車いすテニスの楽しみ方
はじめに
深く返ってきたボールを追い、いったん相手へ背を向けるように車いすを回す。1度目のバウンドには間に合わなくても、もう一度弾んだところへラケットを運び、コートの空いた場所へ返します。2バウンドまで使えることは、遅れてもよいという意味ではありません。その1秒を、移動、姿勢づくり、コース選びのどこへ使うかに、車いすテニスならではの駆け引きがあります。
車いすテニスは、一般のテニスと同じコート、ネット、ラケット、ボールを使う対戦型スポーツです。競技用車いすを動かしながら打球するため、ラケットを握る手で車輪をこぎ、向きを変え、再び構える動きが加わります。国内には障害の有無を問わず参加できる体験会があり、最初は競技用車いすもラケットも借りて、1球を打ち返すところから始められます。
車いすテニスの基本情報
車いすテニスは、1970年代のアメリカで競技として形づくられました。パラリンピックでは1988年のソウル大会で公開競技となり、1992年のバルセロナ大会から正式競技になっています。現在は、健康づくりや地域での交流として楽しむ人から、国内大会や国際ツアーを目指す選手まで、それぞれの距離感で取り組んでいます。
コートの広さ、ネットの高さ、ラケット、ボール、ポイントの数え方は、基本的に一般のテニスと同じです。シングルスとダブルスがあり、標準的な国際大会のシングルスは3セット中2セットを先取する形式で行われます。ダブルスや地域大会、初心者大会では、最終セットを10ポイントのマッチタイブレークにする、短いセットを使うなどの形式もあるため、大会要項で確認します。
最もよく知られる違いが、2バウンドまでに返球すればよいという規則です。1度目のバウンドはコート内でなければなりませんが、2度目はコートの内側でも外側でも構いません。3度目に弾む前に返せばよいため、ベースラインの後方やコート脇へ出て打ち返す場面も生まれます。
ただし、いつも2バウンドを待つ競技ではありません。浅いボールには1バウンドで入り、相手の時間を奪うこともあります。深いボールには2バウンドを使って車いすを回し、打点と次の戻り道を整える。1度目で打つか、2度目まで使うかが、ショットの選択そのものになります。
車いすは選手の身体の一部として扱われます。ボールがラケットではなく身体や車いすへ当たれば失点になり、打球するときは臀部の少なくとも片側を座面へ接触させておく必要があります。原則として、プレー中に足を地面や車輪へ当てて推進、停止、方向転換を助けることもできません。車輪でこぐことができない身体機能の選手には片足で推進できる例外がありますが、打球やサーブの動作中には足を接地できない時間が定められています。
サーブを始める直前は静止し、その後はボールを打つまでに1押しできます。車輪は、センターマークとサイドラインを延長した範囲の内側で、ベースラインより後ろに置きます。通常のトスが身体的に難しいクアード選手は、自分または別の人がボールを落とし、1度弾ませてから打つ方法を使えます。その場合は、同じ方法を1試合を通して用います。
競技用車いすは、左右の大きな車輪が「ハ」の字に開き、急な旋回でも安定しやすい形です。前方には足を守るフレーム、後方には転倒を防ぐキャスターがあり、座面の高さ、背もたれ、車軸位置、車輪の角度、足台、ストラップなどを身体とプレースタイルに合わせます。日常生活用の車いすより俊敏に動けますが、幅、重心、停止距離が違うため、最初は低い速度で操作を覚えます。
国際公式競技のクラス分けでは、まず、永続する対象障害が下肢にあり、立位のテニスでコート上の移動へ一定以上の影響を与えることを確認します。そのうえで、オープンとクアードという2つの競技クラスに分かれます。大会では、オープンを男子と女子に分け、クアードは男女混合で行うのが基本です。
クアードは、単に障害の重さを1つの数字で比べる区分ではありません。車いす操作、ラケットの握り、頭上からのサーブ、フォアハンド、バックハンドという競技動作への影響を評価します。必要と認められた選手は、ラケットを手へ固定するテープなどの補助用具を使えます。さらに厳しい条件と個別の許可を満たせば、一部の国際大会で電動車いすを使える場合もありますが、パラリンピックと対象となる地域総合競技大会は含まれません。
