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日中同盟論について考察する

※本記事は1万5千字をはるかに超える長文です。読みやすいようにテーマごとに分割し、加筆・編集したものもございますので、こちらをどうぞ!

 皆さんこんにちは、ハトヤブと申します。徐々に暖かくなり春の陽気が感じられるようになりましたが、元気でお過ごしでしょうか?


世界に背を向けるアメリカ

 世界のアメリカに対する信頼が揺らいでおります。二期目に就任したトランプ大統領がさっそくウクライナ戦争の停戦という公約を果たしに動き出しました。しかし、その言動は露骨なまでにロシア寄りである上、ウクライナに対し3年間の武器支援の見返りとして鉱物資源の半分の収益を要求するなど「白昼の追剥」のごとき所業に走っております。
 決定的なのは2月28日に行われたウクライナのゼレンスキー大統領との会談において、公開の場で決裂し、その後は見せしめとばかりに武器支援や情報共有を停止したことです。こうしたトランプ政権の言動を受けて欧州はゼレンスキー大統領を擁護し独自の和平計画を策定し、平和維持活動でも英仏が協力する方針を示しました。
そして欧州は本格的にアメリカ依存の安全保障政策の見直しへ動くようになります。象徴的なのはフランスのマクロン大統領がビデオ演説にて、自国の核を欧州の抑止力に提供する構想を提案したことでしょう。

マクロン氏は演説で、ロシアのウクライナ侵略が3年間続き、その脅威は欧州に迫っていると強調。「フランスの核抑止力で、欧州の同盟国を守ることについて戦略的な議論を始めることにした」と発言した。核兵器運用の決定権は、「いかなる場合でもフランス大統領が維持する」とも述べた。

(出典:フランス保有の核兵器を欧州抑止力に、マクロン大統領が議論呼びかけ テレビ演説で,産経新聞電子版,2025.3.6., https://www.sankei.com/article/20250306-RTCAXDTC7FI75FTHYJZDJRAXNY/)

 トランプ氏は兼ねてからNATO加盟国に安全保障への負担を求めており、過去にはアメリカの離脱を主張したり、負担に応じなければロシアに好きにやらせると発言して物議をかもしておりました。最近はGDP5%に防衛費を上げるように求めており、バンス副大統領がリベラル政権を批判したりしているので、NATOは事実上崩壊して英仏が主導する地域安全保障体制へ移行するかもしれません。
 一見するとアメリカが自らの影響力が低下させているように見えるこの現象。これこそトランプ氏の掲げるアメリカファーストが目指している姿だったりします。彼はこれまで世界の安定のために国内のリソースを費やしていたのを「無駄」と言って切り捨てているのですね。ウクライナも彼からすれば破産寸前の零細企業であり、鉱山だけ手に入れればいいと考えているのです。そのためにアメリカがこれまで築いてきた世界秩序や価値観、信頼関係が棄損されても気にしないんです。
 彼を含め、最近のアメリカ大統領は大局的に超大国としてのアメリカを終わせる方向へ動いています。バイデン前大統領もオバマ元大統領も「世界からアメリカが引いていく」方向性は同じなのです。詳しくは「オバマ・トランプ・バイデン3代政権が飾る超大国の終焉」にて解説しております。

出た!日中同盟論

 兎にも角にもいま私たちが見ているのは格好つけながら萎むアメリカであり、世界が「多極化」していく歴史的過渡期です。当然その影響を受けるのはアメリカの同盟国です。欧州にはすでに触れましたが、最大の同盟国を忘れてはいけません。そう、わが国日本です。ミュンヘン安全保障会議の国際調査にて、日本人の多くが世界の多極化に懸念を抱いていることが指摘されています。

 調査結果を盛り込んだ会議の年次報告書によると、多極化する世界に「懸念」を抱く日本人は17カ国で最も多い54%。「希望」を見いだすと答えた人は最少の18%だった。日本は「懸念」「希望」とも他の国々を10ポイント以上引き離し、多極化世界に対する不安が際立っていた。

(出典:日本、多極化への懸念最多54% 米一極終焉に不安、独会議の調査,47NEWS,2025.2.10., https://www.47news.jp/12152093.html)

 21世紀のアメリカ一極体制の最大の受益者は日本であり、我々はその甘く優しいゆりかごの中で核廃絶や9条平和主義の夢に浸り続けてきたのです。これは右翼左翼、保守リベラル関係なく、今までの価値観が揺り動かされる事態であり、必ずアメリカとの関係を見直すべきという主張がいずれ出てくると過去記事でも私は予想してきました。
 そんな雰囲気に歓呼されたのか、ついに日米同盟以外の同盟案を提唱する識者が現れました。作家の冷泉彰彦氏です。内容はぜひ彼の記事をお読みください。

冷泉彰彦,日本をトランプ主義から救うのは「日中同盟」か「日露同盟」か?在日米軍撤退に現実味、ビジウヨファンタジーで国は守れず,2025.2.19., https://www.mag2.com/p/news/637071

 この記事で彼は日本の最善手は「現状維持」としながらも、トランプ外交による日米安保の崩壊を覚悟しなければならないとしたうえで、現実的な外交・軍事戦略について次のような提案をしております。

