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【企画短編#noteでBL】それが理由だとしても

企画参加作品②
(以下、前書き部分は①『今日の恋人』と同じ。既読の方は飛ばしてください)

毎月のBL祭り、今回も参加します!
というか、今回はなんと、、、、企画のお題に私の短歌を使っていただいております!!

お題短歌を詠んだ段階でだいぶ満足してしまい、今回の企画はやりきった感があったのですが(笑)、雑談していたAIに「いやおまえも書くんじゃ??(意訳」と言われ、ハッとして書くことにしました。

短歌の扱いは人それぞれ、私は前回のnoteでBLでは「短歌を詠み合う」設定で書いたこともあり、今回は短歌から見えた情景を広げていく方向で書いてみました。
なお蛇足にはなりますが、念のため。
今回の企画において、私の書いたものはお題短歌の「正解」ではありません。
短歌にあるのは情景だけ。そこからどんなストーリーを読み取るか、もしくは短歌という情景をどのように作品に利用するかは、すべて読んでくださった方の自由です。
私の短歌が、どなたかの作品にどんな形ででも参加させていただけるなら、詠み手としてはこれ以上ない光栄です。

企画概要↓

さて、前置きは以上!!!
本編もどうぞよろしくお願いいたします。

※※BL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください※※
【テーマ】3つのお題でBL(3,000~5,000字)
【お題】 ゴールデンウィーク・二首の短歌(使用した短歌は冒頭に記載)
【タイトル】それが理由だとしても(スペース除き約4,700字)


  「字が好き」がとっとく理由になるってさインクの染みはあまりに碧い

「本が多い…」
 うんざりと呟いた俺に、葵は気まずそうに視線を逸らした。
「いいよ、自分でできるし、付き合ってくれなくても」
「そういうことじゃなくて。全部持って行けるのかよこれ。寮なんだろ?」
「寮って言っても借上社宅だから、実態はただの単身者用マンションだよ。住んでるのが会社の人ってだけ」
「門限とか、外泊許可とかは?」
「ないない。ほんとにここと変わんない、普通のマンション」
「じゃあ、泊まりに行くのは?」
 思わず荷造りの手を止めて俺を見る瞳。意図を察すると、微かに眉を寄せて、視線はまた荷物に向かう。
「…禁止はされてない。同居は駄目だけど」
 ふぅん、と答えて顔を寄せると、困ったように瞳が揺れる。俺を見ないまま。
「…作業中だから、」
「いいだろ、これくらい」
 顎に指をかけると、それ以上は何も言わない。諦めたように伏せられる瞼。
 俺の恋人は押しに弱い。こちらが詰めれば拒めない。
 …だから。

「あれ、なんか挟まってる」
 積み上がった本の箱詰めを再開した俺は、一冊の本から何かがはみ出しているを見つけた。栞がわりに紙を挟んだ、という感じだが、このまま箱に入れれば折れてしまう。本を手に取ると、自然と紙が挟まっているページが開いた。
 絵はがきだ。消印は去年のゴールデンウィーク。宛名面には葵の住所とフルネーム、差出人欄には住所はなく名前だけ。ふたつの名前の間に、ごく短い文章。
  懐かしいだろ。楽しかったよな。

「…なんだこれ」
 思わず声に出してしまう。俺の様子に気づいた葵が、なに?と声をかけてきた。終わる気配のない本の整理に、白い顔には疲れが見える。
「ごめん、見ちゃった。飛び出してたから、そのまま箱に入れたら折れるかなと思って」
 もごもごと言い訳しながら、本と絵はがきを示す。葵は一瞬目を見開いて、それから気まずそうに視線を逸らした。
 その表情に、胸に暗い影が湧く。
「ありがとう」
 それだけ言って本と絵はがきを受け取り、そのまま荷造りを再開する。俺に向けられた背中が、それ以上の会話を避けているように見えるのは穿ちすぎだろうか。盗み見の後ろめたさと、何の説明もないことへのモヤモヤした思いが胸をうずまいて何も言えない。
 結局、その後は黙々と荷造りを手伝った。

