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文学のハイライト. 堀辰雄『風立ちぬ』(2)

こちらは、ホロとケインが文学を語るnote、『文学のハイライト.』
今は堀辰雄と『風立ちぬ』の話で盛り上がっています。

前回はこちら





登場人物紹介

運動も割と好き。

ホロ ホロです。直観でエモさを語ります。
述懐じゅっかい担当で、口ぐせは“かなり好き”。

運動は健康のため。

ケイン ケインです。内容面の言及に加え、作者のプロフィールや作品の来歴もカバーします。


作品紹介『風立ちぬ』


3.5.幕間


ホロ 夏の暑さにフラペチーノは格別よね。
フローズンドリンクの上に、たっぷりもったりのクリームも乗っててさ。

ケイン ここしばらく、本当に暑いですからね。
ジリジリと焼ける感触が直にくる暑さです。

ホロ ほんとそれ。
ケインくんもフラペチーノにすればよかったのに。
いつものブレンドコーヒーでよかったの?

ケイン つい、飲みれたものに手が伸びてしまいますから。
どうせ飲むなら紅茶かコーヒーか。
それに……。

ホロ それに?

ケイン フラペチーノは、自分にとって少しむずかしいドリンクなので。

ホロ なにそれ。
フラペチーノがむずかしい?

ケイン ええ。たとえば……。

ホロ たとえば?

ケイン クリームとドリンクを、どのタイミングで混ぜるのが正解なのか、とか。

ホロ ……飲むときくらい、その考えすぎるクセをやめなさいよ。


📚️


ケイン さて。
堀辰雄、『風立ちぬ』の第2回です。

ホロ 待ってました。

ケイン 前回は、堀辰雄という作家と『風立ちぬ』という作品、それぞれに対する印象を語った感じでしたね。

ホロ 次回以降につながる要素としては、色々出た気はするけどね。

ケイン ちょっと、まとめてみましょうか。

ホロ お、ひさびさの流れ。
じゃあ、ざっくり口頭でいい?

ケイン 構いませんよ。

ホロ まず、『風立ちぬ』の文章表現の入口みたいな話でしょ。
それから、小説の視点の話、それに……。

ケイン “死のかげの谷”死の意識

ホロ それ。

ケイン ということで今回は、『風立ちぬ』に加えて堀辰雄という人物についても、ちょっと触れてみたいと思います。

ホロ ケインくんの得意分野ね。
作者のひととなりとか?

ケイン 他にも、彼の周囲で起こっていたこととか。
目指すところは、堀辰雄が『風立ちぬ』を書き上げるまでの間、彼に何が起こったかを語ることです。

ホロ あと、あれもやってほしいな。

ケイン あれとは?

ホロ 「風立ちぬ、いざ生きめやも。」について。

風立ちぬ、いざ生きめやも。

堀辰雄『風立ちぬ』

ケイン ……そうでした。それが先でしたね。
では、堀辰雄のことに軽く触れたあと、それも語ってみましょうか。

ホロ よっしゃ。

ケイン 確かに、ホロさんのおっしゃるとおりなんですよ。
『風立ちぬ』といえばやはり、このフレーズの話はけられません。

ホロ え。なんか、含みある?

ケイン ……いいえ?

ホロ ケインくん。この話になると、妙にそっけないよね。

ケイン それほどでも、ないつもりなんですけどね。



ケイン (ただ、慎重に話さなければいけないと、そう思うだけで……。)



4.堀辰雄のこと。 - 語り部 -


ケイン さっそく堀辰雄を語ろうと言っても、この作家はあまりにも切り口が多いので、どうしたものかというのがあるのですが……。

ホロ 堀辰雄って、それほどエピソードに事欠かないのね。
先行研究の蓄積ちくせきの大切さをつくづく思い知るわ。

ケイン それもあります。
が、それだけではないんです。
そもそも彼の場合、語り部がいましたから。

ホロ かたりべ

ケイン 神西清じんざいきよし
ロシア文学やフランス文学に通暁した翻訳家で、小説家。
旧制一高きゅうせいいちこうで堀辰雄と出会い、数学少年だった堀を文学の道に導いた張本人です。

旧制一高 …… 旧制高校きゅうせいこうこうの一。第一高等学校。現在の東京大学教養学部きょうようがくぶおよび、千葉大学医学部、同薬学部の前身となった旧制高等学校。

ホロ そんなすごいひとが近くにいたんだ。

ケイン ええ。翻訳家として数多の作品を世に出した神西清ですが、堀辰雄にとって一番の理解者と呼べる存在でした。
終生の友であった堀の死後、最初の堀辰雄全集の刊行に尽力した人物です。

