ディズニーは仮想空間を避けているのか:バーチャルディズニーランド論の前に見るべき企業構造
サンリオがバーチャルピューロランドを作ったのなら、ディズニーはなぜバーチャルディズニーランドを作らないのか。
この問いは、かなり面白い。
実際、サンリオVfesやバーチャルピューロランドを体験すると、現実のテーマパーク的な空間をVR上に展開することには十分な可能性があるように見える。キャラクターに会う。空間を歩く。ライブを見る。現実では難しい演出を、アバターとして体験する。これは、たしかにVRやメタバースと相性がいい。
以前、わたしはサンリオについて、単なるキャラクター会社ではなく、キャラクターを媒介にして人と人、企業と企業、文化と文化をつなぐ企業として見たほうがよいのではないか、と整理したことがある。
その意味では、バーチャルピューロランドはサンリオらしい。
では、ディズニーはなぜ同じようにバーチャルディズニーランドを作らないのか。
この問いに対して、ある記事では、現実のディズニーランドの代替になってしまうこと、ブランド価値を傷つけること、収益構造をデジタル空間に移す難しさなどが理由として挙げられていた。記事自体も最後には、ディズニーがバーチャル空間に興味がないわけではなく、Epic Gamesとの連携によって別の方向へ進んでいると述べている。
この整理は、まったく間違っているわけではない。
現実のディズニーランドをそのまま仮想空間に移すことには、当然リスクがある。品質管理、ブランド管理、権利処理、収益化、現実パークとの棲み分け。どれも簡単な問題ではない。
ただし、そこで話を止めると、少し見落としが生まれる。
問題は、ディズニーがバーチャルディズニーランドを作らない理由を、現実パークの代替リスクに寄せすぎている点である。相手記事もEpic Gamesとの連携には触れている。けれども、その事例を現在のディズニーの企業構造やIP運用の中に十分位置づけているとは言いにくい。
そこだけを見ると、ディズニーが現実のパークを守るために仮想空間を避けているように見えてしまう。
しかし現在のディズニーは、単なる遊園地会社ではない。
現在のディズニーは何の会社なのか
現在のディズニーは、映画会社でもあり、配信企業でもあり、スポーツメディア企業でもあり、テーマパーク企業でもあり、クルーズやホテルや商品展開も抱える巨大なエンターテインメント複合企業である。
ディズニー自身も事業を、Entertainment、Sports、Experiencesの三つのセグメントで整理している。2025年度の売上は全体で約944億ドル、セグメント営業利益合計は約176億ドルだった。なお、ここでいうセグメント営業利益合計は、ディズニーが示す非GAAP指標であり、全社の純利益そのものではない。そのうちExperiencesは、売上約362億ドル、営業利益約100億ドルである。
ここでいうExperiencesには、パークだけでなく、リゾート、クルーズ、消費者向け商品、ライセンスなども含まれる。
つまり、パークやクルーズ、商品、ライセンスを含むExperiencesは、ディズニーにとって周辺事業ではない。利益面で見れば、非常に大きな柱である。
ディズニーのパーク群は、単なる遊園地ではない。ディズニーの物語資産を、現実の滞在、移動、飲食、宿泊、物販、イベント、記念品、ライセンスへ変換する装置である。
だから、バーチャルディズニーランドを作るかどうかは、単に「VRで城を再現するか」という話ではない。
それは、ディズニーが持っている複数のIPを、どの収益装置に、どの品質で、どの管理水準で接続するかという問題である。
バーチャルディズニーランドという問いの粗さ
そもそも、ディズニーのテーマパーク群は、単一作品の再現施設ではない。
ミッキー、プリンセス、ピクサー、スター・ウォーズ、マーベル、アバター。これらは、ディズニーのパーク群や関連施設の中で、さまざまな形で体験化されている。
それぞれは本来、別々の物語であり、別々の世界観を持つIPである。
しかしディズニーのExperiences事業では、それらが同じ体験経済の中に束ねられる。来場者は入場し、歩き、待ち、乗り、食べ、買い、写真を撮り、ホテルに泊まり、記憶を持ち帰る。作品ごとの世界観は違っても、体験全体は「ディズニーの体験」として統合される。
つまりディズニーのパーク群は、複数IPの交差施設であり、物語を現実の消費体験に変換する編集装置でもある。
そう考えると、バーチャルディズニーランドを作るという話は、かなり大きな問いになる。
シンデレラ城やアトラクションをVR空間に再現すればよいのか。
キャラクターと会い、グッズを買える空間を作ればよいのか。
あるいは、マーベル、スター・ウォーズ、ピクサー、アバターまで含めた巨大なIP横断空間を作るのか。
この問いを曖昧にしたまま「なぜ作らないのか」と言うと、ディズニーの実際の戦略を見誤りやすい。
ディズニーはVRを試していた
さらに重要なのは、ディズニーがVRや没入型体験に関心を持ってこなかったわけではない、という点である。
たとえば2017年には、Lucasfilm、ILMxLAB、The VOIDによる『Star Wars: Secrets of the Empire』が発表され、Walt Disney World ResortのDisney Springsと、Disneyland ResortのDowntown Disneyで展開された。これは、スター・ウォーズ世界を使ったロケーションベースVRである。
2018年には、ILMxLABがOculus向けに『Vader Immortal: A Star Wars VR Series』を発表し、最初のエピソードは2019年にOculus Quest向けに展開予定とされた。Lucasfilmの没入型エンターテインメント部門が、スター・ウォーズをVRシリーズとして展開していたわけである。
