雪の中のルビー / Rubíes en la nieve by ルア・ノアール
宇宙民話 もくじ
自己紹介/わたしについて(ルア・ノアール)
大好きな日本のみなさまへ(ルア・ノアール)
*メキシコの新米作家によるスペキュレイティブな民話集。
わたしはアジアを歩いていた。とても寒かったけれど、雪景色を見にいくことにした。
ある日、雪の森へと向かった。すべてがわたしの期待どおりだった。あたりは純白の雪におおわれ、白銀の世界。だから前方にルビーのような赤い石がいくつも見えてきたときは驚いた。
もっと近くに行ってみようと思った。
その石はとても赤く、自分の手で持ってみたいと思った。わたしは手袋を外した。ところがその赤いものは、温かいわたしの手の中で溶けていった。
心の中にあった期待は消え去り、それが血だとわかって恐怖に陥った。その赤いものの一部、血の塊が、わたしの皮膚に染み込んだ。その瞬間、恐怖は気持ち悪さへと変化した。凍っているとはいえ、誰か見知らぬ人の血なのだ。
わたしは手についた血を、ルビーだと思ったものを、拭おうと白い雪を手にとった。ところがよくよく近くで見れば、白い雪の中にさらなる血の跡があって、足跡とともに点々と連なっていた。誰かが助けを求めているのではないか、そう思ったとたん、さっきまでの気持ち悪さと恐怖を忘れた。
赤い石のような血の跡をよく見ようとさらに歩いていくと、遠くの方に肌が青白くなっている人の姿を見つけた。離れたところから見て、その女性は雪の中に座っているようだった。低体温症に陥っているのかもしれないと思った。その人を助けられるのではと、もっと近づくことにした。わたしは雪の中をハイキング気分で歩いていただけで、持っているものといえば毛布の他は水筒やコンパスくらいだった。その人はブルーの布をからだに掛けていたけれど、この雪の中で役にたっているようには見えなかった。
近づいてみて、わたしはショックを受けた。その人は手に肉の塊を持っていた。それが何の肉か、すでに噛みつかれたもので、判定し難かった。人が来るとは思っていなかったのだろう、その人はわたしを見て、びっくりしてわたしを追い払おうとした。青みがかったその人の胸に穴があるのを見て驚きがさらに増した。わたしは雪の上にしゃがみ込んでしまった。その人、その生きものが口を開けると、大きな牙が見えた。わたしはゾッとした。
ソレがわたしをじっと見た。このように青ざめ、体に穴が空いているのにまだ生きているとは、わたしは茫然自失。
おまえは何者か、ソレが訊いてきた。わたしは神経が麻痺していて、答えることができなかった。そしてなんとかこう尋ねた。「胸にある穴は何なの?」 わたしがそう言い終わると、その生きものは、自分の心臓を見なかったのかと訊いてきた。手にしているのはその生きものの心臓だった。
答えを聞いて、わたしはさらなる混乱を起こしたが、なんとか気を鎮めた。このやりとりから、胸の穴は心臓のあった場所だとわかった。そこから取り出したものを食べていたのだ。「これは人間じゃない。人間は自分の心臓など食べないし、生きているわけがない」
その怪物は血を滴らせながら去っていった。わたしは後ろ姿を目で追った。彼女のほおで涙が凍りついているのを見た。彼女は無害だった。悲しみがないとき、そのときだけ自分は危険になるのだと言った。自分の心臓はそれほど役に立たないし、悲しみを感じとるだけのもの、鼓動するその器官に感情は宿らない、あるのは孤独と憂鬱だけ。その渇きを満たすため、それを食べることにした、と。彼女は自分自身を食い尽くすしかない生きものだった。
だいこくかずえ訳・フェルナンダ・カルバハル [スペイン語→日本語訳] 校閲