体験会へ参加できることと、公式大会へ選手として出場できることは別です。国内の一般体験や一部の交流大会には、障害のない人も参加できます。一方、国内の公認大会では選手会員への登録が必要で、国内協会の規則でランキング対象となるローカル大会には、会費の納入や障害者手帳などの選手資格があります。国内には、国際基準とは異なる区分や主催者の承認によって参加できる大会もあります。国際大会では、対象障害、最小障害基準、競技クラス、登録番号、各大会の出場条件を満たす必要があります。出場を考え始めた時点で、地域団体や協会を通して自分に必要な手続きを確認します。
初めての体験は、受付、車いすの調整、準備運動、チェアワーク、打球練習、ラリー、ミニゲームまで含めて90分〜半日ほどが目安です。クラブ練習では2〜3時間ほどコートにいることもありますが、初回から全時間を動き続ける必要はありません。車いすの台数に合わせ、見学と乗車を交代しながら行う体験会もあります。
屋外のハードコート、砂入り人工芝、クレーなどで行えるほか、屋内コートや体育館の簡易ネットを使った体験もあります。屋外は雨、強風、暑さの影響を受けますが、屋内なら通年取り組みやすくなります。専用車いすを保管・運搬できること、段差なくコートへ入れること、車輪を傷めにくい路面であることも、続ける場所を選ぶ条件です。
身体的な負担は、練習内容によって中〜高程度です。加速、減速、旋回とスイングを上肢で繰り返すため、肩、肩甲帯、肘、手首、手のひらに負担が集まります。ラケットを持ったまま片手で車輪をこぐ場面では左右の使い方も偏りやすく、体幹機能に応じて首や腰まわりへ疲労が出ることもあります。日常の移動や移乗でも上肢を使う人は、競技時間だけでなく、その日の生活全体を含めて運動量を整えることが大切です。
車いすテニスにかかる費用
最初の1回は、全国で行われる体験会から探すと費用を抑えられます。2026年にも、年齢や障害の有無を問わず参加でき、競技用車いすとラケットを主催者が用意する90分の体験・講習会が開かれています。無料または少額の企画もありますが、参加費、保険、駐車場、付き添いの入場料は会場ごとに確認します。
借用用具がそろう体験なら、最初に必要なのは動きやすい服、タオル、飲み物、コートに合うシューズ、必要な薬や医療用品です。ラケットを自分で用意するなら、初心者向けは5,000〜15,000円ほどから選べます。グリップテープ、練習球、帽子などを合わせ、最初の個人用具として10,000〜20,000円ほど見ておくと無理がありません。握りに補助が必要な人は、市販品だけで決めず、指導者やリハビリの専門職と固定方法を確認します。
競技用車いすをすぐに買わなくても、協会の個人向けリースを利用できます。小学校高学年から成人向けの複数サイズの車体は月額3,000円、年少者向けの二サイズは月額2,000円という案内があります。購入前に体格との相性を試し、座面や車軸の位置を変えたときの操作感を比べられるため、借りられる期間、配送、整備、破損時の負担を確認して利用します。
継続時には、クラブ会費、コート代、レッスン料、保険、ボール代、交通費がかかります。公共コートを仲間と分担する活動、障害者スポーツ施設の教室、民間テニススクールでは料金の仕組みが異なり、全国一律の金額はありません。車いすの保管場所や、練習日に借りられる車体があるかによっても年間費用は大きく変わります。
年間費用をつかむため、月2回、年間24回の練習へ1回1,500円で参加すると仮定します。成人用競技車のリースを12か月利用すると72,000円です。ここへラケット12,000円、グリップやボールなど6,000円、スポーツ保険2,000円を加えると、初年度は92,000円になります。1回1,500円は全国共通料金ではなく、交通費、クラブ独自の会費、レッスン料は含めていません。
