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「気のせい」で終わらせない。HSPが証拠を残す技術

先日の記事で「職場がおかしいサイン」について書いた。
読んでくれたあなたは、たぶん今、こう思っているんじゃないだろうか。

「うん、わかる。でも、気づいたところで何ができるんだろう」と。

わかる。私もそうだった。
気づくだけで疲れて終わる日々を、何年もやってきた。

何にもならないと思っていたその気づき。
実は、あなたのセンサーが正しく働いている証拠なのだ。
でも、気づいたからといって、正面から戦ったり、我慢して耐え続ける必要はない。

これまではただ耐えるためだけに、無意識に、擦り減りながら使っていた。今日はその同じ武器を、意図的に、自分を守るために使い直す話をしたい。


①先回りして考えてしまう
(=会社に言い訳させないための先回り力)

世間ではこう言われる。
「考えすぎ」「ネガティブ」「取り越し苦労」。

でも違う。
上司にこう言われたら、こう言い返そう、と延々脳内で反論を組み立ててしまうその癖は、いつ飛んでくるかわからない理不尽な指示から自分を守るために、あなたの脳が限界まで稼働させている「先回り力」だ。

通訳の同僚が、上司Aの経営する小さな工場に朝一で呼び出され、パート従業員4人がいる前で怒鳴られていたことがあった。

朝っぱらから、響き渡る怒鳴り声。呼び捨てにされる通訳の名前。通訳の声は聞こえない。ただただ、上司の声だけが耳につく。
怒られているわけでも、目の前にいるわけでもないのに、その怒鳴り声に頭からさぁっと冷えていく感覚。

「なんでわざわざ事務所じゃなくて工場で?」とさらに頭が重くなる。
雨も降っていないのに、報告のためだけに工場へ行かせる意味が分からなかった。

でも、聞いているうちに見えてきた。
パートの人たちは上司Aに
「何言ってるか分からない」「口がくさい」「給料上げてほしい」
と言いたい放題だった。
ああ、そうか——馬鹿にされて自尊心が傷つけられている人ほど、自分より弱い立場の人間を見つけると、そこで取り戻そうとするんだな。
通訳の同僚は、恰好の的にされていただけだった。

昔の自分なら「かわいそう」で終わっていたと思う。
でも今は違う。この先読み力を、相手の感情を勝手に慰めるためではなく、「この人はまた同じパターンで誰かを標的にする」という予測に使う。
そして、記録する。

あの工場の声を聞いてから、私は上司Aが次にどう動くか何通りも先回りして考えるようになった。
「次に機嫌が悪くなるのはこういうときだ」
「この人がキレる前は、だいたいこの前兆がある」

延々、脳内で相手の出方を先読みしてしまうその癖は、正直しんどい。
胸が圧迫されるような息苦しさを感じるし、寝つきが悪くなることもある。

でも、労災の申請を視野に入れてから気づいた。
この癖、そのまま使えるんじゃないか、と。
「会社側はこう言ってくる」「診断書に対してこう反論してくる」
——それを先回りして想定し、こちらの言い分と証拠を先に固めておく。この先回りして考える力を使っているのは、上司の顔色をうかがっていたときと同じ。ただ、矛先を変えただけ。

誰かの機嫌のために張り巡らせていたアンテナを、今度は自分を守るために向ける。それだけで、同じ「考えすぎ」が自分を守る力に変わる。


②細かいことに気づきすぎる
(=普通の人なら見落とす「会社の違和感」を察知する高感度センサー)

世間ではこう言われる。
「気にしすぎ」「細かい」「生意気」。

でも違う。
他人のため息、オフィスの不快な音、指示の矛盾……。気づきたくもないのに気づいて疲れてしまうのは、あなたのせいではない。
過酷な環境を生き抜くために磨かれた、高感度センサーだからだ。

上司Aは「僕が知るはずないじゃん」「書類なんか適当に書けばいいでしょ」という人だった。
ある技能実習生から徴収する居住費について、周りの賃貸アパートの相場だけを根拠に金額を決めようとしていた。でも、その実習生は工場の一室に住んでいて、算定できる金額はどう計算しても足りない。企業側は「賃貸に住む人と同じように徴収しないと不公平だ」と主張してきたが、それはこちらの知ったことではない。

