【企画短編】相聞歌
企画参加作品① #noteでBL
今回も楽しく参加させていただきました!
なみさん、いつもありがとうございます。
今回のお題なら…アオハルだーーーーーー!!!
※※BL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください※※
【テーマ】 3つのお題でBL(3,000~5,000字)
【お題】 卒入学式・ヤンキー・スポブラ
【タイトル】相聞歌(スペース除き約3,900字)
スポブラは逆にエロくね?水着より浴衣のうなじがエロいみたいに
「…なんだそれ」
聞いた先輩は半眼で半笑いだ。
「短歌」
「いやそれはわかるわ。なんだスポブラって」
「え、知らないの?えっと…」
「いや知ってるわスポブラ自体は。歌意を訊いてんだよ!」
「あー。いや昨日洗面所で見つけてさ、妹の。それで、思ったまんま」
「おまえらしいよなぁ」
俺の説明を聞いて、ははっと笑う。眉がハの字に下がるその笑顔が好きだ。
いつもどおりふたりだけの部室。いつもどおり、部誌の掲載作を書く俺と、それを見てる先輩。
先輩は俺の正面に座ると、楽しそうに斜め上に視線を向ける。考えてる時の顔。その顔も好きだ。
「じゃあ俺は…」
ヤンキーがスポブラの短歌詠む姿卒業したら見れなくなるな
「なんだそれ!」
「今の気分」
「俺別にヤンキーではないし。髪が赤いだけ!」
「あとピアスな。増えてね?」
「うん、可愛いだろ?」
新しいピアスがよく見えるように、先輩に耳を向ける。ふふ、と優しい笑顔で、先輩は俺のほうに手を伸ばす。
「痛くねーの?」
先輩の指が俺の耳にさわる。本のページをゆっくりとめくる指。桜色の爪まで綺麗な、ペンと本が似合う手。
「痛くないよ。先輩も開ければいいのに。似合うよ」
「俺はいーや」
ハの字の眉で笑って、先輩は俺の手元を見る。
「どう、進捗」
「全然だよ、紙面埋まんねーよ」
そっかぁ、と先輩は笑う。優しく、見守る顔で。
「だから今一生懸命詠んでんだよ」
「え、さっきのそのまま部誌に載せんの?」
「ダメ?」
「ええ…いやおまえがいいならいいけど…槇ちゃん先生は怒んじゃねーの、さすがに部として出すものにブラとかエロいとかは。ウチの学校、人数とか成立要件は超緩いけど、成果っていうか活動内容はけっこう厳しいじゃん」
「槇ちゃん通んないかなー。えー全然足んねーじゃん、どーすんだよぉ!」
俺の叫びに、先輩は優しく笑っている。楽しそうに。ほんの少しだけ、寂しそうに。
「最後の部誌かなぁ」
「…なんで。俺いるから最後にはなんないじゃん。俺が卒業するまでは出すよ」
先輩はふふ、と笑う。困ったように、ハの字の眉で。
「ひとりじゃ大変だろ」
「今もひとりで書いてんじゃん、変わんねーよ」
先輩もひとりで書いてたじゃん。俺が入るまでは。だから変わらない。
先輩が卒業しても。ここに、俺ひとりになっても。
「いいよ、無理しなくて」
呟くように先輩は言う。木漏れ日に透けるような、綺麗な微笑。
「辞めてもいいよ。ひとりは寂しいからさ」
「…先輩だってひとりだったじゃん」
「うん。だから嬉しかったよ」
おまえが入部してくれて。
不意打ちはズルい。俺は慌てて下を向く。原稿を書くふりをして。
「そういえば訊いたことなかったけど、おまえなんで文芸部なんて入ったの。ユーレイかと思ったらちゃんと書くし」
なんで、って。
思い出す。去年の春、初めてここを訪れた日のこと。ひとりで机に向かっていたこの人は、突然声をかけた俺に随分驚いていた。
「初めて見た時、まじビビったもん。超赤くて。ウチの学校、全員入部必須でもないのに、なんで?ってさ」
思い出す。入部したいと言った俺に、この人はあからさまに怪訝そうな顔をした。俺は部室を間違えたのかと思って、少し困った。
文芸部じゃないんですか。
そう訊いた俺に、そうだけど、と言ってまだこの人は困っていた。入部するのにこんなに手間取ると思わなくて、俺もとても困った。
去年の春。もうひどく遠い時間。
「…あったじゃん?入学式の時、部誌の」
「特別号?」
「そうそれ。各クラスに置いてくれてたやつ。ウチのクラスの、棚の端に追いやられてて」
「追いやられてたのかよ、寂しいなおい」
「で、俺の席近くて、棚に。授業中ヒマだなーってなんとなく見てみてさ」
「いや、授業中はヒマではないだろ。ほんとダメな子だなおまえは」
「そしたら、最初のページにあったじゃん。先輩の、短歌。それ読んで」
もしちょっと寂しかったら見に来てよいつでも部室で待ってるからさ
あ、いいな、と思った。なんだかすとんと心に落ちた。ただ、それだけだった。
先輩はぽかんと俺を見ている。薄く唇を開けたまま、目を大きく見開いて。
「え?まじであれ読んで来たの?」
「うん」
ええ…と先輩が引く。心外だ。
「まじか。うわ、ピュアか。ピュアヤンキーだったのか」
「だからヤンキーではない。髪が赤いだけ!」
「ピアスもな。その、桜のヤツが可愛い」
「だろ?先輩も似合うよ。開けておそろしよーよ」
「俺はいいよ」