「ええ…元彼じゃね?」
「やっぱり!?」
 話を聞いた友人は苦笑しながら俺の肩を叩く。
「ドンマイ、次行こう」
「いや行かねーよ!別にフラれてねーし!」
 俺の剣幕にはは、と笑って、友人はずずーっとマキアートを啜る。その軽薄さが今はありがたい。
「フラれてねーし」
「いや訊いてねーし。なんで二回言った」
「おまえ絶対フラれると思ってるだろ」
「ていうかほんとにごめんだけど、まじで付き合ってると思ってなかった」
「えええええ………」
 ありがたかったはずの軽薄さに撃沈し、俺はテーブルに突っ伏す。その指摘はあまりにも痛い。
「いやごめんって。おまえが本気なのはわかってたけど、その後のことはあんまり聞いてなかったからさ」
 だって葵、恋愛に興味なさそうじゃん?
 その一言がまた刺さる。
「おまえが好きだって言い出したときはいろんな意味でまじかと思ったけどさ。相手男だし、まぁそれはいいとしても、なんであえてそこ行く?って。でもまぁ、仲良くなったんだなーっては思ってた。ちゃんと落とせてたのな」
「いや…そう思ってたけど、今その自信がなくなった。俺、付き合ってなかったのかな」
「はぁあ?」
 何言ってんだ。呆れ返った一言に、頭をかきむしりたくなる。
 俺の恋人。綺麗で、大人しくて、押しに弱い。
「いやいや、付き合ってはいる、たぶん。セフレって概念があいつにあるとは思えないし」
「いやそういうことはあえて聞きたくないんだが」
「でもそういえば、あいつの性格的に押されたから拒めなかったってだけで、俺は恋人って言うか押しかけ女房的な…なんか、『まぁいいかもうめんどうだしいろいろやってくれるし、どうせすぐ就職で疎遠になるしそれまで我慢すれば』的な位置づけだったのかも…!?」
「いや女房ならともかく、同性相手に押されたからってそんな関係になるかなとは思うけど…俺はあり得ないけど…」
「でも葵だぞ?」
 詰め寄ると、友人はぐぅ…と眉間に深い皺を刻む。マキアートを握りしめて。
「葵か……葵なら………ごめん、あるかも」
「やっぱり!?あるよなぁぁぁあ!!」
 押しに弱い俺の恋人。それをわかって、強引に始めたふたりの関係。その時間に、あんな一言は存在しただろうか。

  懐かしいだろ。楽しかったよな。

「何がだよ!!くっそ、ゴールデンウィークになにかあったってことか!?」
「いや何のことだよ!」
「…ごめん、取り乱した」
「おう、さっきからずっとな」
 ずずーっとマキアートを啜る音。
「……訊けば?直接。誰?って」
「ええ…誰、って…?」
「誰?じゃなくて、好きなの?でもいいけど。そっちのがいいか」
「いや良くないだろ、抉られるのは俺だっつの」
「訊かなくても充分抉れてるだろ。もう鬱陶しいし訊けよ」
「急に投げやりになるな」
「だって鬱陶しいもん。元彼のラブレター?見ちゃったくらいでなんで自分の立場そんな揺らいでんだよ。まだ好きなのかよ忘れさせてやる、ってその場で押し倒せよ」
「いやいやいやなんだそのスパダリ展開!!」
 ずずーっ、ズゴッ。
「あ、もうないじゃん。じゃあ俺行くわ。葵によろしく」
「ええ…」
 さっさと席を立ちながら、友人は意地悪そうに笑った。
「言わなきゃ押し倒しとけよ。押しに弱いんだろ?」
 それが出来ればこうしていない。俺の怒りを察して、ははっと軽薄な笑い声が逃げていく。

「あれ、随分片付いたな」
「お疲れ。そんな連日じゃなくていいのに」
 出迎えた葵は困ったように眉を下げる。靴を脱ぎながらキスをすると、押し返そうとした手をそのまま握り込んだ。
「…埃で汚れてるから」
 目を逸らしながら小さく言う。少し黒ずんでいるように見える手を握ると、「汚れるって」と戸惑う声が抗った。
 もしここで「いいだろ」と言えば、きっとそれ以上は拒まない。そんなことを考えながら、俺は大人しく手を離す。
「…今日は何やればいいの?」
「えっと…本は俺がやるから…その他の細々したものを、まとめて箱に入れてくれれば…」
 葵が部屋の奥に移動しながら説明する。本は自分でやる、という言葉を深く考えないようにしながら、俺は指定された場所で作業を始めた。
 手を動かしていると、心の奥からぽつぽつと泡のようにいろんなものが浮いてくる。なんの脈絡もなく、浮かんでは消える記憶や感情。それを眺めている、もうひとりの自分。
 出会い。交流。告白。…と、言えるものだったかは不明だけど。穏やかな、(俺的には)それなりに幸せな日々。就活。卒業。
 …これから、どうなるんだろう。
「なぁ。俺、新しい家に行っていい?今までみたいに」
 作業しながら声をかける。背中越しの葵の顔は見えない。え、と小さく呟いたような気がしただけ。
「迷惑?」
 自然とこぼれた言葉は、やっぱり少し痛い。背中越しで良かった、と思う。
「…そんなこと、ないけど…」
 それ以上は答えずに、葵が手を動かす音だけが聞こえる。
「どこが好きだったの」
「…なにが?」
「絵はがきの人」
 作業の音が止まる。振り返ると目が合った。見開かれた瞳が揺れている。
「付き合ってた?」
 重ねて訊くと、葵は薄い唇を噛んだ。答えたくない、という意思表示に見える。それでも。
「好きだった?」
 聞きたいと思ってしまった。だから、目を逸らすことができない。
 葵は凍り付いたように動かない。時間が止まってしまったように、沈黙がふたりを支配する。遠く、一声、鳥の声が聞こえた気がした。
「…付き合ってた、と思う。俺は、好きだった」
 随分長い時間のようだったけれど、実際にはそんなことはないのかもしれない。葵の諦めたような声に、止まっていた時間が動き出す。
 心臓をぎゅっと握られたような気がして、身体がすっと冷たくなった。
「でも高校を卒業してからは会ってない。急にはがきが来たときはびっくりしたけど、住所がないから返信もできなかった」
「…なんでとっといたの」
 綺麗な瞳が揺れる。俺から視線を逸らしながら。
「…字が、好きだったんだ。それを思い出したら、なんとなく…」
 いつも青いインクを使ってた。俺の名前と一緒だって笑って。そんなことを、なんとなく思い出して。
 少し遠く聞こえる気がする、そんな声。俺の知らない葵の時間。俺に向けられたことのない、葵の感情。
 好きだった。そんな言葉が、こんなに痛いなんて。