・大事なのは中国とロシアの挟み撃ちを避けること
・ロシアは資源依存国で北朝鮮とも組んでて同盟相手には不適格
・中国と緩い同盟関係を結ぶのが一つの選択肢になる。

 これは冷戦時においてアメリカがソ連との覇権戦争を有利に進めるために中国と手を組んだことを念頭に置いたもので、似たような発想でロシアとの友好を促進せよという主張もあります。嫌中や保守の人たちには噴飯ものな意見ではありますが、まぁ、待ってください。今回は彼の主張する「日中同盟」なるものが現実的かどうかをじっくりと検証していきます。
 念のために言いますが、私は個人批判をするつもりはありません。今後の日中関係について多角的な考察を試みているため、良い問題提起をしてくれたことを感謝しているのです(国内の親中論客などはそれとなく匂わすような歯切れの悪い主張ばかりしますからね)。

日米安保の意義

 まず始めに日米安保や在日米軍の意義についておさらいしておきましょう。そこがわからないとお話になりませんからね。一般的に日本の防衛を担うとされている日米安保と在日米軍ですが、その意義は時代とともに変化してきました。
 1945年、第二次世界大戦で敗北したわが国日本は主権を失い、アメリカを筆頭とする連合国の占領を受けました。1951年9月8日にサンフランシスコ講和条約が結ばれ日本は主権を回復します。この時に結ばれたのが日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(通称旧日米安保)です。この条約は日本の軍事大国化阻止と地域の安定を目指しておりました。
 しかし戦後からソ連との対立が深まっていく中で、アメリカは共産主義の拡大を防ぐために同盟国が必要になります。欧州では北大西洋条約機構(NATO)が形成されましたが、アジアでは二国間協力にとどまっていました。その中で日本は地理的に重要な位置にあり、技術力のポテンシャルも高かったことから、有力な同盟国としての役割も求められるようになりました。そんな中で60年安保改定は行われたのです。
 そして冷戦終結後、一時は役割を終えたかに見えた日米安保ですが、中東への介入や対テロ戦争などにも大いに役立てられるようになります。実際、イラク戦争時には、在日米軍基地が米軍の作戦活動に重要な役割を果たしました。現在は対中同盟としての色彩を帯び、戦略的なパートナーとしての役割拡大も大いに期待されるようになります。2015年に安部さんの平和安保法制が成立したのも、こうした背景によるものなのです。
 総じて日米安保条約の意義については、

  1. 日本の軍事大国化阻止

  2. アメリカの有力な同盟国

  3. 戦略的なパートナー

 と言った意義があると結論付けられます。トランプ大統領は日米安保の片務性についてたびたび苦言を呈していますが、それは彼個人の感想ではなく、日米関係の大局的な発展と関係しており、サイバー攻撃やAI競争などの新たな脅威に対処する運命共同体としての意味合いがあるのです。

破棄されるシナリオ

 次はアメリカに日米安保を破棄されるシナリオについて考えてみましょう。先ほど説明したように日米安保は「日本の軍事大国化阻止」「アメリカの有力な同盟国」「戦略的パートナー」としての意義があるわけですが、それが破棄されるシナリオとしては次の4つが考えられます。

 1.必要性の喪失
 2.日本の反米化
 3.アメリカの日本への信頼喪失
 4.アメリカの財政的・軍事的事情

 1のシナリオは極東・東アジア地域の安全保障環境が大きく変化し、中国やロシアや北朝鮮の脅威が減少した場合を指します。もっと具体的に言えばこれらの国々が民主化して親米国家(親日とは限らない)になることですね。もちろん日本も親米国家で軍事的冒険をしないことが前提です。いずれにせよ短期間で実現する可能性は低く、現時点では考える必要はないでしょう。
 2の反米化とは立憲民主党が政権をとるようなソフトなものではなく、イラン革命のような大規模なイデオロギーの転換が伴うレジームチェンジを意味します。これも現時点では考えにくいことです。
 3の信頼喪失はそれなりに可能性が高いシナリオです。日本がアメリカとの国家間の合意を反故にしたり、安全保障政策に非協力的な姿勢を取り続けた場合、アメリカは日米安保の再考を考えることになります。過去の例として、鳩山政権による普天間基地の辺野古移設計画に対する変更の要求が挙げられます。今後も立憲が政権を取って同じように移設計画を中止したり、2015年に制定された平和安保法制を破棄したりすればアメリカの信頼を失います。
 というのも2月7日に行われた日米首脳会談は「日本を守る」という言葉が強調されたと裏腹に日本側のコミットメントも共同文章では強調されております。詳しくは「金メッキの日米黄金時代」で解説していますが、冷泉氏の言う「トランプ自身の口から「現状維持」という約束を引き出した石破氏」というのは見せかけです。実際はトランプ政権側こそ石破政権に安倍路線の維持と貿易不均衡の解消を求めていて、それに石破さんが積極的に応えただけに過ぎないのです。現に今さらなる防衛費の増額を求められていますからね。

日米首脳会談(内閣広報室提供、外務省HPより)

 最後の4はアメリカの財政事情や軍事プレゼンスを維持するための人材および装備の不足、さらには撤退世論の増加が影響して日米安保を破棄せざるを得なくなる状況です。これが最も可能性の高いシナリオと言えます。「信頼喪失」だけなら素直に日本が頭を下げて、戻ってくることを懇願(国家の威信?そんなものは犬にでも食わせなさい)すればいいのですが、アメリカ国内の事情となれば「ない袖は振れない」とばかりにどうにもなりません。
 しかしながら4のシナリオで日米安保が破棄されても、引き続きアメリカは日本を戦略的なパートナーと位置付ける可能性が高いです。中国の軍事的拡大や北朝鮮の核開発といった地域の脅威に対してはもちろんのこと、経済的な協力関係、気候変動対策や人道支援といった国際社会における協力、民主主義や人権尊重といった共通の価値観を推進するパートナーであり続けるでしょう(トランプさんが気候問題や人道支援に背を向けていることはご愛敬)。仮に在日米軍が撤収しても日米間の共同訓練や情報共有は継続すると考えられます。
 日米安保破棄後の代替策はこれを考慮しておかないと大変なことになります。

中露分断は可能?

