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ヴィラ神奈川・後編/看取りケアの一環として実現した、高尾山登山の記録

平成医療福祉グループが運営する特別養護老人ホーム「ヴィラ神奈川」(神奈川県横浜市)は、その人らしい最期を支える取り組みである「看取りケア※」を行っています。

※看取りケアとは?
医師により医学的に回復の見込みがないと判断されたときに、身体的及び精神的苦痛を緩和し、安らかで自分らしい最期を迎えられるように支援するケアのこと。ご入居者の意思ならびにご家族の意向を最大限に尊重し、施設スタッフとの協議・協力のもと行われる。

平成医療福祉グループ「看取りに関する指針」より

ヴィラ神奈川の施設長・小林さんの「先日、お看取り対象の利用者さんと登山をしてきたんです。」という一言をきっかけに、登山を企画・実行したスタッフの方々にお話を聞かせてもらってきました。

前編では、高尾山登山の企画から当日までを、検討項目も踏まえてお届けしました。
後編では、コアメンバーへのインタビューを通して、ケアの第一線で働くスタッフの想いをお届けします。

※本記事は看取りケアの実践を紹介する内容ですが、対象となったご利用者様はその後回復され、2025年12月時点では、ヴィラ神奈川で穏やかに過ごされています。


施設紹介

介護老人福祉施設「ヴィラ神奈川」
〒221-0864
神奈川県横浜市神奈川区菅田町19
JR横浜線「鴨居駅」から横浜市営バス12系統「西菅田団地」停留所下車 徒歩10分
HP:https://kanagawa.tokuyou.jp/

ユニット型の特別養護老人ホーム。なだらかな形状の建物が特徴的で、窓が多く、明るく開放感あふれる施設です。広々とした館内は、利用者さんご家族から寄付してもらった家具や装飾で家庭的な温かみがあります。
窓の外には園芸スペースが設けられ、施設の中にいながらも、四季折々の花を楽しむことができます。

前編はこちら! 

看取りにおいて、私たちはサポーター

計画段階から現時点に至るまでのことを、コアメンバーの4人と施設長の小林さんに座談会形式で振り返ってもらいました。

左前から、飯野さん(介護職)、熊坂さん(介護職)、小林施設長
右奥が野口さん(ケアマネジャー)、山北さん(看護師)

-最初に登山の計画を聞いたとき、どう思いましたか?

熊坂:本当に行けるのかと正直思いました。前例もなかったので、大きい施設車はどこに停めたらいいのかとか、そういう細かいこと一つ一つがすごく不安で…不安しかなかったです。でも行ってみちゃえば何とかなっちゃうんだなって。できないことはないのかなって、前向きに考えていきたいなと思うようになりました。

小林:今の言葉が聞けただけでもやった甲斐がありますね!

ー高尾山登山を無事に終えて、どのような気持ちですか?

野口:まず、夢が実現できて良かったです。登山後も、ご主人から「連れて行ってもらって良かった。」と感謝の言葉をいただきました。またこういう機会をどんどん作っていきたいです。

山北さん:家族の協力がどれだけ重要かということも感じました。私たちが「こうしたい」と思っても、ご家族がお望みでなければ実現はできないですから。今回に関しては、高尾山に登ったのがスタッフだけだったら、そこまでご本人は楽しくなかったかもしれません。仲のいい人と登ることで、登山の楽しさだけではなく、大切な人と一緒に何かをするという”楽しさ”を感じられたからこそ、ご本人が「楽しかった」と言ったんじゃないかなと思います。お看取りにおいて、家族が主で私たちはサポーターみたいな感じの方が、本人も精神的な満足感・充実感が高められるのではないかと感じました。

ー登山後のAさんはどのように過ごされていますか?

