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宇宙民話 : ワラキアの子犬たち⓸ Cuentos del Universo : Los perritos de Valaquia ⓸ by ルア・ノアール

宇宙民話 もくじ
自己紹介/わたしについて(ルア・ノアール)
大好きな日本のみなさまへ(ルア・ノアール)
*メキシコの新米作家によるスペキュレイティブな民話集。

Title image by Lua Noire

野生馬 | Caballos salvajes

馬はルーマニアにとって 欠くことのできない大事なもの、人間に奉仕するだけではなく、家族でもあります。ここで馬たちへの愛情を掘り下げて考えてみましょう。

ミハイは妹のアンクータに日々活発に暮らしてほしいと思っていました。そこで脳性まひの人に最もよい治療法は何か探してみたところ、アンクータにぴったりの方法、それは馬セラピーだと思いました。しかしこれに適した馬をどうやって見つけたらいいのか。それが問題でした。

「レテアの森は非常に厳しい熱波に耐えており、野生の馬が脱水症状を起こしています。地元の人々は手を貸そうとしてきましたが、死の危機にある馬もいます」 テレビのニュースキャスターがそう言いました。

「馬たちを助けなくては」とミハイ。
「ちょっと待った、ミハイ、一番に必要なのはアンクータのための馬だろ? それなのに馬を助けたいって? まずはボクらに食べるものを頼むよ」 子犬のサルマーレが大きな声をあげました。自分の分が馬に取って代わられるのでは、とやっかんだのです。
「サルマーレ、キミはいつもご飯のことばかり考えてるね」とキャプテン・クッキー。
「ちょっといいかな、ミハイ、もっとうまくいく方法を考えられないかな? 二つのことを結びつけるいい方法があるじゃないか」 そう言ったのはコルブ・シェパード。「馬たちの保護区をつくって、そこにいる馬たちをセラピーのために訓練してはどうかな」
「それはいい考えだ。馬たちが辛い思いをしているのは耐えられない。でもそんな広い土地をどうやって手にいれられるか、どうやって馬を訓練したらいいのか。馬のことは何も知らないからね」とミハイ。

「馬よ、馬よ、空を飛ぶ」とアンクータ。
「馬は飛んだりしない、アンクータ」とミハイ。
「飛ぶの、馬たちは。ファト・フルモス(ルーマニアの民話に出てくる白馬の王子)は馬に乗って高く飛ぶんだから」
「勇敢なファト・フルモスがいたら、わたしたちを助けてくれるかもしれない」とミハイ。

「ファト・フルモスって誰れ?」 子犬たちが声を合わせて尋ねました。
「その人はルーマニアの偉大なヒーロー、勇敢で、勇気をもって人々を助けるために現れる。空飛ぶ馬に乗っている。名前をカルル・ナズドラヴァンといって、ファト・フルモスの一番の友だちなんだ」 ミハイが説明します。
「で、どうやったらその人に会えるの?」とコルブ・シェパード。
「いい質問だけど、わたしにはわからない。とても忙しいヒーローだから、わたしたちに気を向けたりしないだろうね」

 「ミハイ、アンクータを精神科医のところに連れていかなくちゃだめよ」 そう言ったのはミハイの母親でした。
「あー、そうだった、今日、予約をしていた」とミハイ。「筋肉弛緩の処方をしてもらわなくちゃ。薬がもうないからね」

ミハイは妹を連れて、新しい精神科医のところへと向かいました。今度の医者はどんな人か、心を巡らせました。
ミハイとアンクータは車で病院に到着し、担当医の部屋の前まで行きました。予約の5分前、少し早く到着したので、二人は待合室に座っていました。

「アンクータ、あなたの番よ」 看護師が声をかけました。「どうぞお入りください」
二人は立ち上がると、診察室に向かいました。
「こんにちは、ドクター、予約時間に間に合ってよかった」
「入って入って、予約がたくさんあるんだ」 医者はいらついていました。「どうしたんです?」
「筋肉弛緩の薬が必要なんです。切れてしまったので」
「それだけの理由で来たのか? もっと重大なことだと思ってた」
「何ですって。わたしの妹は大切な人です。なんでそんな態度を取るんです?」
「はぁー、きみの妹が家族にとって大切な存在になることはないだろうね。この人は人間のクズだ」
「何を言うんです、あなたはおかしい、偽医者だ」 ミハイのこの言葉で、礼を欠いた医者とミハイの間で殴り合いが始まりました。

