本日の時間の無駄――3/18参院予算委、またしても国民生活は後回し
3月18日の参議院予算委員会を見て、改めて思った。
この国の政治に足りないのは、質問の量ではない。
何を今、優先して聞くべきかという最低限の判断力である。
この日の予算委には、本来ならいくらでも掘るべき論点があった。
イラン情勢、原油高騰、物流危機、電気・ガス価格、物価高、春闘、中小企業の賃上げ余力、介護人材不足、レアアース供給不安、造船再生、工業高校の人材育成。
国民生活と日本経済を直撃するテーマが、これでもかと並んでいた。
しかも、これは抽象論ではない。
中東情勢が長引けば、燃料価格は家計だけでなく物流、製造業、介護、地域交通までじわじわ締め上げる。
2024年問題でただでさえ余力のない物流現場に、さらに原油高騰が直撃する。
春闘の回答日を迎えた企業は、賃上げしたくても原資が削られる。
予算委が本気で機能するなら、こうした連鎖をどこで止めるのかを徹底して詰める日だった。
それなのに、実際にかなりの時間が使われたのは何だったか。
週刊誌記事の読み合わせ。
場違いな制度論。
予算委でなくてもできるテーマの“つまみ食い”。
要するに、またしても「国民生活」より「目立つこと」が勝ったのである。

予算委はワイドショーでもゼミでもない

予算委員会は、政府の財布をただす場だ。
同時に、国民生活に直結する危機に対して、政府がどこまで備え、どこまで手を打つのかを問う場でもある。
原油が上がれば、物流費が上がる。
物流費が上がれば、あらゆる物価が上がる。
物価が上がれば、賃上げが追いつかない家計と企業が沈む。
その先には、倒産も、雇用不安も、介護崩壊もある。
こんな当たり前の連鎖すら見えていないのか。
そう言いたくなるほど、この日の質疑には優先順位の狂いが目立った。
質問する自由はある。
だが、何を削ってでも今聞くべきことかという感覚がないなら、それは自由ではなく怠慢である。
1位 文春の“代読会”に予算委を使うな

この日の“時間の無駄”ぶりを最も象徴していたのが、立憲民主党・杉尾秀哉議員による松本文科相への文春追及だ。
当日昼に出た週刊文春の記事を材料に、
「記事は読んだか」
「どう思ったか」
「書面で回答しろ」
「女性がこう言っているがどうか」
と延々やる。
はっきり言う。
それ、予算委でやることか。
大臣の資質を問うこと自体は否定しない。
スキャンダルが政治責任に発展することもある。
だが、それならそれでやるべき場と順番がある。
この日、現場が欲していたのは、週刊誌への感想ではない。
イラン情勢が長引いた場合に、燃料高騰が物流、地域交通、中小企業、介護現場をどう直撃するのか、その連鎖をどう断つのかという答えだったはずだ。
2024年問題以降でただでさえ余裕のない物流現場の悲鳴をよそに、予算委の先頭で始まったのが文春記事の読み合わせ。
これでは行政監視ではなく、国会を使った速報芸である。
しかも、こういう追及は見た目ほど成果が出ない。
相手は「コメントは差し控える」と繰り返すだけ。
分かっていてやっているなら、なお悪い。
つまり最初から、政策を前に進める気よりも、「追及している絵」を取りにいっているわけだ。
野党の仕事は、政府の痛いところを突くことではある。
だが、国民が本当に痛がっているところを後回しにしてまでやることではない。
2位 選挙制度ゼミを予算委で始めるな

賛成党・安藤議員の質疑も、論点自体はゼロではない。
民意と議席配分のずれ、小選挙区制の問題、議員定数削減、再議決の重み。
政治制度論として議論する価値はある。
だからこそ、なおさら言いたい。
内容それ自体を全否定するのではない。だが、今この予算委で長くやる話ではない。
その日、日本の家計と中小企業を揺さぶっていたのは中東リスクであり、エネルギー価格であり、物価高だ。
倒産件数が増え、コスト高とインボイス負担で息切れしている現場がある。
そこをどう救うのか、どこまで踏み込むのかを詰めるのが先だろう。
にもかかわらず、質疑の軸は解散時期論、議席配分論、議会制民主主義の抽象論へ流れていく。
悪いが、それは政治学の講義であって、今この瞬間の予算委の最優先課題ではない。
教室で理想の船の形を論じている間に、今乗っている泥舟が浸水していることに気づかないのか、と言いたくなる。
しかも最後に消費税廃止論へ飛ぶが、そこに至るまでの組み立ても粗い。
目の前の危機への具体策を詰めるより、党の持論を差し込むことが目的化して見える。
こうなるともう、予算委ではなく持ち時間を使った主張発表会だ。
制度論に関心のある層ほど、むしろこう思うのではないか。
「その論点は大事だ。だからこそ、こんな形で雑に使うな」と。
3位 重いテーマを“いいこと言った”で終わらせるな