野口:高尾山に行く前より、安定して、元気に過ごされています。食事量が増えたり、スタッフとアイコンタクトが取れるくらい表情が豊かになったり。コミュニケーションが取れていると感じる機会が増えました。あと、動かしづらかった腕も動かせるようになったんです!ご主人もご友人もびっくりしていました。

ーすごい!聞いているだけで感動してしまいます。

野口:食事量が増えたのも、栄養士が、Aさんが食べられる食事を考えてくれているからです。本当に素晴らしいチームだなと思います。

Aさんの居室には、お誕生日会の思い出とともに 高尾山登山の写真が飾られています。
Aさんが好きな高山植物の写真も、いつでも見えるところに飾っています。

-今後、どのような看取りをしていきたいですか?

熊坂:今後も不安は付き物だと思うんですけど、どうしたらできるかっていうことをまず考えていきたい。1つ1つの関わりの中でヒントを拾っていって、できない・ダメではなく、どうやって叶えていけたらいいかを考えていきたいです。

飯野:馴染みのある所に連れて行ってあげられたらなぁと思います。今回の登山でご本人の表情の変化を目の当たりにして、外の空気を吸ったり、行きたいところに行くっていうのは、当時のことを思い出しているのかなとか思いました。スタッフと施設の外をお散歩するだけではなく、お家に帰ったり、外出させてあげたいです。

ーお家に帰りたいと思う方は多いんですね。

野口:家はただの建物ではなくて、その土地と人だと思います。例え建て替えた家でも、周りを囲む家族が変化していても、落ち着くのが家だと思うんです。

山北:旅行に行っても、家に帰るとほっとするじゃないですか。多分そんな感じじゃないかな。落ち着くから家に帰りたいんですよね。

野口:この前も、看取り期に近い方の「家に帰りたい」という希望を叶えることができました。ご家族に集まっていただいて、数時間ですがお家に帰ることができました。今後もそういうことがいろんな方にできたらいいなと思います。

-スタッフの皆さんの話を踏まえ、施設全体としての方向性はありますか?

小林施設長:ヴィラ神奈川の方向性としては、ご本人・ご家族・スタッフそれぞれの希望を叶えてあげられるような看取りになっていくといいなと思っています。
私は、そのときを楽しんで生きられたらいいなぁというところに重きを置いていて。外出などの動的な楽しみ・お部屋で心地よく過ごす静的な楽しみ、それぞれを重視したらいいのかなと考えています。また、身体の不自由さによっても求めることは変わってくると思うので。そのときの「自分がこうしたい」という想いを叶えてあげたいですね。


看取りケアを通して考える、じぶんを生きるとは。

平成医療福祉グループのグル-プ理念は「じぶんを生きる を みんなのものに」です。利用者さんがより良く、じぶんらしく生きるためのQOLの追及を目的とし、グル-プスタッフ自身が「じぶんを生きる」を実現することも大事に考えています。

介護施設のスタッフは、看取りや人の生き様、命の揺らぎを間近で見ています。第一線で感じているから思う「じぶんを生きる」とはなにか。明確な答えのない問いに、悩みながらも言葉を紡いでくれました。

ー「じぶんを生きる」とは、どういうことだと思いますか?

飯野さん:最後はちゃんと死を受け入れることなのかなって思います。死ぬことは怖いとも思いますが、必ず誰にでも訪れるものです。「どういう風に受け入れていけばいいのか」という問いが私の中にもあります。受け入れるためのプロセスは色々あると思うんですけど、自分があまり怖がらずに受け入れられるということは、きっと自分を”生ききる(悔いを残さない)”という形になるのかなと思いました。

山北さん:例えば、10分後に自分が死にますといったときに、後悔なく「あぁもう自分の人生生ききった」って思えることは大切ですよね。多分後悔はあると思うんですけど。

ーじぶんを生きるためには、”悔いを残さないで生ききる”、”死を受け入れる”。そのためには何が大切だと思いますか?