ランキング対象の国内大会へ出る場合は、選手会員の年会費3,000円が必要です。年度初日の時点で17歳以下のジュニア選手は会費が無料ですが、大会参加費や遠征費は別にかかります。国際大会へ進むと、国際登録、クラス分けに必要な書類、エントリー、車いすの輸送、宿泊などが加わるため、趣味として練習を続ける費用と競技遠征の費用を分けて考えます。
自分用の競技車を購入する段階では、国内メーカーのテニス用モデルに基本価格313,400円からという例があります。車輪、座面、クッション、ストラップ、フレーム加工などを身体に合わせ、本格的なオーダー仕様や海外の高性能モデルを選ぶと、さらに高くなります。タイヤ、チューブ、キャスター、ベアリング、ハンドリムなどの交換や整備にも費用がかかるため、本体価格だけで予算を決めないことが大切です。
まず借用車でチェアワークを試し、次に月単位のリースで練習を続け、座面と車輪の好みが分かってから購入を相談する。この順番なら、身体に合わない車体へ大きな費用をかける失敗を避けやすくなります。ラケットも、最初は重さと握りやすさを確かめ、ストリングや固定方法は練習経験に合わせて整えます。
車いすテニスをおすすめする3つの理由
2度目のバウンドが、守る時間にも攻める時間にもなる
1度目のバウンドで打てなかったから、仕方なく2度目を待つとは限りません。深い球を外側まで追い、2バウンド目の少し低い打点から相手の後方へ返す。逆に、浅くなった球には1バウンドで入り、相手が中央へ戻る前に角度をつけます。
同じ球でも、早く触れば相手の時間を奪え、遅く触れば自分の姿勢とコースを整えられます。2バウンドという余白をいつ使い、いつ手放すのか。ラリーが続くほど、速さだけではない時間の駆け引きが見えてきます。
打つ、こぐ、回るを1つの動きへつなげられる
ラケットを持つ手は、ボールを打った次の瞬間には車輪を押す手になります。片手で2押しし、ラケットを持ち替えずに車いすを回し、打点へ入ったら手を離してスイングする。ショットと移動が交互に並ぶのではなく、途切れない1つの動作としてつながります。
正面へ戻ろうとして急に横へ進むことはできないため、いったん弧を描いて向きを変えます。打った球の行方だけでなく、回転を終えたときに次の球が見える場所まで考えるようになると、コートの見え方が変わります。強い1打以上に、打った後の1押しが次のラリーを支える競技です。
同じコートで、違う身体とルールを自然に合わせられる
車いす選手と立位の選手が一緒にプレーするときは、車いす選手には2バウンド、立位の選手には1バウンドという、それぞれの規則を同時に使えます。障害の有無を問わない体験や、立位と車いすの選手が組むダブルスもあり、家族や友人と同じネットを挟めます。
同じにそろえるのではなく、それぞれに必要な規則を使いながら1つのラリーをつなぐ。速いサーブを競う日も、短いコートで何回続くかを楽しむ日もつくれます。競技を深める道と、身近な人と楽しむ道が分かれずに続いているところも、長く付き合いやすい魅力です。
始める場所と最初の道具を選ぶ
最初は、協会が案内する体験会、都道府県の車いすテニス団体、地域クラブ、障害者スポーツ施設の教室から探します。国内には各地の協会やクラブが掲載された一覧があり、全国規模の体験会も年間を通して行われています。定例練習へ直接行く前に、初心者であること、競技用車いすを借りたいこと、障害の有無、希望する参加方法を伝えます。
体験会の対象が「誰でも」であっても、競技車の台数やサイズには限りがあります。車いすを日常的に使う参加者を優先する回、立位の参加者は乗車時間を交代する回、見学だけ受け付ける回もあります。対象年齢、用具の貸出、参加費、付き添い、撮影の扱いまで申込み時に確認します。
車いすを日常的に使っている人は、普段の車いすの寸法、移乗方法、座位保持に必要なストラップ、皮膚の状態、手や体幹の動かしやすさを伝えます。介助が必要な場合は、本人が希望する方法と、会場が対応できる範囲を事前にすり合わせます。段差のない入口、コートまでの動線、更衣場所、バリアフリートイレ、駐車場、休憩場所も確認しておくと安心です。
借用車へ乗ったら、座面の幅と奥行き、背もたれ、足台、車輪へ手が届く位置、後方キャスターを見ます。腰、膝、足などを固定するストラップは、強く締めるほど安全になるものではありません。呼吸を妨げず、皮膚や関節へ偏った圧がかからず、急停止しても足が外れない位置を、経験のある人に調整してもらいます。