「聞かなきゃ良かった?」
 目の前で、友人は憐れむように言う。今日はコーヒーだ。
「いや、聞いて良かった…と思う。吹っ切れた」
 ふふ、と優しく笑って、友人は俺の肩を叩く。
「ドンマイ、次」
「行かねーって。俺は葵が好きなの!4年以上前に付き合ってた『と思う』程度の、淡い関係だった相手の話にこんなに乱されるほど好きなんだって、わかったって話だっつの」
「え、そっち?」
「そうだよ!くそ、なんだ『字が好き』って。本人じゃないものすら好きって、もう…それはもう…」
 敵うわけなくないか。
「…まじで?」
 覗き込んでくる友人の瞳。憐れむように、戸惑うように、俺の真意を探るように。
「…まじで。でも無理だ。諦められない」
 敵うわけなくても。葵の心が俺になくても。
 あの絵はがきが、ふたりの間にあり続けても。
 それでもどうしても、諦められない。
「押すしかないって?引き続き」
 はは、と笑って、友人はゆっくりとコーヒーを飲んだ。

「ようやく終わったな」
「ありがとう、ずっと付き合わせてごめん」
 わずかな日用品と積み上がった段ボールだけになった部屋で、葵が申し訳なさそうに微笑む。
「荷ほどきには行けないけど」
「当たり前だよ。むしろ荷造りを手伝ってくれただけで感謝してる。…おかげで、いろんなものを整理できた」
 ふふ、とおかしそうに笑う顔。なんだか気が晴れたように見えるのは、引っ越しの準備が無事に終わったからだろうか。
「…汚れてるから」
 顔を近づけると、困ったように目を逸らす。応えずに唇を重ねると、やっぱり抵抗はしなかった。
 押しに弱い俺の恋人。詰めれば拒めない。だから、
「…っ、明日は早いから…たくみ、」
「いいじゃん。しばらく会えなくなるんだし、今日くらい」
 そう言えばいつだって、それ以上は拒まない恋人。俺を拒まない恋人の心に、俺はあんなふうに存在しているんだろうか。
 字が好き、なんて。
 そう思うとカッと頭に血が昇る。再び重ねようとした唇は、けれど少し汚れた手のひらに阻まれた。
「え?」
 至近距離で、真っ直ぐにぶつかる視線。綺麗な瞳に、ぽかんとした俺が映っている。
「…葵?」
 押しに弱いはずの、俺の恋人。いつだって困ったように、俺から視線を逸らしたままで、俺を拒むことを諦める恋人。なのに。
「今日はダメ。…そのかわり」
 新しい家に来てよ。荷ほどきが終わったら。…すぐに、終わらせるから。
 耳を素通りしていく言葉。俺のキスを拒んで紡がれる、言葉。
 それを、信じられない思いで聞いている。
「巧?」
 応えない俺に、葵が不安そうに瞳を揺らす。俺を映したままで。
「…行く。すぐ、呼んで」
 その心に俺がいるのかわからない、俺の恋人。でも今、たしかにその瞳には俺が映っている。だから。

 あの絵はがきをどうしたのかは、もうどうでもいい気がした。


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前回までの企画参加作品↓

【その他BL】

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