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大晦日の羽黒山【松例祭】に行ってみた

松例祭とは?

松例祭の概要については【前編】として以下の記事にまとめています。この記事は【続き】となります。

山形県の中央に位置する出羽三山(でわさんざん)。山岳信仰の聖地と呼ばれ、神仏習合の時代から継承される羽黒修験道が現在も盛んに行われています。

羽黒修験道の中でも、もっとも格式が高いとされる冬の峰。山伏の最高位である「松聖」(まつひじり)の2名が99日間に及ぶ祈りを捧げ、大晦日はその100日目にあたる満願の日に当たります。

筆者が初めて松例祭を見たのは10代のころ。それから10数年が経って、コロナ渦が明けてから4年ぶりに観覧の制限がなくなった2023年から2025年まで松例祭に足を運んだので、松例祭当日の様子をまとめてみました。適宜加筆していきます。

羽黒山山頂

参考にさせて頂いた松例祭保存会のウェブサイトでは各行事の内容が写真つきで記載されていますので、下記のリンクからぜひご覧ください。


多く使われる言葉
松聖(まつひじり)冬峰の100日行に励む山伏の最高位2名
位上(いじょう)先途(せんど) 松聖の2名の呼び名。松例祭ではこの2名の験力を競い合う
・小聖
(こひじり) 松聖のお付きの山伏
補屋(しつらえや)松例祭当日に松聖の祈り場・若者衆の籠り場となる
手向(とうげ)  鶴岡市羽黒地区の門前街
・若者衆
(わかものしゅう)松例祭を担う手向地区の若者たち
大松明(おおたいまつう)農耕に災いを及ぼす疫鬼に見立てた大きな松明
             松例祭ではツツガムシに見立てて燃やされる

12月30日

松例祭の準備は前日の朝から始まります。

8:30 大松明まるき
【綱引き渡し

松聖の2名がが百日行をしている斎館に、松打・八町若者頭・綱延・綱付(=松例祭の役者たちの呼称)各町若者衆数名が集合して、松例祭で使われる「大松明」の部材が羽黒山の山頂に運ばれます。

節づくり】
大晦日に松聖や若者衆の籠り場となる補屋。屋内は中央で仕切られ、正面から向かって左側が松聖の先途方、右側が松聖の位上方の祈祷場となります。補屋の前では斎館から運び込まれた部材を使って若者頭が大松明の節を作ります。

境内にある補屋

胴体づくり】
若者頭をのぞいた若者衆は、羽黒山頂の大松明小屋前で、斎館から運ばれた部材で大松明の胴体をつくります。

翌日の大松明小屋前の庭上の様子
大松明の胴体。画像は大晦日の様子。

火の打ち替え祭具調整】
一方、斎館では「松打」と呼ばれる役目の2名が、「火の打ち替え」神事に用いる「班笠」と「火打金」という自分の斎具を整えます。

松打

16:00
【松の札
(れい)】
大松明が完成すると、綱の奉納者名が記された聖札が立てられて、大松明の上に33個のにぎり飯と、にごり酒の入った手桶がのせられます。松聖は、小聖と松打を伴って、大松明を呪縛する加持(仏教で言う祈り)を終えるます。すると、松打の2名が庭上の大弊に向かって走り出し、手に持った扇子を大弊に掲げる早さが位上方と先途方で競われます。

榊供養】
松の札が終わると、大松明に上げられた33個のにぎり飯と、昆布や御神酒が関係者に振る舞われます。前日の行事はここまで。翌日は祭りの本番です。

12月31日

当日は朝から明朝まで立て続けに行事が進んでいきます。

9:00 早昇り
各町の若者衆が数名ずつ集まり、境内での雪灯篭を作ったり、祈祷所となる補屋を整えて松聖を迎える準備をします。

11:00 松聖 移動
松聖は小聖を伴い、参籠していた斎館から補屋へ移動します。補屋では、松聖・小聖・松打・役者・ 勧進山伏・若者衆全員で補屋の神殿に向かい神拝。 その後、上町下町それぞれの若者衆は双方の松聖へ挨拶をします。

15:00 綱まき神事
松聖に分属された若者たちによって大松明が切り刻まれ、松聖が加持した後、参拝者に投げ与えられます。

松聖が大衆の前に現れる
縁起物である切り綱が参拝者たちに投げられる
切り綱を家の軒先に下げると悪魔がよってこず、家内繁栄が約束されるという。
また、邪気が家に近づくと綱のように切り刻まれるから近づくなという意味もあるそう。
切り綱をめぐる勝負は雪上相撲にて勝敗が決まる

