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【小説】〈隻翼の竜の書〉赤目の盗賊 第二章 8

第二章 真夏の逃避行

8 三人寄れば

 西の空が、次第に黄色みを帯び、やがて濃い紅色に染まっていく。
 旅の初日が、終わろうとしていた。ハシャルらは、時折休憩を挟み、一度小さな町ダーラムに寄って、必要な物を調達したほかは、ほぼ一日中、ストラクティスに乗り、休みなく飛び続けた。結果、かなりの距離を稼ぐことができた。四人は、王都ミリィスから、二百キロ以上も南東に達していた。この分なら、追手も、追いつけないだろう。
 真夏のこととて、照りつける日差しが暑かったが、それでも、天候に恵まれ、さしたる問題も生じず、つつがない旅の一日だった。が、その締めくくりにあたり、いささか問題が生じていた。
「やっぱり、野宿するべきだよ。その方が、足跡を残さずにすむだろ」
 ハシャルがそう言うと、エーヴィンが反論した。
「いいや、むしろ大きな町で宿をとるべきだ。そうすりゃ、多くの人の中にまぎれて、後を追いにくくなる」
 東に少し行ったところに、比較的大きな町があるのを、ハシャルらは上空から確認していた。
 ミルディーが、二人とは異なる主張をする。
「近くの小さな農家に泊めてもらうってのは? そういうところだったら、追手が来たとしても、あんまり捜そうとしないんじゃないかな」
 この日最後の休憩中、ハシャルとエーヴィンとミルディーは、今晩の宿をどうするかを巡って、論争の真っ最中だった。
 ハシャルが考え込みながら言う。
「いや、ミルディー、農家だって、捜されるときは捜されるさ。それに、小さな農家の集落は、よそから人が来ることは少ないわけだから、俺たちみたいな、子供だけの四人組が行ったりしたら、あっという間に周辺に噂が広まっちまう」
 得意げに、エーヴィンが口を挟んだ。
「だから、むしろ、人の多い町に入って、人の中に紛れるのが一番さ」
 ハシャルはかぶりを振る。
「町の中だって、俺たち四人が目立っちまうことには、かわりないさ。子供四人だけで宿をとったりしたら、怪しまれるぜ」
 エーヴィンは一転して不機嫌ふきげんそうに口をとがらせた。
「じゃあ、野宿は安全なのかよ? 追いぎが出るかもしれないし、狼だって出るかもしれないじゃないかよ」
 野宿、農家、町の宿。三者がそれぞれ主張する案は、どれも、一長一短で、決め手を欠いていた。
 エーヴィンの指摘ももっともなので、ハシャルはうなった。

 このままではらちが明かない。農家、あるいは町に行くのであれば、ぐずぐすしてはいられない。ミルディーは、三人の議論に黙して耳を傾けているフロイに、ふと視線を向け、言った。
「ねえ、フロイ。どうするのがいいか、あんたに占ってもらえないかな?」
 占いなど信じていないハシャルとエーヴィンは、ミルディーのその提案に、思わず異を唱えようとした。占いに自分たちの運命をまかすつもりは、なかった。けれども、二人は、すぐに思いなおした。何を選んだところで、危険は付きまとう。ならば、いっそ、フロイに決めてもらっても、いいだろう。
 三人は、フロイを注視した。フロイは、少々ほおを染めて、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。僕は、きちんとした水晶の玉がないと、占えないんだ。時々、予感が訪れることもあるけれど、今は、特に何も感じないよ」
 少々残念そうに、ミルディーは言った。
「そうなの」
 ハシャルとエーヴィンも、内心、落胆した。また、言い合いを再開するしかないか。そう思った。が、フロイが、遠慮がちに声を漏らした。
「あの……」
「何だい?」
 ハシャルが静かな口調で尋ねる。フロイは、控え目に言った。
「僕、町の宿に泊まりたいな。実は、一日中ストラクティスに乗ってたんで、身体中が痛いんだ。明日も今日と同じ調子でいくなら、安心してゆっくりと休めるところで、きちんと休息を取った方がいいと思うのだけど、どうかなあ?」
 フロイは、これまで、ストラクティスにはあまり乗ったことがなかった。それを、この日はほとんど一日中乗りどおしで、身体中の筋肉が強張こわばり、かつしりからももにかけて、鞍擦くらずれして、少々れていた。それでもを上げず、今までえていたのだ。
 ハシャルらとて、今や、全身が綿のように疲れ切っていた。ましてやまだ小柄で、身体をきたえているわけでもない、自由に遊びまわれるわけでもないフロイは、もはや限界に違いない。ハシャルらは、フロイの状態に対する気配りを欠いていたことに思い至り、胸が痛んだ。ハシャルとミルディーは、フロイのため、妥協することにした。この日一日で、かなりの距離を稼いだ。追手が差し向けられていたとしても、すぐには追いつくまい。
「じゃあ、そうしましょう。フロイ、町まではすぐだから、あと少し、頑張ってね」
 ミルディーが優しく言った。フロイは、従順そうに、こくりとうなずいた。

続く


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