はじめての「路上レッスン」(バイナン 5)
これは、
現役の占い師がナンパ師に弟子入りをして、
1000人の女性に路上で声をかけた体験談の連載です。
はじめてご覧になる方は、先にこちらをご覧ください ↓
いきなり始まった「路上レッスン」
渋谷・道玄坂のモスバーガーでの
前半1時間の占いレッスンを終えて、
後半はワタルからのナンパのレッスンとなり、
師弟を交代した。
「じゃあ行こうか」
ワタルはそう言って、席を立った
えっ?
何か事前説明とか、レクチャー的なものがあるんじゃないの?
そう思ったけれど
彼なりに何か考えがあるのだろうと、そのまま一緒にモスを出た
いきなり「声かけてみて」の無茶ぶり
店を出てすぐ
道玄坂を上っていく女性を指さして
「んじゃ、あの赤いスカートの子に声をかけてきて」
……え?
いやいやいやいや
むりむりむりむり
何の心の準備もできていなかった
モスの前で棒立ちになって、体が固まる
心臓だけがバクバク音を立てていた。
「ははは、冗談冗談!」
ワタルは笑っていた
たぶん、私は相当怖い顔をしていたと思う。
とりあえず「見るだけ」から
「悪い悪い
今日は声掛けしなくていいから
俺がやってみる
ひなたはそれを見てればいい」
そう言われて、少しだけ息を吐いた。
「じゃあスマホとイヤホン出して」
言われるまま、
片耳だけ無線のイヤホンをつけて
スマホをつないだ
ワタルからLINE通話がかかってきたので、通話中にする
これで、離れていても
彼が何を話しているのか全部聞こえる
「ひなたの方の音が入ると気が散るから、
そっちはマイクオフにしておいて」
そう言われて、
LINE通話の画面の「マイクオフ」ボタンを押した。
「俺を見失わないようにだけ気をつけて
じゃあ、少し離れてついてきて」
そう言って、背中を向け
道玄坂を渋谷駅に向かって下りはじめた。
「こんばんは」
「仕事おつかれさま」
「どこいくとこ?」
イヤホンから、ワタルの声が流れてくる
すれ違う女性に、次々と声をかけていく
驚くほど軽快だった
でも
しつこくつきまとうことはない
無視されたり、迷惑そうにされると
それ以上は踏み込まず、パッと離れる
数分で、10人くらいに声をかけたころ
スクランブル交差点の手前で
ひとりの女性が立ち止まった。
立ち止まった女性
20代半ばくらいだろうか
白いマフラーをぐるぐる巻いた
真面目そうなOL風の女性。
「こんばんは」
「あ、はい……」
「もしかして仕事帰りですよね」
「はい、そうですけど……」
「今日も一日おつかれさまでした」
「……おつかれさまです」
女性の声から
明らかな警戒心が伝わってくる
「ごはん食べに行くところ?」
「そうなんです、友達と」
「友達って言ってるけど、ホントは彼氏だよね」
「ちがいます、女友達ですよ」
「でも、彼氏5人いるって言ってたじゃん」
「言ってないし(笑)
5人もいないです、1人だけです」
……え、もうこんな流れ?
敬語から、いつの間にかタメ語に
「じゃあ、今度俺とご飯行こ」
「いやいや、彼氏いるって言ってるじゃないですか」
「大丈夫
その彼氏も俺のお母さんと浮気してるから」
「お母さんって……
彼氏がそんなに熟女好きだったらショック」
「俺の母親を熟女って言うなよ」
「なんかごめんなさい」
イヤホン越しなのに
思わず笑ってしまいそうになる
「じゃあ、恵比寿に
かっぱ巻きがめちゃめちゃ美味しい寿司屋あるから行こ」
「かっぱ巻き限定はヤダ」
「しょうがないな
じゃあ鉄火巻きもつけてあげるよ」
「わたし、鉄火巻きは好きかも」
「だよね
鉄火巻き好きそうな顔してるもんな」
「どんな顔よ(笑)」
そういえば「彼氏いる」って言ってなかった?