ラケットは、振りやすさだけでなく、持ったままハンドリムへ手を置けるかを確かめます。手が小さい人や握力に不安がある人は、細めのグリップ、軽いラケット、補助テープなどを試します。クアード選手に認められる補助用具には公式競技上の条件もあるため、大会を目指す場合は自己流の固定だけで決めません。
最初に自分で用意するものは、動きやすい服、飲み物、タオル、コートに合うシューズ、帽子や日焼け対策、必要な薬や医療用品です。指輪、腕時計、硬い装飾品は外し、長い爪を整えます。車輪へ手を近づけるため、袖口やタオルの端が垂れない服装を選びます。
自分用の競技車を検討するのは、前後移動、旋回、打球後の戻りを何度か経験してからで十分です。車軸が前にあると回りやすくなる一方、後方へ倒れやすくなるなど、調整には交換条件があります。身体機能、プレースタイル、保管と輸送まで含めて、リース車で試してから専門店や経験者へ相談します。
初めて車いすテニスを体験する1日の流れ
前日まで|参加条件と借りられる用具を確認する
体験会またはクラブへ申し込み、受付時間、参加費、対象年齢、障害のない人の参加可否を確認します。競技用車いすのサイズと台数、ラケット、ボール、固定用ストラップの貸出、屋内外の別、雨天時の扱いも聞きます。
移乗やトイレに支援が必要な場合は、本人が希望する方法を伝えます。将来大会へ出たい人は、体験参加とは別に、国内大会の会員登録やクラス分けをどの段階で相談すればよいかも尋ねます。
出発前|上肢の状態と当日の環境を確かめる
動きやすい服、飲み物、タオル、シューズ、必要な薬や医療用品をそろえます。屋外なら気温、風、雨、紫外線を確認し、帽子や冷却用品、薄い上着などを加えます。
肩、肘、手首、手のひらに痛みや傷がないか、座面へ触れる皮膚に赤みがないかを確認します。普段と違う強い疲労、発熱、しびれがある日は、参加時間を短くするか見学へ変更します。
到着後|動線と競技車のフィッティングを整える
受付からコート、更衣場所、トイレ、休憩場所までを確認し、ラケットや荷物を通路へ置かないようにします。移乗は急がず、本人が普段使う方法を優先します。借用車へ移ったあと、必要なら日常用車いすを安全な場所へ保管します。
座面、背もたれ、足台、車輪、後方キャスターを確認し、ストラップを調整します。呼吸しにくい、金具が皮膚へ当たる、手がハンドリムへ届きにくい、足がずれるといった違和感は、そのままにせず始まる前に伝えます。
開始直後|ラケットを持たずに進む、止まる、回る
最初はラケットを置き、直進、停止、後退、左右の旋回を低い速度で試します。左右のハンドリムを同じ強さで押したときの進み方、片側だけを止めたときの回転、後方キャスターが床へ触れる位置を確かめます。
テニスでは、横へ滑るようには移動できません。球の方向へ車いすの正面を向け、打った後は弧を描いて戻ります。速くこぐ前に、合図で止まれることと、周囲を見ながら回れることを優先します。
活動の前半|ラケットを持ったまま車輪へ手を移す
ラケットを握り、反対の手だけで進む、ラケットを持つ手でもハンドリムを押す、左右へ向きを変える動きを試します。指やラケットの縁をスポークへ入れず、手のひらをハンドリムへ置く位置を覚えます。
次に、その場でフォアハンドとバックハンドを打ちます。強く振るより、車いすが正面を向いたまま窮屈に打たないこと、打点へ少し斜めに入ることを確かめます。打ったあとにラケットを抱え込まず、すぐ車輪へ手を戻すところまでを一動作にします。
活動の中心|2バウンドを使ってラリーをつなぐ
指導者が近い場所へ出す球を追い、1バウンドまたは2バウンドで返します。まずは2度目が弾む位置を声で教えてもらい、球だけでなく、そこまでの車いすの向きと距離を見ます。2バウンド目がコート外へ出ても返球できるため、ラインを越えた瞬間に止まらず、3度目まで球を追います。
1球を打ったら、すぐコート中央へ直線で戻ろうとせず、いったん車いすを回します。相手へ背を向ける時間を短くし、回転を終えたときにネットと相手を見られる向きをつくります。打球、2押し、旋回、構えという小さな順番を繰り返します。
