巨人のチューリップ / Los tulipanes de un Gigante by ルア・ノアール
宇宙民話 もくじ
自己紹介/わたしについて(ルア・ノアール)
大好きな日本のみなさまへ(ルア・ノアール)
*メキシコの新米作家によるスペキュレイティブな民話集。
わたしは子どもの頃、大変なきかん坊でした。あらゆることに頭を突っ込み、何であれムシャムシャと食べ、満足することがありませんでした。わたしはどんどん大きくなり、母親はわたしが食べたいものを何でも与えてくれました。
ある日のこと、母親が家にいないときに、お腹が減ってしまいました。それで食べものを探しに出掛けていきました。
わたしは歩きに歩いた結果、果物や野菜でいっぱいの美しい庭園に到着しました。そこは作物がたわわに実る肥沃な土地で、光り輝いていました。わたしは腹ペコだったので、そばにあるものを次々に貪るように食べました。その中に、とても変わった香りのする魔法のハーブがありました。あまりにお腹が減っていて、食べるのをやめることができず、自分がどんどん大きくなっていっているのに気づきませんでした。
そこは魔法の庭だったのです。わたしはあらゆるものを食べました。そして7歳にして、巨人になっていました。
「おまえ、あたしんとこの作物をみんな食べたな」 女の金切り声が聞こえてきました。
「あー、みつかってしまった」 そう言うと、わたしは逃げようとしました。
「おまえはあたしの美しいキューケンホフ庭園をめちゃくちゃにした。このわたし、ババリアのジャコバが命令する、食べるのをやめるんだ」
「いったい何が起きたのか、わからないんだ。こんなに大きくなってしまって」
「おまえはこの町から追放だ、そう宣告する」
「だけど家族がこの町に住んでいるんだ」
「あたしの庭をなんとかするまで、おまえを家には帰さない。罰として、世界を旅して、価値ある作物を手に入れ、あたしの庭まで運んでくるんだ」
これが人の庭に無断で侵入した、愚かなわたしへの判決でした。わたしは世界じゅうを旅して、ジャコバに届けられる珍しい植物を探してまわりました。ジャコバは目の肥えた女だったので、わたしは価値あるものを見つけるために、世界中の土地を歩いてまわりました。彼女の許しを得て、家族のもとに帰るためです。
わたしはペルシャという名の土地まで来ていました。そこはアルボルズという山でした。その山は真っ白な雪でおおわれ、空気は澄んで生気に満ちていました。そして白い景色の中に、美しい緑の森がありました。
その山にはたくさんの鳥が生息していました。わたしがその山で最も傾斜のきつい斜面を登っていくと、輝くばかりの1羽の鳥が現れました。わたしにはそれほど大きな鳥に見えなかったけれど、普通の人間と比べれば、巨大な生きものでした。わたしは気づかれないよう、注意深く近づきました。その高貴な生きものは、珍しい花を守っていたからです。
その高貴な鳥の背後には、わたしが見たことのない花が咲いていました。花々はしっかりとした緑の茎に支えられ、空に向かって花びらを広げていました。一つ一つの花びらがきれいに隣り合って並び、まるで聖杯のようでした。
わたしは注意深く近づきましたが、枯れ枝を踏んでうっかり音を立ててしまいました。それで鳥はわたしに気づきました。するとその鳥は羽を大きく広げて、驚くほど色鮮やかな羽毛をわたしに見せました。羽毛の一つ一つに宝石が刺繍されているかのようでした。煌めく色彩の中に、サファイアより美しいブルー、黄金より光り輝く金色、ルビーより鮮やかな赤が見えました。わたしの目の前で色の饗宴が繰り広げられました。クジャクのようにも見えましたが、他の動物が入り混じっているようでした。犬の頭とライオンのような爪が見えました。
「あなたの心が読めるの。幸せではないのね」 鳥が神秘的な優しい声で言いました。そしてわたしに近づいてきたと思ったら閃光を放ちながらすっと姿を消し、その後すぐにわたしの隣にやって来ました。
「誰ひとり、わたしがどんな気持ちでいるか考えてくれなかった。巨大な怪物としか見てくれない。近づいてくる人は、頼みごとをするため。どこかに運んでほしいとか、手の届かないところにあるものを取ってほしいとかって。だけどわたしの心がどんな風か誰も聞いてこなかった」 わたしは心をひらいて、彼女にこう答えました。
「でもあなたは優しい人、体が大きくても、いまも子どもの心を持っている」
「あなたの言葉が心にしみる。わたしは悲しい。たくさん歩いてきて疲れてもいる」
「あなたの願いがわかるの。あなたは花が欲しいのね。あなたの運命はこの花とともにある。それは特別なもの。あなたはこの花で歴史を変えるの。この花の名はチュルバン(ターバン)、この山ではラーレとも呼ばれてる。でも無条件でこの花を手にすることはできない、交換条件としての任務があるの」
「花を手に入れるためなら、何でもするよ。それが何か教えてほしい。わたしはそれをする」
「この花を手にできると聞いて、あなたは懸命になっている。でも交換条件というのは、あなたがあることを受け入れることなの。あなたたち人間は本当はもっと小さいでしょう。だけどあなたはとても大きい」
「もしできることなら、こんな風に大きいのはごめんだ。この大きさが好きじゃない」
「人生はいつだって変わるもの、受け入れなければ。自然は変わりつづける。今の自分を受け入れるのです。もう元には戻らない」
「でもわたしはこんなにもデカい。地上にわたしのように大きな人間などいない」
