生転対生 1
あらすじ
産石美湖には尻尾が生えている。幼馴染の道玄 大悟と常に競い合い、 大悟が勝てば告白するとのことだが美湖は何度も勝負に勝っていた。ある日大悟の元服を祝うとの事で美湖の祖父が出かけたことでプレゼントを持って追いかけ、妖怪に案内されて隠されていた大悟の家の別荘へ辿りつく。そこは祓い屋として名の知れた道玄の屋敷であり、儀式が滞りなく終わり妖怪や人が祝う中、突如大きな化け物が襲い掛かる。
1話「尻尾」
突然だが、尻尾について皆さんはどう思うか。
生物的には尾は移動(魚など)、バランス(猫など)、把握(猿など)、社会的シグナル(犬など)に使われる…らしい。
では、それが人間に生えていたら?
生えている私から言わせて貰うと――邪魔なだけである。
「今日こそ吠え面かかせてやる」
「懲りないわねえ。また奉納しに来たの?」
とある中学校の放課後の教室。
2人の生徒が何時ものように睨みあっていた。
「何度も同じ結果になると思うなよお前?」
「それ何回聞いたと思ってるの?」フリフリ
睨みあう二人を他所に審判役の少女が面倒そうに話しを進める。
「はいはい。いつも通り五教科の合計点数が上だった方が勝ちとします。双方異論はありませんね?」
「ねえよ」
「ないわ」
同時にこたえる二人の答えを聞いてから進行を進める。
「二人とも五教科のテストを出してね。それじゃあ結果は――」
1学期末試験 国語 社会 数学 理科 英語
産石 美湖 96 94 100 97 93
道玄 大悟 100 90 91 95 100
「総合点数は美湖480点。大悟476点。4点差で美湖の勝ち」
審判役が電卓を叩いて結果を伝える。
「だー!みこっちゃんに負けた!何連敗だこれ?」
その言葉に慟哭を上げて大悟は悔しがる。
「知らないけど。テストだけなら八回ね。あんたらが勝手にやってる勝負は知らないけど」
「千代ちゃん判定ありがとうな。もっと俺に贔屓してくれもいいのよ?」
そう言いながらしれっと煎餅を渡す大悟だが
「普通に負けてるじゃないの」ペタン
ぐはっっとダメージを受けた大悟をどうでもよさそうに受け取った煎餅を持って席に戻る千代を横目に美湖は
「テストの結果だし……ジュースでも奉納しなさい」フラフラ
「わかったわかった」
そう言いながら席に向かっていきガサゴソと鞄を漁る。
「あれ?財布ねえな。あ、そういや小銭整理の後出しっぱなしだったな――財布忘れてるわ。別の日にしてくれ」
「なあなあで逃げる気ね?財布取って来て奉納しなさい」ピン
「今日はそれ無理だわ。一旦帰ったらそのまま連行される」
「なんでよ?」?
「いや俺の誕生日週の頭だったじゃん?テスト終わったから今日祝うとかで…ジジイが知り合い呼ぶらしい。元服年齢だかなんだかしらんが人の誕生日を飲みの理由にしないで欲しいもんだぜ」
「そーなの?」?
「マジマジ。明後日は暇だしそん時にでも連絡してくれ。奢るから」
何もできないし帰ると言ってそのまま帰って行ってしまった。
……。
「ちーちゃんちーちゃん!どうしよう!?またやっちゃった!?」パシンパシン
「ちーちゃんって呼び方やめて。千代よ私は」
「このままじゃ告白してもらえない!」ピンッ
「ならワザと負けたら?」
「正々堂々決着つけたいじゃない!ちゃんと負けて告白されたい!」ブンッ
わーっと泣き崩れる美湖に対し、さっきまで見学していたギャラリーはまたかという調子でさっさと帰っていく。それを横目に千代は呆れたように相手にする。
「勝負に勝ったら告白するって負けフラグだったのね」
「私は何時でもウェルカムですけど!?」♡
「自分から告白しなさいよ。待ってるから駄目なんでしょ」
「尻尾あるからって理由で断られたら私生きてけないもん!」ペタン
後ろを見れば腰から生えている猿のような長い尻尾がゆらりと揺れる。
尻尾が生えている事を除けば成績優秀、容姿端麗、自動販売機ぐらいは持ち上げられる怪力と至って普通の女の子である。
……尻尾が生えてる事を除けば。
「その尻尾のリボンは道玄が渡して来た誕プレでしょ?」
「尻尾用って脈ありなの!?」?