ホロ そういう先人がいてくれたから、こうして後の世に堀辰雄のことが伝わっているのね。

ケイン はい。
他にも、堀の語り部という点でいえば、川端康成や堀辰雄の妻である堀多恵子(加藤多恵子)も外せないでしょう。

ホロ 川端康成って、堀辰雄とつながりがあったのね。
私の中で全然ピンと来なかったわ。

ケイン 正直、僕もです。
いまや“文壇”を知らない我々ですから、資料を掘ることでしかこのあたりは見えてきません。
ですが彼らの交友関係は深く、川端康成もまた堀辰雄全集の刊行に尽力した人物のひとりです。

ホロ 死後、堀辰雄のために奔走してくれた人がいっぱいいたんだ。

ケイン ええ。堀の死後、新たな全集刊行に際し、堀多恵子の相談に乗っていたのも川端康成です。
堀は蔵書や創作ノートがいっぱいありましてね。

補足 … 堀辰雄全集は新潮社版、角川文庫版、筑摩書房版など複数あり、それぞれ発行年や編纂者が異なる。

ホロ そういえばさ、この手の文豪と呼ばれる人たちって、ちょくちょく「全集」っていうシリーズ物の本があるよね。
図書館の一角を占拠してる分厚いやつ。

ケイン ありますね。

ホロ あれって、なんであるの? とまでは思わないけど、出さないといけないルールでもあるの?

ケイン ……ホロさんは、最近の小説家で“全集”が刊行されてる作家って、誰か思いつきますか?

ホロ あれ? そういえば、ないわね……。
人気作が文庫で復刊、とかはよく見るけど。

ケイン そうでしょう。
かつての円本ブームに端を発し、一気に勃興した“全集”のカルチャー
これは日本の文学史以上に、出版の歴史において大きな転換点でした。
出版と経済や、書誌流通と絡めて語れるたいへん面白いテーマなのですが、それはいずれ誰かがやるでしょう。

ホロ ココではやらないんかいっ。
ま、私としては川端康成と堀辰雄が一本の線でつながっただけでも十分よ。

ケイン そうですね。
なにしろ、堀辰雄が『風立ちぬ』の終章を書き上げた場所は、川端康成の別荘なのですから。

ホロ そーなの!?
ていうか、そんなことまでわかってるの!?



5.堀辰雄のこと。 - 横町と土手 - 


――そう、そう、そう云えば、たしか、そのときの往きか帰りの電車の中だったとおもう。小さな私は往きのときも、帰りのときも、その道中があんまり長いので、いつも電車の中でひとっきり睡ってしまっていたが、突然母にゆりおこされた。

「辰雄、辰雄、ほら、あの横町をごらん、あそこにお前の生れた家があったんだよ。……」

 そういわれて、私は睡たい目をこすりこすりあけてみた。そうして母が電車の窓から私に指して見せている横町の方へいそいでその目をやった。が、電車はもうその横町をあとにして、お屋敷の多い、並木のある道を走っていた。私はなんだかそれだけではあんまり物足らなかったが、それ以上何もきかないで、そのまま又そのお母さんにもたれながらうつらうつら睡ってしまった。……

堀辰雄『花を持てる女』

ホロ ……やっぱり、好きな文章だなァ。

ホロ ねぇケインくん。
『風立ちぬ』を読んだあとに、この文章を眺めるとね。

ケイン どう感じましたか。

ホロ 「ああ、堀辰雄の文章だな」って、素直に思った。
特有のクセってわけじゃないんだけど、とにかく、ひとの心に触れてくるというか。

ケイン なるほど。

ホロ するりと情景が入ってくるとでも言うのかしら。
電車の揺れに身を委ねて、うつらうつらとしているところ。
ママにゆすられて、ぼんやりと遠くをみて……。
すんなり思い浮かべてしまうわ。

ケイン そういえば、ホロさんは、『風立ちぬ』に対してもそのような感想を仰っていましたね。

ホロ うん。同じ作者の文体を味わう楽しみよね。
『風立ちぬ』は「私」と「お前」という呼称だけで続くお話なんだけど、その間柄にだって易々やすやすと感情移入できてしまうような、そんな感じがしたわ。

