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宇宙民話 : ワラキアの子犬たち⓷ Cuentos del Universo : Los perritos de Valaquia ⓷ by ルア・ノアール

宇宙民話 もくじ
自己紹介/わたしについて(ルア・ノアール)
大好きな日本のみなさまへ(ルア・ノアール)
*メキシコの新米作家によるスペキュレイティブな民話集。

Title image, "マンダリーナとカルディ・テンノウ"  by Lua Noire

マンダリーノ、飛ぶ | Vuela Mandarino 

天気のいい日でした。子犬たちは近所の動物たちと交流していて、1匹のノラネコと仲良くなりました。名前をマンダリーノといい、からだはオレンジ色、尻尾には輪っか模様が5つ、目はマスカット・グリーンでした。幼い頃捨てられた悲しい記憶を、その目に宿していました。仲間たちと路上生活をしていましたが、愛らしく人懐こい猫でした。

子犬たちは道で一緒に遊ぶことにしました。マンダリーノがバイオリンとアコーディオンと太鼓を近所で借りてくると、みんなでルーマニアの民族音楽を即興演奏しました。楽しい時間でした。子犬たちはこの音楽をすぐに覚えました。中でもブコヴィナ・シェパードの演奏は輝いていました。この子犬にとって、それはたやすいことだったのです。

「惑星たちが音楽をつくる、人間はそこから音楽のつくり方を学ぶんだ」とブコヴィナ・シェパード。
笑顔と笑い声に包まれた時間でした。猫のマンダリーノが子犬たちにルーマニア伝統のホラ・ダンスを教えようと申し出ました。

「輪になって踊るダンスで、手と手をつないで、毛糸玉みたいにまあるくなるんだ。このレコードプレイヤー*が奏でる音楽に乗って、時計と反対まわりに動く。陽気なリズムで前に進んで、後ろに下がる。さあ、踊ろう。楽器の演奏はもうおしまい、今度はさよならダンスの番だ」
*マンダリーノが近所から拝借して(盗んで)きたプレイヤー。

「ホラを踊るってどういう意味があるの?」 サルマーレがマンダリーノのダンス文化に興味をもって尋ねました。
「ミャオ~、いい質問だね。ホラは古代の人たちから伝わったもので、ギリシア人が『ホロス』と呼んでいたものだ。これはサークル(輪)を意味していて、古代ローマ時代、そうやってダンスを踊って季節を祝った。作物の豊穣を祈り、巡る星々に捧げる踊りだった」

みんなでさあ踊ろうというとき、一台の車が踊りの輪を無視して、ものすごいスピードで通り過ぎていきました。宇宙からやって来た子犬たちはポンと飛んで避(よ)けましたが、マンダリーノはそうではありませんでした。子犬たちはマンダリーノが飛べないことを忘れていました。車はマンダリーノを轢いて、走り去りました。子犬たちは無謀な運転をする車を追わず、死だけはなんとか免れた友だちを助けに走りました。

「マンダリーノの背骨が折れてしまった。接合しなくては」 そうキャプテン・クッキーがレーザー光線視力で透視するとそう言いました。
「宇宙光線でマンダリーノの背中を接合したから、もう大丈夫」とキャプテン・クッキー。
「だけど、歩けるようになるのかな?」 サルマーレが心配そうに訊きました。「マンダリーノは気を失っているから、その間は痛みを感じなくて済むと思うけど」
「歩けるようになることを祈ろう」 ブコヴィナ・シェパードが言いました。
子犬たち全員が、この事故にショックを受けていました。無謀な運転手のせいで、楽しい時間がこんなことになるとは、誰も想像していませんでした。

子犬たちはしばらく様子を見守り、マンダリーノの状態を安定させることにしました。唯一の懸念は、マンダリーノがこの先歩くことができないのではないか、ということでした。みんなは運に見放されたと感じていました。どうしたらいいものか、友だちを死から救ったものの、この先どう対処したらいいものか。答えが見つかりません。

何日か過ぎていき、マンダリーノはミハイの小さな農場の飼い葉桶の中でからだを休めていました。動くことができないので、子犬たちがマンダリーノが気持ちよく過ごせるよう、すべてを引き受けました。回復に向かう友だちを始終助けようとしました。事故のときの傷口は塞ぎましたが、それでマンダリーノが動けるようになったわけではありません。キャプテン・クッキーがスーパーな視力で背骨を修復したものの、歩けるようにはできませんでした。

子犬たちは、このような状態のとき、人間がつかう治療法、水中療法ををつかってみることにしました。マンダリーノは水への恐怖に打ち勝って、また四つ足で歩けるようになるため、生まれて初めて、泳ぐことに挑戦しました。時間の経過とともに、この方法では解決できないことがわかりました。ただ一つの選択肢、それは歩行器をつかうこと。障害を負った友は、歩行器をつけることを渋りました。子犬たちは気の毒に思い、いつも彼のそばにいることが自分たちのすべきこと、そう決心しました。どこに行くときも、マンダリーノを連れて行きました。置いていったりしませんでした。