維新・佐々木議員の質疑も、個々のテーマは軽くない。
女子枠、赤ちゃんポスト、特別養子縁組。
どれも社会的には重要なテーマであり、議論の価値はある。
だが、ここでもやはり言いたい。
予算委は“重要なら何でもあり”の場ではない。
女子枠をやるなら、教育委員会制度、大学財政、教員不足、学力格差、産業人材育成との接続まで詰めてこそ意味がある。
赤ちゃんポストや養子縁組をやるなら、児童福祉、母子支援、制度設計、法務・厚労の運用、財源まで踏み込んでこそ前に進む。
ところが実際には、印象に残るテーマを切り取って置いていく形になった。
これでは問題提起にはなっても、政策前進にはつながりにくい。
結局、重いテーマを軽く使っただけになってしまう。
“いいこと言った”という自己満足で終わらせるには、女子枠も赤ちゃんポストも、あまりに重すぎる問題だ。
問題が大きいからこそ、扱う場と掘り方を間違えてはいけない。
そこを外せば、善意の問題提起ですら、国会の時間を薄める。
まともだった質疑が、逆に際立ってしまう
皮肉なのは、ちゃんと予算委らしい質疑もあったことだ。
国民民主党・田村まみ議員の質疑は、この日かなりまともだった。
イラン情勢と物価高、電気・ガス・燃料補助、春闘、介護人材不足、ビジネスケアラー、最低賃金、賃上げの仕組み。
家計、企業、労働、市場、社会保障がきちんとつながっていた。
全部に賛成する必要はない。
だが少なくとも、「今それを予算委で聞く意味がある」という筋は通っていた。
公明党・久保田議員も、原油高騰対策、物流・交通事業者支援、離島への影響、基地負担と地元理解など、現実の行政課題に即していた。
レアアースや造船、人材育成も、経済安全保障や産業基盤維持という意味で十分に予算委の射程に入る。
昨日に引き続きいうが 、やればできるのである。
それだけに、場違いな質疑が混ざると余計に腹が立つ。
貴重な時間が削られなければ、もっと詰められたはずの論点がいくつもあったからだ。
“質問した感”だけの政治が国民を疲れさせる
今の国会で目立つのは、
何をどこまで前に進めたか、ではなく、
どれだけ厳しく追及して見せたか、
どれだけ強い言葉を使ったか、
どれだけ映像に残ったか、
という競争である。
だが、そんなものに付き合わされる国民はたまらない。
ガソリン代は上がる。
電気代は重い。
介護現場は人が足りない。
中小企業は賃上げしたくても原資がない。
物流は燃料高で苦しい。
原材料供給も不安定だ。
その一方で、国会では文春の感想戦、場違いな制度論、テーマのつまみ食いが続く。
これで「政治に信頼を」と言われても、無理がある。
国民が見たいのは、質問している姿ではない。
国民生活を守るために、何を削ってでも何を優先したのかだ。
本当に時間を無駄にしているのは誰か
与党は野党に「くだらない質問をするな」と言う。
野党は与党に「審議を急ぐな」と言う。
だが、本質はそんな単純な責任転嫁ではない。
予算委を、予算委として使わない人たちが時間を無駄にしている。
週刊誌の見出しを持ち込む。
制度論を場違いな場所で長々とやる。
党の色を出しやすいテーマをつまみ食いする。
その結果、物価、雇用、介護、エネルギー、産業基盤といった本筋の議論が薄くなる。
それは結局、国民生活を後回しにしているのと同じだ。
3月18日の参院予算委は、そのことを嫌というほど見せつけた。
質問の自由は守られるべきだ。
だが、自由には責任がある。
国会議員に求められるのは、何でも好きに聞くことではない。
今この国にとって何が一番重いのかを見極める力。
それがないなら、どれだけ威勢よく質問しても、ただの時間の浪費でしかない。
3月18日の予算委は、まさにそれだった。
またしても、国会は“仕事”より“国会ごっこ”に負けたのである。
そして明日3月19日に問われるのは、同じ失敗を繰り返すのか、それとも本当に国民生活に直結する論点へ軸を戻せるのか、その一点だ。
……いや、繰り返すだろう。

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