 では早速日中同盟が現実的な選択肢であるかを検証していきます。冷泉氏は条件として中露が冷戦期のように仲違いしていることを念頭に置いておりますが、果たして現代において中露分断は可能でしょうか?
 結論から申し上げますと、現時点で中露分断は不可能に近いです。これは決して感情論ではなく、過去の歴史的経緯と現在の比較によって導き出されます。よく言うでしょう「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と。単に過去にできたって理由だけで、また同じことができるという発想は、一歩間違えれば重大なミスを招きます。

中ソ対立の経緯と背景

 では早速、冷戦期の中ロ関係もとい、中ソ対立についておさらいしましょう。大戦期から戦後初期の段階では中ソ関係は比較的良好でした。中国のコミンテルンから始まった中国共産党は、ソ連から多くの技術援助と経済支援を受けており、それは原子力技術にも及びます。しかしスターリン死後、中ソ関係が大きく変わります。

  • 1956年:ソ連共産党第20回党大会で後任のフルシチョフ主席はスターリン批判を行って西側との共存を採択。ここから中ソのイデオロギー対立が始まります。

  • 1958年:フルシチョフは北京を訪問し、毛沢東との会談で中ソ共同艦隊結成の提案をしますが、毛沢東はこれを拒絶。

  • 1959年:ソ連が原子力爆弾の供与に関する中ソ間の国防用新技術協定を破棄。改めてフルシチョフが中国を訪問するも毛沢東と意見が一致せずに終わります。

  • 1960年:人民日報と紅旗が共同論説でレーニン主義を掲げ、中ソの論争が表面化。ソ連が中国に派遣していた技術専門家を引き揚げるなど、両国の関係は急速に悪化しました。

  • 1964年:新疆ウイグル自治区で中国初の核実験。

  • 1969年:ついには国境紛争にまで発展し、中ソは事実上の敵対関係になってしまいます。

  • 1971年:アメリカのヘンリー・キッシンジャー氏が極秘で訪中して、米中接近が始まります。

 以上からわかるように中ソ対立はイデオロギー対立とみられるのが一般的ですが、その背景には中国(中華人民共和国)のソ連からの自立があることに着目する必要があります。
 まずスターリン時代、中華人民共和国はソ連に対して弱い立場にいました。国共内戦や朝鮮戦争で国力が割かれていたこともあり、ソ連からの支援に依存していたためです。しかしフルシチョフの時代においてその支援が滞り、特に中国への原爆供与に慎重になります。それでも中国は何するものぞとばかりに1964年に核実験を強行(この時日本では東京オリンピックが開催されていました)。核保有国になります。
 次にキッシンジャーが訪中した同年、第26回国際連合総会にてアルバニア決議が採択され、共産党政府が中国の代表として認められ常任理事国入りします。その背景には中国の多数派を得るための外交努力があります。近年、アフリカでの中国の影響力の拡大が注目されますが、このころから中国によるアフリカ支援は始まっていたのです。
 そしてその後は日中国交正常化、米中国交正常化において中華民国(台湾)は国交を断絶され孤立。対照的に中華人民共和国が日米の莫大な経済協力と技術移転を受けることで急激な経済成長を実現し、軍事強国への道を歩んでいったのです。
 つまり米中接近はアメリカの対ソ連戦略だけでなく、中国の自立国家としての成り上がり戦略でもあったことを理解する必要があるのです。

中露結束、分断以前の話

 翻って今はどうでしょう? 中露は接近していますが、中国はロシアからの自立を求めているでしょうか? いいえ。冷戦期と異なり中国は自立した国家としてロシアと接しており、ロシアもまた対等の立場でパートナーシップを結んでいます。
 例えば2021年10月から、中国海軍とロシア軍からなる10隻の大艦隊を組み、日本列島と堂々と一周するという示威行為。奇しくもフルシチョフが望んでいた中露共同艦隊の実現です。またウクライナへの全面戦争が勃発する直前の2022年2月4日には、北京冬季五輪に合わせて訪中したロシアのプーチン大統領が習近平国家主席と首脳会談を行い「友情に限界はない」と共同声明を発表しました。
 そして昨年の2024年には包括的戦略パートナーシップを深化させることで一致しています。「新時代」と言っているあたり、かなり将来を見据えていることがわかります。

中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は16日、北京で会談し、両国への圧力を強める米国を非難し、防衛・軍事関係をさらに深化させる「新時代」を築くことで合意した。

(出典:中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化へ共同声明,ロイター通信日本語版,2024.5.17.,https://jp.reuters.com/world/security/HNDZDLRJDBIDTMTKJBCXB2QHSQ-2024-05-16/)

 それは中国にとってロシアが戦略的に価値がある国だからです。資源依存国だから将来性がないと言われていますが、中国は世界有数の石油輸入国です。日本もそうですが製造大国は多くのエネルギーが必要であり、多角的な石油輸入先が必要になるのです。ウクライナ戦争で欧米はロシア産の原油や天然ガスの輸入を制限しましたが、中国が買い支えることでロシアは戦争を継続、中国は安く原油を手に入れてきたのです。

中国が2023年にロシアから輸入した原油が、22年比で3・5%増の606億ドル(約9兆円)となった。ウクライナ侵略が始まる前の21年比で約5割増加しており、ウクライナ侵略で制裁を受けるロシア経済を中国が下支えしている構図が一段と明確になった。

(出典:中国の原油輸入、ロシアが最大相手国に…天然ガスの輸入額も6割増,読売新聞電子版,2024.1.22., https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240122-OYT1T50009/)