「ちょっと、いったいどうしたんです?」 看護師が間に入りました。「終わりってことですよ、ここでやりあってもしょうがない」とミハイ。
「この失礼なドクターは妹をばかにした。わたしたちはもっとちゃんと扱われるべきだ。もっといい病院を探すしかない」 ミハイは怒り心頭、妹を連れて無礼な医者の部屋を飛び出しました。大学でどれほど学位を取ったとしても、教養があって心のやさしい人間になれる保証などないことは明らかでした。
新しい医者にひどい扱いを受けて、二人はがっかりして家に戻りました。

「ミハイ、いったいどうしたの? 顔にあざがあるよ」 キャプテン・クッキーが訊きました。
「アンクータを侮辱されて、医者と喧嘩する羽目になったんだ。失礼な態度で、アンクータのことを『人間のクズ』と言った。差別人間なんだ」
「そういうのを表す言葉がある、優生学っていうんだ。その医者は、障害がある人間は役立たずだと思ってる。顔をぶったたいてやりたい。その喧嘩、ミハイが勝ったんだよね」とコルブ・シェパード。

すでに外は暗くなっていました。アンクータは自分の受けた暴言に対して涙していました。涙がほおを伝わり、ゆっくりと流れ落ちました。キャプテン・クッキーが素早く近寄って、涙が床に落ちる前にほおをなめようとしました。しかし時遅し、たくさんの涙がこぼれ、クリームと赤いジャムを乗せたドーナツ型のケーキ、パパナシの上に滴りました。すると突然、ケーキから光が放たれ(ケーキ台からか、ジャムからかわかりませんが)、ケーキから魔法が生まれたのです。家の外から馬のいななきが聞こえてきました。奇妙なことです。ミハイの母親の敷地に馬などいません。

「こんな夜遅くに、お客なのか? いったい誰だろう」 ミハイはそう言うと玄関のドアを開けました。外を見ると、立派な馬を連れた輝かしい金髪の紳士が立っていました。
「どなたですか?」
「ファト・フルモスと言います。あなたが馬を愛して大事にする人だと聞いてやって来ました。何故この家に困っている人がいるのか、それを確かめに来たのです」
「本物なんですね! わたしの妹が泣いていたので、ここまでやって来たのですね」
「そのとおり、わたしの仕事は問題に立ち向かい、わたしの国の人々を助けることです」
「わたしの妹は唯一無二の存在、生まれながらの脳性麻痺なんです」とミハイ。「実はなんとかしてたくさんの人や美しい馬を助けたい、そう思っていて。馬を助けて保護するには土地がいります。妹のような人々をセラピーできる、馬の訓練をしたいのです」
「もう心配はいりませんよ。あなたの願いは叶うでしょう。あなたは良き心の持ち主ですから。さあ、今は休んでください。明日、びっくりするようなことが起きますよ。あなたの家にいる勇気ある生きものたち、4匹の子犬たちの助けがいります。あの子犬たちは宇宙からやって来た、星々の犬なのでわたしは知っているのです。その内の1匹をわたしに貸してください。ブコヴィナのルーマニア・シェパードです。あの子にメッセージを伝えるために、宇宙を飛んでやって来たのです」
「わかりました。ここにあの子を連れてきましょう」
ミハイが家のドアを開けて、要望された子犬を連れ出して、ファト・フルモスに会わせました。この子犬は自分へのメッセージを知る必要がありました。

「宇宙の子犬さん、わたしは宇宙を通ってここまで来ました。あなたが宇宙の素材でできていることは知っています。銀河系があなたを大犬座の守り神に選びました。ブラスコ*の名の元、あなたは洗礼を受けました。あなたはルーマニアの犬たちの世話をする義務があります。そうすれば空の星々は輝き続けることができます」
「そのミッションをお受けします、フルモス様」
「今夜の仕事を成すために、君の仲間の犬たちの助けが必要です。3匹の子犬たちに話をしてください。そうすればミッションに取り掛かれます。その間、ミハイはアンクータと母親の面倒を見てください」
*ブラスコ:ベラ・ブラスコ(ベラ・ルゴシとして知られる/1882〜1956年)は、現在のルーマニア生まれのアメリカ人の俳優。ドラキュラ伯爵役で名高い。