この子猫にとって、つらい日々でした。もう一度歩けるようになるのか、見当もつかないため、夜眠ることもできません。また前のように、飛んだり跳ねたりしたいという思いで、涙があふれました。

「歩行器をつかうしかないのだろうか、足が麻痺しているんだから。こんな風に生きていくことの意味はどこにある? ぼくは役立たずだ、自分ひとりで生きていけないんだから。歩けるようになるなら、ぼくの命の9個でも10個でもいくつとでも交換したい」 自分のからだを嘆いて、マンダリーノはつぶやきました。「猫というのは飛びまわるもの、自由に、野生で生きるもの。ミドルネームが『自由』というくらいなんだ。ぼくは猫が猫であることのすべてを失った。自分が自分じゃない、そんな生きものになってしまった。もう自分が誰なのかわからない」 

マンダリーノは悲しみの中に沈みこみ、来る日も来る日も考えつづけ、その辛さは重く心にのしかかりました。もう生きている理由がないと感じられたのです。それは大きな目をした巨大な虫と出会うまでつづきました。ネコ科の生きものであるマンダリーノは、この虫に出会うまでは、そばにやって来たどんな虫も逃さず捉えてきました。現在のマンダリーノの状態では、虫を捉えたいという衝動すら起きません。動くこと自体難しかったのですから。

「うーん、きみは運がいい、ぼくは動けないんだ。そうじゃなきゃ、捕まえて食べてしまうよ。きみは自由だ、どこにでも行けばいい、風に乗ってどこへでも」
「太陽から隠れてるんだ、外はすごく暑いからね」
「おもしろいやつだな、迷子になって、ぼくのところにやって来たわけか」
「ぼくは旅人、遠いところから来たんだ、日本というとても美しいところだ。雪がふるし、桜の木があってピンクのきれいな花が咲く。お日さまで空が明るくて、お米をたくさん食べるよ。ぼくは冒険が好きなんだ」

「旅行好きのせいで、厳しい気候を苦にせずにここまでやって来たんだな」
「ぼくらトンボというのは勝者の象徴、運はいつもぼくらの側にある」
「飛んでみせてくれよ、ぼくは動くことさえできないんだ」
「猫が動けないって?」
「這うことしかできない、事故にあったんだ」
「ぼくの命を奪わなかったから、きみを助けてあげよう。でも今後、虫を食べちゃだめだよ」

「どうやってぼくを助けるんだ?」
「ぼくが手を貸せばきみは飛ぶことができる。きみの首に止まらせてほしい、そうすればどこへでも、きみの行きたいところへ連れていくよ」
「きみの名前は何ていうんだい、友だちだねもう、ぼくら」
「ぼくの名前はカルディ・テンノウ」
「ありがとう、きみは親切だね。このことは忘れないよ、この先、虫たちに感謝するようにする。愛には愛で応えなくては、ぼくの飛ぶ親友くん」
そのとき以来、カルディとマンダリーノは大の仲良しになりました。子猫のマンダリーノは虫を捕まえないという約束をずっと守りました。

ワラキアの子犬たちは大喜び、猫の友だちマンダリーノが、サムライ戦士のように前向きになったから。新しいトンボの友だちが、取り憑いていた悪夢を忘れさせ、歩けないという落ち込みから解放してくれたのです。

Note:
Hora(ホラ):モルドバとルーマニアでよく知られる民族舞踊。そのバリエーションは他の地域でも見られる。

カルディはルーマニアのトンボ研究者の名前。カルディ・テンノウは、トンボを愛した日本の天皇(雄略天皇:古事記にちなんでつけられた名前。

だいこくかずえ訳・フェルナンダ・カルバハル [ スペイン語→日本語訳 ] 校閲

つづく(5月中旬)
第4話:野生馬<Caballos salvajes>
<宇宙民話> Cuentos del Universo もくじ

ルア・ノアール(Lua Noire)
メキシコ生まれ。書くことは自分の世界を捉えること。統合失調症である。そこで見る幻覚と現実の世界をリンクさせて作品を書いている。(自己紹介を読む)
フェルナンダ・カルバハル(Fernanda Carvajal)
チリ在住のジャーナリスト。スペイン語話者として翻訳をサポート。2020年以来の葉っぱの坑夫の友人。
だいこくかずえ(Kazue Daikoku)
日本在住の翻訳者・編集者。ルア&フェルナンダの支援とChatGPTをフル稼働させてスペイン語→日本語訳を敢行。


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