見出し画像

岩手旅行記2025 #4 はるかに遠い記念館と読める、読めるぞの石

 岩手県を訪れるようになって驚いたのは「熊が出るらしい」ということだ。「らしい」というのは未だ遭遇したことがないからで、昨今のニュースなどを聞いていると運が良かっただけだろうなと思う。
 私は愛知県の中でも平地の方に住んでいて、近くの山(丘に毛の生えたようなもの)に出る四足動物といったらせいぜタヌキかイタチどまり。地元で遭遇したことのある野生動物で一番大きいのは多分アオサギである。紐のついたゴールデンリトリバーくらいしか大きな動物の感触を持たない身としては生活空間の近くに大型哺乳類が出る可能性があるというだけでまるでおとぎ話のように聞こえる。「三匹のくま」とか外国の熊のおとぎ話でも、実際に熊に遭遇したことのない私はアニメキャラクターのような熊を想像してしまうが、元々話が語られてきた土地や、熊の生息区域に住む子どもたちは現実の生き物としての熊を思い浮かべるのかな、と思う。日本の熊の童話には宮沢賢治の「なめとこ山の熊」があるが、岩手県出身の宮沢賢治は「熊を知っている」人だ。だからこの小説の熊も「クマさん」ではなく現実の熊である。

 宮沢賢治の故郷の花巻市にある宮沢賢治記念館に行ってきた。文学フリマ岩手に参加がてら岩手県を旅行したのである。文学フリマ岩手に行くのは今年で3回目で、前の2回にはいずれも行けなかった。最初はすぐに寄れると思っていた。というのも、愛知県から岩手県に移動する際、飛行機で行くといわて花巻空港を利用することになるからで「花巻空港」というからにはそこは花巻であり、花巻市にあるという宮沢賢治記念館は空港からせいぜい歩いて数分の距離ぐらいだろう、みたいなことを考えていたのである。

 違う。ご存知の方は思うでしょう。そう。違う。そんなことはない。花巻空港から鉄道を利用する場合、花巻空港の最寄駅は「花巻空港駅」。宮沢賢治記念館の最寄駅は「花巻駅」。しかも空港が広くて花巻空港から花巻空港駅まで歩いて数十分の距離があり、花巻駅から宮沢賢治記念館までも歩いて数十分の距離がある。移動時間と見る時間を考えると「ちょっと寄る」ことができる施設ではなく「よし行こう」と思わないと行けないのである。

 ちなみに、別に歩いて行く必要はなく、バスもある。花巻市の公式ホームページに来館手段がいくつか書かれているから引用してみよう。

交通案内
・東北新幹線、JR釜石線 新花巻駅より2キロメートル、車で3分
・JR東北本線、釜石線 花巻駅より8キロメートル、車で15分
・花巻駅から土沢線土沢行バス宮沢賢治記念館口下車、上り坂を徒歩15分
・新花巻駅から土沢線イトーヨーカドー行バス宮沢賢治記念館口下車、上り坂を徒歩15分
・東北自動車道花巻インターチェンジより約9キロメートル、車で20分
・東北自動車道花巻南インターチェンジより約9キロメートル、車で20分
・釜石自動車道花巻空港インターチェンジより約5キロメートル、車で10分
・いわて花巻空港より約6キロメートル、車で15分

花巻市ホームページより

 花巻駅からのバスは上から3つ目。私は歩いて行ったけれど、駅から徒歩は市がおすすめできない程度の距離がある。でも、歩く道々賢治童話をモチーフにしたモニュメントがあるし、こういう土地に産まれた人があの童話を書いたんだなあと思いながら歩くのもなかなか楽しい。