「もちろんです。ファト・フルモス、何でも言ってください」
子犬たちはすでに家の前に出揃い、ファト・フルモスと共にいました。空を飛んでいく準備ができました。
「われわれはこの共同体の結束の素晴らしさを広めなくては。この町の誰もが、これから建設するサンクチュアリ(保護区)と一体になれるようにね。さあ出発だ!」とファト・フルモス。 
「さあ、みんなで冒険に出よう!」 子犬たちが口々に言いました。
子犬たちはすぐさまワラキアの町の家々に魔法の輝きを振り撒きました。
「次のミッションはレテアの森の野生馬を助けること、そしてサンクチュアリをつくる場所を見つけること」 ファト・フルモスが言いました。

子犬たちとファト・フルモスが森に着くと、たくさんの鳥たちが舞う、美しい夜の風景と出会いました。そこは緑につつまれた神秘的な場所で、どことも言えない古代の風景の中にいるように感じられました。何年もの時を経た木々があたりを覆っていました。

「神秘の木々よ、野生馬に魔法をかけてワラキアに連れて帰れるよう、助けてください」
「助けましょう」 神秘の声で木々が応えました。
そのとたん、跳ねまわっていた野生馬たちがそれを聞きつけて、子犬たちとフルモスの方にやって来ました。馬たちの目には自由奔放さがありましたが、同時に熱波に覆われた日々への不安が見えました。

「馬たちよ、きみたちは恵まれている、きみたちのためにこれから作るサンクチュアリに、何頭かを連れていきたい。きみたちはちゃんと世話を受けられる。わたしたちへのお礼は一つ、人間に対して、馬セラピーの奉仕をしてほしい」 空飛ぶ馬(カルル・ナズドラヴァン)が言いました。
「でも、わたしたちはここで自由に生きてます。人間のために働きたくはありません。人間はわたしたちのことを忘れてる。空腹とのどの渇きの危機にさらされている仲間がいるのに」 1頭の馬が答えました。
「ついてきてくれた者たちは、交代で森に帰れる。ある者が来て、また別の者が来るという風にだ。必要なものがちゃんと与えられる、これは対価のある労働なんだ、自由を阻害するようなものではない。食料と労働の交換なのだ」
「でも、この森からどうやってワラキアまで行けばいいんです?」
「子犬たちが、夜の空を行ったり来たりして君たちを運ぶんだ。心を使って運ぶ、マジックパワーだ」とファト・フルモス。
「それならいいです。わかりました」 馬たちが答えました。
「このレテアの森にサンクチュアリをつくることができるんじゃないか。ミハイの農場でセラピーはすればいい」 そう言ったのはコルブ・シェパード。
「馬たちを住んでいる場所から移動させなくてよくなる」

こんな風にしてミハイとその家族は馬たちを助け、障がいを持つ人々が馬セラピーを受けられるよう支援しました。英雄ファト・フルモスのおかげで、町の人全員が保護区の建設を助けました。魔法の馬に乗って現れた夜の騎士は、その親切心と馬への愛情で町の人々を魅了し、魔法の馬や子犬たちを連れて空を飛び、この保護区を支援することを約束しました。


だいこくかずえ訳・フェルナンダ・カルバハル [ スペイン語→日本語訳 ] 校閲

つづく(6月)
第5話:<サイコポムプのブラッキー> Blackie el psicopompo
<宇宙民話> Cuentos del Universo もくじ

ルア・ノアール(Lua Noire)
メキシコ生まれ。書くことは自分の世界を捉えること。統合失調症である。そこで見る幻覚と現実の世界をリンクさせて作品を書いている。(自己紹介を読む)
フェルナンダ・カルバハル(Fernanda Carvajal)
チリ在住のジャーナリスト。スペイン語話者として翻訳をサポート。2020年以来の葉っぱの坑夫の友人。
だいこくかずえ(Kazue Daikoku)
日本在住の翻訳者・編集者。ルア&フェルナンダの支援とChatGPTをフル稼働させスペイン語→日本語訳を敢行。


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