17:00 神拝
これからの神事に先立ち、補屋の中の祭壇で神を拝する。

17:30 腹ごしらえ賜杯
神事に先立ち腹ごしらえし、神酒を賜る。ほうきの実がまぶされた丸いにぎり飯は「親玉」といわれ、関係者だけでなく一般参詣者にも振る舞われます。

補屋で関係者の方から分けてもらった「親玉」
ほうきの実はぶつぶつとした食感と独特の風味がある

18:00 大松明まるき直し
日中に解体した大松明は、笹やヨシなどを使って元の半分くらいにまるき直されます。これは、切り刻まれて死んだはずの疫病が日が沈むと息を吹き返したので、笹やヨシなどを使って元の半分くらいに大松明を改めてまるき直し、焼き払うためです。

綱まきの後に大松明をまるき直す若者衆

19:00 綱さばき
まるき直された大松明を焼き払う場所まで引き出す4本の綱のことを「引き綱」と言います。松明に取り付ける場所によって優劣の順位があるため、4町の若者頭は良い綱を得るために、補屋の中で位上方と先途方それぞれで熱い議論を交わします。

20:30 砂はき渡し
位上方と先途方それぞれ4町の綱延と綱付が補屋の神前に並び、大松明を焼き払うための雪穴を掘る道具「砂はき」が綱延に渡され、庭上の松明小屋の前に移動して整列します。

「先途」方の補屋

21:00 検縄行事
庭上では「出役」と呼ばれる役目の人たちが大松明を焼き払う場所までの33尋を測ります。33尋とは、羽黒の領土とされた東33ヶ国になぞらえた距離で、領土の外で悪鬼を焼き払う必要があるため検縄で場所を定めます。

砂はき行事
距離の確認が終わると、それぞれの綱延は相手方から砂はきを奪われないように防御しながら、大松明を焼き払うための雪穴を掘り、終わると補屋へ駆け戻ります。

御定目
砂はき行事が終わると、補屋の神殿では「大目付」と呼ばれる役目の人たちが、小聖と若者頭に不正をしないように、事前に若者頭から出されていた誓約書を読み聞かせます。

験力を競い合う

これからは、松聖の「位上」と「先途」が、それぞれの修行の結果として験力を競い合います。この頃には約100台駐車できる山頂の第一駐車場が満車となります。

第二駐車場に誘導される

22:30 大松明引き準備
各町の若者衆は「綱さばき」で決まった引き綱を庭上に運び出します。

22:45 験競べ(けんくらべ)
三神合祭殿で催行される「験競べ」では、位上と先途に付き従う山伏が6人ずつ東西左右に分かれ、烏と兎に見立てて験力を競い合います。まずは山伏たちが鳥に見立てて神前で跳ねます。

リハーサルでは撮影が可能(本番は不可)

次に、兎に扮した役目の人が「所司前」と呼ばれる役目が出した合図に合わせて二つの机の間に入ります。祭員長から呼ばれた験者が机の前に進み、机を扇子で叩くと、その音に反応した兎はどちらかの机に手をのせて、位上方と先途方の優劣を示します。

