トランプは日米安保を破棄するか? ──日中同盟論考察──
※本記事は「日中同盟について考察する」を読みやすいように分割し、さらに加筆・編集したものになります。独立した記事として完結していますのでここだけ読んでも大丈夫です。
世界に背を向けるアメリカ
世界のアメリカに対する信頼が揺らいでおります。二期目に就任したトランプ大統領がさっそくウクライナ戦争の停戦という公約を果たしに動き出しました。しかし、その言動は露骨なまでにロシア寄りである上、ウクライナに対し3年間の武器支援の見返りとして鉱物資源の半分の収益を要求するなど「白昼の追剥」のごとき所業に走っております。
決定的なのは2月28日に行われたウクライナのゼレンスキー大統領との会談において、公開の場で決裂し、その後は見せしめとばかりに武器支援や情報共有を停止したことです。こうしたトランプ政権の言動を受けて欧州はゼレンスキー大統領を擁護し独自の和平計画を策定し、平和維持活動でも英仏が協力する方針を示しました。
そして欧州は本格的にアメリカ依存の安全保障政策の見直しへ動くようになります。象徴的なのはフランスのマクロン大統領がビデオ演説にて、自国の核を欧州の抑止力に提供する構想を提案したことでしょう。
マクロン氏は演説で、ロシアのウクライナ侵略が3年間続き、その脅威は欧州に迫っていると強調。「フランスの核抑止力で、欧州の同盟国を守ることについて戦略的な議論を始めることにした」と発言した。核兵器運用の決定権は、「いかなる場合でもフランス大統領が維持する」とも述べた。
トランプ氏は兼ねてからNATO加盟国に安全保障への負担を求めており、過去にはアメリカの離脱を主張したり、負担に応じなければロシアに好きにやらせると発言して物議をかもしておりました。最近はGDP5%に防衛費を上げるように求めており、バンス副大統領がリベラル政権を批判したりしているので、NATOは事実上崩壊して英仏が主導する地域安全保障体制へ移行するかもしれません。
一見するとアメリカが自らの影響力が低下させているように見えるこの現象。これこそトランプ氏の掲げるアメリカファーストが目指している姿だったりします。彼はこれまで世界の安定のために国内のリソースを費やしていたのを「無駄」と言って切り捨てているのですね。ウクライナも彼からすれば破産寸前の零細企業であり、鉱山だけ手に入れればいいと考えているのです。そのためにアメリカがこれまで築いてきた世界秩序や価値観、信頼関係が棄損されても気にしないんです。
彼を含め、最近のアメリカ大統領は大局的に超大国としてのアメリカを終わせる方向へ動いています。一見トランプさんと思想が真逆に見えるバイデン前大統領やオバマ元大統領も「アメリカが世界から引いていく」方向性では同じなのです。詳しくは「オバマ・トランプ・バイデン3代政権が飾る超大国の終焉(1)(2)」にて解説しております。
日米安保破棄?代案の提唱!
兎にも角にもいま私たちが見ているのは格好つけながら萎むアメリカであり、世界が「多極化」していく歴史的過渡期です。当然その影響を受けるのはアメリカの同盟国です。欧州にはすでに触れましたが、最大の同盟国を忘れてはいけません。そう、わが国日本です。ミュンヘン安全保障会議の国際調査にて、日本人の多くが世界の多極化に懸念を抱いていることが指摘されています。
調査結果を盛り込んだ会議の年次報告書によると、多極化する世界に「懸念」を抱く日本人は17カ国で最も多い54%。「希望」を見いだすと答えた人は最少の18%だった。日本は「懸念」「希望」とも他の国々を10ポイント以上引き離し、多極化世界に対する不安が際立っていた。
実のところ21世紀のアメリカ一極体制の最大の受益者は日本であり、我々はその甘く優しいゆりかごの中で核廃絶や9条平和主義の夢に浸り続けてきたのです。これは右翼左翼、保守リベラル関係なく、今までの価値観が揺り動かされる事態であり、必ずアメリカとの関係を見直すべきという主張がいずれ出てくると過去記事でも私は予想してきました。
そんな雰囲気に歓呼されたのか、ついに日米同盟以外の同盟案を提唱する識者が現れました。作家の冷泉彰彦氏です。内容はぜひ彼の記事をお読みください。
最悪なのは、西欧諸国が、例えばリトアニアの国境が侵犯されても、全く動かなかった場合です。それでもアメリカが傍観したとしたら、その瞬間にNATOの安全保障システムは崩壊します。
