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第一三共FY2025決算を振り返る

第一三共の最新記事も公開したので、ぜひこちらもご確認ください。

2026年5月11日、第一三共(4568)がFY2025決算と第6期中期経営計画を発表した。
4月の予習記事で、私は次の3つを注目点に挙げていた。

  • エンハーツの来期ガイダンスは市場期待に応えるか

  • ダトロウェイ / HER3-DXdなど、次の柱は見えるか

  • CMO補償コスト・在庫損は一過性か、構造的リスクか

今回は、その答え合わせである。

※この記事は、4月に公開した予習記事「第一三共の本決算で見るべき3つのポイント」の続編です。


1. 冒頭:今回の決算を一言で言うと

今回の第一三共決算を一言でいえば、エンハーツを中心とする売上成長は続いたが、ADC製造に関わるコストが利益を大きく押し下げた決算だった。

売上面では、エンハーツが引き続き成長し、ダトロウェイも立ち上がり始めている。

一方で、利益面では、CMO補償費や棚卸資産評価損など、ADCの製造・供給体制に関わる費用が重くのしかかった。

つまり、今回の決算は「売上が伸びているか」だけでなく、ADC事業をきちんと利益に変えられるかを見る決算だったといえる。

増収減益という見出しだけでは、今回の決算の中身は見えにくい。

この記事では、第一三共のFY2025決算を、成長とコストの両面から整理する。


2. 数字の整理

まず、主な数字を一枚で整理する。

売上収益は2兆円を超え、エンハーツも引き続き成長した。

一方で、営業利益は前年比で31.0%減少した。主因は、ADC製造に関わる一過性費用である。

売上面では、エンハーツが伸び、ダトロウェイも立ち上がり始めている。
一方で、製造・供給体制に関わるコストが、利益を大きく押し下げた。

つまり今回の決算は、売上成長は続いたが、ADC事業を利益に変える難しさも見えた決算と捉えるとわかりやすい。


3. 4月に立てた3つの問いの答え合わせ

ここからは、4月の予習記事で立てた3つの問いに沿って、今回の決算を見ていく。


問い①:エンハーツの来期ガイダンスは市場期待に応えるか

評価:○ エンハーツは引き続き成長している

FY2025のエンハーツ実績は6,984億円。前年比で26.3%増加した。

さらに会社は、FY2026のエンハーツ予想として8,613億円を示した。

4月の予習記事では、エンハーツについて、2026年度ガイダンスが市場期待に応えるかどうかを注目点に挙げた。

大型薬として市場浸透が進むほど、成長率は徐々に鈍化しやすくなる。
その意味では、成長率だけを見るのではなく、既存適応での積み上げと、新たながん種への展開を合わせて見る必要がある。

今回の数字を見る限り、エンハーツは引き続き第一三共の成長の中心である。


問い②:ダトロウェイ / HER3-DXdなど、次の柱は見えるか

評価:ダトロウェイは立ち上がり始めた。一方で、HER3-DXdは後退した。

ダトロウェイは第2の柱候補として見え始めた

今回の決算で注目したいのが、ダトロウェイの立ち上がりである。

FY2025のダトロウェイ実績は476億円。FY2026予想は1,114億円と示された。
エンハーツの初年度売上が200億円台だったことと比べると、ダトロウェイは速いペースで立ち上がっており、第2の柱候補としての期待に沿う滑り出しといえる。
ただし、市場環境や適応症の広さが異なるため、単純比較には注意が必要である。

ダトロウェイは2025年6月、米国FDAより、既存のEGFR標的療法と白金製剤による治療歴があるEGFR変異NSCLCに対して加速承認を取得した。

また、NCCNガイドラインで治療選択肢として位置づけられたことも、米国での立ち上がりを支える材料である。

ただし、米国承認は、奏効率や奏効期間を根拠とする加速承認である。
そのため、今後は確認試験で臨床的有用性を示せるかが重要になる。

現時点では、ダトロウェイはエンハーツに次ぐ第2の柱候補として見え始めた、という評価が妥当だと思う。

HER3-DXdは肺がんで後退

一方で、HER3-DXdは肺がん領域で後退した。

第一三共は、EGFR変異NSCLC向けの米国承認申請を自主的に取り下げた。HERTHENA-Lung02試験で無増悪生存期間は改善したものの、全生存期間で統計的有意差を示せなかったためである。

ただし、HER3-DXd自体が完全に終了したわけではない。乳がんなど、別適応での開発余地は残る。

ここから見えるのは、ADCプラットフォームが有望でも、個別パイプラインにはそれぞれ開発リスクがあるということだ。


問い③:CMO補償コスト・在庫損は一過性か、構造的リスクか

評価:今回もっとも注意して見たい論点。少なくとも短期的には、利益を圧迫する要因として見ておく必要がある。

今回の決算で最も重要だったのは、CMO補償費と在庫・設備関連の費用である。

FY2025の一過性費用は、合計1,530億円だった。主な内訳には、CMO補償費、ADC関連投資の中止に伴う損失、環境対策費、ネクストキャリア支援、ダトロウェイ / HER3-DXdに関連する棚卸資産評価損などが含まれる。

