AIの時代、巨人の肩に乗って前に進む薬剤師。ひなたで舞う「少彦名命+神農+パナケイア」目指して
宮崎市のシーガイヤで第85回九州山口薬学大会が開催されました。
実行委員長は宮崎県薬剤師会の野邊忠浩会長です。
大会のテーマは、「ひなたで舞え~薬剤師道、今何をすべきか問う~」
野心的なテーマに刺激され、「薬剤師道」を究めるために、表記のようなタイトルの特別講演をさせていただきました。
日本薬剤師会の岩月会長は、「ひなたで舞うためには日陰で練習をしなければならない」と、挨拶の中でおっしゃっておりました。
同感です。
「日向坂46」も、たぶん日陰で猛練習をしていると思います。違うか。
日向市には「日向坂」があります。しつこい。

さて、以下は抄録に書いた文章です。
AIが医療に本格的に導入されている。改定診療報酬にも登場した。
AIの医療に与えるインパクトは誰にも予想はできてはいない。
これまでは「正解」を出すことに価値があったが、これからはAIが出す「正解」があふれる時代となる。
いかにして「問い」を見つけるか、ただよう正解をいかにして「実行する」のかに価値が置かれるようになる。
こうした「問いかけ」と「実行」の時代には、歴史や哲学や文学といった「人文知」が重要になる。
人や世の中を動かすのは「正解」ではなく、歴史や哲学や文学に代表される熱や誠や愛による力である。宗教の力も大きい。
科学は進化するが、人間そのもののOSのバージョンは、人類がアフリカの草原で二本脚歩行を始めてからアップデートされていない。
歴史を振り返ると、岩盤だった「正解」を打ち破ってきた熱狂的なノベーションに満ちている。
人類の歴史は病気に苦しめられてきた歴史でもある。
人類は、常に薬を必要としていた。
病気を克服するために、古来より草根木皮から薬として使えるものを捜して、抽出して、保存し、整理し、後世に伝えてきた。
宗教活動には薬が不可欠だった。
薬は高価で、世界に流通する普遍的なもので、量を誤ると毒にもなった。
偽薬も多く、副作用が薬効を上回ることもあり、その品質や有効性を確認するために国が監視管理するようになった。
薬は公衆衛生であり、薬剤師法に定める薬剤師の任務には、公衆衛生の向上がうたわれている。
こうした歴史を知らなければ、現在の仕事を手探りで進めざるを得ず、AIに容赦なく置き換えられる。
2040年を目標とする新しい地域医療構想が想定する患者像は85歳以上で、医療と介護の複合ニーズがある。
多疾患併存の患者には医療ガイドラインは通用しない。
入院よりも在宅が主流になり、病院のなかった江戸時代にタイムスリップした状態に近い。
江戸時代の「薬師」は医師が担った。
明治時代となって新たに薬剤師が誕生し、医薬分業が本格稼働するまで100年以上かかった。
令和時代の「薬師」は真打の薬剤師が担うことになるはずである。覚悟はできているだろうか。
歴史を知り、過去、現在、未来の3つの道を重ね合わせること、それにより薬剤師としての使命感と責任感が醸成される。
本講演では、歴史という巨人の肩に乗って前に進む薬剤師となることの重要性について、古事記や日本書紀の主要な舞台となった日向の国から私見を述べたい。
以下は講演の概要です。
厚生労働省に医系技官として34年間勤務しました。
東日本大地震では、福島にも行きました。

防衛省にも出向しました。
これは護衛艦「かが」を視察したときの写真です。

新型コロナウイルス感染症対策において、自衛隊衛生は大きく貢献しました。ダイヤモンド・プリンセス号では、薬剤官が薬の供給を担当しました。

講演のタイトルにある、少彦名命、神農、パナケイヤについてまとめました。日本では、いたるところで少彦名命と神農が祀られています。

東京の新宿にある東京医大の敷地の祠です。
日本の医学神と薬学神が祀られていました。

これは厚生労働省にある神農の像です。
医薬局の会議室にあります。もしかして国家秘密かも?

厚労省にある誓いの碑です。

誓いの碑
命の尊さを心に刻み、サリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることのないよう医薬品の安全性・有効性の確保に最善の努力を重ねていくことをここに銘記する。
千数百人もの感染者を出した「薬害エイズ」事件
このような事件の発生を反省しこの碑を建設した
平成11年8月 厚生省
さて、「巨人の肩」とは、歴史のことです。
今からおよそ800年前に、フリードリヒⅡ世が出した勅令は、世界の薬学を変えました。医薬分業です。
医師から薬を奪って、薬剤師をつくったのです。
行政と司法を分けたように、「三権分立」のようなものです。

これは日本薬剤師会のお薬手帳です。
マンガの「薬屋のひとりごと」を見ていると、毒殺のリスクがよくわかります。

明治時代になって日本人は初めて、病院や医薬分業という西洋医学のシステムを知ります。

初代内務省衛生局長の長与専斎が、日本の医療に薬学が定着するようにデザインしました。医制には、医薬分業がうたわれています。
それまでの日本の医療では儒教の精神が柱となっていました。患者を治療しても、治療費は受け取らず、そのかわりに実費の薬代をいただいていました。
江戸時代の医師は「薬師」と言われました。
この薬師から薬をとりあげるのは、困難を極めます。
日本には薬剤師はいませんでした。
医薬分業が我が国に定着するために、100年以上かかりました。
明治以降の薬学の歴史は、医薬分業を実現させるための歴史でもあります。
私の独断と偏見で選んだ主要人物ベストナインです。
然るべき時に、然るべき場所にいることが大事だとよくわかります。

日本薬剤師会は、日本医師会よりも20年以上も早く結成されました。
医薬分業を実現させるためには、薬剤師の全国組織が必要だと理解したのです。
日本医師会は、日本薬剤師会に対抗するために全国組織が結成され、そのトップに据えられたのが大物の北里柴三郎です。まさにラスボス。
私が環境庁に勤務していたときの大臣は石井道子環境庁長官でした。
薬剤師の石井議員が参議院議員としていたので、医療法の中に薬剤師や薬局が位置づけられました。


医療は社会保障制度によって支えられています。
日本の国民皆保険は、患者が医療機関を自由に選べることが特徴だとされていますが、医療機関、医師、薬剤師も自由に参入できます。
香取さんの「教養としての社会保障」は、わかりやすく書かれてあり、おすすめです。

新しい地域医療構想が開始されています。
2040年の医療の主役は85歳以上の高齢者であり、主戦場は在宅です。
病院よりも在宅で医療を受けたいのです。
多疾患併存(マルチモビィディティ)の患者さんに治療ガイドラインは通用しません。
多くは介護保険サービスを利用しています。

病院には、在宅からくるのではなく、介護施設から来ます。
主な病気は、うっ血性心不全、脳血管障害、骨折、尿路感染症、誤飲性肺炎。


病院は機能を持ち、2年毎の診療報酬改定で、より明確化されます。
2040年まであと14年。7回診療報酬改定があります。
厚労省は相当切り込んできます。
現在の薬師として、覚悟はできていますか。

治す医療から、治し支える医療に転換します。
リハビリ、栄養、口腔ケアが重要になります。
在宅での薬をマネジメントするのは、薬剤師です。
病院のソーシャルワーカーも重要になります。漫画も登場しました。


これは、越中富山の薬売りの掟です。
これを見ると、昔も今も変わらないと思います。
現代版に書き直すと次のようになります。

参考文献は以下のとおりです。
ご清聴ありがとうございました。
