
自分の選択の結末を待っていたのだと思う

もし彼女が待っていたなら
自分は応える必要があった

もし彼女が傷ついていたなら
自分は向き合う必要があった

もし自分の誠実さが
ただの自己防衛だったなら
それも見なければならなかった

けれど
今日わかった

彼女は彼女の人生を進めていた

彼女の人生は止まっていなかった

その事実は
痛くもあり
救いでもあった

自分が彼女の時間を止めていたわけではなかった

自分が彼女を離婚騒動に巻き込んだわけでもなかった

自分の未整理な人生の中に
彼女を閉じ込めていたわけでもなかった

それがわかった

だから
ひとつの問いは終わった

自分は選ばれなかった

けれど
壊してはいなかった

これは
かなり大きな答えだった


第二章|生きて再会できたなら、それでいい


細かいことを言えば
いくらでも言える

なぜ結婚していたことを言わなかったのか

なぜ妊娠していたことを言わなかったのか

なぜ子供の話をしたときに
その事実を渡してくれなかったのか

それは自然に思う

水臭いと

けれど
もっと大きな層では
生きて再会できたなら
それでいいとも思う

彼女は生きていた

人生を進めていた

子供が生まれる

それなら
大きな意味では
それでいい

自分が望んだ形ではなかったとしても
彼女の未来が壊れていなかったなら
それはよかったことなのだと思う

子供が生まれることは嬉しい

その命があることは
素直に祝っていい

自分の物語が終わったことと
相手の未来を祝うことは
同時に成立する

ここを間違えたくない

祝福できるからといって
傷ついていないわけではない

傷ついたからといって
祝福が嘘になるわけでもない

人間の心は
一つの感情だけでできていない

嬉しい

寂しい

驚いた

空っぽになった

少し笑えた

早く言えよなとも思った

全部あっていい

むしろ
全部ある方が自然だと思う


第三章|早く言えよな


それでも
早く言えよな
とはなる

これは怒りではない

恨みでもない

自分を選べという要求でもない

ただ
正しい距離に立つための事実は
早く渡してほしかったということだ

結婚しているなら
結婚している人として祝えた

妊娠しているなら
妊娠している人として接することができた

家庭があるなら
その家庭の外側に
最初から立つことができた

自分は
それができる人間だった

だからこそ
早く言えよな
になる

言われなかったことで
古い地図のまま歩いていた

もう現実は変わっていたのに
自分だけが
まだ古い関係の余白に立っていた

それが一番
浮いた感覚の正体だったのかもしれない

黙っていたことには
彼女なりの優しさもあったのだと思う

こちらの物語を
急に壊したくなかったのかもしれない

傷つけたくなかったのかもしれない

言いにくかったのかもしれない

けれど
それは同時に
非誠実でもある

優しさとして発生し
非誠実として作用した沈黙

そういうものがある

人は
悪意だけで黙るわけではない

けれど
善意だけで黙っているわけでもない

自分を守るため

相手を傷つけないため

関係を壊さないため

説明責任を避けるため

その全部が混ざることがある

だから
早く言えよな
という言葉は
相手を断罪する言葉ではない

ただ
現実へ戻るための
かなり正直な一言なのだと思う


第四章|祝福と違和感は同時に存在できる


人は
感情を一つにまとめたがる

祝福しているなら
違和感を持ってはいけない

傷ついたなら
祝福なんてできない

そんなふうに
どちらかへ寄せたくなる

けれど
本当はそうではない

子供が生まれることは嬉しい

それは本当

彼女が生きていて
新しい人生へ進んでいたことも
よかったと思う

それも本当

でも
結婚や妊娠を知らされていなかったことへの違和感もある

それも本当

この三つは
同時に存在していい

人間の感情は
裁判の判決ではない

白か黒かを
一つだけ選ぶ必要はない

むしろ
複数の感情を
潰さずに持てることが
成熟なのだと思う

祝福だけにすると
自分の傷が消える

違和感だけにすると
相手の未来を呪ってしまう

怒りだけにすると
自分の誠実さまで濁る

美談だけにすると
現実の非対称性が見えなくなる

だから
全部持つ

子供は嬉しい

でも早く言えよな

これでいい

この言葉には
怒りよりも
回復がある

ようやく
自分の足が地面に戻ってきた感じがある


第五章|戻ってきた力


不思議なことに
空っぽになったあと
力が戻ってきた

それは
彼女への執着が燃え直したのではない

むしろ逆だった

彼女へ向かっていた力が
自分の中へ戻ってきたのだと思う

待つために使っていた力

意味を確かめるために使っていた力

自分は間違っていなかったのかと
問い続けていた力

彼女を傷つけていないかと
抱えていた力

それらが
今日
自分の中へ戻ってきた

喪失とは
対象が消えることではない

対象へ向かっていた力が
自己へ回収されることでもある

だから
喪失のあと
人は重くなる

外へ流れていた力が
内側へ戻ってくるからだ

