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『地獄まで愛して』第4話|愛していると言いながら、皮まで剥がされたなら

こんにちは!ぱるるです。「罰がなければ、逃げる楽しみもない……か」と、どこまでも軽い俊介ですが、捕まって受ける罰は、俊介が想像していたような、そんな『甘い遊び』ではないようです。

▼第3話はこちら

果たして、どんな地獄が俊介を待ち構えていたのでしょうか….。それでは、第4話をお楽しみください。


第4話:混濁する境界ー罰の幕が上がる時


「パパ、パパ……」


幼い声が、俊介の耳の奥、遠くから水底を叩くように響いてくる。まどろみながら瞼を少しずつ開けると、視界は白濁した霧の中にいるように揺らめいていた。次第に霧が薄れていき、焦点を合わせようと目を凝らすと、そこには沙耶、麗華、陽、そして涼の四人が、心配そうな面持ちで自分を見下ろしていた。そして、真っ裸でベッドに寝かされていることに気がついた。


「よかった、気がついたわ!」


俊介と目が合うと、沙耶が弾んだ声で小躍りする。「パパ〜!」 涼が俊介の胸元に無邪気に飛び込んでくる。そのスベスベの子供の頬が、なぜか氷のような冷たさで、鋭い痛みとなって胸に突き刺さった。


「沙耶さん、よかったわね。でも驚いたわ。シャワー室で倒れるなんて……。フフッ、なんだか随分と情熱的ね。ちょっと刺激されちゃったわ。私も今日、旦那を誘ってみようかしら」


麗華の声が妙に反響する。まるで水の中から伝わってくる音のようにぼわ〜んと、俊介の耳奥で広がる。他人の夫の痴話話でも聞くかのような、他人行儀で他所行きの可憐な笑みを浮かべている麗華を見ながら、不協和音のような、気持ち悪さを俊介は感じた。


(旦那? ……何を言っているんだ? お前の旦那は、俺だろう?)


「もう、麗華さんったら。からかわないでよ。こんなこと、普段はしないんだから。本当に、今日はたまたまなんだから」


沙耶が顔を赤らめて、頬を両手で包みこみ、大袈裟に恥じらって見せると、その場にいた全員が一斉に笑い出した。ドラマの公開放送のような、不自然にタイミングの揃った笑い。陽も涼も、子供らしい無垢さは欠片もなく、何かに操られるように口角を吊り上げて笑っている。


「でも、麗華さんが偶然来てくれて本当に助かったわ。私一人じゃ、ここまで運べなかったわ」


沙耶の言葉の最後が、俊介の耳の奥で、錆びた金属を擦り合わせるような不快なノイズへと変質する。 ピッ……ピッ……ピッ……。背筋を、耐えがたいほどの寒気が突き抜ける。


その時、麗華がおもむろに身をかがめ、俊介の裸の胸に自分の耳を当てた。彼女の頬は驚くほど暖かく心地よい。

「大丈夫。ちゃんと心臓の音、聞こえるわ。……ただ、すごい遠い……」


(おい……麗華、一体何を言っているんだ?)


一瞬、麗華と視線が交差する。だが彼女はすぐさまバツが悪そうに目を逸らし、太ももに絡みついている陽に向かってニコリと笑いかけた。「さ、陽。お家に帰ろう」

陽がこくりと細い首を縦に振り、麗華の手を握る。


「おい、待て……! ここはお前たちの家だろう?」


必死に絞り出した言葉は、掠れた悲鳴のように虚しく空を切った。一瞬、全員が当惑したように顔を見合わせ、直後に心底可笑しそうに肩を震わせ、爆笑した。


「あはは……もう、俊介さん、やあねえ。麗華さんがそんなに魅力的だからって、そんな冗談、面白くないわよ」


沙耶が呆れたように首を振る。麗華も目尻に浮かんだ涙を優しく拭いながら、甘い声で続ける。


「ふふ、俊介さん、きっとまだ昏睡状態なのよ。今日は大目に見てあげて。じゃあね、沙耶さん、帰るわ。あ、冷蔵庫にロールキャベツを仕込んでおいたから、あとで温めて食べて。さあ、陽、行こう」


麗華は振り返ることもなくリビングのドアを閉める。 ――ガチリ。 重く硬質な鉄の音が、俊介の脳髄にクサビのように打ち込まれた。


「待て……! 行くな、麗華!陽!」


俊介は彼女たちのもう見えなくなった背中の残影を掴もうと必死に腕を伸ばすが、指先一つ満足に動かせない。そうするうちに、視界が急速に細まっていく。霧の中へと引きずり込まれるような感覚。心地良いような、心地悪いような、ふわふわと沼に浮く藻のように漂うような感覚….。すると、沙耶が俊介の頬を両手で挟み、顔を近づけてくる。その手のひらは、俊介の体温をすべて奪い去るほどに凍てついていて、俊介の身体を一瞬で凍らせるのに充分なほどだった。


「大丈夫よ、俊介さん。あなたは何も心配しなくていいの。ただ、私の男……そして、涼のパパでいてくれればいいの。ただ、それだけよ」


耳元で囁かれる吐息は、どこまでも甘く、致死量の毒を含んでいた。限りなく狭まった視界の片隅で、沙耶と涼の頭の皮膚がゆっくりとミシミシと音をたてながら、てっぺんからひび割れて、まるで、さなぎが脱皮するかの如く、薄い仮面が剥がれ落ちていくのが見えた。そしてその下から姿を見せた沙耶と涼の顔は、血の気のない青白く、それは恐ろしい形相の「鬼」へと変容していた。


あまりの恐ろしさに、


「麗華、陽、助けてくれ……俺も連れてってくれ……!」


と、精一杯の大声を出そうとするが、喉からはヒューヒューと木枯らしのような呼気が漏れるだけだ。


そうして俊介は再び、深い霧の底へと沈んでいった。暗転する視界の端で、俊介を見つめて般若のような冷たい表情を浮かべた二体の「鬼」が、まるでこれから弄ぶ獲物の処遇を品定めするように、不気味な笑みを、その冷徹な眼差しに浮かべながら、俊介を見下ろしていた。


ーーつづく

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