4 名刺 【クリスマス連続ショートショート】
地図アプリを頼りに、父の名刺の住所を訪ねる。毎年行っていた久国寺のすぐ近く、商店街の一角の古い木造二階建てのアパートだった。
一階の奥の方、緑色の扉をあける。きいと軋む音。狭い玄関。
玄関を開けると左側にキッチンがあって、伯母が片付けたのか古いのに綺麗になっていた。がらんとした、何もない部屋。カーテンをあけるが、昼間なのにまだ薄暗い。電気をつけた。
8畳くらいの部屋に机と本棚。本棚の上にラジオが載っていた。他には何もない。叔母の言った通りだ。本当になにもない。
本棚の本を見る。印刷関係の本が少し。北極の本。化石の本。ギターの楽譜。随分多趣味だ。知っている父と違う。
封筒が何冊かつっこんである。製本してない印刷見本のようなものが入っていた。文字と、絵。絵本のようなもの。
なんだかんだ、父は自分の仕事が好きだったのだ。今ではそう思う。
何ものっていない机の引き出しを見る。名刺が何枚か入っていた。「サンタクロース代理業」。例の父の名刺。あと、少し他のも。
メモ書き。

私と、あとは知らない人だ。
きい、とドアが開く音がした。驚いて玄関の方をみる。青年をが立っていた。厚着をしていて顔はわからない。サングラスをかけていた。
「……誰?」
突然のことに足がすくむ。相手も驚いているようだった。
「あ、あの。怪しいものではないです」
青年が近寄ってきた。怖くて身動きがとれない。
「あの」
青年がサングラスをとる。赤い目をしていた。どうしてだろう。目が離せなくなった。それに、体に力が入らない。
「僕はーー」
何か言いかけて、青年がうつむいた。
「いや」
首を振った。ポケットを探って、小さな紙を私に差し出した。手が痺れて言うことを聞かない。
「僕は、こういうものです」
無理矢理握らされる。氷みたいに冷たい手だった。
「じゃ」
一礼して部屋をでて行く。握らされた紙を見る。

名刺だ。父の作った変な名刺によく似ていた。連絡先はない。奥歯を噛み締めて立ち上がる。ふらついて、ひざに手をついた。どうしてこんなに体が動かないんだろう。
ようやくアパートの外までたどり着く。青年の姿は消えていた。父の部屋ではひとりでにラジオが鳴り出していた。
ショートショート No.517
ラジオ音響制作・朗読:水上洋甫
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連続ショートショート サンタクロースとねずみの王さま
目次
1st week お天気配送業
12月1日 小さなねずみのはなし(その1)
12月2日 おかしなラジオ(お天気配送業 柊屋提供)
12月3日 父親
12月4日 名刺
2nd week 思い出採掘業
12月5日 おかしなラジオ(思い出採掘業 佐々木のこづち提供)
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