ADCは、抗体、薬物、リンカーを組み合わせた複雑な医薬品である。製造には専用設備や高度な品質管理が必要で、製造リードタイムも長くなりやすい。

そのため、承認前から製造能力を確保し、外部製造委託先、つまりCMOとの契約を進める必要がある。

しかし、開発計画や需要見通しが変われば、確保していた製造枠や在庫を使い切れなくなる。
その結果、CMOへの補償費や在庫評価損が発生する。

特に注目したいのは、FY2026予想にも、売上原価内にCMOへの損失補償として800億円が織り込まれていることだ。

つまり、これは「FY2025だけで終わる特殊要因」とは言い切れない。

会社は今後、ADCポートフォリオの供給計画を見直し、自社製造とCMOのバランスを再設計する方針を示している。

今後見るべきは、CMO補償費が本当に減っていくのか、そしてADCの成長を利益につなげられる供給体制に修正できるかである。


4. 第6期中計をどう読むか

今回の決算と同時に、FY2030を最終年度とする第6期中期経営計画も示された。

主な目標は次のとおりである。

現在の売上収益2.1兆円から、FY2030に3兆円以上を目指す計画である。

この計画の中心にあるのは、オンコロジー領域への集中と利益率の改善である。

  • エンハーツを中心軸として成長させる

  • ダトロウェイを第2の柱として育てる

  • 次世代ADCや新しいがん免疫領域を将来の成長源にする

  • Operational Excellenceによるコストの最適化(AIの活用など)

オンコロジー売上を伸ばしながら、CMOコストを含む製造・供給コストをどこまで抑えられるか。
ここが、中計の達成度を見るうえで重要なポイントになる。

言い換えると、第6期中計は「エンハーツとダトロウェイでどこまで売上を伸ばせるか」だけでなく、ADC事業をどこまで利益に変えられるかを見る計画でもある。


5. 今後見るべきポイント

今後見るべきポイントは、次の5つである。


1. エンハーツが計画通りに伸び続けるか

FY2026予想では、エンハーツ売上は8,613億円と示された。引き続き第一三共の成長の中心であることは変わらない。

ただし、大型薬として市場浸透が進むほど、成長率は徐々に鈍化しやすくなる。
既存適応での積み上げに加え、新たながん種への展開がどこまで寄与するかを確認したい。


2. ダトロウェイが第2の柱として育つか

ダトロウェイは、今回の決算で第2の柱候補として見え始めた。

ただし、米国でのEGFR変異NSCLC承認は加速承認であり、今後は確認試験で臨床的有用性を示せるかが重要になる。

同時に、乳がんなど他のがん種でどこまで承認が広がるか、
欧州では審査申請の取り下げを経ており、改めて承認への道筋を構築できるかも確認点である。


3. FY2026の主要試験データ

第6期中計の成長シナリオを見るうえでは、FY2026に予定されている主要試験のデータリードアウトも重要である。

会社は、今後5年間で20以上の標的適応症の上市を目指している。
その最初の検証点となるのが、DESTINY-Lung04、AVANZAR、TROPION-Lung07、TROPION-Lung15などの試験結果である。

これらのデータが良好であれば、エンハーツやダトロウェイの適応拡大に弾みがつく。
一方で、結果が弱ければ、オンコロジー売上成長シナリオの確度を見直す必要が出てくる。


4. CMO補償費が想定通りに減っていくか

今回の決算で最も注意したいのが、CMO補償費の推移である。

会社はFY2026予想に、CMOへの損失補償として800億円を織り込んでいる。
これが想定通りに減っていくのか、追加費用が発生するのかを確認したい。


5. 売上成長を利益率改善につなげられるか

第6期中計では、FY2030に売上収益3兆円以上、営業利益6,000億円以上を目指している。

この目標を見るうえでは、売上成長だけでなく、利益率の改善が重要である。

エンハーツやダトロウェイの拡大が、どれだけコア営業利益の改善につながるか。
CMO補償費の減少、製造原価の改善、研究開発投資とのバランスを合わせて見ていきたい。


6. まとめ

今回の第一三共FY2025決算は、エンハーツの成長と、ADC事業を利益に変える難しさが同時に見えた決算だった。

売上面では、エンハーツが引き続き成長し、ダトロウェイも第2の柱候補として立ち上がり始めている。

一方で、利益面では、ADC製造に関わる一過性費用が大きく響いた。

今回の決算から見えるのは、ADCビジネスは「良い薬を作る」だけでは完結しないということだ。

第一三共の長期テーマは、引き続きADCを中心とするオンコロジー事業である。

エンハーツは伸びている。
ダトロウェイも見え始めた。
その一方で、ADCの成長をどう利益につなげるか。

今回の決算は、その現実を示した決算だった。


免責事項

本記事は情報提供を目的としており、特定の投資の推奨・勧誘を行うものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


なお、「新薬はどう生まれ、どう承認され、どう売られるのか」を体系的に解説する業界解説シリーズを現在連載中。合わせてご確認ください。


参考資料

  • 第一三共「2025年度決算説明会及び第6期中期経営計画説明会資料」(2026年5月11日)

  • FDA「Accelerated approval: datopotamab deruxtecan-dlnk」(2025年6月)

  • Daiichi Sankyo / Merck「HER3-DXd BLA自主取り下げに関するニュースリリース」(2025年5月29日)

  • Merck「Merck Statement on Daiichi Sankyo Update to Manufacturing and Supply Plan」(2026年5月8日)

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