マルモ・マネジメントは既にある未来であり、医学生には2040年の標準医療を教えるべきである
厚労省の森光医政局長の講演資料の中に、「マルチモビディティ」という言葉がありました。
最近、よく使うようになったGeminiに聞いてみました。
マルチモビディティ(Multimorbidity)とは、一人の患者が2つ以上の慢性疾患を同時に抱えている状態を指します。
日本語では、「多疾患併存」、「多疾患罹患」と訳され、医療現場では略して「マルモ」と呼ばれることがあります。
主な特徴と定義
・疾患の数:明確な統一基準はありませんが、一般的に「2つ以上の慢性疾患」がある状態とされます。
・中心となる疾患の不在:特定の病気がメインというわけではなく、複数の病気が重なり合っているため、どの科が中心となって診るべきか判断が難しいという特徴があります。
・対象:高齢者に多く診られますが、近年では生活習慣病の若年化などにより、40~50代でこの状態になる人も増えています。
生じやすい問題点
複数の病気を個別に治療しようとすることで、以下のようなリスクや負担が生じやすくなります。
・ポリファーマシー(多剤併用):各科で薬が処方される結果、薬の種類が増えすぎて副作用や飲み合わせの問題が起こりやすくなります。
・治療の断片化:診療科ごとにバラバラに受診するため、全体像を把握する医師がいなくなり、ケアに一貫性が欠けることがあります。
・治療負担の増大:通院回数や検査が増え、患者自身の体力・経済的負担が大きくなります。
今後のアプローチ
これまでの「病気そのものを診る」医療から、かかりつけ医などを中心に、その人の生活背景や優先順位を含めた「人全体を診る」視点が重要視されています。

藤沼康樹さんの「卓越したジェネラスリスト診察」入門ー複雑困難な時代を生き抜く臨床医のメソッド(医学書院)に、このマルモのことが詳しく書かれていたので紹介します。
臨床検査で、多くの検査項目を一括して実施するのを臨床現場では「マルメ」と言いますが、なるほど、マルメのようなものかと納得してはいけません。
言葉は似ていますが、内容を知ると、まったく似ていません。
マルモには、4つのタイプがあるとされています。
①医学的複雑性が高い場合:併存疾患の存在、慢性疼痛、薬剤による副作用、説明できない症状、認知機能の低下
②社会・経済的要因が医学的問題を悪化させている場合:薬を処方できない、移動手段がない、家族内にストレッサーがある、ヘルスリテラシーが低い。
③精神疾患が医学的問題を悪化させている場合:うつ病のために服薬アドヒアランスが低下、依存症、不安が臨床像を就職している。
④患者の行動と資質に問題がある場合:検査や処方に対する要求が多い、スタッフや医師と議論したがる、症状に対する不安が大きい。
マルモは、このようなことから、プライマリ・ケア医にとってチャレンジングな問題になっています。
複雑な健康問題としてのマルモは、キーとなる疾患が設定しずらいのです。
例えば、糖尿病にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と前立腺肥大、うつ状態を伴う血管性認知症が併存しているような状態、だと藤沼先生は指摘しております。
マルモの状態では、どの科の専門家が中心となるべきかが明確になりにくく、ケアが各科に分断され、コミュニケーション不全により、容易にポリファーマシー(多剤併用による有害事象)や予期せぬ入院などを生じやすいと言われています。

マルモの患者頻度は、次のような特徴があります。
・年齢とともに患者頻度が上昇する。
・社会・経済的状態が悪くなるとともに患者頻度が上昇する。
・西欧諸国の入院患者における患者頻度は22~65%
・救急外来経由で入院する患者においては96%に達する国もある。
・プライマリ・ケアにおける患者頻度は、各国のヘルスケアシステムやデータ収集丞の方法論の違いを反映してばらつきがあるが、おおむね20~30%であり、高齢者に限ってみると55~98%である。
マルモの患者には、次の特徴があり、特別な注意が必要です。
・低いQOLと高い死亡率
・生活機能の低下
・精神的不健康
・医療過誤が増える
・医療費が増加し、ポリファーマシーも増える
・不必要な入院、入院日数、再入院率、救急受診、頻回外来受診が増える
日本での研究でも以下が明らかになっています。
・悪性疾患+消化器疾患+泌尿器疾患+心血管疾患+代謝性疾患の組み合わせのマルモでは、顕著な多剤投薬状態になっている。
・「悪性疾患+消化器疾患+泌尿器疾患」、「呼吸器疾患+皮膚疾患」、「骨疾患+関節疾患+消化器疾患」の3つのパターンのマルモでは、1日の服薬の回数がより頻繁になっている。

