🔳ep.8 第二次性徴との闘い
ジュニア時代、あらゆる大会を無双していた浅田真央選手は、あるときから得意だったはずのジャンプに苦しむようになった。第二次性徴が始まったことで身体のバランスが変わり、スケーティングに影響が出てきたのである。
その後、その壁を乗り越えて大躍進したことは誰もが知るところではあるが、真央ちゃんほどのトップアスリートであっても、第二次性徴にはみんな平等に苦しめられる。
それはバレエも例外ではない。
棒のように細くて軽かった身体から、どんなに節制していてもお尻や胸にお肉がついてデコボコな身体になってくる。たとえ痩せていたとしても、真っ平らのままというわけにはいかない。女性である以上、身体の凹凸は受け入れなくてはならないのだ。
バレエの姿勢は、一般的な「良い姿勢」とはちょっとちがう。一般的な良い姿勢は、背骨の自然なS字カーブを維持するようにするが、バレエの場合はそのカーブを極限まで上下に引き延ばす。デコボコのないまっすぐ平らな身体が踊りに適しているからだ。つまり、女性として自然な身体の丸みは、何をするにも邪魔ということになる。
去年までできていたことができなくなることへの戸惑い。くるくるくるっと何も考えず回れていたのに、今はダブルですら失敗してしまう。スパーッと気持ちよく跳べていたのに、今はなんだか滞空時間が短くなり、すぐに落ちてきてしまう。
みんなが平等に経験することとはいえ、その時期はバラバラだ。そのため、自分だけが前よりも下手になったように感じてしまう。大先生からは容赦なく「あんた下手になったわね?」などと言われ、ただでさえできない自分に落ち込んでいるのに、さらにドン底に突き落とされる。
それに加えて、私は小6〜中1で身長が15cm以上も伸びた。当然、踊りのバランスは大きく変わるし、成長痛にも悩まされた。腕や脚が長くなると、その分コントロールが利かなくなり、一生懸命踊っていても踊りが雑に見えてしまう。「この私を舐めてんの!?やる気ないなら今すぐ出て行きなさいよ💢!!」と何度怒られたことか。
筋力が身長の伸びにまったくついていけてないことを毎日指摘され、筋トレメニューをどんどん増やされた。バレエに学校の宿題にテスト勉強にストレッチにどんどん追加される筋トレメニューにと、この頃の生活はとてもハードで、電車の中ではもちろんのこと、お風呂の中や、はたまたトイレの中でまで、隙あらば寝落ちする日々だった。
日に日に動きが重くなる私たち生徒を見て、先生は非常に苛立ち、週に1回の体重測定では「また増えてる!!あんたたちは水飲むだけで太るんだから、もう飲むんじゃないわよ!」と怒っていた。
伸び盛りなのだから体重が増えるのは当たり前だし、先生は大勢の生徒たちを見てきたのだから、第二次性徴のことも知っていたはずなのだ。それでも容赦なかったところを見ると、先生は「気長に見守る」ということができないお方だったのだろう。
(そんなん、子どもを指導する資格がないと思うんですが…)
食事を制限しようとする私に、母はいつも言っていた。「バレリーナになれなかったときのことも考えなさい」と。そして「バレリーナになりたいのに、ここで身長が止まっちゃってもいいの?」とも。
バレエダンサーには身長が必要だ。国内のバレエ団の規定も、多くのところで女性は161cm以上とされていた(現在はもっと高いかもしれない)。実際の平均は165cmを超えるだろう。プロとしてのスタートはコールドバレエ(群舞)からになるため、身長を揃えることが絶対条件となる。小柄な吉田都さんや熊川哲也さんが海外で活躍できたのは、時代の違いもあるが、何よりも非凡な才能ゆえのことである。
一方で、もっと昔は、逆に背が高いとバレリーナにはなれないと言われていたそうだ。大先生の身長は160cmで、当時の女性としては長身である。そのため、プロになるには海外に出るしか道はなく、当時の欧州でのアジア人はいろいろと不当な扱いも受けたと聞く。なので先生の中では「一時的に多少太ってでも、身長を伸ばすことのほうが重要」という価値観があまり根付いていなかったのかもしれない。
先生の年齢的にも、そう簡単に新しい価値観を受け入れることができなくてもおかしくはない。当時はどうしてこんなに毎日怒られるのかわからなかったが、今ならちょっとは理解できる。しかし当時の私は、怒られるのは自分がダメだからだと、ひたすら自己否定ばかりしていた。とても健全な子ども時代とはいえないだろう。よくぞドロップアウトせずに大人になれたものだ。笑
とまあ、こんな感じで小6〜中2くらいまでは身体の変化に悩まされ、メンタルもドン底だったが、身長の伸びがゆるやかになる中3以降は、徐々に自分の身体をコントロールできるようになっていき、技術も向上して再び楽しく踊れるようになった。そうして私にとっての短い黄金期に突入していくのである。
つづく
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