 またロシアは北極圏に面しております。従来氷で覆われた北極海が温暖化により溶けて、航路として使える可能性が出てきたのです。「米中世界覇権戦争を理解しよう」でも解説しましたが、北極海ルートが使えれば北東アジアから欧州への交易路がインド洋・地中海を通るルートより6割5分短縮できます。実際ロシアは中国の一帯一路の参加国であり、氷上シルクロードという構想もありますからね。
 そして中露は統治システムにおける価値観を共有する関係です。両国にとって西欧の自由な言論と民主主義思想は政権の存続を危うくする因子であり、その干渉を排除するのが最優先事項となっております。単に旧共産国同士のよしみってだけで組んでいるわけじゃないのです。
 だから日本が中国に「対ロシア同盟」を持ち掛けても100%相手にされません。冷泉氏は威勢よく「中ロを引き裂く工作」などとおしゃっておりますが、それこそビジネス右翼レベルのファンタジー、逆に中露の結束を強めて返り討ちにされるのがオチでしょう。

日中同盟で起こること

 しょっぱなから出鼻をくじく形となってしまいましたが、それでも意義がなくなるわけではありません。目的は中露の挟撃を防ぐことにあるわけですから、最悪中立を保ってくれればいいと言えます。むしろ中国がロシアをパートナーとしているのなら、その輪に入って日中露三国同盟を組んだ方が極東アジアは安定化するとさえいえるでしょう。魅力的だと思いませんか?

尖閣は中国領に

 しかしただでそれを手に入れられるほど世の中は甘くありません。忘れている方もいらっしゃるかもしれませんが、日本は中国とロシアの両方と領土に関するトラブルを抱えているのです。北方領土は言わずもなが、中国に関しては尖閣諸島について領土問題があると主張され、毎日のように海警局の武装船が侵入している状態です。鳩山由紀夫氏などは「棚上げにすればいい」とおっしゃっていますが、もはやそんな状態ではなく、中国側では尖閣諸島もとい釣魚島は中国固有の領土で、日本の船が「不法侵入」しているということになっているのです。

中国海警局の劉徳軍報道官は17日、「日本の漁船『鶴丸』が10月15日から16日にかけて、中国の釣魚島(日本名・尖閣諸島)領海に不法侵入したため、中国海警局艦艇は法に基づき必要な管理・コントロール措置を講じるとともに、退去するよう警告した。

(出典:中国の釣魚島領海に不法侵入した日本船に中国海警局が退去警告,人民網日本語版,2024.10.17.,http://j.people.com.cn/n3/2024/1017/c94474-20230782.html)

 このように、さも自分たちがパトロールしているかのように振舞って既成事実化していく手法を、サラミスライス戦略と呼び、気づいた時には中国の支配下になっているという寸法です。この状況では、同盟を持ち掛ける段階で「まずは領土問題があることを認め、釣魚島に船を侵入させることを止めろ!」と言われるでしょう。そして改めて中国に領有権があることを主張され、それを受け入れるように迫ってきます。噴飯ものでしょうが、中露の挟撃を防ぎたい日本は受け入れるしかないと思います。それどころか中国が言及する琉球{沖縄}の領有権未確定についての再検討も受け入れさせられる可能性があります。

中国共産党機関紙、人民日報が8日、沖縄県の帰属は「歴史上の懸案であり、未解決の問題だ」などとする論文を掲載した問題で、菅義偉官房長官は9日、「(論文が)中国政府の立場であるならば断固として受け入れられない」と抗議したことを明らかにした。中国外務省の華春瑩報道官は同日、「申し入れや抗議を受け入れられない」と反発、日中間の新たな対立の火種となりつつある。

(出典:新たな対立の火種に 沖縄帰属めぐる人民日報論文,2013.5.10., https://www.sankei.com/article/20130510-6IXSF2QS25LRVKTYVBBDRUFZFI/)

 2023年6月に習近平主席が「琉球」に言及したことについて、日本メディアは大騒ぎし、中国専門家が知ったか顔で「日本が台湾問題に踏み込んでいるからだ」と主張していますが、上記事の日付を見てお分かりの通り、かなり前から言及しているんですね。中国側としては「いつでも沖縄問題を持ち出せるぞ」と日本を脅しつつ、政治的な要求を飲ませるのが有効な戦略と認識しており、日本が引けばさらに踏み込んで既成事実化を図るのが常道となっております。途中で抵抗しても「日本が敵対化した」と反発してさらに踏み込むといった行動に出るので、ナイーブな外交しかできない日本にとっては真綿で首を絞められた形と言えるでしょう。

自衛隊は縮小

 またもや出鼻をくじかれましたが、ここは妥協することとします。尖閣諸島は「日中共同開発」ということにして「引き分け」ということにしましょう(実態は中国領土になるでしょうが)。しかし問題はまだあります。
 それは日本の防衛政策です。冷泉氏は米軍が出て行って中国と組む場合、自衛隊の専守防衛政策では責任を果たせないとし「正規軍を持ち、敵基地攻撃能力という名の抑止力の自己負担もすべき」と主張しております。これは理論的には間違っていないのですが、中国はそれを認めない可能性が高いです。
 これもまた歴史的経緯を知る必要があります。冷戦時代の1960年代、中国は日米安保体制に一貫して反対の立場でした。理由は言うまでもなく反共産主義の同盟国として機能していたからであり、当時の日本の政治家は日中国交正常化の条件として日米安保の破棄を要求されるだろうと予想していたほどです。しかし実際の交渉ではそうはなりませんでした。
 それは1971年のキッシンジャー氏訪中から始まった米中の対話にあります。ここでキッシンジャー氏は周恩来首相に日米安保の意義について次のように語りました。