「さあ?」
「ほら!わかんないんじゃん!」ブンッ
「大丈夫よ。当たって砕け散れ」
「砕け散らないもん……。でもまた何かギリギリで負ける勝負考えないと……」くねくね
そういうみみっちい事やってるからうまくいかないんでしょうにと顔に出ている千代はうるさいのか話題を変える。
「道玄の誕生日過ぎたらしいけど祝ったの?」
「テスト期間だったし…勝負終わってからのつもりだったから…誕プレ用に買ったのもまだ届かないし…」ペタン
「誕プレ用に買ったのよ?」
「万年筆」ピンッ
「なんでそれ選んだのよ」
「この前勝負しにいった時に欲しいって言ってたし…。本は蔵三つぐらいは読んだから本以外でっていうし……」ユラユラ
「そういえば乱読家だったわね。勉強じゃなくて運動なら……ダメだったんだっけ?前のはバッティングセンターだっけ?最後に逆転ホームランしたとか」
「ちょうど良く負けれそうだったのに!なんでホームラン打っちゃうかなあ!私!」わなわな
(運動も勉強も上回られてよくモチベーション維持できているな大悟……。ああ、美湖ちゃんがベタボレなのがバレバレだからか?)
「勝負事になると毎回勝つわね。流石神社の子。テスト前に今度参拝しようかしら」
「うちの神単なる土地神だからそういう力ないと思うけど」?
「それは残念。…告白されるの待ってないで、自分から告ったら?」
食べきった空き袋をゴミ箱にシュートしながら何でもない事のように千代は言う。
「…大ちゃんが私に勝ったら告白するって意気込んでるのにそんな事できない…!」ワナワナ
「ならわざと負けたら?」
「手抜いたらバレて拗ねるもん!」グネグネ
まあ尻尾でバレバレだから大変なのだろう。たぶん。
「面倒くさいわねあんたら…。大体道玄のどこに惚れたのよ」
「そうね。あれは幼稚園の頃――花冠をあげるって載せられて…それ以降何となく眼で追っていて気がついたら…どっぷり惚れてたのよ」♡
「……一途ね。はよくっつけ鬱陶しい」
「酷くない!?」ピンッ
西日が紅く染まるまでまだ少しくらいはかかる時間。
「――かしこみかしこみ申す」ペタン
お勤めとしての祝詞の奏上も終わらせて自由時間だ。
境内の片隅にはひっそりと卵が割れたような石が飾ってある。
おじいちゃんが言うにはあそこから生まれたらしいけど。でもその時々によって桃から生まれたとか竹から出てきたとか言うからな。
実際には神社に捨てられた捨て子なのだろう。
気を使わなくてもいいのに。
それはともかく
「夕食の当番でもないし――夏休みの宿題は明日からでもいいし。兄はまだ帰省しないそうだから勝手に借りてる本戻すのはまだでいいわね。元から本の並びぐちゃぐちゃだしバレないはず。チビ達は遊びに行ってるから――」ユラユラ
何かを忘れてるような考えがよぎるのでつらつらと考えを纏めるために口に出していると、玄関からピンポーン「宅配便です」
「はーい。――お疲れ様です」ピン
判子を押して受け取った荷物は例の物だ。
中身を確認し、買ったものと同じ万年筆が入っているのを確認してから、丁寧にラッピングをし直す。
ちょっとピンクリボンで女子力高めになっちゃったけど可愛いからヨシ!
問題はいつ渡すかだけど…明後日は時間あるらしいからそこで渡すのがベストかしら?
メールの文面を境内を歩き回りながら悩む。
「明後日、暇なら奉納しなさい――これだといつものパターンですぐ終わっちゃう。新しく勝負を――また勝っちゃいそう。ならストレートにデートに行こ――それが言えたら苦労はしないのに!?」ワナワナ
あーでもないこーでもないと悩んでいるうちにバサバサッと大きな羽音が耳に入る。
見上げてみると翼の生えた人が飛び回りながら何かを撒いている。
稀によく見るけど尻尾よりあっちの方が珍しいのではなかろうか?それに派手に飛び回ってるから目立つだろうに噂を聞いたこともない。近所の人では無さそうだけど、山奥に隠れ住んでいるのかな?
ばら撒かれていた何かを拾うと……これはチラシ?
『本日、酉の刻
道玄家の子息の元服の儀
会場は裏滝ノ森にて案内を探すべし』
……元服の儀?裏滝ノ森って大ちゃんの家の近くの森がそんな名前だったかな?
いろいろ考えていた所でひょいっとチラシを奪われる。
「あんまり見るな。気分悪くなるぞ?」
「あ、おじいちゃん。……?別にならないけど?」?
