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【トイプードル】【ペット】もう犬は飼わないと決めていた。63歳の私を変えた、大きすぎて売れ残りのトイプードル

15年間連れ添った愛犬を見送り、「もう犬は飼わない」と心に決めた63歳。喪失感と年齢への不安から固く閉ざしていた心が、一頭の“大きすぎて売れ残った”トイプードルとの出会いで少しずつほどけていく——。人生の後半で訪れた、思いがけない再会のような奇跡と、新しい相棒と歩む日々を綴ります。

【プロローグ】さよならと、閉じた心

もう二度と、あんな喪失感を味わいたくない。 だから、新しい犬を飼うことはないだろう——。

2018年の秋、15年間連れ添った家族、ミニチュアダックスのマローネが静かに旅立ちました。老衰でした。覚悟はしていたつもりでも、腕の中でだんだんと小さくなっていく温もりを前に、私はただ、なすすべもなく立ち尽くすだけでした。

ペットロス、という言葉では軽すぎるほど、心にはぽっかりと大きな穴が空いてしまいました。家のあちこちに染みついたマローネの気配が、ふとした瞬間に胸を締め付けます。彼女がいない静寂に耐えられず、意味もなくテレビの音量を上げた夜も一度や二度ではありませんでした。

年が明け、浅草の菩提寺にマローネの遺骨を納めてから、少しだけ心が落ち着きを取り戻すと、今度は別の種類の葛藤が静かに頭をもたげてきました。

当時、私は63歳。 もし、新しい子犬を迎えたとして、あの子のように15年生きてくれたとしたら、私は78歳になっています。今回の別れでさえ、これほどまでに心が揺さぶられたというのに、80歳を目前にした自分が、再び訪れるであろう別れの悲しみに耐えられるのだろうか。

そして、もう一つ。もっと現実的で、より深刻な悩みがありました。 私自身の人生が、あとどれくらい残されているのかは誰にも分からない。もし、万が一、犬より先に私がいなくなってしまったら、残されたあの子は一体どうなってしまうのだろう。

私に残された時間と、犬の命の長さ。その計算を、何度も、何度も頭の中で繰り返す夜が続きました。そして、出す答えはいつも同じでした。 「命ある生き物を迎える責任を、今の自分はもう負うべきではない」。 そう、固く心を閉ざしていたのです。

トリミングに行ってスッキリしたブラン

出会い

そんな風に、犬のいない生活が日常になりかけていた頃。 大学への通勤路に、一軒の犬の訓練校がありました。前を通るたび、元気な犬たちの声が聞こえてきましたが、それはもう自分とは関係のない世界の話だと思っていました。

ある日、本当に何気なく、その訓練校のウェブサイトを開いてみたのです。そこに、私の運命を大きく動かす一文がありました。

「訓練済みの犬をお譲りします」

その言葉は、まるで私の悩みを見透かしていたかのように、まっすぐに目に飛び込んできました。 ——なるほど、その手があったか。 特に、私の心を占めていた二つ目の悩み、「もし自分に何かあったら」という不安に対して、その言葉は一条の光のように思えました。しっかりと訓練された犬ならば、きっと人にも懐きやすいだろう。万が一のことがあっても、次の引き取り手が見つかりやすいのではないか。

気づけば、私は訓練校に電話をかけていました。電話口の明るい女性は、「今お譲りできるのは一頭だけなのですが、トイプードルにしては大きくなり過ぎちゃって…」と少し申し訳なさそうに言います。

詳しい話は、その犬の躾を担当している別の支店の男性から、ということになりました。しばらくしてかかってきた電話で、私は自分の年齢や事情、そして留守番ができなければ困るという条件を切々と伝えました。担当の方は私の話を静かに聞き、「その子の留守番トレーニングが済みましたら、一度会ってみませんか」と提案してくれました。

閉ざしたはずの心の扉が、ほんの少しだけ、きしむような音を立てて開き始めたのを感じました。

私に甘えるブラン

大きくて、荒々しくて、でも…

それから数週間後、訓練校で初めてその子に会う日がやってきました。2019年5月15日のことです。

当日、約束の時間より少し早く着いた私は、訓練校の駐車場で落ち着きなく腕時計ばかり見ていました。

「緊張しているのは犬ではなく、完全に私の方だな」と自分で苦笑い。

訓練校の店内に入ると、元気な犬たちの声。心臓の鼓動が、ひとつひとつ数えられるほどにはっきりと響いていました。

扉が開いた瞬間、私の目に飛び込んできたのは、茶色いエネルギーの塊でした。

「はじめまして、ブランです」

ハーハーと荒い息をしながら、室内を絶えず歩き回り、その有り余る生命力を全身から発散させている。それが、ブランの第一印象でした。定義によれば、体重が6kgを超える彼は、もはや「トイ」プードルですらないとのこと。その言葉通り、目の前にいるのは、想像していたよりもずっと大きく、がっしりとした犬でした。