1.日米安保は対ソ連のためであって対中国ではない
2.日米安保は日本の軍事大国化を阻止する「瓶のふた」である

 最初に日米同盟の意義についてまとめたと思いますが、この「瓶のふた」理論は日本嫌いのキッシンジャー氏の独自見解ではなく、アメリカの本来の対日政策です。この説得を周恩来氏は受け入れて、日米安保体制を容認しました。言うなれば、中国にとっての日米安保は「対中宥和」と「日本の軍事大国化阻止」がコンセンサスになっていたことになります。
 しかし近年の日米安保体制は明確に反中同盟と日本の防衛強化のために機能しております。そもそもアメリカが日本に防衛力の強化を求めているのは、日米信頼の醸成もありますが、根本的な理由は台頭する中国に対してアメリカ一国では対処できないためです。でも中国側に言わせれば「話が違うだろ」となるわけで、首脳会談や日米2プラス2の度に反発するのが恒例になりつつあります。無論日本の防衛力強化にもきっちり釘を刺しております。

中国国防部の張暁剛(ちょう・ぎょうごう)報道官は14日、日本防衛省が開発状況を初公開した射程3千キロとなる新型弾道ミサイルは「専守防衛」の範囲をはるかに超えており、同盟国に打撃力向上を求める米国の方針に応じた攻撃型兵器であるとの報道に関し、軍事・安全保障分野で言動を慎むよう日本に求めると表明した。

(出典:中国国防部、弾道ミサイル開発で日本に言動を慎むよう求める,中国網日本語版,2025.3.15., http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2025-03/15/content_117767978.htm)

 したがって同盟を結ぶ際は日本に対し専守防衛の枠組みまで自衛隊を縮小するように要求してくると思います。敵基地攻撃能力など以ての外でしょう。中国はまだまだ軍拡のポテンシャルが高いので、それを支える為の投資や技術移転を求めてきます。つまり日本はずっと軍隊のいない国でいて、軍事大国中国の保護下に置かれた「旧安保時代の日中版」のような関係になるということです。当然「瓶のふた」役として人民解放軍の日本駐留も提案されるかもしれません。

中国のイエスマンに

 問題はまだあります。同盟を結んだ場合、日本は中国を批判することができなくなります。つまり中国に対してイエスマンになることが前提となるのです。冷泉氏は同盟締結後の日本国の形について、中国の権威主義に従う必要はなく「突っぱねてもいい」とおっしゃっていますが、それも難しいでしょう。
 これも感情論ではなく、高度経済成長期が終わって停滞気味な中国にとって、共産党政権の権威が「絶対」になるからです。中国と組む以上は彼らの主張に寄り添う必要があります。実際、すでに中国の影響下にあるカンボジアやラオスは台湾やウイグル問題について中国と歩調を合わせた主張をしております。

 一方、カンボジアのクン・ポアク外務次官は4日、議長国として行った会見で、「カンボジアの立場としては、台湾や新疆ウイグル自治区、香港などは全て中国の内政問題だ」と述べた。ラオスも外務省報道官の声明で、「『二つの中国』の状況を作り出そうとするあらゆる意図に反対する」と表明した。カンボジアとラオスは中国に経済で大きく依存しており、中国を批判しない姿勢で一貫している。

(出典:カンボジア「全ては中国の内政問題」ラオス「二つの中国への意図に反対」…批判しない姿勢で一貫,読売新聞電子版,2022.8.6., https://www.yomiuri.co.jp/world/20220806-OYT1T50076/)

 タイ王国でも国内で拘束したウイグル人を中国に強制送還して人権団体から非難されております。念のために言っておきますが、カンボジアもラオスもタイもまだ中国と同盟を結んでおりません。一帯一路に参加しているの段階でこの有様です。
 日本も他人事ではありません。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると昨年2024年の6月から8月に実施した聞き取り調査で、中国当局が日本在住の中国人および少数民族に対し、政府を批判するなと脅迫する事例が相次いでいたというのです。

HRWによれば、新疆ウイグル自治区の人権問題を扱う日本の団体を支援する同自治区出身者は、中国で暮らす親族と電話で話していたところ、突然電話を代わった現地の警察官から「家族がどうなっても知らないぞ」と言われた。また、中国の「ゼロコロナ」政策への抗議活動を企画した人は、当時在籍していた日本語学校を通じ、在日中国大使館から活動をやめるよう迫られた。

(出典:「中国当局、在日中国人を脅迫」 政権批判に「口封じ」―人権団体,時事通信電子版,2024.10.10., https://www.jiji.com/jc/article?k=2024101000756&g=int)

 その原因は中国の統治システムにあり、日本と違って政権交代ができない彼らにとって権威失墜は亡国と同じだからです。だからを批判する者は皆「敵」として扱わなければならず統制も厳しくなります。また歴史においても漢人は異民族に脅かされた時代が長いので、外国からの批判にも「内政干渉だ」と反発せざるを得ません。
 冷泉氏はビジネス右翼の「大東亜戦争史観」や「靖国」ばかり心配していらっしゃいますが、日本には日本ウイグル協会、日本チベット国会議員連盟、日華議員懇談会など中国共産党に都合の悪いものがわんさかいます。同盟を結ぶならこれらをすべて一掃しなければなりません。突っぱねれば「敵対」と見なされ、同盟の話はお釈迦になります。
 ただし中国のために人権問題で擁護したり、ウイグル人を強制送還したりした場合、日本も国際社会から非難されるのは言うまでもありません。

