2040年までに、全ての診療科で、半数以上の地域医療構想区域で外科手術が減る
厚労省の医政局の森光敬子局長が、講演をされました。
講演のタイトルは「地域医療構想と生産性向上のための取組と人材確保」でした。
1時間の予定でしたが、医師会の先生方からの質問が相次いで1時間半に延長となりました。
せっかくなので、数回に分けて概要をお伝えしたいと思います。
局長の講演だけでなく、当方の感想も交えて記載しています。
森光局長は、福岡県久留米市の出身で、佐賀医大を卒業後に、厚生省医系技官として採用されました。
女性初の医療課長として診療報酬改定を実施し、また女性初の医政局長となりました。
宮崎県に来たのは2度目だと言っておりました。
以下は、講演の概要です。

地域医療構想の前までの地域医療充実の取組
1 医療基盤の整備と量的拡大の時代(1945~1985年)
公的病院と民間病院の整備・充実、一県一医大構想と医師の充実、老人福祉法の制定が行われた。
2 病床規制を中心とする医療提供体制の見直しの時代(1985~1994年)
医療法に基づく都道府県医療計画制度の導入、将来見通しを踏まえた医師数の抑制、介護サービスの整備・充実が図られた。
3 医療施設の機能分化と患者の視点に立った医療提供体制の整備の時代(1992年以降~)
医療施設の機能分化を推進するための制度改正(特定機能病院、療養型病床群、1992年)、患者に対する情報提供を推進するための制度改革、新たな医師臨床研修制度(2004年)の導入、介護保険制度の創設(2000年)と介護サービスの充実が行われた。
2013年の社会保障制度改革国民会議報告書
「改革の方向性」について
患者が状態に見合った病床でその状態にふさわしい医療を受けることができるよう、人的・物的資源を集中投入し、早期の家庭復帰・社会復帰を実現するとともに、受け皿となる地域の病床や在宅医療・在宅介護を充実させていく必要がある。
この時、機能分化した病床機能にふさわしい設備人員体制を確保し、病院のみならず地域の診療所をもネットワークに組み込み、医療資源として有効に活用していくことが必要となる。
地域により人口動態ひいては医療・介護需要のピークの時期や程度が大きく異なり、医療・介護資源の現状の地域差も大きい実態が浮かび上がり、医療・介護の在り方を地域ごとに考えていく「ご当地医療」の必要性が改めて確認された。
地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク(地域包括ケアシステム)づくりの推進が求められる。
介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に支えていくためには、在宅医療が不可欠である。このため、地域におけるかかりつけ医と医療・介護のネットワーク化が必要である。

地域医療構想について
各地域における2025年の医療需要と病床の必要量について、高度急性期、急性期、回復期、慢性期ごとに推計し、地域医療構想として策定。その上で、各医療機関の足下の状況と今後の方向性を病床機能報告により見える化し、各構想区域に設置された地域医療構想調整会議において、病床の機能分化・連携に向け他競技を実施してきた。
この地域医療構想推進のために、地域医療介護総合確保基金に基づく支援などを行った。
新しい地域医療構想(2040年に向けて)
2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医療機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めて地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病院小機能の分化・連携に加えて、医療機能機関の名学区か、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方につて法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得ることになった。
地域医療構想の評価
2025年の何も対策をうたない場合の病床予測では、151万床。
地域医療構想の2025年の推計値は119,1万床。実際の病床機能報告での数字は119.2万床。
地域医療構想の大枠である病床総数はほぼ達成された。
一方、細部を見ると急性期病床は多く残った。機能分化・連携はまだまだという状況。

今後の医療需要について
今後の医療需要は、医療と介護の複合ニーズが一層高まる。
とりわけ、高齢者の救急搬送と在宅医療の需要が増加する。
年齢階級別の要介護認定率は、65歳以上全体は18.9%。75歳以上全体は31.5%、85歳以上全体は57.7%。
85歳以上の約6割は、要介護認定を受けている。
つまり85歳以上の患者の多くは介護保険サービスを受けている。
こうした85歳以上の人口は、2020年は616万人、2025年は707万人、2030年は812万人、2035年は981万人、2040年は1000万人となり、これ以降はプラトーで、ほぼ1000万人前後で推移する。
つまり、2040年の医療のメジャーは、85歳以上の高齢者集団になる。
2040年の医療需要を見ると、85歳以上の救急搬送は、2020年と比較すると75%増加する。
とりわけ、軽症・中等症の救急搬送が増加する。
老人ホーム(特別養護老人ホーム・有料老人ホーム等の高齢者施設)からの救急搬送件数は、2021年は約45万人。
2040年には67万人に増加する。
特に85歳以上が増加する。
85歳以上の急性期における入院は、若年者と比べて、医療資源を多く要する手術を実施するものは少なく、疾患の種類は限定的で、比較的多くの病院で対応可能である(日本の病院数は7983)。