仮にそうなったら、日本は今度は日米安保、米韓安保の消滅という状況に対する覚悟を決めなくてはならなくなります。これは最悪のシナリオです。
この記事で彼は日本の最善手は「現状維持」としながらも、トランプ外交による日米安保の崩壊を覚悟しなければならないとしたうえで、現実的な外交・軍事戦略について次のような提案をしております。
・大事なのは中国とロシアの挟み撃ちを避けること
・ロシアは資源依存国で北朝鮮とも組んでて同盟相手には不適格
・中国と緩い同盟関係を結ぶのが一つの選択肢になる。
これは冷戦時においてアメリカがソ連との覇権戦争を有利に進めるために中国と手を組んだことを念頭に置いたもので、似たような発想でロシアとの友好を促進せよという主張もあります。嫌中や保守の人たちには噴飯ものな意見ではありますが、まぁ、待ってください。今回からは4回にわたって彼の主張する「日米安保の崩壊」や「日中同盟」についてじっくりと考察していきます。
念のために言いますが、私は個人批判をするつもりはありません。今後の日中関係について多角的な考察を試みているため、良い問題提起をしてくれたことを感謝しているのです(国内の親中論客などはそれとなく匂わすような歯切れの悪い主張ばかりしますからね)。
日米安保の意義
まず始めに日米安保や在日米軍の意義についておさらいしておきましょう。そこがわからないとお話になりませんからね。一般的に日本の防衛を担うとされている日米安保と在日米軍ですが、その意義は時代とともに変化してきました。
1945年、第二次世界大戦で敗北したわが国日本は主権を失い、アメリカを筆頭とする連合国の占領を受けました。1951年9月8日にサンフランシスコ講和条約が結ばれ日本は主権を回復します。この時に結ばれたのが日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(通称旧日米安保)です。この条約は日本の軍事大国化阻止と地域の安定を目指しておりました。
しかし戦後からソ連との対立が深まっていく中で、アメリカは共産主義の拡大を防ぐために同盟国が必要になります。欧州では北大西洋条約機構(NATO)が形成されましたが、アジアでは二国間協力にとどまっていました。その中で日本は地理的に重要な位置にあり、技術力のポテンシャルも高かったことから、有力な同盟国としての役割も求められるようになりました。そんな中で60年安保改定は行われたのです。
そして冷戦終結後、一時は役割を終えたかに見えた日米安保ですが、中東への介入や対テロ戦争などにも大いに役立てられるようになります。実際、イラク戦争時には、在日米軍基地が米軍の作戦活動に重要な役割を果たしました。現在は対中同盟としての色彩を帯び、戦略的なパートナーとしての役割拡大も大いに期待されるようになります。2015年に安倍さんの平和安保法制が成立したのも、こうした背景によるものなのです。
総じて日米安保条約の意義については、
日本の軍事大国化阻止
アメリカの有力な同盟国
戦略的なパートナー
と言った意義があると結論付けられます。トランプ大統領は日米安保の片務性についてたびたび苦言を呈していますが、それは決して彼個人の感想ではなく、日米関係の大局的な発展と関係しており、サイバー攻撃やAI競争などの新たな脅威に対処する運命共同体としての意味合いが込められているのです。
破棄されるシナリオ
ではアメリカに日米安保を破棄されるシナリオについて考えてみましょう。先ほど説明したように日米安保は「日本の軍事大国化阻止」「アメリカの有力な同盟国」「戦略的パートナー」としての意義があるわけですが、それが破棄されるシナリオとしては次の4つが考えられます。
必要性の喪失
日本の反米化
アメリカの日本への信頼喪失
アメリカの財政的・軍事的事情
1のシナリオは極東・東アジア地域の安全保障環境が大きく変化し、中国やロシアや北朝鮮の脅威が減少した場合を指します。もっと具体的に言えばこれらの国々が民主化して親米国家(親日とは限らない)になることですね。もちろん日本も親米国家で軍事的冒険をしないことが前提です。いずれにせよ短期間で実現する可能性は低く、現時点では考える必要はないでしょう。
2の反米化とは立憲民主党が政権をとるようなソフトなものではなく、イラン革命のような大規模なイデオロギーの転換が伴うレジームチェンジを意味します。これも現時点では考えにくいことです。