アメリカの反応

 もはや暗雲立ち込め始めた日中同盟論ですが、中露の挟撃を避けるためならまだ意義はあると主張は出来ます。悲惨な戦争になるくらいなら中国の言いなりになって、むしろ中国主導の東アジアにおいて日本は名誉ある地位に立とう。もはやリアリズムというよりマキャベリズムに近いですが、こうした主張は今後現れると予想します。
 しかし本当に大変なのはここからです。ここまでは日本と中国とロシアという三国のみの関係に焦点を当てていましたが、大事な視点を忘れております。アメリカ合衆国の反応です。え? 日本は安保を破棄されてアメリカに見捨てられたのだから、自由に動いていいと思いましたか? さっき日米安保が破棄されるシナリオを検証しましたね。

 1.必要性の喪失
 2.日本の反米化
 3.アメリカの日本への信頼喪失
 4.アメリカの財政的・軍事的事情

 このうち可能性の高いのは3か4と結論付けました。3は必死に頭を下げればよいとして、4の場合は在日米軍なしで頑張ることになります。それでも同盟が消えるわけではなく、戦略的なパートナーとしての枠組みは残ると言いましたね?
 しかしここで日中同盟に走った場合は事態が一転します。過去記事で解説している通り、米中は世界覇権戦争の状態にあります。まだ直接戦闘に至ってませんが、地政学をめぐる対立は避けられず、日本は必然と巻き込まれることになります。

日本の地政学的価値

「いや、日本は小さい国だし、資源もないから関係ないんじゃね」と思ったそこのあなた。米中世界覇権戦争において日本がどれほど重要な立場であるかを、わかりやすく説明しましょう。
 まずは現在の中国の掲げる勢力図を以下に示します。南シナ海では中国が人工島を建設したことで、その影響力を強化しております。そして東シナ海では尖閣諸島周辺でつばぜり合いをしている段階です。

図1.現在のアジアの勢力図

 ここで重要なのは第一列島線によって中国の勢力(赤)がせき止められていることです。近年中国艦隊が沖縄本島と宮古島の間である宮古海峡を通過することがよく報道されます。保守派や嫌中にとっては「中国の野郎、好き放題しやがって」と思われるかもしれませんが、実際は通過の一部始終を常にわが国の自衛艦とアメリカ艦隊に監視されており、その気になればいつでも海の藻屑にされる状態なのです。だから中国艦に乗っている水兵達にとっては、まるで針の筵を歩いているような気分でしょう。
 しかしここで日米安保が破棄されて、不安に駆られた日本が中国と同盟を結べば状況は一転。中国艦隊は安心していつでも好きなだけ太平洋に出ていくことができます。つまり以下のようになります。

図2.日中同盟下のアジア勢力図

 御覧の通りまるで大雨の日に堤防が崩れたように赤い勢力が第一列島線どころか第二列島線まであふれ出しております。こうして見ると海洋勢力としての日本の存在がいかに大きいかわかりますね。日本人は自分の国をちっぽけだと卑下しますが、十分に大国なのです。この地政学的ダイナミクスは周辺の国々に多大な影響を与えます。
 まず韓国は地理的に日中に挟まれている上、歴史的にも中国の影響下にある時代が長いので必然的に中国陣営に収まります。現在もすでに親米派の与党と親中派の野党で内戦直前の有様となっていますが、まぁ、収まるところに収まると思います。
 次に台湾は否応なく中国に統一されるでしょう。彼らは台頭する中国の様々な圧力にさらなれながらも、在日米軍基地を拠点とするアメリカのプレゼンスのおかげで、自立を保ってきました。しかし日本が中国と同盟を結べば台湾周辺は完全な赤い海になり、封鎖も武力併合も思いのままになります。
 東南アジア諸国も例外ではありません。彼らは中国から経済的恩恵を受けながらも、アメリカや日本との関係を維持することで中立的な立場を維持しております。すなわちバランス外交というわけですが、日中同盟ができればそれが維持できません。例えば日本が米軍に支払っている思いやり予算は約2110億円になりますが、フィリピンやインドネシアがこれを負担するのは困難です。したがって彼らも中国の配下に入らざるを得ないでしょう。つまりこういうことです。

図3.大アジア運命共同体の成立

 東南アジア諸国も全て取り込んで、南はオーストラリア大陸、西はインド洋へ迫ってしまっております。赤い帝国として貫禄が出てきたとは思いませんか?
 この勢力図には根拠があって、マレー半島とスマトラ島の間にあるマラッカ海峡を確保するためです。同海峡は太平洋からインド洋を繋ぐ交易の要所で、中国は常日頃ここが他国の軍によって封鎖されることを恐れていました(マラッカ・ジレンマ)。習近平主席が一帯一路構想を持ち出したのも、単にインフラ輸出を活発化させるだけでなく、交易経由国での中国のプレゼンスを高めることで、航路の安全を確保するためなのです。
 そしてこの勢力圏の構築はアメリカのインド太平洋戦略に致命的な影響を与えます。勘の良い方はすでにお気づきでしょうが、中国にとってマラッカ海峡が安全になるということは、裏手を返せばアメリカにとっては不安定になるということです。つまりアメリカは同海峡を渡るたびに中国の監視を受けることになるため、満足にインド洋へ戦力を投射できません。当然その空白を埋めるために中国は動きますから、最終的にこうなることとなります。

図4.一帯一路完全版

 ミャンマーのキャウクピュ港、スリランカのハンバントタ港、パキスタンのグワダール港などを拠点に中国軍がインド洋へ展開します。これは「真珠の首飾り戦略」と呼び、中国がインドを封じ込めるために長年取り組んできたことが実を結ぶのです。一応、インド洋にはアメリカ軍が基地を構えるディエゴガルシア島がありますが、これを押し返すのは容易ではないでしょう。