ペタペタと自分で身体を触ったり脈を計ってみるが特に異常はない。
「これは霊感ないと見えんから言っとるんじゃ」
「ふーん?――あれ?おじいちゃん出掛けるの?」?
見ると仕事道具と着替えやらが入った紙袋を持っている。
浄衣持ってくとなるとお仕事かな?
「ちょっと仕事頼まれてな。リョーコさんに仕事で出かけるから晩飯はいらないと伝えておくれ」
「わかった伝えとく。手伝いいる?」ピンッ
「宴k――あーおっさんばかりの場だから来ない方がいい」
そう言っておじいちゃんは出ていった。
宴会?
そういえば大悟が宴会するとかなんとか…
おじいちゃんは呼ぶのに私は呼ばないんだ…
追跡するか
お義母さんにおじいちゃんが仕事に行ったことを報告し、そのまま私も行くと言って飛び出したはいいが――見失った。
「見失った……。でも目的地は多分あいつの家でしょうし真っ直ぐ向かえばいいか」ユラユラ
大ちゃんの家は地主だか名士だかで大きい家だから宴会するならそこだろう。そうと決まれば真っ直ぐ大ちゃんの家へと向かう。
「そうこれは誕生日プレゼント渡しに行くだけよ。万年筆似合いそうって選んだけど外してないよね?持ってるとか言われたらどうしよ…」ワナワナ
しかし大ちゃんが元服年齢になったから祝うとなると結構重要なイベントなんじゃなかろうか。
『会場はこちら』
お爺ちゃんも行くわけだし元服でなんか儀式的な事をするのだろうか?
となると巫女服から着替えてきちゃった私は場違いじゃなかろうか。
……今なんかいたような。
「えーっと変な仮面のおじさん?会場って?」?
『会場はこちら』と書かれた紙を持ってるおじさんはここら辺では見たことがない人?だ。
「心当たりが無いなら教えんわい」
「あっそう。まあいいわ。大ちゃんの誕生日祝いに行くんだし関係ないならいいわ」フリッ
「……大ちゃん?」
「そ、この先の家に住んでる大ちゃん。今日元服?のお祝いするって。これは誕生日祝いね」フリフリ
「ああ、若の客人か。なら屋敷ではなく別荘で行うと伝えてあったであろう?お主は何処のものじゃ?」
若……?どっちにしても大ちゃんの知り合いなのかしら?
「……向こうの神社の娘だけど」ブン
そう言って神社のある五行山を指す。
「ああ、産石殿の娘か?産石殿は先ほど通ったが」
「孫よ」ピン
「ほう。そうか。産石殿が孫を連れてくるとはのう…。それも若と同じくらいの歳か」
「同級生だけど」フルフル
「ならここを道なりに進んで案内に従うとよい。産石殿の孫と言えば襲われることは無かろう」
襲われるの?
疑問を他所におじさんは身体をどかすと道が現れる。こんな所に道なんてあったっけ?
「ああ、若におめでとうと伝えといてくれ。せっかくの祝いの席じゃが自分はこの仕事で行けぬのでな。伍の面と言えば伝わるはずじゃ」
「わかったわ」クイッ
伝言を預かってそのまま森の道に足を踏み入れる。
蛇とか出ないでしょうね?
「滝だ」
十分ぐらい何人?かの案内人に道案内をされながら歩いた先に滝があった。
そして呑んでるのか酔っぱらっている変な――人?狐?烏?みたいなのが宴会をしていた。
「おやおや娘っ子。ここはただの人が来るところではないぞ?」
「そうみたいね……」
妖怪伝説が多い土地だとは聞いていたけど、本当にいるモノなのね。
とりあえず逃げるか恥も外聞もなくおじいちゃんに助けを求めて叫ぶか考えていると
「よく見よ。尻尾が見えとる。此奴はコウじゃ。人に化けとるだけじゃ」
ある一匹が尻尾を見てそう言った。
コウ?なにそれ?
「聞いたことないの。ま、人じゃないならええか」
そう言って酒盛りに戻る。
助かったのか?でもなんか釈然としない…。
「ここは?」
「ここはこの辺の祓い屋を纒めている大家の道玄一門の別荘じゃ。今宵は若のお披露目とあって奮発したようじゃの」
屋敷?
見渡しても森と滝ぐらいしか見えない。
「屋敷なんてどこにも見えないけど」
「滝の先にあるわい。わしらはそれを教えるためにいるんじゃからな」
ジーッと見てみるが嘘はついてる感じはしない。
飛び込めと?
