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「攻めのガバナンス」の成否は経営会議で決まる


取締役会の実効性は語られ、経営会議は語られてこなかった

近年、上場企業では、取締役会を監督機能に特化させる「モニタリング・モデル」への移行が急速に進んでいます。モニタリング・モデルを採用した委員会型機関設計の会社では、取締役会は、経営の基本方針を決定し、具体的な業務執行の決定(すなわち経営)はCEOを頂点とする経営陣に委ね、CEOの選解任をはじめとする経営陣の監督を主要な役割とします。
このようなタイプの会社では、成長投資や重要な財産の購入・売却など、経営に関する重要な意思決定を経営陣による会議体(本稿では「経営会議」と呼びます)に委任することが可能です。
近年のコーポレートガバナンス改革を通じて、取締役会の実効性に対する関心は著しく高まりました。一方、経営会議の実効性については、これまで正面から論じられることが少なかったように思います。そこで本稿では、経営会議の実効性について考察します。

諮問機関か、決定機関か——二つの設計思想

取締役会の果たすべき役割・責務については、会社法やコーポレートガバナンス・コードの規定によって、大枠は定まっています。一方、経営会議は会社が任意に設置する会議体であり、その役割・責務については各社で自由に設計されるものです。
経営会議の位置づけとしては、「諮問機関モデル」と「決定機関モデル」の2つが考えられます。(他にも折衷的なモデルがありえますが、本稿では説明を割愛します。)

諮問機関モデル:決めるのは社長個人、会議は助言の場

取締役会からの委任に基づき、業務執行の意思決定を行うのは代表取締役・執行役個人(実務では社長に委任する例が大多数)であり、経営会議は社長への助言や意見具申を行う場として位置づけるモデルです。
メリットとして、権限と責任の所在が個人に一元化されるため、迅速な意思決定と、経営判断の帰責主体の明確化が図りやすい点が挙げられます。
一方で、合議体としての牽制機能は限定的になりやすく、社長による独断専行のリスクもあります。

決定機関モデル:合議で決める、ただし責任は個人に残る

経営会議自体を、取締役会から委任を受けた業務執行の決定権限を行使する合議体として位置づけるモデルです。
メリットとして、複数の専門性と視点が意思決定過程に制度的に組み込まれることで独断専行のリスクを抑えられる点、そして合議制ゆえに判断のプロセスに合理性が認められやすくなる点があります。
一方で、意思決定の迅速性が損なわれやすく、また最終的な責任主体が曖昧になりがちであるという課題があります。

もっとも、会社法上、取締役会が業務執行の決定を委任できるのは代表取締役・執行役という個人であって、会議体ではありません。したがって決定機関モデルも、法的には、委任を受けた代表取締役・執行役が経営会議の決議という形式を通じて決定を行うものと整理されます。経営会議を決定機関として設計しても、委任を受けた個人の法的責任が残ることに変わりはありません。

経営会議の実効性を高めるとは、意思決定の質を高めること

経営会議の重要なアジェンダとして、以下の3つが挙げられます。
1. 業務執行の決定
2. 経営陣の職務執行状況の報告
3. 決議を行う前提として必要な議論

このうち、経営会議のもっとも重要な役割は、取締役会からの委任に基づき、経営に関する意思決定を行うことです。経営会議の実効性を高めることは、経営に関する意思決定の質を高めることとほぼ同義といえます。
では、経営会議における意思決定の質を高めるための工夫にはどのようなものが考えられるのでしょうか。

意思決定の質を高める四つの切り口

  • 誰が議論するか——会議体の構成
    意思決定に適した規模
    決定機関モデルを採用する場合、業務執行取締役・執行役に加えて、執行役員等が経営会議メンバーとなることがあります。網羅性を重視してメンバーを広げるほど、決定事項の社内浸透は図りやすくなりますが、一定の規模(経験的には10名程度)を超えると全員が深く議論に参加することができなくなり、意思決定機関としての役割が形骸化するリスクがあります。
    議長
    社長が議長を務める例が大多数ですが、その場合、議長であり同時に最上位者でもある人物の意向が早い段階で示されると、異論が出にくくなります。社長は自らの意見を最後に述べる、あるいは論点整理と進行は他の役員や事務局が担うといった運用上の工夫によって、集団思考(groupthink)を避けることができます。

  • どう議論するか——審議プロセスの設計
    専門委員会による事前審査
    投資委員会・新規事業委員会・IT委員会など、案件類型ごとの専門委員会を経営会議の下に設置し、財務・法務・リスクなどの観点からの事前審査を経てから、経営会議に上程する二層構造です。案件の性質に応じた専門的な知見を審議に持ち込める点が利点です。
    二段階審議
    重要案件は「審議(方向性の議論)」と「決定(正式決議)」を別の会議体・別の日程に分け、一回で即決させない運用です。投資案件の決裁プロセスでよく見られる方式であり、差し戻しや再検討の機会を制度化することで拙速な決定を防ぎます。

  •  何をもとに議論するか——情報と資料
    資料の事前配布と最低レビュー時間の確保
    議案資料を会議の一定日数前(多くは2〜3営業日前)に配布するルールを内規で明文化し、「その場で初めて見て決める」状態を排除します。基本的な工夫ですが、質の高い議論を確保するうえで最も効果が高い施策だと私は考えています。
    意思決定基準の標準化
    意思決定の際に考慮すべき基準をリストアップしたフレームワークを文書化し、それを使って意思決定を行います。事業投資案件であれば、戦略整合性(戦略上の必然性があるか)、経済合理性(資本コストを上回るリターンが期待できるか)、実行可能性(事業計画やシナジーの実現は可能か)といった切り口で投資基準を事前に明確化しておきます。
    外部専門家の意見書取得の制度化
    重要な投資・M&A案件について、一定金額基準を超える場合は外部弁護士・フィナンシャルアドバイザーのフェアネスオピニオンやデュー・デリジェンス・レポート取得を必須化するルールです。

  • 決定をどう振り返るか——事後検証
    議事録における審議過程の記録の充実
    結論だけでなく、検討した代替案、主要論点に関する審議の概要、反対意見の内容までを議事録に残す運用です。取締役が注意義務を果たした証跡を残すと同時に、次回以降の類似案件での検討フレームワークの土台にもなります。
    事後レビューの制度化
    投資案件等について、実行後一定期間(1年後・3年後等)に当初の想定と実績を照合するレビューを経営会議に義務付ける仕組みです。KPIの未達要因を分析し、意思決定プロセス自体の改善にフィードバックします。

ここまでは決定機関モデルを念頭に述べてきましたが、諮問機関モデルを採用する場合も、そのねらいが最終的には社長個人の判断の質を高めることにある以上、本稿で挙げた工夫の多くは同様に当てはまります。

まとめ:取締役会に注がれる関心を、経営会議にも

取締役会が「モニタリング(監督)」へシフトした会社では、冒頭に述べたとおり、成長投資をはじめとする重要な意思決定は、実質的に経営会議の場で決まります。「攻めのガバナンス」とは、企業が成長するために、戦略的なリスクテイクを支えるガバナンスにほかならず、その成否は経営会議の運営に大きく左右されます。これまで取締役会に注がれてきた関心を、経営会議にも向けるべき時期に来ていると思います。









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