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False Claims Actの日系製薬企業への適用事例


1. False Claims Act(FCA)

False Claims Act(FCA、不正請求防止法)とは、米国連邦政府に対する不正請求に対処し、不正請求に基づき支払われた代金を取り戻すために1863年に作られた法律です。FCAの規制対象となる行為や責任等の詳細については、「Healthcare Fraud and Abuse Laws①~総論、各論(False Claims Act)~」をご参照ください。本投稿では、FCAの適用に関する具体的なイメージを持っていただけるよう、少し古い事例が中心となりますが、FCAが日系製薬企業に適用された事例を3件紹介します。

2. Charitable Donation:Astellas Pharma US Inc.(アステラス製薬)

Charitable donationに関する政府の見解

本件の前提として、DOJ(司法省)は、製薬企業によるcopay foundationsに対するcharitable donation(慈善寄附)への規制を2019年頃から強化しています。

Copay foundationsとは、高額な医薬品を使用する患者の自己負担を軽減させるため、患者に金銭的な支援を提供する財団を指します(なお、copayを含む患者の自己負担の仕組みについては、「実体験からみる米国医療保険のシステム」もご参照ください。)。

おそらく10年ほど前であれば、製薬企業がcopay foundationsに慈善寄附という形で資金提供することは問題視されていなかったものと思われます。しかし、本投稿で取り上げるアステラス製薬の件も含めて、2019年頃から、製薬企業がこのような慈善寄附を巡って政府と和解する事例が増えています[1]。

DOJが慈善寄附を問題視するのは、それが違法なキックバックに該当すると考えているためです。すなわち、Anti-Kickback Statute(AKS、反キックバック法)は、製薬企業がMedicareの対象患者に自社の医薬品を購入するよう誘導するために、直接的または間接的に、金銭またはその他の価値のあるものを含むいかなる報酬も提供または支払うことを禁止しています(AKSについては、「Healthcare Fraud and Abuse Laws②~各論(Anti-Kickback Statute, Physician Self-Referral Law, Exclusion Authorities, Civil Monetary Penalties Law)~」をご参照ください。)。DOJは、製薬企業が、自社の医薬品のみを対象に自己負担を補助する基金を創設するために財団を利用することはAKSに違反するものであり、医薬品のコスト高騰に対する重要な予防手段を損なうことになると述べています。

以前の投稿(上記リンク先)でも紹介したとおり、AKSに違反した請求は虚偽または不正な請求であるとされ、False Claims Act(FCA)上の責任を生じさせます。そのため、DOJは、製薬企業に対して、FCA違反に基づく民事上の責任を追及することができます。

本件の概要

本件は、前立腺がんの治療に使用されるアンドロゲン受容体阻害剤(ARI)であるXtandi(以下、日本での製品名に合わせて「イクスタンジ」といいます。)に関するものです。(少なくとも当時は、)前立腺がんの治療に使用される主要な薬剤でARIは、イクスタンジのみだったようです。

政府の申立てによれば、2013年5月、アステラス製薬は、2つの財団に対し、ARIを服用するMedicare対象患者の自己負担をカバーする支援基金の創設を要請しました(他の種類の前立腺がん治療薬については本要請の対象外)。そして、2013年7月、両財団は、ARI専用の自己負担支援基金を創設しました。アステラス製薬は、両基金への唯一の寄附者でした。政府は、アステラス製薬が、イクスタンジが各基金からの利用額の大部分を占める可能性が高いことを知っていたと主張し、また、実際に、イクスタンジを服用しているMedicare対象患者は、この2つのARI基金から自己負担支援のほぼ全額を受け取っていました。政府はさらに、ARI基金が開設されていた期間中、アステラス製薬が医療提供者にイクスタンジを処方するよう説得する目的で、競合薬に対するイクスタンジの利点としてARI基金の存在を宣伝したと主張しました。

アステラス製薬は、政府との和解のために1億ドルを支払うことに同意しました。また、HHS(保健福祉省)のOffice of Inspector General(OIG、監察総監室)との間で、Corporate Integrity Agreement(CIA)を締結しました(CIAについては、「General Compliance Program Guidance~米国ヘルスケア業界のコンプライアンスプログラム~」をご参照ください。)。このCIAにおいて、アステラス製薬は、自社が寄附する患者支援プログラムからの独立を促進するための対策、管理、監視を実施するよう求められました。

3. Off-label Marketing:Astellas Pharma US Inc.(アステラス製薬)

(アステラス製薬の事例が続きますが、単に検索でヒットしたのがこれらの事例だったということが理由です。同社が日系企業の中で米国での存在感が大きいことの表れかと思われます。)