ケイン かもしれませんね。
そんな堀辰雄の作品といえば『風立ちぬ』に、『美しい村』
『聖家族』『ルウベンスの偽画』。

ホロ 『かげろふの日記』に、『菜穂子』って作品もあるよね

ケイン 川端康成が最初に言及した堀辰雄作品は『甘栗』と言われています。
以降、堀の新作をびたび取り上げる。

ホロ 『風立ちぬ』のイメージ先行で、当世とうせいの男女にスポットを当てるお話が多いんだと思ってたけど、日本古典を題材にしたお話も書いてたのね。

当世 … 今の世の中。いまどき。当世風の略。

ケイン ええ。そしてこれらの作品群に堀辰雄の人生観を踏まえると、ホロさんの先ほどの感想にも、さらに思うところが出てきます。

ホロ どゆこと?

ケイン ……ご認識のとおり、堀辰雄は外国語堪能で、リルケやプルーストなど西洋の作品に親しみ、尊敬していた芥川龍之介と同様、王朝文学にも造詣が深い作家です。

王朝文学 … 平安時代の、特に宮廷女性を主たる書き手とする仮名文学。平安朝文学。

ホロ 読んでいて、なんだかそんな感じがする。
西洋の近代絵画みたいな絵的な感じと、和のしっとりした質感みたいな。

ケイン ゆえに、文学の東西をつなぐ叙情を有するとの評価もあれば、気取った語り口で甘ったるい文章という声もあり、文学的な評価はさまざま。

ホロ 今読むと、記号や三点リーダの使い方とかもちょっと独特に感じるもんね。
私が読んでいて「浮世離れしてる」って思っちゃったところとかも、人によっては引っかかるかも。

ケイン そんな堀辰雄ですが、小さい頃は数学が好きで、いっときは数学者を夢見るほどだったそうです。

ホロ へぇ。かわいい。

ケイン その夢を抱き、旧制一高に理科乙類りかおつるいで入学した堀辰雄ですが、そこで出会った神西清により文学の道に引きこまれ、数学好きの少年が文学に目覚めます。

ホロ ホント、出会いは人を簡単に変えちゃうわね。

ケイン ええ、まったく。

ホロ ……すごく繊細で、感受性が高いひとだったのかな。
堀辰雄って。

ケイン どうでしょうね。
ただ、堀辰雄の物語には、彼自身の境涯きょうがいや人生で得た他生の縁のようなものが、強く表れていると思います。

境涯 … 境遇。この世に生きていく上でおかれている立場。身の上。

ホロ 『風立ちぬ』もそうだって、ケインくんは思ってるの?

ケイン ええ。
『風立ちぬ』にとどまらず。

ホロ じゃあ、その境涯っていうのが、前回言っていた「死の意識」の話につながるんだ。

ケイン それを語るには、堀と矢野綾子の出会いを語らねばなりません。
が、せっかくですから、そこに至るまでのことも、さくりと話してみましょうか。

ホロ 堀辰雄の生まれから、一人の女との出会いと別れまでを?

ケイン そうです。「風立ちぬ、いざ生きめやも」の話は、そのあとでいいでしょう。
その方が、ひとの想いはうつろうしらぐということが、より鮮明に見えてくるかもしれません。

ホロ あら、ケインくんにしては珍しくポエジー。
じゃあ、ここからは叙情解禁じょじょうかいきんね。

ケイン はい。
この作家を語るのであれば、やはり。

ホロ じゃあ、また次回。

ケイン ええ。
次回は隅田川のほとりで。

ホロ 隅田川? 東京の?

ケイン はい。
幼い彼が母とふたり、花火を見上げていたる夏の夜。
堀辰雄の幼年時代からはじめましょう。

次回につづく


結び


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では、また次の記事でお会いしましょう。

ホロ またね!

ケイン ありがとうございました。



次回はこちら。


『文学のハイライト.』について。

この『文学のハイライト.』は、近現代の文学作品をやんわりと眺め、対談形式でゆるく語ることのできる場所です。

ふたりの対話を追っていくうちに、これまでなんとなくスルーしていた文学というものへの見え方が、「ふぅん」から「なんか、ああいうやつでしょ」という風に変わっていくかもしれません。

ぜひフォローやスキなど、応援していただければ幸いです。

それでは次の記事でお会いしましょう。
みなさま、今日もよい一日を。

ななくさつゆり


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