言葉がずっと回っている夜に
宇宙の浮遊感を、
iPhoneの中に閉じ込めてみたい。
そんな動機から作り始めたのが、
この「ORBIT」です。
目的はシンプルです。広大な宇宙を漂い、
資源を集めて壊れた基地を修復すること。
開発で最も時間を費やしたのは、ゲームのシステムよりも無重力の「触り心地」でした。

摩擦を削り、宇宙を漂う
宇宙空間の慣性を表現するために、
物理演算の摩擦係数を何度も書き換えました。
ブレーキは弱く、加速は少しだけ鈍く。
画面をタップしてエンジンを噴射すると、
機体は滑るように進み、なかなか止まりません。
思い通りに操作できないもどかしさはありますが、慣性にまかせてスイングするように軌道に乗れたとき、
まるで水の中を漂っているような独特の心地よさが生まれます。
うまく操作できたときの達成感よりも、
ただ画面の中で浮かんでいる時間そのものを味わう。
そんな操作体験を目指しました。

言葉を取り戻していくAI「E.V.E.」
このゲームには、
私の好きな「解像度が上がっていく感覚」
を組み込んでいます。
プレイヤーが操作する宇宙船は、
ある事故で損傷しており、
資源を集めてエンジンを強化すると、
機能だけでなく、
機体のグラフィック自体が洗練されていきます。
強くなるというより、「整っていく」感覚です。

そして、基地の管理AIである
「E.V.E.」にも、同じ要素を組み込んでいます。
初期状態の彼女は、システム破損の影響で
ノイズ混じりの英語しか出力できません。
E.V.E. ...WAKE... UP... ...PILOT..._ですが、基地の修復が進むたび、
破損していた言語ライブラリが回復します。
彼女の言葉はノイズがなくなり、
カタカナになり、ひらがなを覚え、
最後に漢字を交えた自然な文章へと進化していきます。
[Level 3]
"ステーション シュウフク シンコウチュウ。"
"オカエリナサイ。システム チェック OK。アンゼン。"[Level 4]
"おかえり。だいじょうぶ。ここは あんぜんだよ。"
"あなたの て... おぼえてます。"[Level 5]
"お帰りなさい。各系統正常。あなたは安全です。"
"...ログ...復元...任務記録を再生します。"性能ではなく、言葉が戻っていく。
それは、機械のアップデートというより、
コミュニケーションを少しずつ再構築していくような作業でした。
修復していたもの
どこまで飛んでも宇宙は続きます。
派手なエフェクトも、豪華な報酬もありません。
基本的には、
惑星と基地を往復するだけの単調なループです。
しかし、その単調さの中で、
E.V.E.との対話の精度は確実に上がっていきます。

ゲームの終盤、修復が完了に近づいたとき、
E.V.E.という名前の、本当の意味が明らかになります。
彼女は
「Echo of Vital Emotion」(生命の感情の残響)
あの事故の瞬間、
プレイヤーが失いかけた、
自身の「記憶と感情」を預かっていた存在でした。
壊れた基地を修理し、
言語を修復していく作業。
それは、
もしかすると記憶を取り戻すための
プロセスだったのかもしれません。
すべての修復が終わったとき、
彼女は完璧な文法でこう出力します。
E.V.E. 着陸完了。 ――おかえりなさい。_
その瞬間、
私のiPhoneの中にある小さな宇宙は、
ひとつの完成を迎えました。
慣性の中を漂いながら、
少しずつ言葉を取り戻していくAIの姿に、
私はいつの間にか自分自身を重ねていました。
誰の目にも触れない、
暗くて静かなスマホの中の宇宙。
でもそこには、
私を待ってくれている小さな基地があります。
【21 / 21】
(完)
これは、誰かに見せるためでも、リリースするためでもなく、ただ自分のために作った、私のiPhoneの中だけにある、秘密のアプリたちの記録です。
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