2022年のDisney Acceleratorでも、AR、AIキャラクター、没入型3Dストア、Web3的なデジタルコレクティブルなど、現実とデジタルを接続する試みが扱われていた。
つまり、ディズニーは仮想空間や没入体験をかなり早い段階から試している。
ただし、その方向は「VRChat的な巨大テーマパークを丸ごと作る」ではなかった。IPごと、体験ごと、媒体ごとに分けて、管理しやすい形で展開してきたと見るべきだと思う。
Vision ProとFortniteに見る、現在のディズニーらしさ
最近の動きを見ても、その傾向は続いている。
Disney+はApple Vision Pro向けに、Disney、Pixar、Marvel、Star Warsの世界観を使った没入型視聴環境や3D映画体験を提供している。これは現実のテーマパークの代替ではなく、家庭内の映像視聴を空間化する試みである。
また、2024年にはDisneyがEpic Gamesの株式取得を含む15億ドル規模の提携を発表し、Fortniteと接続する新しいゲーム・エンタメ空間を作ると説明した。公式発表では、Disney、Pixar、Marvel、Star Wars、Avatarなどのキャラクターや物語に対して、遊ぶ、見る、買う、関わるといった機会を提供するとされている。
これは、むしろディズニーのExperiences事業に近い発想に見える。
現実の城や園内をそのままVRで再現するのではなく、複数IPが交差し、消費され、共有される場所を作る。しかも、それをFortniteという巨大なゲーム空間、Unreal Engineという制作基盤、Epic Gamesという既存のプレイヤー基盤の上で行う。
この方向のほうが、現在のディズニーの企業構造には合って見える。
バーチャルディズニーランドがないことは、ディズニーが仮想空間を避けている証拠ではない。むしろ、ディズニーが自社IPをどのデジタル接点に置くのかを選んでいる可能性が高い。
サンリオとディズニーでは、空間化の仕方が違う
サンリオとディズニーは、どちらもIPを扱う企業である。
しかし、IPの使い方はかなり違う。
サンリオは、キャラクターを媒介にして、人と人、企業と企業、文化と文化をつなぐ方向に強い。キャラクターは共通言語であり、ライセンスやコラボレーションを通じて外へ広がっていく。
サンリオのIPはキャラクター単位で受け止めやすく、空間そのものの再現よりも、キャラクターと出会い、参加者同士がつながることに重心を置きやすい。一方でディズニーのパーク群は、複数IPを統合した体験全体に価値があるため、単純に仮想空間へ移すと別物になりやすい。
だからサンリオVfesやバーチャルピューロランドは、サンリオらしい。
一方でディズニーは、複数IPを高品質な体験装置に統合する方向に強い。映像、配信、ゲーム、パーク、クルーズ、商品、ライセンスを組み合わせ、強いブランド管理の中で体験化する。
だからディズニーが、VRChat的な開かれた仮想テーマパークを簡単に作らないことは、メタバースへの無関心を意味しない。
むしろ、ディズニーらしい仮想空間展開は、Apple Vision ProやFortniteとの接続のような形に現れている、と解釈できる。
問いを変える
バーチャルディズニーランドが存在しないこと自体は、たしかに面白い。
しかし、それを「現実のディズニーランドを食ってしまうから作らない」とだけ説明すると、少し話が狭くなる。
本当に問うべきなのは、こういうことではないだろうか。
ディズニーは、自社のIPをどの空間に置くとき、どの程度まで自由に開くのか。
どの体験は現実パークに残し、どの体験はゲーム空間や配信空間へ移すのか。
どのIPは単独作品として展開し、どのIPは横断的なエンタメ空間へ接続するのか。
そして、そのときブランド管理とユーザー参加をどこで折り合わせるのか。
重要なのは、仮想空間への関心の有無ではない。
仮想空間を含む複数の接点に対して、自社IPをどう配置するかである。
だから、バーチャルディズニーランドがないことは、ディズニーがメタバースに乗り遅れている証拠ではない。
それは、ディズニーが自社の強みを「現実のパークのVR再現」ではなく、複数IPを横断するゲーム空間、空間コンピューティング、配信体験、そして現実のExperiences事業の組み合わせとして見ていることの表れなのだと思う。
参考
The Walt Disney Company Reports Fourth Quarter and Full Year Earnings for Fiscal 2025
https://thewaltdisneycompany.com/press-releases/the-walt-disney-company-reports-fourth-quarter-and-full-year-earnings-for-fiscal-2025/
Disney and Epic Games to Create Expansive and Open Games and Entertainment Universe Connected to Fortnite
https://thewaltdisneycompany.com/news/disney-and-epic-games-fortnite/
Disney+ on Apple Vision Pro Ushers in a New Era of Storytelling Innovation and Immersive Entertainment
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