俺たちの会話はいつもこうだ。ふわふわと漂って、木漏れ日に消えていく。肝心なことを言えないまま、一年が経とうとしている。
もうすぐ、この人はここからいなくなる。俺はここに、ひとりになる。
ひとりでこうして、部誌を作る。小説を書いて、短歌を詠む。
「ひとりぼっちにして、ごめんな?」
呟くように、先輩が言う。
不意打ちはズルい。俺は原稿を書くふりをして、聞こえないふりをして、急いで瞬きをする。
先輩の、優しい視線を感じながら。
「何載せんの、部誌。俺のも載る?」
「当たり前じゃん。俺、まだ一年もやってないんだから。半分は先輩のだよ」
「嬉しいなぁ。去年のも一昨年のも、部誌とは名ばかりの俺の個人誌だったもん」
先輩は笑う。嬉しそうに。
「ひとりなのに、入学式特別号なんか出したの?」
「うん。だって誰か入ってほしかったし。他のとこと違ってパフォーマンスはできないじゃん」
「万葉集朗読するとか」
先輩が吹き出す。それで入るヤツいないだろ、と言いながら。
「ひとりで読むのはいいけどなぁ。伝わりにくいだろ、ああいうのは。朗読じゃ」
「掛詞とか?」
「そうそう。解説されると面白いけどな」
「先輩の短歌は、すぐわかるよね、意味」
「うん。棒立ちの短歌、だから」
木漏れ日が揺れる。先輩の髪は、陽に透けると少し茶色い。
「なにそれ」
「情景そのまんまで、表現上の工夫が少ない短歌、かな。俺の解釈では」
「ダメなの?だって五七五七七じゃん」
はは、と先輩が笑う。先輩に教わった短歌のルール。ウチで何したいの?と不思議そうに訊いた先輩に、俺は部誌(入学式特別号)を見せて言った。
こういうの、やってみたいんです。
え、短歌?いいよ、作ってみな。五七五七七だから。
…それだけですか?
うん。短歌のルールはそれだけ。五七五七七、だけだよ。
「31音しかないからな。工夫できりゃその分いろいろ込められるじゃん。意味とかさ。でも、俺はそんなうまくないし、変にひねるより棒立ちでいいやって」
だって、ピュアヤンキーに刺さるんだろ?
そう言って笑う顔が綺麗で、俺は睨むふりをして顔に力を込める。机に、木漏れ日が揺れている。
「でも、ふたりでいろいろ書いたじゃん。けっこう紙面フルかと思ったけど。なんで埋まってねーの?」
「いや、ふたりで書いたのはめっちゃふざけてたじゃん…なんだよ昭和のアイドルソング連想小説とか。ほぼエロ本だったじゃん、載せらんねーよ」
「おまえスポブラがエロいって短歌載せようとしただろさっき」
「あれはまだいいだろ、カラッとしてて。とにかくふたりで書いたのはダメ!ちゃんとしたのだと俺のは小説あんまりないから、けっこう空いちゃうんだよ」
そっかぁ、と言って、先輩は少し考える。髪が木漏れ日に茶色く透ける。
「紙面余裕なら、俺もなんか書こうかな。そしたらそれも載せてくれんの?」
「え、小説書いてくれる?」
それでもいいけど。先輩は俺を見て笑う。イタズラな子どもみたいに、瞳をキラキラさせて。
「せっかくだから相聞歌でもやる?俺とおまえで」
「え?」
「ふたりで短歌詠んでさ」
お互いに。相手に伝えたいことを、短歌で。
「そういうのはさ、ふたりでじゃないと、できないじゃん?」
「…例えば?」
うーん、と考えて、先輩の微笑んだ唇がそっと言葉を紡ぐ。
泣くなっていつでも会いに行くからさおまえが俺を呼んでくれたら
「おお、我ながらエモいな。これ載せようぜ」
「いや俺泣いてねーし!」
「えー、泣いてくんねーの?寂しいなぁ」
イタズラな子どものように、先輩がおどける。ズルい。そうやって、いつも俺を振り回して。
「おまえも詠めよ。俺に、伝えたいこと」
エモいやつな。ニヤリと笑って、ズルく笑って、先輩が俺の顔を覗き込む。そうやってこの人は、いつも俺を振り回す。
そっちがその気なら、俺だって。
待ってるよいつでもここで来てくれたときにちゃんと会えるように
エモいじゃん、とか言ってくれるはずなんだ。この人はいつも、おどけたふりをして、俺の拙い棒立ちの歌を、にこにこ聞いてくれたから。そうやって、ふたりでいろいろ書いて詠んだ。ふたりで、一年間。
「…うん。嬉しい」
いや、今そういう顔をするのは、絶対ズルいだろ。
「でもほんとに、無理しなくていいよ。ひとりは寂しいからさ。辞めて、友達となんか気軽な他の部でも入れよ」
「いやだよ。俺、書くの好きだもん。今度もまた部誌コン出すし。絶対入賞させるよ」
先輩が笑う。困った子どもを見るように。
「よし、じゃあもう一首いくか」
「まだやんのかよ…」
ほんとに、もう限界なんだけど。さすがに引くだろ、俺が泣いたら。いい加減にしてほしい。
なのに先輩は気づかないふうで、言う。
ありがとう一緒に過ごした一年は楽しかったよ
「おまえが好きだよ」
「…え?」
ぽかんとする俺に、先輩が笑う。イタズラな子どものように。俺の大好きな、ズルい笑顔。
「言ったろ、相聞歌、って」
いや、結局これも、載せられないじゃん。
↓番外編です。こちらも併せてどうぞ。
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