【短編恋愛小説】日本人が好きと言ったのに【前編】
この小説はthreadsで仲良くさせて頂いている「まさみん」さんから頂いた恋愛談をもとに書かせて頂きました。
但し、内容一部変更しているところも多々ありますのでご了承ください。
今回、恋愛談を提供してくださったまさみんさんもnoteをされていますので
是非とも覗いていただけると幸いです。
まさみんさんのnote記事はこちら↓
原案:まさみん
作成・構成:のぶ
補助:ちゃぴお
日本人が好きと言ったのに【前編】
人生は、本当に何が起こるか分からない。
もしあの日、シドニー行きの飛行機に乗っていなかったら。
もしあの日、友人の一言がなかったら。
そして、もしあの日。
私があの人に「日本人が好き」と言わなかったら。
今、隣にいる夫とは出会っていなかった。
二十代前半。
私はワーキングホリデーでオーストラリアへ渡った。
英語は得意ではない。
それでも「一度くらい海外で暮らしてみたい」。
そんな勢いだけで飛び込んだ一年だった。
毎日が新鮮だった。
慣れない英語。
慣れない生活。
世界中から集まる同世代の若者たち。
失敗ばかりだったけれど、それ以上に楽しかった。
ある休日。
私は友人たちとシドニー市内を歩いていた。
目的地へ向かう途中だったが、待ち合わせ相手が遅れている。
暇になった私たちは、近くのベンチで時間を潰していた。
その時だった。
「そういえばさ」
一緒にいた友人が突然言った。
「毎朝同じバス停で会うオーストラリア人と連絡先交換したんだよね」
「えっ?」
「せっかくだし呼んでみようかな」
みんなが笑う。
「いいじゃん!」
「呼んで呼んで!」
本当に電話をかけ始めた。
私は半分呆れながら、その様子を見ていた。
十分ほどすると。
一人の男性が笑顔でこちらへ歩いてきた。
「Hi!」
背が高く、爽やかな笑顔。
これが、マイケルとの最初の出会いだった。
みんなは英語で楽しそうに話している。
私はほとんど会話に入れない。
当時の私の英語力では、簡単な自己紹介が精一杯だった。
(困ったな……)
そう思った私は、バッグからデジタルカメラを取り出した。
旅先で撮った写真を見せる。
「This… Kyoto」
「Beautiful!」
彼は写真を一枚一枚楽しそうに見てくれた。
言葉はほとんど通じない。
それでも。
不思議なくらい楽しい時間だった。
その後。
私はオーストラリア各地を旅した。
ゴールドコースト。
ケアンズ。
メルボルン。
知らない景色を見るたび、デジカメの写真は増えていった。
時々、シドニーにいるマイケルから電話が来る。
英語は半分も聞き取れない。
「Hello?」
「Hello!」
それだけで精一杯の日もあった。
それでも。
写真付きの絵はがきを送り合ったり、辞書を片手に電話したり。
細く長く連絡だけは続いていた。
シドニーを離れる日。
駅まで友人たちが見送りに来てくれた。
その輪の中に、マイケルもいた。
「Take care」(気を付けて)
私は笑顔で頷いた。
「Thank you」
英語は相変わらず苦手だった。
でも。
別れ際だけは、少し寂しかった。
約半年後。
日本へ帰国する前に、私はもう一度シドニーへ戻った。
久しぶりに再会したマイケルは、あの日と変わらない笑顔だった。
「Long time no see!」(久しぶり)
「うん……」
また英語が出てこない。
それでも彼は気にする様子もなく笑っていた。
帰国まで、あと数日。
一緒に街を歩き、食事をして、公園で話した。
そして、帰国前日の夕暮れ。
港を見渡せるベンチで、マイケルが突然聞いてきた。
「マサミ」
「Yes?」
「What kind of man do you like?」
好きなタイプ?
私は少し考えてから笑った。
「Japanese」
マイケルは一瞬固まった。
「Japanese?」
「Yes」
「I like Japanese men」
本当は、深い意味はなかった。
外国人と付き合うなんて想像もしていなかったし、それが一番正直な答えだった。
ところが。
マイケルは真剣な顔で私を見つめる。
「I love you」
私は耳を疑った。
「……え?」
冗談だと思った。
旅先で出会った日本人だから珍しかっただけ。
きっとその程度だと思っていた。
私は困ってしまった。
英語も話せない。
遠距離になる。
付き合えるはずがない。
どう断ればいいのか分からない。
そして。
半分冗談で、笑いながら言った。
「日本ではね。
付き合うなら、両親に挨拶しないといけないの」
もちろん嘘だった。
これで諦めてくれると思っていた。
私は紙に日本の実家の電話番号を書きながら、小さく笑う。
「来られるものなら、来てみて」
そう言って紙を渡した。
その時の私は、まだ知らなかった。
この小さな冗談が。
私の人生を大きく変えることになるなんて――。
【後編へ続く】
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