 Googleマップ片手に、モニュメントで自分がしっかり記念館への道を歩んでいることを確認しながら十数分歩いていると、道が段々と上り坂になり、記念館の麓にたどり着く。
 うん。「麓」です。お気づきでしょうか。さっきのアクセス方法の3つ目、バス停を降りた後の項目。「バス宮沢賢治記念館口下車、上り坂を徒歩15分」と書いてある。この記念館は山の上にある。
 「坂道」とあるが、バス停の近くには「宮沢賢治記念館」と書いてある屋根付きの木製階段が頂上付近まで続いている。367段あるそうだ(階段横のはり紙に書いてありました)。

 たくさん階段を登るだけあって、記念館からの見晴らしは良く、ともすると多くの宮沢賢治童話が産んだ二次的作品(映像作品やイラストなど)で自分が勝手にイメージしていた「宮沢賢治の世界」がぐっと現実世界に引き寄せられるような気持ちになる。「世界に浸る」という楽しみ方とは少し違うのかもしれないが、そういう感じを私はとても好ましく思う。
 記念館は賢治愛用の品や資料などが豊富に展示されていて、学術的な側面面が強い展示のように思う。人間としての宮沢賢治、この人はこんなものを見て、こんなことを考えていたのかもしれない、ということを感じるにはとても良い場所だと思う。お子さんなどと賢治童話の世界に浸りたい、という方は近くにある「宮沢賢治童話村」がおすすめ。入り口の「銀河ステーション」をくぐると賢治の童話世界が広がっていますよ。

 一日歩いて汗でどろどろになった後は、これもいつも「ついでに」は行けなかった賢治ゆかりの「大沢温泉」に行った。ここには布団と部屋を借り、自炊して数日滞在するいわゆる「湯治」タイプの宿泊施設がまだ残っている。宮沢賢治も何度もここに湯浴みに来たそうだ。(愛知県には同時代の童話作家だった新美南吉の通った喫茶店がまだ残っている。この時代の人たちは、まだ、結構最近の人というか、思いを馳せれば手が届きそうな範囲の人なんだな、と思うと不思議な感じがする)

 温泉近くの「菊水館」という施設では「トトロとジブリとカンダタと」というスタジオジブリの展示企画をやっており、タイの風景写真とジブリ映画の資料と映画の名場面を再現した展示品が古民家の中に飾ってあった。
 再現したものの中に天空の城ラピュタのラピュタ城の中にある草に囲まれた黒い石があった。ラピュタ文字が刻まれて、四隅の一つがちゃんと欠けていて、映画を観て育った者としては「あ、あれがある!」という喜びがあある。
 嬉しいなあ、よくできてるなあ、と観察していると後から来た若い男女の二人連れのうちの男性がそわそわ、チラチラとこっちを見ていたので、ー早めにその場を離れた。多分、「読める、読めるぞ」がやりたかったんだろうと思う。彼女に愛想を尽かされない(女性の方はあまり関心がない様子でした)程度に、存分にやりたまえ。

 大沢温泉は川のすぐそばにある。緑に囲まれた眺めがとにかくご馳走。硫黄臭や肌の刺激のない優しい泉質。とても良いお湯でした。
 自炊部用の売店には岩手ゆかりの食材がたくさん置いてあって見るだけで楽しくなる。ここで買ったちょっと良いもののお話は、また別の記事にしますね。


岩手旅行記2025 #4

#3へ    #5(終)へ→ 

おまけ

 私も以前に書き手として参加させていただきました夜空舎の「140字セレクション」シリーズに新刊が出ました!
「140字小説セレクション3 その朝が来たら」著・四葩ナヲコ

わたしたちは生きている。それぞれの小さな人生を抱えて──
ときに苦く、ときに幸せな、かけがえのない足跡を辿る140字小説60編。
夜空舎のBASEにて予約販売中です。

 明日8月24日(日)開催の「文学フリマ札幌」10でもE-11〜12「hoshiboshi / 夜空舎」ブースでも販売いたします。
 雑誌「星々」の最新刊や私の「140字小説セレクション1 「ぴい」と鳴らせば」もございますので、お近くの方は、ぜひお越しください!


いいなと思ったら応援しよう!

へいた|ショートショート よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!

この記事が参加している募集