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「すごいガクチカ」はもういらないー曽和利光氏の記事(日本経済新聞)に学ぶ、学生の「素顔」と出会うための新卒採用戦略

 日経新聞・曽和利光氏の記事『ガクチカは重要か 面接は自分の特徴話そう』(就活のリアル、2025年7月8日掲載)を拝読しました。

ガクチカをめぐる「実績主義」という誤解

 昨今の就職活動において、「学生時代に力を入れたこと」、通称「ガクチカ」は、面接で必ず問われる質問として定着しています。それに伴い、多くの学生が「何かすごい実績を語らなければならない」「成果のレベル感で評価される」というプレッシャーを感じている、と筆者は指摘します。しかし、この風潮は、企業側の採用意図とは乖離した、大きな誤解であると警鐘を鳴らしています。

 企業、特に新卒採用の現場では、学生の潜在能力や将来性を見る「ポテンシャル採用」が基本です。一部のずば抜けた実績を持つ学生を除き、ほとんどの学生が語る実績は、採用担当者から見れば「どんぐりの背比べ」に過ぎません。そもそも学生の本分は学業や様々な経験を通じた能力開発であり、社会人のように明確な実績を出すことではありません。したがって、学問や研究に没頭していた学生に、華々しい「ガクチカ」がないのは当然であり、何ら問題はないのです。

企業が本当に知りたいのは「あなたという人間」

 では、企業は面接という場で何を見ているのでしょうか。その答えは極めてシンプルで、「応募者がどんな人間か」ということです。具体的には、その学生が持つ「能力・性格・価値観」を深く理解し、それらが自社の仕事内容や組織文化にどれだけフィットしているかを見極めようとしています。「ガクチカ」や「志望動機」といった定番の質問も、すべては「あなたは一体どういう人ですか?」という問いを、角度を変えて投げかけているに過ぎません。

 この本質を理解すれば、自分の特徴を表現するために、必ずしも特別な実績は必要ないことがわかります。例えば、「几帳面さ」をアピールしたいなら「自室が常に整理整頓されている」ことでも良いですし、「継続力」を示したいなら「小学生から日記をつけ続けている」というエピソードで十分です。また、「好奇心旺盛」な性格は、「流行の食べ物は一度試してみる」といった日常の一コマからも伝えることができます。

面接の本質は「企業の求める人物像」とのマッチング

 こうした日常的なエピソードはインパクトに欠けるのではないか、と不安に思う学生もいるかもしれません。しかし、筆者は、企業はそもそも話の面白さや珍しさ、つまりインパクトを求めているわけではないと断言します。面接で話が盛り上がったのに不合格となるケースがあるのは、まさにこのためです。評価の軸は、話の巧みさではなく、その内容からうかがえる人物像と企業の適合性にあるのです。

 したがって、就活生が本当に注力すべきは、インパクトのあるエピソードを探し出すことではありません。まず、応募先企業のホームページなどを熟読し、「企業がどのような特徴(能力・性格・価値観)を持つ人材を求めているのか」を徹底的に理解すること。次に、その求められる人物像の中から、自分自身が持っている要素を見つけ出すこと。そして最後に、その特徴を裏付ける具体的なエピソードを、過去の経験の中から探し出し、自分の言葉で伝えること。これこそが、面接という場の本質であると、筆者は結論づけています。

企業人事の視点から、この内容をどう活かすか

 曽和氏のこの記事は、就職活動における「ガクチカ」の本質を鋭く突いており、企業の人事担当者として深く共感するとともに、自社の採用活動を見直す上で多くの示唆を与えてくれるものです。学生だけでなく、採用に携わる我々こそが熟読し、日々の業務に活かしていくべきだと感じます。

「ガクチカの呪縛」が生み出す採用現場の弊害

 まず、人事として強く感じているのは、記事で指摘されている「ガクチカの呪縛」が、採用のミスマッチを生む一因となっている現実です。多くの学生が「何か特別なことを言わなければ」という強迫観念にかられ、本来の自分とはかけ離れたエピソードを誇張したり、場合によっては創作したりするケースが後を絶ちません。

 その結果、面接の場では、まるでマニュアルを読み上げるかのような、没個性的で均質化された「すごいガクチカ」が溢れかえります。サークルのリーダーとしてイベントを成功させた話、アルバイト先で売上を改善した話、長期インターンで成果を出した話。これらのエピソード自体が悪いわけではありません。
 しかし、問題は、その多くが「成果」をアピールすることに終始し、その裏側にある本人の「思考プロセス」や「感情の動き」、「本来の性格」といった、我々が本当に知りたい部分が見えにくくなってしまっていることです。

 結果として、我々採用側も、その話の真偽やレベル感を推し量ることに余計な労力を割かれたり、学生の表面的な「優秀さ」に惑わされてしまったりする危険性があります。こうして採用した人材が、入社後に本来の能力や性格とのギャップから早期に離職してしまう、という悲劇は、決して珍しいことではないのです。この記事は、そうした採用活動の負の側面を断ち切るための、重要な第一歩を示唆してくれています。

面接設計の変革:「何をしたか」から「どんな人か」を深掘りする問いへ

 この記事の提言を実践に移すために、まず着手すべきは面接の設計そのものの見直しです。私たちは、学生に「ガクチカを教えてください」と紋切り型で問うことをやめ、より本質的な人物理解につながるような問いかけを工夫する必要があります。