熊坂さん:どうやって最期を迎えたいかを、看取り期に入る前に考えることが必要かなと思います。でも元気なときにそういう話は受け入れづらい。「死」ってスタッフより利用者さんの方が身近な存在で、考えたくないことだと思うので、それを前向きに考えてもらうためにはどうしたらいいのかなと…。うーん難しい。

山北さん:家族の協力と、元気なうちのアドバンス・ケア・プランニング※が重要だと感じます。それによって、早い段階でご本人の意思尊重が分かります。また、家族がその意思を聞き・受け入れることで、将来的に終末期となったときに家族の迷いとかが少しでも軽減できるんじゃないでしょうか。

※アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのこと。患者さんの人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標にしている。

公益社団法人東京都医師会


お看取りの場面ではご本人の意識が低下しており、直接コミュニケーションをとることが難しいケースも多くあります。また、Aさんのように外に出られる状態の方もそう多くはありません。今回幸運だったのは、ご本人の意識が低下しているときに、ご家族からお話を聞けたということです。

ヴィラ神奈川では、入居時と看取りの判定になった際に、ご家族と施設での看取りについてお話をする時間をとっています。
看取り期の身体の変化や、施設が行うケアについてまとめた冊子をきっかけにしてお話をしたり、ご家族の言葉にならない想いを汲み取ったり。状況を受け入れられないご家族がいた場合は、共に悩みながら向き合います。
利用者さんご本人の変化にご家族が関わることで、一緒に受容していくことができると、看護師の山北さんは言います。

ご家族の心情によって寄り添い方は様々です。
急にそのときを迎えても、少しでも心の準備ができるように、スタッフがご家族と丁寧に関わります。

看取りというと、“特別なケア”のように捉えられがちですが、実際には日々の介護施設での、生活の延長にあります。高尾山登山が実現したのも、Aさんのこれまでの人生やAさんらしさを丁寧に支え、ご家族の声をきちんと受け止める日常があったからこそではないでしょうか。

老衰の旅立ちは、ゆっくり進むようでいて、ある日突然にも感じられるもの。
スタッフは、言葉にならない想いにも寄り添おうと努めています。

より良いケアを求めてーヴィラ神奈川での看取りー

Aさんの話をするスタッフの表情は柔らかく、高尾山登山よりも前からAさんに寄り添ってきたということが伝わってきました。

Aさんは高尾山登山で、何を見たのでしょうか。
できないと思っていたことが実現すると分かったとき、何を感じたのでしょうか。

私の想像でしかありませんが、大切なご主人やご友人の姿を見たときや、車椅子を押すスタッフを視界の端に捉えたとき。山の空気を吸って、懐かしい思い出を思い出したときに、心が動いたのではないかなと思います。

そんな大成功だった高尾山登山ですが、スタッフは改善点を見つけ、次に向けた振り返りをしていました。こうした”より良いケア”を求める姿勢は、施設全体に広がっています。

先日ヴィラ神奈川では、これまでの看取りケアについてスタッフ同士の共有会が行われました。
利用者さん一人ひとりのお人柄を感じられる内容で、「この○○さんの写真、いい笑顔ですよね!」と嬉しそうに話すスタッフがたくさんいたことが印象的でした。
それぞれの職種のスタッフが、現状のケアに満足することなく、より良いケアを追い求めて真摯に業務に当たっています。

他者を理解するのは難しいと、誰しもが感じたことがあると思います。
福祉現場で働くスタッフには、目に見える症状だけではなく、利用者さん自身=「その人らしさ」を見ることが必要です。人と人の関わりだからこそ、「仕事だから」と割り切れないことも多くあります。
感情を揺さぶられつつも、他者を想って最期まで寄り添うことは、”誰でもできること”ではないと思います。スタッフの想いと、それを実現し支える施設の土壌があってこそ成り立つと思います。

看取りは「終わり」ではなく、「その人の人生をまっとうする時間」。そして、スタッフにとってもご家族にとっても、その人との時間を分かち合う大切な機会です。

施設内での研修体制も構築しているヴィラ神奈川では、今後も利用者さんの気持ちに寄り添った看取りケアが、その人らしい日常の延長線上として、当たり前のように行われていくことでしょう。

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