🔳ep.5 血まみれのトウシューズ
我ながらベッタベタなタイトルで笑う。
バレリーナの脚には美しいイメージがあるかもしれないが、彼女たちの足は脱ぐとヤバイ。節という節はタコだらけ、爪は変形・変色し、長年トウシューズの中で擦り続けられた皮膚は色素沈着も激しく、夏場にフットネイルして可愛いサンダルを履くなんてことは、夢のまた夢である。
プロのバレリーナたちは、トウシューズが血まみれになるなんてことはもうない。足に負担のかからない身体の使い方が身についているし、何より、石のように硬くなったタコはそう簡単に摩擦に負けないからだ。しかし、身体の使い方が未熟で、ふにゃふにゃと激弱なタコしか飼っていない子どもの足は、簡単に皮がベロリとめくれる。これがまあ痛いのなんのって。
想像してみてほしい。汗で蒸れてふやけた皮膚がベロリと剥けて、その患部に体重をかけて容赦なく擦り続けることを。大の大人でも涙が出るほど痛い。それをいたいけな少女たちは耐え続けるのだ。将来の夢のためとか、自分自身のためとか、そんな大層な理由からじゃない。単純に先生が怖いからだ。笑
私が大人になった頃には、足指を保護する優れたアイテムがたくさん売られていた。私の時代は、使い古したタイツやストッキングを足先にぐるぐる巻きつけるだけでトウシューズを履いていたので、履いて立つだけでも痛かった。でも、だからといって今の子たちが楽をしているとは思わない。それらの便利アイテムを駆使していても、長時間のレッスンで足指の皮がめくれることはめずらしくないと思うから。
レッスンが終わってトウシューズを脱ぐと、タイツには血がにじみ、シューズの中も血にそまっていた。私は足指のほかにかかとも剥けやすく、シューズのかかと部分にも血の染みができていた。
しかし、そんな努力の証を見ても、先生たちは誰も「がんばったね」「えらいね」なんて言ってはくれない。若い助手の先生は「大丈夫?痛そう💦」と心配してくれることもあるが、決して「がんばったね」とは言わない。がんばるのは当たり前だし、足の皮が剥けるのは未熟な証拠だ。バレエでもっとも大切な「身体の引き上げ」ができていないからだと言われてしまう。
足指の皮が剥けていると、痛くて靴も履けない。裸足でビーサンが履けたらいいのだが、大先生はお行儀にも大変厳しいお方で、真夏であっても裸足で教室に来ることを許さなかった。なので、足の皮がベロベロだろうがなんだろうが、一年中、絆創膏まみれの足にきちんと靴下と靴を履いて通った。だからみんな歩き方が変だった。笑
足に傷があると、お風呂がほんとに怖い。これが膝とか腕とかだったら、お湯に浸からないように工夫もできるが、足指はどうしようもない。子どもの頃は泣きながら入っていた。小学生当時ですでにレッスンは週5あったため、傷が治る暇も与えられず、本来疲れを癒すためのお風呂の時間が、毎日憂鬱だった。
さらに怖いのは学校のプールの時間だ。傷口に塩素は染みるなんてもんじゃない。どんなに優秀な防水絆創膏でも、足指にピッタリフィットするものはなく、必ず水が入ってきた。あまりの痛さに、プールの中で一歩も動けないこともよくあった。
何年そんな状態に耐えただろうか。気がついたらちょっとやそっとでは皮も爪も剥がれなくなっていた。その頃には皮が剥ける痛みもすっかり忘れ、レッスン終わりに涙目で恐る恐るトウシューズを脱いでいる下級生たちを見ては、「あーあ可哀想に。笑」と心の中でニヤニヤしていた。
(性格悪。)
そんな過酷な日々を乗り越えてきた私の足は、今もなお、非常に汚い。一度住み着いたタコはどこかへ引っ越すこともなく、このまま一生私の足に住み続けるのだろう。親指の爪は趣味の悪い色のネイルをしているかのような色だし、小指はタコと同化してまんまるになっている。
夏になると、綺麗にお手入れされた素足の女性を見て羨ましくなる。タコもマメもないツルッとした足指に、可愛いネイル。私が一生手に入れられないもの。
でもいいのだ。私は自分の汚い足を誇りに思っているし、サンダルを履けなくたって死ぬわけじゃない。これから先も、私は真夏でも靴を履いて生きていく。
つづく。
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