例えば、以下のような質問が考えられます。

  • 「学生時代、あなたが最も『自分らしい』と感じた瞬間や行動について、その理由もあわせて教えてください」

  • 「あなたが何かを判断したり、決断したりするときに、最も大切にしている価値観は何ですか?その価値観が表れた具体的な経験があれば教えてください」

  • 「これまでの人生で、成功体験よりもむしろ、失敗から多くを学んだと感じる経験について聞かせてください」

  • 「派手なことではないけれど、あなたが誰にも負けないくらい継続していることはありますか?」

 これらの質問は、学生を「実績」という土俵から解放し、自らの内面と向き合わせることを促します。何をしたか(What)という結果だけでなく、なぜそうしたのか(Why)、どのように取り組んだのか(How)というプロセスを語ってもらうことで、その人の根源的な動機や行動特性、つまり「人となり」がより鮮明に浮かび上がってきます。

 評価基準も同様です。成果の大小ではなく、例えば「困難な課題に対して粘り強く取り組む姿勢(GRIT)」や、「自らの役割を理解し、チームに貢献しようとする意識(フォロワーシップ)」、「未知の領域に対する知的好奇心」といった、自社が求めるコンピテンシー(行動特性)が、語られるエピソードの中にどれだけ表れているか、という視点で評価するべきでしょう。

採用広報の革新:求める人物像を「物語」で伝える

 筆者が指摘するように、面接は「企業が求める特徴」と「学生が持つ特徴」のマッチングの場です。であるならば、企業側には「自分たちがどのような人物を求めているのか」を、学生に対して具体的かつ魅力的に伝える責任があります。

 多くの企業サイトには「求める人物像」として、「挑戦心」「主体性」「協調性」といった抽象的な言葉が並んでいます。しかし、これでは学生に真意が伝わりません。私たちは、これらの言葉を「翻訳」し、自社の文脈における具体的な行動レベルまで落とし込んで発信する必要があります。

 例えば、「挑戦心」を求めるのであれば、「前例のない課題に対して、失敗を恐れずにまず一歩を踏み出し、周囲を巻き込みながら解決策を探求できる人」といったように具体化します。さらに効果的なのは、実際にそのような行動で活躍している社員の「物語」を紹介することです。ある社員が直面した困難、その時の葛藤、どのように考えて行動し、結果としてどのような学びを得たのか。そうしたストーリーを通じて求める人物像を伝えることで、学生は自分自身をその物語に重ね合わせ、「この会社なら自分の個性を活かせるかもしれない」と感じることができます。

 同時に、それこそ「すごい実績は問いません」というメッセージを明確に打ち出すことも重要でしょう。多様な経験や価値観を持つ人材こそが組織のイノベーションの源泉である、という考え方を発信することで、これまで「自分にはアピールできる実績がない」と応募をためらっていた潜在的な優秀層にも門戸を開くことができるでしょう。

面接官トレーニングの徹底:見るべきものを見抜く「眼」を養う

 どれだけ優れた面接設計や採用広報を行っても、最終的な判断を下す面接官の「眼」が曇っていては意味がありません。面接官が学生の語る「すごい話」に目を奪われたり、出身大学や体育会系の経歴といった「属性」に対する無意識のバイアスに引きずられたりする危険性は常に存在します。

 これを防ぐためには、徹底した面接官トレーニングが不可欠です。トレーニングでは、自社が求める人物像や評価基準を改めて共有し、評価のブレをなくすためのキャリブレーション(目線合わせ)を繰り返し行います。

 特に重要なのは、記事で述べられているような「日常的なエピソード」から、自社で活躍するために必要なポテンシャルを見出す訓練です。「毎日日記をつけている」という学生から「誠実性」や「自己内省力」を、「流行の食べ物を試す」という話から「情報感度」や「行動力」を読み取る。そうした「見抜く力」を養うためのケーススタディやロールプレイングを、トレーニングプログラムに組み込むべきでしょう。面接官一人ひとりが、「学生の未来の可能性を見出すプロフェッショナル」であるという自覚を持つことが、採用の質を大きく左右するのです。

採用から育成、定着へ:「人となり」データを活用した組織開発

 このようにして「人となり」を深く理解して採用した人材は、入社後の活躍・定着の確率も格段に高まります。なぜなら、採用活動を通じて得られた個々の「能力・性格・価値観」に関するデータは、その後の人材育成や組織開発において、極めて貴重な羅針盤となるからです。

 例えば、面接で「他者からのフィードバックを素直に受け入れ、自らの成長につなげた経験」を語った新入社員には、手厚いメンター制度や1on1ミーティングが有効でしょう。一方で、「自ら課題を見つけ、主体的に学習を進めるのが得意」と判断された人材には、裁量権の大きい業務を早期に任せてみるのが効果的かもしれません。

 採用とは、単に人材を「入口」で選別する活動ではありません。一人の人間を深く理解し、その人が最も輝ける場所を提供し、共に成長していくという、長期的なパートナーシップの始まりです。曽和氏の記事は、その原点に立ち返り、「ガクチカ」という言葉の裏に隠された採用の本質、すなわち「人と組織の幸福な出会いをいかにして創出するか」という根源的な問いを、私たち人事に投げかけているといえるものでしょう。

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