3の信頼喪失はそれなりに可能性が高いシナリオです。日本がアメリカとの国家間の合意を反故にしたり、安全保障政策に非協力的な姿勢を取り続けた場合、アメリカは日米安保の再考を考えることになります。過去の例として、鳩山政権による普天間基地の辺野古移設計画に対する変更の要求が挙げられます。今後も立憲が政権を取って同じように移設計画を中止したり、2015年に制定された平和安保法制を破棄したりすればアメリカの信頼を失います。というのも現在の日米の軍事協力の多くは平和安保法制を根拠とするものが多く、アメリカのインド太平洋戦略にも大きく関わっているからです。
最後の4はアメリカの財政事情や軍事プレゼンスを維持するための人材および装備の不足、さらには撤退世論の増加が影響して日米安保を破棄せざるを得なくなる状況です。これが最も可能性の高いシナリオと言えます。「信頼喪失」だけなら素直に日本が頭を下げて、戻ってくることを懇願(国家の威信?そんなものは犬にでも食わせなさい)すればいいのですが、アメリカ国内の事情となれば「ない袖は振れない」とばかりにどうにもなりません。
今のところ破棄の可能性は低い
ここまで日米安保の意義とそれが破棄されるシナリオを考察してまいりました。それに基づいて改めてトランプ政権の政策を検証すると、ウクライナ支援に対する感覚で日米安保を破棄される可能性は現状では低いです。というのも同政権に影響を与えているとされるアメリカ第一研究所(AFPI)では日米同盟をインド太平洋における礎石と表現しているからです。
トランプ陣営の日米同盟の重視も明快である。AFPIの政策文書では「米日同盟はインド太平洋でのアメリカの関与にとって礎石Cornerstone である」と明記している。そのうえに「日本との同盟はグローバルにみてもトップの優先事項だ」と強調していた。
また2月7日に行われた日米首脳会談は「日本を守る」という言葉が強調されたと裏腹に日本側のコミットメントも共同文章では強調されております。詳しくは「金メッキの日米黄金時代」で解説していますが、共同文章では「平和安全法制」に言及した後に「自由で開かれたインド太平洋戦略」や日米にインドやオーストラリアを加えた四か国の戦略対話「クアッド」での協力を進めていくことに合意しております。そして2027年度までにGDP2%の防衛費を目指す日本の防衛力強化を2027年度以降も続けることにまで言及しております。
The United States welcomed Japan’s commitment, underpinned by a favorable trend of its defense budget increase, to building capabilities by FY 2027 to consolidate its primary responsibility for defending Japan, and, building on this significant foundation, to fundamentally reinforcing its defense capabilities beyond FY 2027. (訳:米国は、防衛予算の増額の好調な傾向に支えられつつ、2027年度までに日本を防衛する主要な責任を強化するための能力を構築するとの日本のコミットメントを歓迎し、この重要な基盤の上に、2027年度以降も防衛力を根本的に強化するとのコミットメントを歓迎した。)
冷泉氏の目には石破氏が「トランプ自身の口から「現状維持」という約束を引き出した」ように見えたようですが、実際のところはトランプ政権側こそ石破政権に安倍路線の維持と貿易不均衡の解消を求めていて、それに石破さんが積極的に応えたというのが私の見立てです。その根拠となるのが会談において石破氏が安倍政権時代を含めた日本側の実績やこれからの役割を説明した時に、トランプ氏が側近の副大統領らに「ほら、ちゃんと分かってるじゃないか」と語った場面です。
限られた時間で首相が意識したのは両国の国益に資する提案だった。防衛装備品の共同開発や購入、経済関係などについて具体的な数字を挙げながら説明すると、トランプ氏は同席したバンス副大統領らの顔を見て満足げに語った。
「ほら、ちゃんと分かっているじゃないか」
