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僕らは誰の人生を生きているのか_第3話 OUT OF BOUNDS

第2話はコチラ


時計の針は午前十一時を回ったところだった。

「……あの、一つだけ聞いてもいいですか」 なおは、膝の上で握りしめた拳を少しだけ緩めて言った。


「新城さんは、私のことをどう思っていたんでしょうか。……やっぱり、扱いにくくなってしまった、戦力外の駒だと……」

以前の職場の風景様子をイメージ。服装もメガネも、新城らしき人も、全部なんか違う感じ🤣

新城隆志はなおの元上司であり、営業部の絶対的エース。なおだけでなく、多くの社員が新城に憧れ、新城の下で働きたいと思っている。そんな新城から突如送られた、シンプルな異動を告げるメール。(第1話参照)

そして、その問いを待っていたかのように、勝也がマグカップを置いて、穏やかに微笑んだ。龍二は勝也に(仕事しろよ!)と言わんばかりにチラッと見て、コーヒーサーバーを洗い始めた。


「なおちゃん。新城さんはね、そんな風に人を切り捨てる人じゃないよ。……直接は何も言われなかったかもしれないけど」

「…はい。メールで、事務的に一言だけでした」

勝也は困ったように眉を下げた。彼は今でも、新城の背中に追いつこうとしていた頃の、眩い憧れを捨てきれずにいる。

「新城さんは、言葉で尽くすのが少し……いや、かなり苦手なんだ。今回の異動、実は新城さんからの推薦なんだよ。君のこれまでの仕事ぶりや、現場の空気を敏感に感じ取る力を、新城さんは評価していたんだ」

「推薦、ですか……?」 なおの思考が、一瞬止まった。

「そう。営業の最前線で数字を追わせるより、この『特務支援室』で君の個性を生かすべきだと判断したんだろうね。ただ、それを言葉にして伝えるというステップが、あの人には少し難しかっただけなんだ」


第3話 OUT OF BOUNDS


「……上司だからって、なんでもできるわけじゃないからね」 龍二が、ドリッパーを片付けながら静かに口を開いた。

「なおちゃんもカツも、あいつを――新城を、欠点のないエースだと思っているかもしれないけど、そんな人間はこの世にいない。あいつは凄まじい推進力を持っているけれど、同時に『人の情緒を汲み取って言葉にする』という機能が、少しだけ欠落している。それは単なる特性だよ」

龍二の言葉には、新城を貶める意図は全くなかった。ただ、一台の高性能な機械のスペックを淡々と解説するように響いた。

上司を信頼するのはチームを組むうえで大事なことだが、何でもできると信じ込むのは少し違う。何でもできるなら、部下はいらないんだ。それは社長だって同じ。
独りではできないから、メンバーのチカラを借りて会社を動かす
。……それなのに、昇進して部下を持つと、なぜだか自分が『完璧な個』にならなきゃいけないと錯覚してしまう人も居るようだが…」

龍二は、窓の外の本社ビルを眺めながら続けた。

「人には得意不得意がある。本当にデキる人というのは、自分の『穴』を把握していて、それを補ってくれるチームを組む。そして、時にはその不完全さをさらけ出すことができる。……でも新城は、まだ完璧を装ってしまうところがある。それは彼の強さであると同時に、まだ発展途上の部分なんだろうね」


「……新城さんが、発展途上?」

なおには、まだその言葉を消化しきれなかった。 あれほど圧倒的で、非の打ち所がない新城隆志。そんな彼が、自分と同じように「不得意なこと」を抱え、不器用に立ち尽くしている姿なんて、どうしても想像ができなかった。


「あいつのようなタイプからすればね…」 龍二は、洗い終えたサーバーを丁寧に拭きながら、さらに言葉を重ねた。

「なおちゃんに細かく背景を伝えるより、一秒でも早く次の現場で動かした方が効率的だ。あいつはそう判断した。もし自分が逆の立場なら…もし自分が異動を命じられたら、理由なんて聞かない。新しい場所で、ただ最高の結果を出す。それがプロだと思っている。
だから君に対しても、『理由を説明するのは時間の無駄だ。金川なら、行けばわかるはずだ』と、勝手に君の能力を自分と同じ基準で信じ込んでしまったんだろう。それが正しいと信じているから、君にも同じ基準を求めたんだよ。あいつにとって、説明を省くことは『信頼』の証ですらある


「理由を言わないのが……信頼……?」


「そう。でもそれは、自分ができることは相手もできるはずだという、ある種の傲慢な信頼だ。さっきのバスケの話で言えば、新城のパスは……ちょっと『速すぎ』たのかもしれない」


勝也が深く頷いた。 「そうですね。新城さんは常に最短距離でゴールを狙う。でも、パスを繋ぐというのは実はシュートよりも遥かに高度な技術なんです。出し手と受け手の信頼関係、そして互いの視線の先が一致していなければならない。新城さんは、なおちゃんがそこに走り込んでいると信じて、ノールックパスを出した」

「ノールック、パス……」

「そう。なのに、なおちゃんはパスを受け取る準備をする代わりに、ずっと『パサーである新城さん』の顔色を伺って立ち止まっていた。


――あのプロジェクトのリーダーを任された時から…。 いつからか、なおは新城の機嫌という名の「正解」を必死に読み取ろうとするようになっていた。微かな眉の動き、視線の鋭さ。自分が満足させるべきは顧客ではなく、新城なのではないか。そんな強迫観念が、彼女の足を止めていた。


「だからボールは虚空に消えた、Out of Boundsさ。新城さんもドリブルとシュートは超一流だけど、パスに関してはまだ練習中のルーキーなんだよ。相手のスピードに合わせるなんていう繊細な芸当は、まだできないのさ!」


なおは、胸の奥で何かがカチリと音を立てるのを感じた。 圧倒的なエースだと思っていた新城が、チームプレイという面では自分と同じように――あるいはそれ以上に「未熟」であるという指摘。

この龍二のホワイトボードは、さすがに絵がうますぎて手書きでできるとは思えない🤣


「パスミスをした時、一番悔しいのは出し手の方だ。あいつは今、自分のパスが通らなかったことに、自分でも気づかないくらいの小さな苛立ちを感じているに違いない。」

龍二は、棚から古びた上着を取り出した。

「さあ、飯だ。ここの裏に、最高に美味い洋食屋があるんだ。そこなら、顔色じゃなく、料理の味にだけ集中できる……カツ、お前も行くんだろ?」

「もちろんです! あの店のデミグラスソース、たまに無性に食べたくなるんですよ」

勝也が明るく答え、なおに「行こう」と促した。


別棟を出ると、三月の少し冷たい風がなおの頬を撫でた。本社のガラス張りのビルが太陽を反射して輝いている。あの中にいる新城は、今も誰かに向かって、受け取れないほど速いパスを放っているのかもしれない。

3人の様子は良く描けているが、それ以外がめちゃくちゃで笑う。別棟ボロ過ぎやろw
どこにコーヒー置いてあるんや!なおも謎の思考しているし…🤣

まだ足取りは重い。けれど、午前九時にこの場所へ来た時のような「追放された」という感覚は、少しずつ別の何かに書き換えられようとしていた。


なおの表情を見て少しほっとした勝也が何気なく呟いた。

「でも、不思議ですよね、上司ってだけでなんで『何でもできる』って思っちゃうんだろう。それは学校の先生とかでも同じなんですかね?」

つづく

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