「ところで娘っ子や。どこの誰の紹介か?言えぬのなら喰うぞ」
「え…私は――」ピクッ
そこまで言ってハタと気付く。
招かれてもいないのに勝手に祝いに来る友達って相当ヤバいのでは……?
「なんじゃ言えぬのか?ちょうど酒の肴が欲しいと思っていた所じゃ」
気が付いてしまった思考に固まっているのを見ておどろおどろしい雰囲気を各々が解放し始める。
「やめい。尻尾の飾りを見いや」
「なんじゃ?なんじゃと!若の印か!」
……若の印?大ちゃんから貰ったリボンだけども
「なるほど若の式か。若を祝いに勝手に来たと。悪じゃのう」
酔ってるのか勝手に納得した様子の妖怪たち。
――助かった?
「しかし勝手に入るのは問題かのう?わしらと呑まんか?」
「ここまで来ちゃったし――でも怒られるから帰った方がいいかな……」グネリ
明後日出直した方がいいだろう。そうだろう。
「じゃ、お疲れさまでした。怒られたくないから帰ります」ピン
ピシッと頭を下げた拍子にぽろっとプレゼントが落ちる。
「なんじゃこれは?」
「あ!返してください。大ちゃんへのプレゼンt――何でもありません」クリン
それを聞いてから妖怪たちは――何やら上機嫌になったようだ。
「なるほど。――愛いのう」
「ふむ。若のために一肌脱ごうかの」
「面白そうじゃしの」
なんだろう?物凄く面倒なことになった気がする。
「なにこれ」?
「面じゃよ。面。正体隠すなら鉄板じゃろう」
穴が空いてるわけでもない厚めの紙で目元を隠してるのに視界を遮らず周りは普通に見える。
細かい所で文化の違いを感じる…。
「これならバレないのよね?」グネリ
「式の一人くらいに思われるじゃろ。少なくともすぐには追い出されぬ」
「そう。ありがとう。あと箱返して」ピン
「ほれ。きっちり渡すんじゃぞ?」
「うまくいけば…ね」ペタン
プレゼントを人質にされ、館に潜入することになってしまった。
もうこうなったらすぐに会って渡してから逃げ帰るしかない!
「そこの滝が門じゃ。飛び込めば水簾の館に入れる」
「……それずぶ濡れにならない?」ブル
「ならんよ。そういう幻術じゃ。実際川がないじゃろ?本物ではないんじゃ」
確かにあれだけ水が落ちているのに流れ出る川はない。
「じゃあ行ってくるわね。ホントだったら帰りにお礼を言うわ」ユラユラ
「礼なら酒でもくすねてきておくれ」
「できたらね」ピン
なにか言われる前に滝へと飛び込む。
シャワーを浴びるような感触が一瞬だけした後、立派な屋敷の前にいた。
「濡れ――てない?ホントに幻術だったのかしら?それはそれとしていくしかないわね」ピン
一つ深呼吸をしてから館へと踏み込む。
出たとこ勝負だ。
「いいのかえ?あの小娘なんぞ入れて?」
「バレたら処刑か飼われるか。ま、どっちでもいいじゃろ。バレるかバレぬか賭けようではないか」
「おい、お前。これをあのテーブルに運んで並べて」
「はい!」ペタン
今、私は使用人として働いています。
館に入ったらすぐに見つかって、仕事を押し付けられてアレやコレやとやっていくうちにいつの間にか広間で給仕をやることになっていた。
本当に式?だと思われているのはいいんだけど、これじゃ抜け出せない。
「そういえばだい――若は何処にいるんです?」
「様をつけろ様を。若様は今衣装を着こんでいる所だろう。四半時も経つ前に元服の儀を行うからそれまでに終わらせて壁際に控えときなさい」
「あ、はい」ユラユラ
客と思しき人々が続々と集まってくる。
飲み物や軽食を用意したりと時間だけが過ぎ去っていく。
次から次に言いつけられるから抜け出す暇もない。
「いやはや妖魔使いが荒いですねぇ。お嬢ちゃんは新人かい?」
いろいろやっていた所で同じく働いていた妖怪の人が話しかけてきた。
「初めて来ましたので。人手が足りないと仕事することになっちゃいまして」ペタン
「はは。大変ですねえ。では先輩としてアドバイス。ゆっくり運んでればあまり押し付けられないよ。コンセイ先輩からのアドバイス」
鳥の羽みたいなのが生えているから鳥の妖怪なのだろう。話しかけてくるので当たり障りのないように答えていく。
「そういうの苦手です。すぐに終わらせたくなっちゃいます。そして今すぐ抜け出したいです」ワナワナ
「それは難しいかな?でも、そろそろ儀式始まるし楽になるよ」
「儀式?」?