理詰めの議論が好きな首相と、自国の損得を最優先するトランプ氏は具体的な政策論でかみ合った。首相は相手が胸襟を開くのを感じた。
かつて石破さんは安倍政権時代は特に「党内野党」と言われるほどの独自路線で安倍政権を公然と批判し、安倍嫌いのマスメディアからは英雄のごとく持ち上げられておりました。また安倍さん個人も嫌っていたという話もあるほどで、情報強国であるアメリカは当然すべてを把握しております。それだけにトランプ政権側では「石破氏が(政敵のである)安倍路線の否定をするのでは?」という懸念があった可能性が高いです。中国へのすり寄りも懸念材料だったでしょう。
しかし昨年12月に安倍元総理の妻、安倍昭恵夫人が訪米しトランプ夫妻と面会した際に、その懸念はないことをトランプ氏に伝えたのだと思います。だからこそ会談時に「ほら、ちゃんと分かってるじゃないか」という言葉が出たのでしょう。安倍路線での日米関係の継続をトランプ側が求めていた証拠です。
将来的にはあり、でも日本は戦略的パートナー
現時点での日米安保の破棄の可能性は低いのが私の結論ですが、将来的には日本から米軍が引き上げる可能性を考慮する必要があります。というのも日本が防衛費を上げるのに対し、アメリカは国防費の削減に取り組み始めたからです。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は19日、ヘグセス米国防長官が国防総省の上層部に対し、国防費を今後5年間に毎年8%ずつ削減する計画を立案するよう指示したと報じた。
まだ計画段階であり、議会側の反発も予想されるため不透明ですが、今のアメリカの国防政策が国家財政の負担になっていることは確かです。そして最近の報道では在日米軍の増強の停止を検討していることが明らかになりました。
米NBCテレビは19日、トランプ政権が米軍の組織再編の一環として、在日米軍が予定していた態勢増強を停止する可能性について検討していると報じた。
あくまで増強の停止であって削減ではないので念のため。最初に申し上げましたが、これから我々が見るのは格好つけながら萎んでいくアメリカです。同盟国に負担を期待しつつ、自身は肩の荷を下ろしていくのが将来のトレンドとなります。
それを象徴するのがまた日本を騒がせたトランプ氏の発言でしょう。3月7日に大統領執務室でトランプ氏は記者団のNATOに関する質問に答える形で「日米同盟の片務性」に対して言及しました。
日本とは非常に興味深いディール(取引)を結んでいる。私は日本が大好きだ。われわれは日本と素晴らしい関係を持っている。しかし、米国は日本を防衛しなければならないが、日本は米国を防衛する必要はない。知っているか? そういう内容になっている。
識者によってはこの発言をもって日米同盟が軽視されたとする根拠にするかもしれませんが、これはトランプ氏が一期目も主張してきたことであり真新しいものではありません。そして発言の真意も対日貿易赤字への不満が主です。これまでの情報から考えても軍事面での協力は肯定的で、かつ日本側の役割拡大を期待しているというのは変わっていません。
これは「未来永劫、日本の防衛はアメリカにお任せ」を続けたい人にとっては深刻ですが、政府が安倍路線を継続して防衛強化を続ける限り問題はありません。そもそも安倍路線の本質は「戦後レジーム」からの脱却、アメリカ依存からの脱却ですからね。日本の防衛力強化が必然的にアメリカ側の負担を軽減するため、強引な破棄を切り出される可能性は低くなります。
そして仮に日米安保が無くなった場合も、引き続きアメリカは日本を戦略的なパートナーと位置付け、日米間の共同訓練や情報共有は継続する可能性が高いです。中国の軍事的拡大や北朝鮮の核開発といった地域の脅威に対してはもちろんのこと、経済的な協力関係、気候変動対策や人道支援といった国際社会における協力、民主主義や人権尊重といった共通の価値観を推進するパートナーであり続けるでしょう(トランプさんが気候問題や人道支援に背を向けていることはご愛敬)。
日米安保破棄後の代替策はこれを考慮しておかないと大変なことになります。
次はいよいよ日米安保が破棄された場合の代案を検証していきます。
「中露分断はできるのか?」へ進みます。
(扉絵はMicrosoft Designer [DALL E3]より作成、10/3 誤字修正)
