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岩手旅行記2025 #3 仙台駅前の絶望

 駅前にありがちなロータリーが苦手である。大きな駅であればあるほどそう。車の送り迎えやバスの乗り降りに便利なことは承知しているが、私はたいてい徒歩で旅をするし、かなりの方向音痴でもあるので、できれば駅から出たらまっすぐ目的地に歩いて行きたいと考えている。迂回をすると方向を見失ってしまうのである。

 数年前、盛岡駅を初めて利用したとき駅の出口にすぐバスのロータリーがあり、歩行者はその下の地下通路を潜って市街地に出るような仕様になっているのに嘆息した。重いスーツケースを引っ張りながら移動していたからだ。「平地をまっすぐ歩いていけない」という事実を目の前に突きつけられるだけで体力が何割か削られたような気持ちになる。冷静になってみれば、地下通路があるのはおそらく雪が積もる地域だからで、大きなバスのローターリーはバスを交通手段として利用することが多いからだろう。

 出口から平地をまっすぐに歩けないという点において、私が訪れたことのある中で一番苦手なのは仙台駅である。駅の入り口から出て、いきなりどうしたらいいかわからない。バス乗り場がひたすらあって、ロータリーの向こう、賑やかな仙台の市街地にたどり着くのが絶望的に見える。旅人的な回答は、二階から出て歩道橋でロータリーを越える、というものだけど、他にいい方法があるのかもしれない。とにかく十年ほど前に一度、蔵王の方にある温泉地に行くために仙台駅を経由したことがあり、仙台駅前の巨大ローターリーに絶望して、今度東北に行くときは決して仙台駅を経由するまい、と心に誓った。

 2025年の夏、文学フリマに参加するために盛岡を訪れた。私は愛知県に在住しているので、東北旅行は結構大きな旅行だ。せっかくだから長めに休みをとって数日滞在することにした。盛岡について、文学フリマに参加して、イベントの終わった三日めは友人に会いに行くことにした。この友人がいたのは仙台である。目的地ならば仕方がない。新幹線を降りて、以前の経験をすっかり忘れていた私は一階の出口から歩道橋を支える柱が要塞のようにずらりと並ぶロータリーに絶望し、市街地に出る方法がわからなくて何度もエレベータを行ったり来たりした。

 駅前(もちろん、ロータリーを超えたところにある駅前)のホテルに荷物を預けて(スーツケースがないだけで本当に移動が楽になる)、友人のところに向かう前に仙台うみの杜水族館に寄る。水族館がね、好きなんですよ。
 ホヤの養殖の様子を下から覗くような水槽や、海藻を展示する水槽が見応えがあった。私は海辺の出身だけど、自分の近くの海は遠浅の砂浜なので、潜ってもただただ砂地が広がっているのだ(海水浴場に使われるような海ですね)。海藻というと冬場の海苔ぐらい。沖まで潜れば様子が変わるのかもしれないが、私が海の絵を何も参考にしないで描いてしまうと、何もない砂地の上に魚たちを泳がせてしまう。ああ、思っていたのと違うなあ、と揺らめく海藻を見ながら思った。これが豊かな海なんだろう。

 水槽展示のほかに、「環境一体型展示」というものがあると看板に描いてあったので見に行ってみる。一階の、コテージになっているようなところに水場と岩場のある浜辺を再現したような場所があり、ペンギンが飼育されていた。ケープペンギンだそうだ。太々しいまでにくつろいでいた。ペンギンたちのいる場所と見学者たちの間には低い柵があるだけでガラスで仕切られておらず、かなり近くでペンギンを観察することができる。ペンギン側は場馴れしていて人間を怖がる様子がない。眠そうな目をして立ち尽くしているペンギンの近くでしばらく様子を見ていて、ふと近所の野良猫を思い出した。人間慣れしていて近くまでよっても逃げないが、別にこちらに擦り寄ってくるわけでもない。ただただ関心がない様子がなんだか似ている。実際の生息区域の人らしたら、もしかしたらペンギンも野良猫のようなものかもしれない。

 ペンギンのスペースのすぐ近くにはフードコートがあって、壁の一部がアザラシの水槽になっていた。アザラシを見ながら飲食ができるのだなあ、と思って見ていると両親、子供、祖父の組み合わせであろう家族が前を通りかかり、水槽を横切るアザラシに、誰よりもおじいちゃんが一番嬉しそうな顔をしていたのがなんだかよかった。

 水族館を見終わって、友人に会いに行った。
 私のほとんどの旅行は、誰かに会いに行く旅行で、レジャーで行くのは結構少ない。子供の頃ちょっと難しい家庭環境にあったので、自分の娯楽のために旅行に行く行為に罪悪感があるのだと思う。
 普段暮らしていても、あと何回この人に会えるだろう、ということを時々考える。最近肉親を亡くしてからは特にだ。
 仙台の友人はそもそも身体を悪くしていたのだけれど、想像していたよりは元気だった。笑ってもいた。
 私は、ずうずうしくも、自分の会う人たちが、そうやって、ずっと毎日笑って暮らして行ってくれたらいいな、と思っている。他人の人生を願うなんて、本当に厚かましい。

 だけど、元気で。幸福に。今日も明日も、できればずうっと、笑って毎日を過ごしてください。北国の海に住む君よ。


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