15年間連れ添ったマローネは、穏やかで物静かなメス犬でした。その静けさに慣れていた私にとって、ブランの姿は衝撃的ですらありました。

「実は、佐々木さんの前にも見学に来た方がいたのですが、この大きさとエネルギーに少し驚かれてしまって…」

担当の方が、少し気まずそうに教えてくれました。 当時1歳半。子犬のあどけなさはもうなく、その大きさと荒々しいほどのエネルギーゆえに、なかなか新しい家族が決まらなかった「売れ残り」の子。それがブランでした。

正直に言えば、私の胸にも大きな不安がよぎりました。 「この私に、このエネルギーの塊を飼いこなすことができるだろうか?」 けれど、その一方で。力強い生命力に満ちた彼の瞳を見ていると、なぜか目が離せませんでした。何か、惹きつけられるものを感じたのです。

「もしよろしければ、一週間、ご自宅で一緒に過ごしてみませんか?」

その提案に、私は頷いていました。この子のことを、もっと知りたい。そう思ったのです。

赤ちゃんの頃のブラン(育った訓練校で撮影)

僕らの距離が縮まった一週間

2019年6月20日、ブランは我が家にやってきました。 始まったお試し期間。それは、私の不安が確信へと変わっていく、かけがえのない一週間となりました。

一緒に過ごしてみて、すぐに分かりました。彼はただのエネルギーの塊などではなかったのです。 散歩の時は力強く私をリードしてくれますが、家の中では驚くほど賢く、静かでした。トイレの失敗は一度もなく、家具を噛むようなことも一切ない。

ある朝、ブランは私が朝食を作る間、キッチンの隅で首をかしげながらじっと見つめていました。

どうやら卵を割る音が気になるらしく、割るたびに小さく「フッ」と鼻を鳴らす。

その仕草があまりに真剣で、思わず「料理番長、チェックが厳しいな」と声をかけると、今度は尻尾を振って得意げな顔。

その瞬間、朝の台所に小さな笑い声がひとつ増えました。

私が仕事から帰宅すると、全身で喜びを表現し、興奮してじゃれついてきます。その激しさは、まさに愛情の爆発のようでした。しかし、ひとしきり遊んでやると、あとは私の隣にそっと体を寄せ、穏やかな寝息を立てるのです。

荒々しいと思っていたそのエネルギーは、裏を返せば、真っ直ぐで嘘のない愛情表現だったのかもしれない。そう気づいた時、私の心の中で、何かが音を立てて溶けていくのを感じました。不安は少しずつ消えていき、代わりに温かい何かが、マローネを失って空いたままだった心の隙間を満たしていくようでした。

一週間が終わる頃には、もう「返す」という選択肢は私の中から完全に消えていました。 「この子を、家族に迎えよう」 それは理屈で考え抜いた結論ではなく、ごく自然に湧き上がってきた、穏やかで、しかし確かな感情でした。

【エピローグ】人生の後半に現れた、最高の相棒

西表島の海辺で

ブランが家族になってから、私の生活は一変しました。 元々が訓練校出身ということもあり、無駄吠えはせず、お客さんが来れば尻尾を振って大歓迎してくれる、賢くて人懐っこい子です。

最近はオンラインでの会議も多いのですが、私が仕事をしている間は、ソファの上で静かに丸くなっていてくれます。しかし、不思議なことに、会議が終わる気配を敏感に察知するのです。私がミュートを解除し、「ありがとうございました」と言った瞬間、彼はむくりと起き上がり、一直線に私のもとへ飛びついてきます。「お仕事お疲れ様!さあ、僕の番だ!」とでも言うように。

そんな彼に、「ブラン」という名前をそのまま使うことにしたのには、小さな理由がありました。ブランは、フランス語で茶色を意味する「brun」。そして、先代犬のマローネは、イタリア語で茶色を意味する言葉でした。まるでマローネが繋いでくれた縁のように思えて、そのままブランと呼ぶことにしたのです。

3年ほど前からは、石垣島と東京での二拠点生活が始まりました。ブランが飛行機に慣れてくれるか心配でしたが、今ではすっかり旅の相棒です。石垣島の青い海を背景に、楽しそうに走り回る彼の姿を見るたび、私はあの日、彼と出会えた奇跡に感謝しています。

あの日の私が今の私を見たら、きっと驚くことでしょう。 「もう犬は飼わない」と固く誓っていた私が、今ではブランのいない生活など、もはや考えられないのですから。

人生の後半に現れた、大きくて、少し荒々しくて、最高に愛おしい茶色い相棒。 ブランは今八歳。彼との物語は、まだまだ続きます。

皆さんには人生の後半で出会った“大切な相棒”はいますか?


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佐々木宏夫 いつもお読みくださり、また温かい応援をいただき、心から感謝申し上げます。 頂戴したご支援を励みに、次の記事の構想を練りたいと思います。 愛犬ブランとの散歩中に、記事のアイデアが浮かぶことも多いので、頂戴したご支援の一部は、ブランのおやつ代にさせていただきたいと思います🐶