「世界を面白くしているのは、いろいろな生きものがいるからでしょう。みんなが同じでなくていい。人生で素晴らしいのは、わたしたちが多様であることを見つけて、助け合うこと。小さな人間としてのあなたの人生は、過去のもの。今は大きな人間なのです。わたしを見てみて。こんなに大きな鳥だけど、わたしは英知を世界に提供し、知識によって世界を癒しているの」
「こんなスピードで大きくなるなんて思ってなかった。突然にしてこうなった。そのうえ、わたしは家に帰ることもできない」
「わたしが助けてあげますよ。自分を受けいれること、そうすればあなたの欲しがっている花をあげましょう」
「わかった。美しい花の代償が自分を受け入れることなら、それを受け入れます」
「両手を広げて、手のひらを空に向けて、地上の生きものとして、宇宙の愛を受け入れるのです」
わたしが言われたように両手を広げると、わたしの手のひらから根っこが出てきて、チュルバンが伸びていくのを目にしました。
「なんてきれいな。あなたがわたしの手のひらに花を植えた」
「あなたの心の変化がわかります。わたしの名はシムルグ。わたしの言葉は名誉の印」
「この花をもっていきます。あなたのことをいつも深い愛とともに思い出します」
小さな花を手に、わたしはオランダに向かいました。この花でわたしの罰が解かれるでしょうか、それが知りたい。
わたしはチュルバンを手に、ジャコバの城にやってきました。ジャコバがどう言うかとても心配でした。もしジャコバがこれではダメだと言ったら、どうやってジャコバを説得したらいいものか、どうしたら家に帰してもらえるか。
城の外にいるジャコバを見つけたので、さっそくこう尋ねました。
「バイエルンのジャコバ、この花でどうでしょう?」
「こりゃきれいな花だ、これほどのものを見たことがない。夕日のようなオレンジ色で、生き生きとしている。だが花一つではあたしの大きな庭に十分ではない。何千もの花がいる」
「わかった、もっと手に入れてきましょう」
ジャコバを喜ばせて大いに満足したけれど、花をもっと手にするには、どこに行ったらいいかわからない、忘れてしまった、それをジャコバにどう説明したものか。わたしは突っ立って月と惑星をじっと眺めていました。わたしはとても大きかったから、もっと高い空の上で花を見つけられるかもしれない。
月に飛びついてみると、それがするするとほどけはじめました。月が編んだ玉だなんて誰が信じるでしょう。
わたしは他の惑星の月にも触ってみました。他の惑星の月もみんな糸で編んだものでした。宇宙の美しさが、わたしにさらなる花を見つけるアイディアを授けてくれました。
「これを手本にして自分で作ったらどうだろう」
月たちの編み系は銀色だったので、わたしはそこから色を拝借しました。
わたしは地球に戻るため、月の糸をほぐし、地面に着くまでするすると解いていきました。さあ、わたしは仕事に取りかかるための材料を手にしました。ジャコバの庭を彩るために、自分で花を作り始めました。壮大な眺めでした。
月から垂れた糸が地球に届いて、その糸をわたしは手にします。まるで月たちはわたしのカイトみたいな見映えです。わたしは糸を引いて、風車の羽根の一つに引っ掛けました。そしてすばやく月から糸を引き出し、風車の回転を利用してきれいに巻きあげました。
十分手にした材料で、どうやって花を編もうか考えました。小さなものを編むには、わたしの手は大きすぎたのです。
「あなたはわたしの新しい友だちだから、鳥たちはみんなあなたの仲間」
シムルグの声が聞こえました。聞こえたのは声だけ、姿はありません。
すぐにたくさんの鳥がわたしに近づいてきて、わたしが巻いていた糸をもつと、じっとわたしを見て指示を待っています。わたしは手で鳥たちに指示を送りました。まるで鳥たちはわたしの心と繋がっていて、何をしてほしいかわかっているみたいでした。
たくさんのチュルバンを手にいれるのに何年もかかりました。助けてくれた鳥たちには感謝しています。わたしは支援してくれる鳥たちの家族全員に会いました。時が経過する中で年老いていく者、新たに生まれてくる者がいたからです。月の糸でわたしたちはたくさんの球根を編みあげ、地面に植えました。球根は魔法の袋のよう、その一つ一つに、わたしが惑星から拝借してきた色が閉じ込められています。
すでに、植えるばかりの400万個ものチューリップの球根があります。そのすべてをジャコバの庭で育て、花咲かせればいいのです。あとはわたしたちの創造物をジャコバに見せるばかり。
ジャコバを探しに出ましたが、すでに長い年月が経っていて、ジャコバはもういませんでした。気づかぬうちに、数世紀という時間が過ぎ去っていたのです。なんという不運! でも彼女の庭をきちんと保つという約束をわたしは守らねば。
ジャコバの庭だった場所に行って、鳥たちの助けも借りながら、球根をそこに植え始めました。すぐに、チューリップが花開きはじめました。
「この花の名前はなんていうの?」 地元の人が訊いてきました。
「チュルバンです」 そう答えました。
「チュリ? チュリパン? チューリップ?」
チューリップというのはいい響きだ、この花の新しい名前にしよう。このようにして、美しいチューリップ・ガーデンが3月に開設されました。それはちょうど春の始まりでした。わたしは家に帰ることができました。ジャコバの罰が消えたからです。
だいこくかずえ訳・フェルナンダ・カルバハル [スペイン語→日本語訳] 校閲