この所作を2人の読師から呼ばれた験者が交互に行い、5番目に位置する小聖の読み上げが終わると、験競べが終えたことを告げる「五番法螺」が境内に響き渡ります。

本殿から五番法螺が鳴らない…
観客も含めてそわそわした様子で注視する

大松明引き 【国の重要無形民俗文化財】
三神合祭殿から届く五番法螺の音が庭上にも鳴り響くと、待機していた若者衆が雄叫びを上げて一斉に駆け出します。

凄い勢いで突進してくるので距離の近い観客は逃げる(;^_^A 動画がオススメ

引き綱で大松明を引っ張り、砂はき行事で雪を掘った場所で焼き払います。

位上・先途の陣営に分かれた若者集が、大松明を立てる早さと燃え具合で、勝ち負けを決める
どちらが先に倒れるか…
2023年は位上の大松明が先に倒れて軍配が上がった

焼き尽くすのは蜂子皇子が受けたお告げの「疫病」ですが、疫病もひとつの「生き物」。ただ焼き尽くして殺すのではなく、成仏するように祈りを込めます。

こうして旧年の災いを焼き尽くし、新しい年の五穀豊穣を願います。

0:00 年明け
羽黒山伏によって境内の鐘楼が突かれ、新たな一年の始まりを告げます。

神社なのに鐘があるのは神仏習合の名残り

三神合祭殿では新年の祈祷が始まり、境内には太鼓の音もひっきりなしに鳴り響きます。

三神合祭殿には参拝のための長い行列ができている

国分け神事
年が明けると「鏡松明」が立てられます。松明を管理していのは「アホウ」と呼ばれる役目で、若者衆の中でも年齢の低い人が務めます。

観衆から「もっと叩け(火をくべろ)」と指導が飛び交う

国の境を定める「検縄行事」が行われた後、所司前が法螺役の山伏を従えて出てきました。

所司前

所司前に対面するのは4人の山伏です。3人は熊野の神様、1人は英彦山の神様です。

丈尺棒を立てて所司前と役者が丈尺棒を押しながら縄張り確認を行い、羽黒山伏の領土を確かめる「国分」が行われます。他国の山伏に羽黒領土を認めさせて、翌年も自身の領地の人々を守る決意を示す行事です。

領土とは、日本66ヶ国のうち東33ヶ国が羽黒、西24ヶ国が熊野、九州9ヶ国が英彦山の領土という故事にもとづいたもの。

火の打ち替え神事  松明行事
疫鬼を焼いたため火は穢れ勢いも弱まったので、松打によって清浄で力強い火を新たに切り出し、天下泰平・国土安穏を祈ります。

羽黒の領土が決まると、鏡松明から火をもらう

2人の松打が4人の役者の間に入って、鏡松明の周りを3度回ります。

火打ち金と火打ち石を持った2人の松打

松打は火口を携えるカド持ちのもとへ走り、火を切り出します。

ここで早く火がついた方が勝ちとなります。

爆発が起こる

御披露
火の打替が終了すると、松打・若者頭・大目付は三神合祭殿に集合します。大目付が「大松明引き」と「火の打替神事」の結果を出羽三山神社の宮司に報告。判定の結果、位上方が勝てば新年は豊作の歳に、先途方が勝てば豊漁の歳になると言われています。

昇神祭
カド持ちは補屋へ行き、「大松明引き」と「火の打替神事」の勝敗を松聖と小聖に報告。祭員長によって昇神祭が行われた後、松聖は100日間守り続けてきた興屋聖の中の五穀を、国土に見立てた補屋の土間に撒きます。米は邪気を払い、天地の長久と福徳円満を招く呪力を持つものとして、五穀豊穣の祈願とともに祈ります。

火の打ち替え神事のあとの補屋

1:00 満願証書授与式
補屋から参集殿に移動した松聖に、100日間の冬の峰を達成した証として出羽三山神社宮司から満願証書が授与されます。

私はこの辺りで撤収を始めますが、有料道路の料金所では数キロの渋滞ができるようになります。

2:30 にしの寿司
斎館にて、松聖と両頭衆によって精進落としの宴が催されます。春を告げる鰊(にしん)を使った「鰊の麹漬け」、子孫繁栄を願う「数の子」、五万豆という字をあてることから豊作を願う「ごまめ(田作り)」、おめでたい紅白を意味する「きんびら」などの肴で祝われます。

4:30 下山
すべての冬の峰行を終えた松聖は、それぞれの自宅に帰るため、雪に埋もれた羽黒の石段を一列になって下ります。自宅の前で100日行を共にしてきた位上と先途は別れ際にお互いを労います。松聖の自宅では引き続き直会が行われます。

春の峰へ繋がる

翌日以降も松例祭としての神事は続き、春の峰へと繋がります。

1月1日 元旦の朝
手向地区の8町の若者衆は各町の綱延の家に集まり、引き綱を家の軒先に掛けます。綱は火防となり、家内繁盛を約束すると言われます。

元旦午前 お祝い
松聖の家では親族が集まり、冬の峰満願成就を祝う会が催されます。

1月2日 既習松聖会
冬の峰行を終えた松聖2名のお祝いの会が「既習松聖会」で開かれ、2名は既習松聖会の一員となります。また、上町・下町でもそれぞれに反省会として「聖札祝い」が開催されます。4日には諸役者と若者頭の反省会が開催されます

1月4日 春の峰
2018年、春の峰が150年ぶりに復活しました。松聖たちが99日間の祈りによってお稲霊(いなだま)をうつした五穀のもみ「御判立(ごはんだて)」を、厄よけの護符「牛玉宝印(ごおうほういん)」に入れて、希望する檀家の農家らに頒布しました。

こうして松例祭は終わりを告げ、新たな1年が始まります。そして大晦日に、平和を願う祈りが大きな炎となって空に舞い上がります。

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記事を作成するにあたり参考にさせて頂きました。
松例祭保存会
四季の峰(出羽三山神社)
150年ぶり「春の峰」(荘内日報)

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