「元服の儀だよ」
そう言えばそれがメインだったか。
うーん。誕生日プレゼント渡すの無理なんじゃないだろうか?
そんな暇はないし、近づける気もしない。
――それにしても
「内装おかしくないですか?」ブルブル
「ん?まあ初めて見るならそう思うかな」
「なんでモアイ像と達磨が並んでるんです?他にもスフィンクスや十字架も置いてありますし……何の集まり?」?
「神仏集合ってヤツじゃない?よく知らないけど。でもいいもの揃えてるよね達磨とか結構高いよあれ」
「いや値段の問題じゃないと思いますけど」ペタン
どうもこの雰囲気は居心地が悪い。
あーだこうだ言いながら手伝いを進めていくとひと段落着いたところでお客と思われる人や妖怪、どっちかわからない存在などが増えていく。
さっきの鳥の人ともはぐれたし指示もないので抜け出して大ちゃんを探しに行くべきか留まっているべきか――どうするかを考えているとフッと部屋が暗くなる。
『ご来場の皆様。これより元服の儀を執り行います』
「あ、始まっちゃった」
こうなったら仕方がない。なんかいいタイミングがあったらしれっとプレゼント渡そう。
無かったら……それはそれでその時考えよう。
行き当たりばったりの思考を元にとりあえず舞台を見やすい位置に移動する。
舞台の上に何かの道具を持った使用人が先に現れて配置し、定位置に着いた所で大ちゃんが現れる。
「!」ビュンビュン
――カッコイイ!普段は洋服しか見たことなくてその姿もいいけど!和装できりっとした大ちゃんも素敵!
バレないように心のシャッターを切っている間に大ちゃんは、一段高い台の上で使用人に衣装を着付けられる。
そして大ちゃんの髪を少し切り、切った髪を箱に収めた後に髪を整える。
そして大ちゃんの元へ出て来たのは
「おじいちゃん?」
おじいちゃんは祝詞を唱えた後に烏帽子を大ちゃんに被せる。
「烏帽子親は産石殿か」
「うむ。大悟様もいい縁を得たものだ」
「神職との縁は祓い屋の力を維持するのに良いからな」
ヒソヒソと話すマナーの悪い客を横目に儀式は進む。
おじいちゃんが鈴を鳴らしながらか唱えた後、大ちゃんが祝詞を書かれた紙を読み上げて奏上する。
そして運ばれてきた盃にお神酒?を注がれ盃に口を付けた所で儀式は終わったようだ。
チラッとおじいちゃんが見回すようにこっちを見て――一瞬、固まった後に席まで戻り睨みつけるようにずっとこっちを見ている。
――ヤバいバレた。
冷や汗がダラダラ流れるがどうしようもない。
可愛く謝れば許されるかな……?無理かな……無理だよなあ。
帰ったらお説教だろうと気が落ち込んでいるうちに今度は舞台に何やら運び込まれる。
なにやら赤い――光沢からして金属?
「神珍鉄の塊か」
「神珍鉄?」?
近くにいた人が言った言葉につい反応してしまって声が出たが、その人はちらっとこっちを見た後に舞台を見たまま答える。
「道玄の先祖がどこかから持ち込んだ、代々伝わる家宝で持ち主に応じて形が変わる特殊な金属――らしい」
「へー」ユラユラ
妖怪だのなんだのありすぎてどれぐらい凄いのか全く分からない。
そうこうしているうちに大ちゃんが神珍鉄の塊を手に持つとうねる様に蠢き、質量を無視したように長く伸び――錫杖の形を取った。
それを見て拍手する観客たち。
多分凄いのかおめでたい事なのだろう。合わせるように拍手する。
おめでたい事はいい事だ。
「おめでたいねえ。なら祝ってやろうじゃないか」
《《それ》》の傍に立ち吐き捨てるように呪言を唱え
「世を混ぜろ。停滞を動かし新たな魔よ」
……?
今何か聞こえたような?
儀式が終わり、挨拶に向かう観客に紛れながらお爺ちゃんから距離を取っているとなにやら祝いの場に相応しくない声が聞こえたような?
辺りを見渡しても観客にモアイ像やスフィンクスや十字架など不揃いなモノしか見えない。
気のせいかな?
近付いてきたおじいちゃんから再度逃げるように向きを変え
「危ない!美湖!」
瞬間、どデカい達磨のような頭が落ちてきた。
2話
https://note.com/hiunam_01/n/nad56e76d2faa
3話
https://note.com/hiunam_01/n/ne9da3635ecd0