慣れてきたら、同じ球を1バウンドで打つ場合と、2バウンドまで待つ場合で比べます。1バウンドなら高い打点から早く返せますが、急いで姿勢が崩れることがあります。2バウンドなら移動時間を得られる一方、打点が低くなり、相手にも戻る時間を与えます。どちらが正解かではなく、狙う場所に応じて選びます。
深い球には、後方へただ下がるのではなく、斜め後ろへ回り込みます。2度目のバウンドが外へ出る場所を予測し、打った後もコートへ戻りやすい角度を残します。浅い球には1バウンドで入り、ネットへ近づきすぎて次のロブへ戻れなくならない位置で打ちます。
ラリーが続き始めたら、相手のラケット面、打点、身体の向きから次の球を予測します。車いすは球が飛んでから横へ1歩出ることができないため、相手が打つ前の半押しが大きな差になります。速く動くより、早く動き始める感覚を覚えます。
活動の後半|短いゲームで時間とコースを選ぶ
サービスボックスだけを使うミニゲームや、短いポイント形式で得点を数えます。サーブは静止した位置から始め、車輪がベースラインへ触れないようにします。通常のトスが難しい場合は、指導者と安全な方法を相談します。
シングルスでは、打った場所と反対側を空けない戻り方を試します。ダブルスでは、2人が同じ球を追わないよう「私」「お願い」「後ろ」など短い声を使い、車いす同士の進路を重ねないようにします。立位の参加者と一緒なら、それぞれに1バウンドと2バウンドの規則を適用します。
疲れると、押す回数が増え、停止と旋回が大きくなります。肩が上がる、握りが強くなる、車いすへラケットをぶつけるといった変化が出たら、ポイントを短くするか交代します。最後まで勝敗をつけることより、安全な動きで1度ラリーを終えることを大切にします。
終了後|身体、車輪、次に試したい1球を振り返る
肩、肘、手首、手のひら、指に痛みや擦れがないかを確認します。座面やストラップが触れていた皮膚、首、腰まわりにも普段と違う変化がないかを見て、気になる点はスタッフへ伝えます。
競技車は会場の手順に従って、タイヤ、キャスター、ストラップ、フレームを確認して返します。最後に、1バウンドで打てた球、2バウンドで追いつけた球、戻りが遅れた場面を1つずつ振り返ります。「もっと強く打つ」ではなく、「打ったら2押しして右へ回る」など、次回試す動きを具体的に残します。
安全に楽しむために確認したい5つのこと
競技車は、座面と重心を身体に合わせて使う
座面が広すぎる、車軸が前すぎる、足台やストラップが合わない状態では、急停止や旋回で身体がずれやすくなります。乗る前に後方キャスターを確認し、低速で前後へ動いて重心を確かめます。呼吸や皮膚を圧迫する固定は避け、違和感があればプレーを止めて調整します。
肩、肘、手首の小さな痛みを押し切らない
車いすの推進とスイングを同じ上肢で繰り返すため、肩と肩甲帯、肘、手首には疲労が重なります。最初から強いサーブや長いラリーを続けず、チェアワークと打球を短い組に分けます。日常の移乗や移動に必要な上肢を守るため、その日の生活動作も含めて休憩と練習量を決めます。
指とラケットを、車輪やスポークへ巻き込まない
ラケットを持ったまま車輪をこぐと、指先、グリップ、フレームがスポークへ近づきます。低い速度で安全な握り替えを覚え、破れたグリップテープ、垂れた袖、緩んだ固定テープをそのまま使いません。車いすが動いている間に、タイヤやキャスターの異物を手で取ろうとしないことも大切です。
コートの水分、砂、段差と周囲の人を先に見る
濡れたライン、砂の偏り、小石、ボール、テープ片は、急停止や旋回を不安定にします。練習前に路面を1周して確認し、転がったボールはプレーを止めてから回収します。ダブルスや複数人の練習では、球だけを追わず、ほかの車いすと人の進路も見ます。
暑さ、皮膚、体調に必要な個別対応を共有する
障害によっては、体温調節、感覚、血圧、皮膚の状態に個別の配慮が必要です。本人が普段行っている水分補給、休憩、服薬、排泄、移乗の方法と、医療・リハビリの専門職から受けている指示を優先します。めまい、頭痛、悪寒、普段と異なるしびれや皮膚の赤みが出たら、試合の流れより休止と確認を優先します。