85歳以上の頻度の多い傷病
1位 誤飲生肺炎
手術なし 割合5.8% 病院数3726
2位 うっ血性心不全
手術なし 割合5.1% 病院数3335
3位 コロナ感染症
手術なし 割合3.6% 病院数3369
4位 肺炎
手術なし 割合2.7% 病院数3399
5位 転子貫通骨折(閉鎖性)
手術あり 割合2.4% 病院数2510
6位 尿路感染症
手術なし 割合2.3% 病院数3399
7位 大腿骨頸部骨折(閉鎖性)
手術あり 割合2.0% 病院数2511
8位 細菌性肺炎
手術なし 割合1.6% 病院数2615
9位 脱水症
手術なし 割合1.6% 病院数3480
10位 腰椎骨折(閉鎖性)
手術なし 割合1.4% 病院数3540
15歳~65歳の頻度の高い病床名
1位 大腸(結腸)ポリープ
手術あり 割合2.2% 病院数2811
2位 睡眠時無呼吸
手術なし 割合1.2% 病院数1881
3位 コロナ感染症
手術なし 割合0.8% 病院数2680
4位 尿管結石
手術あり 割合0.8% 病院数1138
5位 大腸憩室(穿孔又は膿瘍を伴わない)
手術なし 割合0.8% 病院数2603
6位 乳がん
手術あり 割合0.8% 病院数1129
7位 急性虫垂炎
手術あり 割合0.8% 病院数1877
8位 子宮筋腫
手術あり 割合0.7% 病院数 840
9位 鼠径ヘルニア
手術あり 割合0.7% 病院数2141
10位 肺・気管支がん
手術なし 割合0.7% 病院数1055
85歳以上の上位50位疾患までの手術ありの数は15で、累積割合は51%
15歳~65歳の上位50位疾患までの手術ありの数は30で、累積割賄は28%
2020年から2040年にかけて、全ての診療領域において、半数以上の構想区域で手術件数が少なくなる。
在宅医療は、2020年から2040年にかけて需要が50%以上増加する二次医療圏が66あるなど、増加が見込まれる。

以下は、私の感想です。
外科医の減少は、手術数の減少が原因でもあります。
各病院分散ではなく、手術のできる病院に外科医を集める取組が不可欠だと感じました。
また、手術数の減少は、病院収入の減少にもつながり、多くの病院が赤字となっているのもうなずけます。
医療は、患者の心身の状況に応じた適切で質の高い医療が提供されることが基本です。
今から14年後の2040年に私は、77歳になっていますが、森光医政局長は、「医療のメジャーなターゲットは85歳以上の高齢者となる」と言っておりました。
85歳以上の上位の急性期病棟での入院患者の疾患名(ICD10)を見て、違和感はありません。
手術をしない疾患が多くを占めます。
遠くの大病院ではなく、身近な病院で入院医療が行われていることが見て取れます。
こうした身近な病院が在宅医療を支える拠点となることも想定されます。
できるだけ在宅で支えて、時々入院をする、そういうコンセプトが浮かび上がります。
「こうした医療ニーズの変化に応じて、医学教育も変わらないといけない」と森光局長は強調してりました。
医療のガイドラインは、多くは比較的若い世代のエビデンスからできあがっています。
85歳以上の高齢者に、そうした医療ガイドラインをそのまま適用することは困難です。

病院内の医療だけでは通用しません。
介護の知識が不可欠です。
予防・住まいを含めた地域包括ケアや、公衆衛生、生き方、哲学の知識が必要となります。
予防では、
誤飲性肺炎を防ぐ口腔ケア、
肺炎の重症化予防のためのワクチン接種、
高齢女性の転倒予防、
低栄養予防、
軽度の運動、リハビリテーション、
ポリファーマシーの予防、
介護予防、生きがいつくりなど、
地域における取組がこれまで以上に重要になります。
医療の主戦場が病院から地域に移り、個々の患者さんに向き合っていくための地域の総合力がためされる時代となっていくと感じました。