その力を
どこへ置くのか

そこに
次の人生が出る

怒りへ置けば
破壊になる

未練へ置けば
停滞になる

誰かへ流せば
依存になる

仕事へ置けば
責任になる

言葉へ置けば
思想になる

創作へ置けば
作品になる

生活へ置けば
美学になる

身体へ置けば
再起になる

だから
今日戻ってきた力は
悪いものではない

むしろ
大きな資源だと思う

ただし
扱い方を間違えると危うい

戻ってきた力は強い

だからこそ
すぐ誰かに渡してはいけない


第六章|戻ってきた力を、誰かに背負わせない


ここが
一番大事なのだと思う

彼女との未完了が閉じた

力が戻ってきた

でも
その力を
次の誰かへ流してはいけない

寂しさを
別の誰かに背負わせない

回復を
別の誰かの役割にしない

癒されたからといって
その人に癒し続ける義務を負わせない

誰かとの穏やかな関わりに救われることはある

でも
救われたことと
相手を救済者にすることは違う

ここを間違えると
同じことを繰り返す

自分の欠如を
他者の責任にしてしまう

自分の戻ってきた力を
他者の器へ流し込んでしまう

それは愛ではない

それは
自分の力の置き場を
相手に押しつけているだけである

だから
戻ってきた力は
まず自分の人生へ返すべきなのだと思う

仕事へ

身体へ

生活へ

文章へ

哲学へ

創作へ

静かな日常へ

そして
必要なら
空白のまま抱える

空白をすぐに埋めない

戻ってきた力を
すぐ誰かで処理しない

日々の生活の中に、誰かが自然に入り込む余白が生まれたとき

そのときが、次の関係へ向かってもいい合図なのだと思う

これが
今日の先にある倫理なのだと思う


第七章|誠実とは、すべてを背負うことではない


自分は
誠実であろうとしてきた

婚姻中に
彼女の想いを恋愛関係としては受け取らなかった

離婚騒動に相手を巻き込まなかった

彼氏がいるなら
その人を大事にしろと言った

子供が生まれると知って
祝福できた

そこには
自分なりの筋があった

けれど
今日わかったこともある

誠実とは
すべてを背負うことではない

自分の因果は引き受ける

でも
自分が背負うべきではない因果まで
抱え込む必要はない

彼女が結婚や妊娠を語らなかったことは
彼女側の因果である

それを
こちらが美談にして
全部飲み込む必要はない

祝福はする

でも
違和感も残す

相手を悪者にしない

でも
自分の認識まで曲げない

ここまで含めて
新しい誠実なのだと思う

以前の誠実は
相手を傷つけないためのものだった

これからの誠実は
相手を傷つけず
自分も曖昧な場所に置かせないためのものになる

それは
冷たさではない

誠実の更新である


終章|結末を得た日


今日
自分は結末を得た

恋愛の結末というより
自分の誠実さの結末を得た

待っていた時間に意味はあったのか

彼女を傷つけたのか

自分は間違っていたのか

その問いに
現実が答えを出した

彼女は待っていなかった

人生を進めていた

子供も宿していた

だから
自分は彼女の時間を止めていなかった

ただし
自分は事実を早く知らされてもいなかった

だから
祝福と違和感が同時に残った

それでいい

今日の結論は
きれいな美談ではない

でも
汚い悲劇でもない

彼女は生きていた

自分も生きていた

再会できた

子供が生まれる

それは祝っていい

でも
早く言えよな
とも思っていい

そして
彼女へ向かっていた力は
今日
自分へ戻ってきた

その力を
誰かに背負わせない

自分の人生へ返していく

それが
今日受け取った結末の
次の使い道なのだと思う

俺が待っていたのは
彼女ではなく結末だった

そして
結末を知った今
戻ってきた力を
もう一度
自分の人生へ配置し直していく

それでいい

今日という日は

未完了の何かを失った日であると同時に

もうそこに意識を向けなくても良いという

自分の力を回収した日でもあった


あとがき

約3年前の私は妻との別居中だった

それでも彼女から想いを伝えられたときは純粋に嬉しいと思った

まだ人との関わりを諦めなくて良いと思えた

でも、そこから先は責任が発生する

俺の家庭の事情には絶対に巻き込ませない

と自らに誓った

そして、自らの事情を語った上で申し出を断った

そこから先は関係を進めることはしなかった

それだけでも、離婚するまでのあいだ絶望せずに済んだのだから

本当にありがたいことだと思う

そして、

離婚が成立して
自ら立てた誓いを最後まで守り通したのだから
そこは誇っていいと思う

それでも
十月の頭に離婚して
五月の末日まで
彼女がすでに結婚していることを知らされなかったのだから

そりゃ

早く言えよ

とはなる

それでも

「それでいい」

と心から思えた


最終命題

俺が待っていたのは、彼女ではなく結末だった。

そして結末とは、誰かを取り戻すことではなく、自分の力を自分の人生へ返すことだった。


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