本件は、アステラス製薬がかつて所有していたキャンディン系抗真菌剤Mycamine(マイカミン。日本での製品名:「ファンガード」)に関する事案です[2][3]。

申立てによれば、2005年から2010年にかけて、アステラス製薬は、小児の用途でマイカミンを故意にマーケティングし、販売促進したとされています。上記の期間中、マイカミンは、食道、血液、腹部の感染症を含む、カンジダによる重篤な侵襲性感染症に苦しむ成人患者の治療、および幹細胞移植を受けている成人のカンジダ症の予防を対象としてFDAから承認を受けていました。しかし、2005年から2013年6月まで、マイカミンは、いかなる用途についても小児患者の治療目的には承認されていませんでした。すなわち、2005年から2010年の間は、適応外のマーケティング(Off-label marketing)が行われたとされています。

本件では、アステラス製薬は、和解のため連邦政府に420万ドル、州のMedicaidプログラムに310万ドルの合計730万ドルを支払うことに同意しました。

なお、本事案は、公益通報が発端だったようで、公益通報者であるアステラス製薬の元営業担当者Frank Smith氏が、FCAの公益通報規定に基づいて、70万8852ドルを受け取ると公表されています。実名かつ具体的な額まで公表しているのは、公益通報を促す意図もあるものと推察されますが、いかにもアメリカらしい対応という印象を受けます。

4. Off-label Marketing:Otsuka American Pharmaceutical Inc.(大塚製薬)

本件は、抗精神病薬Abilify(以下、日本での製品名に合わせて「エビリファイ」といいます。)に関する事案です[4]。

大塚製薬は、Bristol-Myers Squibb(BMS)と米国におけるエビリファイの販売に関するコプロ契約(共同販売促進契約)を締結していました。そして、同契約に基づき、大塚製薬の営業担当者は、BMSのセールスマネージャーが率いる営業チームと協力関係にありました。なお、大塚製薬が後述の和解を締結したのは、2008年3月のことですが、それに先行して、2007年9月に、BMSは、適応外使用のためエビリファイを不当に販売促進したという申立てに対して政府との間で和解を締結していました。

大塚製薬の件は、申立てによれば、2002年から2005年末にかけて、同社が、小児の用途および認知症関連の精神病の治療目的で、エビリファイの販売と使用を故意に促進したとされています。当該期間中、エビリファイは、成人の統合失調症と双極性障害の治療薬としてFDAから承認を受けていましたが、認知症関連の精神病に苦しむ高齢患者の治療において安全かつ有効であるとは判断されていませんでした。また、問題となった行為が行われた当時、エビリファイは、小児の用途でもFDAの承認を得ていませんでした。すなわち、本件でも、適応外のマーケティング(Off-label marketing)が行われたとされています。

具体的には、大塚製薬は、児童精神科医やその他の小児科専門医等に対して、小児患者へエビリファイを処方するよう促すことを営業部隊に指示することに関与したとされています。また、大塚製薬の営業担当者は、認知症関連の精神病の有病率が統合失調症や双極性障害の有病率よりはるかに高い介護施設をほぼ独占的に訪問する長期介護専門の営業部隊にも参加したとされています。そして、潜在的な市場利益のため、長期介護の営業部隊は、認知症関連の精神病の治療薬として適応外のエビリファイを販売促進したとされています。

本件では、大塚製薬は、和解のため連邦政府に230万ドル、州のMedicaidプログラムに170万ドルの合計400万ドルを支払うことに同意しました。また、HHSのOIGとの間で、Corporate Integrity Agreement(CIA)も締結しました。


なお、本投稿で取り上げていない事例でも、日系企業が被告となっている事件は存在します。最終的に企業側が勝訴するとしても、FCA違反を理由とする訴訟を提起されること自体は回避が難しく、米国でのビジネスで想定しておかなければならないリスクの1つといえます。


[1] DOJのプレスリリースによれば、一例として、以下のような製薬企業が政府との間で和解を締結しています。

[2] DOJ(https://www.justice.gov/opa/pr/astellas-pharma-us-inc-pay-73-million-resolve-false-claims-act-allegations-relating-marketing

[3] アステラス製薬は、2023年に、マイカミンの全世界での製造販売承認をSandoz AGに譲渡しています。(https://www.astellas.com/jp/news/26906, https://www.sandoz.jp/news/press-release-global-20230830/

[4] DOJ(https://www.justice.gov/archive/opa/pr/2008/March/08_civ_244.html

(写真:ロッキーで有名なフィラデルフィア美術館前にて。2023年11月訪問。)

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