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組織の壁を溶かす対話のデザイン:部門間の溝を乗り越えるファシリテーションの視点:いまのたかの組織ラジオ#002

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。

 今回取り上げるのは、第2回目「組織間の溝」です。

 企業が成長し、従業員数や組織規模が拡大していく過程では、単なる階層間の縦のコミュニケーションにとどまらない、多様な「壁」や「溝」が発生します。特に大企業や一定規模に達した組織においては、部門や機能の違いに起因する組織間の横の壁、役職や階層による心理的な壁、さらには世代間や内外の関係性、異文化間に生じる摩擦など、多層的な分断が顕在化しやすくなります。

 こうした分断の中でも、実務現場で特に深刻な影響を及ぼすのが、事業を支える基幹部門同士の対立です。
 例えば、顧客対面や売上獲得を担う営業部門と、現場オペレーションやバックオフィスを支える部門との間では、日々の業務に対する認識やプライオリティのズレから、相互不信や不満が蓄積しやすい傾向にあります。お互いの置かれた環境や制約条件に対する理解が不足していると、問題が発生した際に責任の押し付け合いが生じ、組織全体のパフォーマンスを低下させる原因となります。

「対話の欠如」と氷結する組織間コミュニケーション

 部門間の摩擦が深まる根本的な要因として、日常的な「対話の絶対的な不足」があげられます。各部門が目前の業務や自部門の目標達成に追われる中で、他部門の仕事内容や苦労を汲み取る時間的・精神的な余裕が失われていきます。改まって対話の場を設ける機会も乏しいため、お互いに対するネガティブな印象や不満ばかりが意識の中に残ってしまい、コミュニケーションの溝は時間とともに一層深まっていきます。

 このような状態に陥った組織では、互いの歩み寄りを促すための対話セッションを試みても、初期段階では強い警戒心や心理的抵抗が働き、場が著しく冷え込む「氷結状態」が生じるケースが少なくありません。表面的なアイスブレイクや形式的な意見交換だけでは、長年積み重なった感情的な隔たりを解消することは困難であり、相互理解を進めるためには慎重かつ工夫されたファシリテーションのアプローチが必要とされます。

「まんざらでもないワーク」による心理的ハードルの低減と相互理解

 対立する部門間の氷結を打破し、建設的な対話を再開させるための有効なアプローチとして、「相手のまんざらでもない側面を伝え合う」というセッション構成があげられます。相互不信が強い状態で「相手の強みや感謝できる点」を無理に挙げさせようとすると、心理的な反発や過度な抵抗感を生じさせがちです。

 一方で、「過去の取り組みの中で、相手部門の対応がまんざらでもなかった出来事」や「実は助かった仕事」といった程度にハードルを下げて問いかけることで、参加者は素直な事実を思い出しやすくなります。不満の影に隠れていた肯定的な記憶や事実を付箋などに書き出し、互いに共有し合うプロセスを経ることで、緊張した場の雰囲気が徐々に和らぎ、忘れかけられていた相互理解と信頼関係の再構築へとつながっていきます。

組織間調整を担う上層部の役割と構造的対策

 部門間の対立や分断を一時的な対話セッションだけで根本解決することには限界があり、組織の構造的な側面からのアプローチも欠かせません。対立する両部門の上位に位置する役員や幹部層には、感情的な摩擦が致命的な溝へと深まる前に、組織間の調整や環境整備を行う役割が求められます。

 事業戦略の推進と並行して、組織が健全に機能するための組織戦略や人事業務を一体的に設計・運用していく姿勢が重要です。目前の売上や数値目標ばかりに偏重し、現場のオペレーションや補給・サポート体制の整備を後回しにする構造は、組織の疲弊を招きます。全体最適の視点から部門間の関係性をデザインし、日常的に対話が生み出される仕組みを整えておくことが、持続可能な組織運営において不可欠な要素といえるでしょう。

人事視点から考える「組織の壁」の乗り越え方と対話の土壌づくり

1. 部門間に横たわる「見えない溝」の早期察知と可視化

 組織の壁を乗り越えるための最初のステップとして、現場で生じている部門間の心理的距離や不満の兆候を早期に捉える取り組みがあげられます。定期的なエンゲージメント調査や面談の場を通じて、単一の部門内だけでなく「他部門との連携におけるやりづらさ」や「相互理解の度合い」に関する定性・定量データを収集する一手と考えられます。

 表面化しにくい現場の本音や違和感を客観的なデータとして可視化することで、経営層や各部門のリーダーに対して、組織課題としての認識を共有しやすくなります。感情的な対立として放置するのではなく、構造的なコミュニケーションの不全として捉え直す機会を提供したいところです。

2. 心理的ハードルを下げた「対話の場」の企画とファシリテーション

 部門間の溝を埋めるためには、双方が安全に発言できる対話の場を設計することが効果的です。その際、いきなり高い目標設定や相互承認を求めるのではなく、「まんざらでもなかったこと」を出し合うような、ハードルを低く設定したワークショップの導入が考えられます。

 形式的なミーティングではなく、お互いの業務の裏側や苦労、過去の小さな成功体験を自然に思い出せるような問いを準備することがポイントとなります。第三者的な立場で中立なファシリテーションを提供し、氷結しがちな場を丁寧に解きほぐしながら、自然発生的な対話を引き出す工夫を重ねたいところです。

3. 事業戦略と連動した「組織戦略」の統合的アプローチ

 事業の拡大や目標達成のみを追う姿勢は、現場の負担や部門間の対立を加速させる要因となり得ます。経営陣とともに、事業戦略の策定段階から「それを支える組織体制やコミュニケーションラインをどう構築するか」という組織戦略をセットで検討する一手と考えられます。

 事業目標と組織の健全性が両立するよう、評価制度や業務フローの設計において他部門協力の要素を組み込むなどの工夫が有効です。現場が数値だけに追われて補給やサポート業務を軽視することのないよう、全体最適を促すインセンティブ構造を整えていきたいところです。

4. ミドルマネジメント層に向けた組織間調整スキルの育成

 部門間の壁を日常的に打ち破るためには、各部門のリーダーやミドルマネジメント層の調整力が鍵を握ります。自部門の利益や主張だけを代弁するのではなく、他部門の背景や事情を汲み取りながら建設的な協議を行えるマネジメント人材の育成が求められます。

 他部門への短期留職やクロスファンクショナルなプロジェクトへの参画など、視野を広げる機会を提供することが考えられます。自部署以外の視点を獲得させるトレーニングを通じて、組織全体の最適化を見据えて動けるリーダー層を増やしていきたいところです。

5. 「日常的な対話」を構造化する仕組みと文化の醸成

 一回限りのイベントや合宿で終わらせず、日常の業務の中に他部門との対話や情報共有が組み込まれる仕組みづくりが必要です。部門横断の定例ミーティングや、気軽に雑談・相談ができるオンライン上のコモンズ空間の設置などが選択肢としてあげられます。

 お互いの業務に対する理解を深める小規模な勉強会や、定期的な社内広報を通じた他部門の活動紹介など、日頃から心理的距離を縮める仕掛けを継続することが大切です。対話が日常に溶け込んだ文化を醸成することで、組織の拡大に伴う壁の発生を未然に防ぎ、しなやかで強い組織基盤を築いていけるのではないでしょうか。


 『いまのたかの組織ラジオ』は297回で終了しましたが、まだ取り上げていない回を順次取り上げて、考察しています。


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