日中同盟=アメリカへの裏切りになる

 いかに日本にそれなりの事情があったとしても、これほどの地政学的損失を受けるかもしれない状況に立たされたアメリカが黙っているわけはないでしょう。日本では相も変わらずトランプ大統領が「予測不能」な行動ばかりしていると報じられますが、そんなことはなく彼は地政学に基づいて行動しております。
 その最たる例がパナマ運河をめぐる攻防です。就任時点からトランプ氏は同運河の運用権の奪還を主張しており、パナマに対して圧力をかけていました。その結果、パナマは中国の一帯一路からの離脱する方針を表明、中国企業が運営していた出入口の湾口もアメリカ企業が率いる投資連合に売却されることになったのです。

パナマのムリノ大統領はルビオ氏との会談後、一帯一路構想への協力に関する中国との合意を更新しない方針を示し、失効前に打ち切る可能性もあると表明。合意は2─3年で失効する予定としたが、詳細は明らかにしなかった。

(出典:パナマ、中国「一帯一路」構想から離脱意向 米国務長官が歓迎,ロイター通信日本語版,2025.2.4., https://jp.reuters.com/world/us/3RQ6IBKDO5IH5NSPNO773IHGQU-2025-02-03/)

香港を拠点とするCKハチソン・ホールディングスは4日、中米パナマが全面的な管理権を得ているパナマ運河の入り口にある二つの港について、株式の大半を米投資大手ブラックロックが率いる投資家連合に売却することで合意したと発表した。

(出典:パナマ運河の港湾の運営権、香港企業が米企業への売却で合意,BBCニュース日本語版,2025.3.5., https://www.bbc.com/japanese/articles/czedy9d0pjno)

 理由は言うまでもなく、パナマ運河がシーレーンの要所であり、アメリカの利益に直結するからです。相変わらずやり方は強引で稚拙ですが、ウクライナやガザの件はともかくこちらは一定の成果を収める可能性が高いです。
 そしてトランプ政権は日米同盟を重視しております。同政権に影響を与えているとされるアメリカ第一研究所(AFPI)では日米同盟をインド太平洋における礎石と表現しております。

 トランプ陣営の日米同盟の重視も明快である。AFPIの政策文書では「米日同盟はインド太平洋でのアメリカの関与にとって礎石Cornerstone である」と明記している。そのうえに「日本との同盟はグローバルにみてもトップの優先事項だ」と強調していた。

(出典:古森義久,トランプ次期政権の世界戦略とは,Japan Indepth,2024.12.29.,https://japan-indepth.jp/?p=85925)

 繰り返しになりますが、トランプ氏が「日米安保の片務性」に苦言を呈したのも、日本側の役割拡大を期待している側面が強く、単にフレンドリーでない態度で突き放しているのではありません。無論「防衛はアメリカにお任せ」を続けたい人にとっては深刻ですが、政府が安部路線を継続して防衛強化を続ける限り問題はありません。安部路線の本質は「戦後レジーム」からの脱却、アメリカ依存からの脱却ですからね。
 しかし日中同盟を結ぶ場合はそうはいきません。さっき説明した通り、中国の影響力が飛躍的に増して、アメリカの影響力が致命的に下がるのです。早い話が「裏切り」と見なされる可能性が高いのです。

アメリカの制裁

 裏切られたアメリカは日本にどんな対応をするのでしょうか? まず日中同盟へ向けた交渉時から圧力をかけることが予想されます。日本がそれを無視して同盟成立させた場合、アメリカ大統領や国務長官、国防長官が日本を非難する公式声明を出すでしょう。次に在米日本大使の召還、駐日アメリカ大使の一時帰国といった外交ルートを遮断する対抗措置も取ります。そして同盟国(韓国、オーストラリア、NATO加盟国など)に対して日本の行動の危険性を訴え、国際的な孤立に追い込もうとするかもしれません。

 経済的制裁も食らうでしょう。よく経済といえば中国との関係ばかりが強調されますが、アメリカもまた日本経済において重要なパートナーなのです。

図5.日本の貿易相手国ランキングTop10 (出典:日本の貿易相手国ランキング ,日本貿易振興機構(ジェトロ)HP,https://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/trade/)

 今もトランプ政権の全方位関税に日本政府は戦々恐々としていますが、「裏切った」と見なされた場合はその程度では済みません。報復を意識した日本製品への高関税、最悪輸入禁止に踏み切る可能性もあります。

 逆に日本へ向けた輸出にも制限がかかるでしょう。すでに中国に対しては先端半導体の輸出規制がかけられていますよね。あれと同様の規制が日本にも課せられます。また日本企業に対するアメリカ国内からの投資も制限・禁止されるでしょう。日本株価は大暴落することが必至です。
 そして日本の金融機関や個人に対して、アメリカの金融システムへのアクセスを制限するなどの措置が検討されるかもしれません。日本の外貨準備高は1兆2500億ドルにも及び、そのほとんどは外国の中央銀行や外国国債として管理されています。これが凍結された場合、海外から物が買えなくなります。これはウクライナに戦争を仕掛けたロシアも受けた制裁であり、同国が中国に依存せざるを得ない要因の一つになっております。

