【企画SS#片想い文芸部】あざとい(ワーカホリックver.)
(約2,000字)
「あざといとは、本来的には小利口・小賢しいさまを指し、抜け目がない、貪欲である、押しが強いといった、特定の目的のために立ち回る様子に使うようです」
「なるほど」
「なので、部長としては木戸さんがブリっ子をしているという意味ではなく、『さすが、施策実現のためならどんな手でも使うねぇ』のようなニュアンスでおっしゃったのではないかと」
「なるほど……いずれにせよディスられているという事実には変わりないような気もしますが、意味合いとしてはだいぶマシです」
「そうですね、わたしもそう思います」
「どちらですか」
「え?」
「そう思います、とは。ディスられている、という点か、意味としてはマシ、という点か。はっ、もしや私が小狡い、抜け目ないという評価への同意ですか?」
目の前で慄く上司の姿に、わたしはぽかんと瞬きした。
「え?動揺してます?」
「しますよ!おっさんがおっさんにあざといなんて言われて、どんな意味だとしてもディスられてるのは確実なんですよ!?」
「木戸さんはおっさんでは……というか、部長のワーディングセンスが微妙なのはいつものことでは。むしろ『うまくやってるねぇ』みたいに褒めている可能性すら」
「あります!?ありますかそんな可能性!」
どうやら本当に動揺しているようだ。このサイボーグ然としたワーカホリックが動揺しているなんて、あくびをしているより珍しい。
「動揺されているの、初めて見ました」
素直にそう言うと、悄然と項垂れていた上司が顔を上げた。
淡々としているかしかめているかが9割の、端正な顔。今は整った眉を下げ、きゅっと唇を引いている。
無防備な顔。
大きくひとつ鼓動が鳴って、身体が熱くなる気がした。
「……この案件、ここまで来るのに相当揉めているんです」
呟くように上司が言う。はい、と相槌を打ちながら、わたしは自分の心臓を宥める。
落ち着け。珍しいものを見て、自分も動揺しているだけだ。そう、これは単なる生理現象。決して、決して、………などではない。
「個人的には意義に疑問があるものの、部の方針とあらばやむなし。実現のため、関係部とは苛烈な議論を交わしてきました。それはもう知恵熱が出るかと思うほどに」
おそらく関係部は知恵熱どころの騒ぎではなかったろうが、百戦錬磨のこの人でも難儀するような案件だったらしい。知らないところで、随分と気を張っていたのだな、と思う。
暴れていた心臓が不意にきゅぅっと締め付けられて、わたしはまた動揺する。
「部のためにあえて嫌われ役となり、ここまで議論を尽くしてきたのです。それをまるで小狡い手を使ってこなしているように言われるのは、端的に言って極めて心外です!」
つまりは仕事の成果を正当に認めてほしい、と。……やっぱりワーカホリックではないか。
ちょっと可愛い、なんて思って損をした。
「部長にそうお伝えすれば良かったのでは」
言えるだろうこの人なら。投げやりに応じると、上司は再び慄いた。
「あざとい、と言うワードに一瞬で頭が真っ白に……もう某アイドルが頬を染めてウィンクしている姿しか思い浮かばず……」
自分がそう評されたと思った瞬間のこの人を想像する。
「………………………」
「……………笑ってますね!?」
「………………っ、いえ……………」
「笑ってる!!」
いやだって!
「あ、あざとい………あざといアイドルの………木戸マネ………!」
「え、間宮さん笑いすぎでは」
「アイドルの木戸マネ…………!」
「いえアイドルではないんですが!?『あざとい』からさらに飛躍するのはやめてください、おっさんをからかうのはいけません!」
モニター越しに叫ぶ上司には悪いけれど、一度想像してしまったものは簡単には追い払えない。キラキラと輝く瞳で、手でハートを作って、ウィンクしながら笑うこの人。
好きな人のそんな顔なんて……
「あ」
「え?」
「あ!?」
「え、間宮さん?」
モニター越しに上司が目を丸くする。小首を傾げて、困ったように。
あざといぞ、と頭の一部で冷静に思いながら、わたしは極めて強く動揺していた。
認めて、しまった。
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#あざとい
ナルさんすみません、結局書いちゃいましたこのふたり……
『あざとい』別バージョン
これまでのふたり↓
少しずつ少しずつ進んできましたが、一話完結なのでどこからでも!