経験を重ねると変わる5つの楽しみ方
第1段階|競技車を安全に動かし、1球へ触れる
直進、停止、後退、左右の旋回を低い速度で行い、ラケットを持ったまま安全にハンドリムへ手を置きます。座面、足台、ストラップの違和感を伝え、合図で止まれることが最初の目標です。
その場で打った球がネットを越える、近くへ出された球を2バウンドで返せる。それだけでも、車いすとラケットを一緒に扱う感覚が生まれます。
第2段階|打球とチェアワークをつなげる
1球打ったあとに車輪へ手を戻し、2押しして旋回し、次の球へ構えられるようになります。1バウンドと2バウンドを試し、球の深さに応じて追い方を変えます。
フォアハンドとバックハンドを使い分け、短いラリーを数回続けます。強さより、毎回同じ打点へ車いすを運び、打った後に止まらないことを覚える段階です。
第3段階|相手が打つ前に、戻る場所を選べる
相手の構えから球の方向を予測し、打球前の半押しで動き始めます。深い球には2バウンドを使い、浅い球には1バウンドで入り、時間と打点を戦術として選びます。
シングルスでは相手の逆を突くコースと中央へ戻る弧を組み合わせ、ダブルスではペアと守備範囲を分けます。取れた球だけでなく、なぜ次の球へ間に合ったかを説明できる段階です。
第4段階|趣味として高い完成度を目指す
身体とプレースタイルに合う車軸、座面、車輪、ラケットを整え、サーブ、リターン、ラリーの組み立てを安定させます。競技クラスと大会規則を理解し、体調管理、車いすの点検、試合前後の準備まで自分の流れをつくります。
第4段階は、上位大会へ出ることだけを意味しません。地域の練習で長くラリーを続ける、ニューミックスのダブルスでペアを生かす、痛みを残さず週末のテニスを続けることも、趣味としての高い完成度です。
第5段階|競技と、最初の1球を支える
選手として国内外の大会を目指すほか、初心者へ安全なチェアワークを伝える、コーチ、審判、トレーナー、大会運営、用具整備として関わる道があります。体験会で競技車を調整し、移乗や休憩の希望を聞き、初めての人が1球を打てる環境を整えることも大切な役割です。
第4段階が自分のプレーを磨く段階なら、第5段階は、違う身体や目的を持つ人が同じコートへ入れる入口を残す段階です。返した1球だけでなく、次の誰かがラケットを取るきっかけまで、競技の楽しみとして育てられます。
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テニスの楽しみ方
同じコート、ネット、ラケット、得点方法を使うため、サーブ、ストローク、コースの基本をそのまま行き来できます。1バウンドで横へ踏み出すテニスと、2バウンドの時間で車いすを回す車いすテニスを比べると、打球前後の動きの違いがよく見えてきます。
卓球の楽しみ方
相手のラケット面から球種とコースを読み、短い時間で次の打点を整えるところが共通しています。広いコートをチェアワークで移動する日と、台の近くで回転やテンポへ集中する日を分けると、ラケット競技の違う面白さを味わえます。
バドミントンの楽しみ方
相手が打つ前に軌道を予測し、ラケットを振ったあとすぐ次の位置へ戻る感覚につながります。落下して弾まないシャトルを追うバドミントンと、2度目のバウンドまで時間を選べる車いすテニスでは、同じラケット競技でも準備のリズムが大きく変わります。
2度目に弾むまで、自分の1秒を選べる
初めて競技用車いすへ乗ると、ラケットを持ったまままっすぐ進むだけでも難しく感じるかもしれません。それでも、1押しして球へ近づき、2度目に弾む前にラケットへ当て、打ったあとに車輪へ手を戻す。その小さな流れがつながると、車いすテニスのラリーが始まります。
2バウンドは、できないことを補うだけの猶予ではありません。早く打つか、もう一度弾むまで待つか。外へ追いかけるか、次の球へ備えて高く返すか。自分に与えられた1秒の使い方が、そのまま1球の個性になります。
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