「今の書類のままでは徴収できません。証明できる金額が別に必要です」と上司に伝えると、その日の午後、上司が自分で電話をかけたらしく、手書きのメモに勝手な計算式を書いて「この金額ならいいでしょ?」と渡してきた。「証明できる書類はありますか?」と聞くと、「それはないけど、僕が聞いたから構わないでしょ」と。
メモを持つ手に力が入るのが分かった。これを書類に書くのは私で、偽造するのは上司でも、提出するのは私だ。だから、そのメモとやり取りは全部残しておいた。案の定、でたらめな金額だった。数か月後にそれが分かったとき、「やっぱりな」と思った。
でたらめなメモを渡されたけど、悔しくはなかった。ただ、証拠がある自分にほっとしただけだった。

あのメモを保存したとき、正直「こんなもの、取っておいて意味があるのか」と半信半疑だった。証拠って、集めているときは地味だし、報われる保証もない。むしろ忙しい時なんかは、「何をそんなに記録してるの」と自問自答することもあった。

でも、会社がひた隠しにしたい矛盾や、指示の破綻、法令すれすれのやり取りは、こういう地味な記録の積み重ねでしか残らない。

あのとき感じた「手に力が入る感覚」を、私は無視しなかった。違和感をすぐスルーできない性質は、たしかに疲れる。だけど、休職や労災の交渉の場では、その違和感の記録一枚が、会社に1ミリの言い訳も与えない盾になる。

「気にしすぎ」「細かい」と言われてきたそのセンサーは、会社の矛盾を誰よりも早く見つける高感度センサーだった。
気づきたくなかったことに気づいてしまうその感度は、あなたの欠陥じゃない。ただ、使い道を変えていないだけだ。


③心がすっと引いてしまう
(=会社の感情論に流されず、淡々と手続きを進めるための拠りどころ)

世間ではこう言われる。
「冷めている」「何を考えているかわからない」。

でも違う。理不尽に詰められた時、心がざっと引いて、どこか客観的に相手を見ている自分がいる。
それは、心が完全に壊れてしまうのを防ぐために、あなたが自ら作り上げた拠りどころだ。

もう一人の上司Bは、仕事ができないというより、やる気がなかった。即レスで「分かりました」「了解」と返ってくるのに、確認すると何もやっていない。忙しいから、と上司Aにかばわれていたが、忙しいのはこっちも同じで、ボランティアではなく給料が発生している以上、理由にならない。

「サラリーマンだから、上(会長・理事長)の指示には逆らえないんだ」と、上司B自身が同情を誘うように話してきたことがあった。
以前の自分なら、その言葉に少し心を動かされていたかもしれない。でも、数か月経って分かった。全部、話を盛っていただけだった。少しのことを大げさに話して、それを周りが信じていただけ。

「大変だけど、自分にしかできないんですよ」と言いながら、実際は誰よりも期限を守らず、言ったことも忘れる。同情するように語っていたその口で、自分の立場もちゃっかり利用していた。

私には関係ない。できていないことをできているように見せているだけの人に、感情を使う余裕はない。そう思えるようになってから、心がすっと冷めて、ただ事実だけを見られるようになった。もちろん、上司Bによって生じた混乱は、感情ではなく記録として残してある。

上司Bの「サラリーマンだから仕方ない」に、もし私が最後まで同情し続けていたら、きっと自分の記録より先に、彼への配慮を優先していたと思う。でも「私には関係ない」と一度線を引いてから、心がすっと静かになった。冷たいと言われても構わない。感情を差し込まなければ、事実だけが正確に残る。

休職や労災の交渉に入ると、会社は必ずと言っていいほど情に訴えてくる。「みんな大変なんだ」「あなたのことも考えてやってきた」——その言葉に心を動かされた瞬間、こちらの主張は弱くなる。
あのとき上司Bの言い訳に流されなかった自分と、今、会社の情に流されない自分は、同じ判断の軸で動いている。

感情を切り離せることは、冷たさじゃない。診断書と法律という事実だけを、誰にも揺らされずに突きつけるための、あなただけの盾だ。


だからこそ、あなたにもできる

3つとも、覚えている感覚がある。頭からさぁっと冷えていく感覚。手に力が入る感覚。心がざっと引く感覚。どれも、決して気持ちのいいものじゃない。むしろ、できることなら一生感じたくなかったものばかりだ。

でも、その感覚をくれた脳と体は、ずっとあなたを守ろうとしてきた。ただ、使う矛先が「相手の顔色をうかがうこと」に向いていただけだ。

矛先を変えるだけでいい。同じ気づく力を、今度は自分の記録のため、自分の手続きのため、自分を守るために使う。


ここまで読んでくださってありがとうございます。
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