「じゃあ、LINEだけ交換しとこ」
そう言って
ワタルは尻ポケットから
さっきとは別のスマホを取り出し
あっさりLINE交換をしていた。
モスを出てから
ここまで、10分も経っていない
女性は、楽しそうに笑っていた
最初は敬語だった会話が
気づけば、友達同士みたいな距離感になっている
……そういえば、
彼氏いるって言ってなかった?
理解が追いつかないまま
私はただ、ワタルの背中を見ていた
女性と別れ
姿が見えなくなると
彼はまた、何事もなかったかのように声掛けを始めた。
美味しい牛乳?ウシのいるスタバ?
スクランブル交差点を越えて
センター街の入口あたり
また、別の女性が足を止めた。
スラッとして、頭から足先まで隙がない装いで
ちょっと気が強そうな感じだ
たとえ知り合いだったとしても
声をかけづらいタイプだなと思った。
「こんばんは
すみません、一つだけいいですか」
「……」
「なんか飲み足りなさそうな顔してたんで
思わず声かけちゃいました」
「私、お酒飲めないです」
女性は何かを振り払うように
ぶっきらぼうに答えた
「テキーラ以外は飲めないんですか?」
「テキーラ飲んだことないです」
「じゃあ牛乳飲みに行きましょう」
「なぜ牛乳?」
女性がはじめてワタルの方を向いた
「健康にいいって
保健室の先生が言ってたよ」
「その先生知らないから」
「身長も伸びるよ」
「お兄さん、背高いね」
「子どもの頃から
毎日牛乳10リットル飲んでるから」
「飲みすぎ(笑)」
会話はどんどん転がっていく
「ちょうどよかった
そこのスタバに
美味しい牛乳出すウシがいるから行こ」
「そんなスタバないし」
「ごめん
ウソついてた俺、ほんとゴメン
一発だけ殴っていいから」
「こんな人多いとこで殴れない(笑)」
「じゃあスタバ行ってから殴ろ」
「もう帰らないと」
「そっか
じゃあ連絡先だけ交換しよ」
「カカオならいいよ」
「じゃ、カカオで」
また、尻ポケットからスマホ
たぶんカカオトークの連絡先を交換したのだろう
想像していたナンパと違った
渋谷駅に向かう女性に手を振る
ワタルの背中を見ていると
「ひなた、聞こえてる?」
イヤホンから声がした。
マイクオフを解除して
「聞こえてるよ」と返す
振り返った彼に、手を振った。
通話を切って
ワタルがこちらに歩いてくる
「見ててどうだった?」
正直、思っていたナンパと、ぜんぜん違った。
ひとりの女性に
しつこく張りつくものだと思っていたら
そうじゃない
一言声をかけて
反応がなければ深追いしない
話を聞いてくれる人とだけ
ゆっくり会話をする
その掛け合いが楽しくて
イヤホン越しに聞いている私まで
ニヤけていることに気づいてしまった。
アタマの中で何度も反芻する
その日は、それで終わりだった
「じゃあ、ひなたもやってみて」と
実際に声をかけさせられるのかと
ずっと身構えていたので
正直、めちゃくちゃホッとした。
次は一週間後
またモスバーガーで会うことを確認して
その日は解散。
彼と別れてすぐカフェに入り
思い出せる範囲で
ワタルと女性たちの会話をメモした。
(そのときのメモを見ながら、これを書いている)
アタマの中で、何度も反芻する
占い師として
一対一で話すことには慣れている
でも
あの高速キャッチボールみたいな
ポンポンと流れていく会話
私にできるのだろうか……
そもそも
見ず知らずの人に声をかけたことすらない。
久しぶりに人に占いを教えるという経験
そして
はじめて目の当たりにした
ナンパ師のコミュニケーション
高揚感と不安が入り混じって
気持ちが落ち着かず、
その夜は久しぶりに
寝る前にお酒を飲んだ。
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