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🔳ep.4 すべてはバレエのために


選抜クラスのレッスンにもようやく慣れ始めた頃、教室の掲示板では、翌年の春休みに開催されるコンクールの出場希望者を募り始めた。



もちろん出たい。しかし希望者が全員出られるわけではなく、初めてコンクールに挑戦する人たちの場合は事前の選考があった。先生方の時間も手間も有限なので、本気でやる気のある子にだけ指導しますということである。



もともと超本気の子たちばかりの中で、生徒たちをさらにふるいにかける大先生の方法は、バレエに対する熱意とかやる気を見るのではなく、意外にも学校の成績の良し悪しを見ることだった。



「好きなバレエのために、どこまで好きじゃないことをがんばれるか」というのを見ていたのである。これは、大人になってからアニメの「ちはやふる」を観ていて同じようなセリフが出てきたのが印象的だった。「好きなカルタを続けるために、僕たちは好きじゃないこともやらなくちゃいけないんだ」と。



先生は出場希望者の親を呼んで三者面談し、成績の良し悪しを尋ねた。親もグルになってほんとうのことを言わない場合もあると思われるかもしれないが、大先生の前では誰も嘘はつけない。馬鹿なのに秀才ですとはとても言えない雰囲気なのだ。



バレエダンサーを目指す子の多くは中学受験をする傾向にある。なぜなら、高校受験がないからだ。ダンサーになるのにもっとも大切な時期とされる14歳〜17歳でバレエだけに集中できるようにするために、偏差値で学校を選ぶというよりは、いわゆる「一芸」に重きを置く学校を選ぶ。こういう学校は、コンクールの成績やバレエ留学なども単位に加えてくれたりもするのだ。



私も中学受験を検討していたが、それはバレエのためではなく単なる親の意向だった。しかし、たまたまその学校が一芸を大切にする校風だったこともあり、私の志望校を聞いた先生は「バレエのために選んだ」と判断したのだろう。「コンクールと受験勉強を両立させてみなさい」と、出場許可をくださったのである。



このように、一見バレエとは全然関係のないように思えることでも、バレエのためになると判断されれば努力することを求められた。同じ理由で、私はピアノも辞めさせてもらえなかった。



バレエと音楽はセットで習うと相乗効果がある。バレエでプロを目指すなら音楽性は超重要だ。お金持ちのお家の子なんかはピアノのほかにヴァイオリンを習っている子もチラホラいた。



私の場合、親のエゴでわけもわからない小さいうちからピアノを習わされていたため、そもそもピアノがあまり好きではなかった。適当に楽しく弾くのは好きなのだが、とにかく譜読みが嫌いで、楽譜がレベルアップすればするほどピアノのレッスンが嫌になっていた。しかし、大先生にバレたらと思うとピアノも勝手に辞められない。結局、小学校卒業まではどうにか続けた。



私の生活のすべてはバレエのために営まれていたといっても過言ではない。私だけじゃない。みんなそうだった。中には修学旅行にさえ、自分の意思で行かなかった子もいる。コンクールが控えていたりすると、レッスンを休んでる場合じゃないと判断するのだろう。



バレエを知らない人から見たら、狂っているとしか思えない世界。でもその世界の中にいる私たちにはこれが常識だった。特に私の先生は独自の「常識」をお持ちの方で、大先生が「カラスは白い」と言えば、生徒も保護者もみんな「はい!カラスは白いです!」となった。ある意味宗教と同じである。



親子揃って入信しているお家がほとんどの中で、うちの母はいつも冷静だった。母が信者じゃなかったおかげで今の私がある。宗教のドロドロはいずれ書くことになるだろう。



つづく。



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