 すでに青息吐息の状態ですが、裏切られたアメリカは許しません。最大にして最強の制裁が降りかかります。防衛装備の購入規制と情報共有の停止です。日本が中国と同盟を結ぶ場合、共同訓練や情報の共有がされますから、アメリカにとっては兵器の情報などが漏洩する深刻な事態です。故に徹底した制裁を行うでしょう。
 例えばトルコはアメリカのステルス戦闘機F35の導入に名乗りを上げ、共同開発国のパートナーとして資金提供を行ってきましたが、2019年にロシア製のミサイルS400を購入したためにF35計画から追放、導入することができなくなりました。ロシアのミサイルシステムによってF35の情報がとられる恐れがあるからです。

 ステファニー・グリシャム(Stephanie Grisham)米大統領報道官は声明で「残念ながら、ロシア製地対空ミサイルシステムS400を購入するというトルコの決断により、同国のF35関与継続は不可能になった」と表明。米国製のF35は「ロシアの情報収集プラットフォームと併用できない。同プラットフォームは、F35の高度な能力について知るために使われる」と説明した。

(出典:米、トルコをF35計画から締め出し ロ製ミサイル購入受け,AFPBBニュース日本語版,2019.7.18., https://www.afpbb.com/articles/-/3235653)

 日本の自衛隊もF35を導入している他、アメリカ製の装備をたくさん保有しています。国産で作っているものもありますが、エンジンやレーダーがアメリカ製なこともあり、ここに規制を食らうと持続的な運用ができなくなります。そして軍事に関する情報共有を遮断されるのも致命的です。イージス艦などはアメリカの軍事ネットワークありきで動いているので、ただ値段が高いだけの箱舟と化すでしょう。日本の防衛体系は完膚なきまでに崩壊します。

 以上の通り、日本がアメリカから安保条約を破棄されたからと言って、中国と同盟を結ぶという選択肢はナンセンスです。やったら最後、戦後から築き上げた日本の国際的信頼、経済、安全保障のすべてが清算されてしまいます。日本は孤立し中国の属国として細々と生きるしかなくなるでしょう。
 そしてあえて触れないでいましたが国内世論も無視できません。日本国民の対中感情は悪く8割以上が「親しみを感じない」となっております。この状況で同盟を強行すれば反発が予想され、政治的な対立が深まって不安定になります。そこを中露に付け込まれれば、最悪の日本分割支配へ一直線です。

終わりに

 いかがでしたでしょうか?少し刺激的な内容になってしまいましたが、こうして従来の価値観に縛られない極端なアイデアを考察することは、日本の国際関係を理解するうえで大変興味深いものです。トランプ政権の「暴走っぷり」は今後も続くでしょうから、これを機会にいろいろな意見が出てくることを期待します。なお私はトランプ政権を理由に日本がアメリカと敵対する必要はないと考えております。
 中国に関して「同盟」はナンセンスですが、向こうから仕掛けてこない限りは普通の二国間としての対話と協力を進めるのが無難です。ロシアもそうです。しかし彼らは極東での勢力拡大のために軍事行動を活発化させ、経済交流を通して「アメリカを裏切る」ように仕向けてきますから、慎重に行動する必要があるでしょう。その辺り親中派や親ロシア派は脇がとても甘いので、日本外交の不安定要素となります。

 最後に冷泉氏が提示する日中同盟とは違う、もう一つの選択肢を引用させていただきます。

アメリカが頼りにならない、中ロが日本を挟撃する可能性があるという場合には、最後の手段として英仏との何らかの同盟を構築して国家の延命を図るべきだと思います。(出典:冷泉彰彦,日本をトランプ主義から救うのは「日中同盟」か「日露同盟」か?在日米軍撤退に現実味、ビジウヨファンタジーで国は守れず,2025.2.19., https://www.mag2.com/p/news/637071)

 現実路線で考察すれば、この提案が最も最良であるといえます。「最後の手段」とか「延命」と言わず、今から志向してもいいくらいです。といってもイギリスやフランスが日本を守るために戦ってくれる可能性は全くのゼロです。ではなぜ意義があるかというと、図5を見ればわかります。

図5.ユーラシアの地政学

 御覧の通り北東アジアでは日本が中露に二方面の対峙を余儀なくされていますが、東欧では英仏を含めたNATOがロシアと対峙しており、日本がNATOと連携すればロシアに二方面での対処を強いることができるのです。冒頭で触れたとおりフランスは自国の核を抑止力としてNATOに提供する提案をしました。およそ290発程度の核で数千発規模の核大国に対抗できる微妙ですが、ロシアには効いているようです。

ロシアは6日、マクロン仏大統領が「欧州への核の傘拡大」の可能性を示唆したことについて、ロシアに対する「核による脅しのニュアンスが感じられる」と非難した。

(出典:仏大統領の発言は「核による脅しのニュアンス」、ロシアが非難,ロイター通信日本語版,2025.3.7., https://jp.reuters.com/world/ukraine/5BK5JPTEDRMSBEJTBU2LAOV7WM-2025-03-06/)

 中国もそうですが彼らが反発するときは都合が悪い時で、フランスは悪くないアプローチをしたと言えます。正直日本が彼らの核の傘に入れるかは微妙ですが、そこはアメリカとのパートナーシップを維持することで凌ぐしかないでしょう。
 対中国に関してはクアッドに参加するオーストラリアとインドと連携するのが効果的です。もちろんこれらの国々も日本を守るために戦うことはしませんが、中国も多方面に対応しなければならなくなるため動きにくくなります。トランプさんもこれを重要視しており、就任式の翌日に4か国の外相会合を開くくらいです。
 こうして見ると改めて安部さんの偉大さを思い知らされます。

(扉絵はMicrosoft Designer [DALL E3]より作成)
(2025/3/26 「尖閣は中国領に」の項目でサラミスライス戦略にまつわる解説を修正)

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