ガイドラインどおりにするとこうなる!
患者:79歳女性 高血圧症、糖尿病、変形性関節症、骨粗鬆症、COPDで通院中
投薬スケジュール
7時 イプラトロピウム吸入、アレンドロン酸の内服
8時 カルシウム、ビタミンD、サイアザイド、ACE阻害剤、グリベンクラミド、アスピリン、メトホルミン、ナプロキセン、プロトロンポンプ阻害剤の内服
13時 イプラトロピウム吸入、カルシウム、ビタミンDの内服
19時 イプラトロピウム吸入、メトホルミン、カルシウム、ビタミンD、ロスバスタチン、ナプロキセン内服
23時 イプラトロピウム吸入
必要時 サルブタモール吸入
患者のタスク
・関節保護、カロリー制限
・運動
・有酸素運動、毎日30分
・筋力強化
・関節可動域の維持
・COPDを悪化させる環境因子への曝露を防ぐ
・適切な靴を履く
・アルコールは控える
・正常な体重を維持する
医療者のタスク
・ワクチン(肺炎球菌とインフルエンザ)
・受診時毎回の血圧測定と、可能なら自宅血圧測定指示
・血糖自己測定の指導
・足のチェック
・検査(尿アルブミン、コレステロール、クレアチニン、電解質、肝機能、HbA1c)
・紹介(理学療法、眼科検査、呼吸器リハビリテーション、骨密度)
・患者教育
珍しい例ではないと思います。
エビデンスに基づき専門の学会が取りまとめた診療ガイドラインに従えば、患者も治療者も時に矛盾する日常のタスクやアジェンダを多く抱えることになります。
心理・社会的問題、たとえば認知症やうつ病、あるいは介護問題が加わると、さらに多忙になります。
日本のプライマリ・ケア医も、こうした患者に日常的に接しています。
森光医政局長は、2040年の医療の主体は85歳以上の高齢者になると言っています。85歳以上の介護保険の認定率は、57,7%。つまり6割は、介護問題を抱えています。

こうした患者負担は、「治療負担」と呼ばれています。
「治療負担」の主たる要素は次の3つです。
①治療とその目的を学ばなければならないこと
②服薬などの治療のアドヒアランスを維持しなければならないこと
③ライフスタイルを変え、治療のモニタリングを自分で行わなければならないこと
患者がこうした「治療負担」とうまく折り合いをつけて生活をするためには、疾患理解、社会的サポート、レジリエンスが必要です。
しかし、マルモは、これらの患者の能力(キャパシティー)を低下させてしまします。
「治療負担」が、患者のキャパシティーを越えてしまうと患者や介護者にネガティブな結果をもたらしてしまいます。
このような治療負担を軽減し、治療負担に耐えられるように援助することが、マルモのマネジメントなのです。
世界では、マルモの介入について精力的に研究がなされ、患者の認識や思い、価値観を重視して「優先順位」を評価した上で治療計画を立てることが重視されています。
マルモへの介入法には以下があります。
専門職に対する介入
・ケア・コーディネーターへの教育・トレーニング
患者に対する介入
・セルフマネジメントのサポートと患者教育
・自助グループの形成
ケア施設への介入
・ケア・コーディネーション・マネジメントの実施
・多職種チームの強化
・ケアプラン作成に患者の参加を促す
・定期的・計画的な受診システム構築
・計画的な電話相談の実施
藤沼先生は、マルモにアプローチするための外来診療での6つのポイントを挙げています。
➀複雑なマルモの患者を同定し登録する
②可能なかぎり1人のプライマリ・ケア医が継続的なケアを提供する
➂単一の疾患に焦点を当てた臨床ガイドラインをマルモの患者に適用させることは困難であるという前提に立つ
➃開発中のマルモ診療モデルを参照してみる
➄患者の「生活」を最適化することを優先し、関連する地域の多職種を巻き込む
⑥「うつ病」あるいは「不安症」の有無を評価し、あれば治療する。

藤沼先生のマルモ介入の総括です。
・患者・家族と、どこを落としどころにするのかを探る。
・患者の生活の全体像をつかむ。
・通院中の医療機関・代替医療機関をリストアップし、最新情報をつかむ。
・鍵は、慢性心不全、COPD、認知症、筋骨格系の慢性疼痛、孤独、貧困。
・精神科と積極的に意見交換する。
・治療負担になりやすいのは骨粗鬆症
・真の「主治医意識」を持って取り組む
眼から鱗です。大変、勉強になりました。
医学部では、卒前教育でマルモを教えて欲しいです。
マルモマネジメントは、既にある未来です。
