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③後編【キャラ紹介ストーリー】茜色の空と、白い月。【東野 深月(ひがしの みつき)&デズデモーナ】

こんばんは、「まる。」です!🦍

前編・中編と長きに渡ってお届けしてきた深月みつきの物語も、
遂にクライマックスを迎えます。

託された想い。幼少の頃からの夢。
互いの信念を懸けた戦いが、いよいよ幕を開けます!!!


まだ前編・中編をお読みでない方は、ぜひこちらからご覧ください📗


■前編


■中編

💡 読者の皆様へお知らせ
本章は、いよいよ『HorizonNotes』のカードバトル展開が本格的に絡んできます!

カードゲームの知識が全くなくても「一つの熱いドラマ」として楽しんでいただけるように工夫して書いていますが、

もしよろしければ、以下の記事で事前にルールをチラ見しておいていただけると、
バトルの解像度がグッと上がってより一層楽しめるかもしれません!🔥



前回までのあらすじ

月の光(ドビュッシー) /作(編)曲 : 音楽の卵
フリーBGM素材 音楽の卵


星の精霊アルカステラたちは、十八歳という境界線を越えた瞬間に、永遠に姿を消してしまう。


この世界では、大人になることは、相棒との別れを意味していた。


小説家になる夢も、
幼馴染の茜と誓ったWCSワールドチャンピオンシップの約束も、
相棒・デズデモーナの存在も。


私はずっと両親の期待や将来を言い訳にして、
すべてから逃げ続けていた。


傷つくことを恐れて優等生を演じ、
茜への嫉妬に蓋をして過ごした三年間。


しかし、十八歳の境界線。


光となって消えゆく最後の瞬間、
デズデモーナは微笑んで私に告げた。


『私とあなたの軌跡を、どうか、
あなたの物語(ノート)に書き留めてくださいな。
……私のお話は悲劇として語られることばかりなのだけれど。
あなたと繋がったこのあたたかい記憶だけは、
絶対に悲劇のままで終わらせたくないの』


その願いが、止まっていた私の時間を動かした。


デズデモーナとの夢を、最高の形で終わらせるために。


私はついに、
子供の頃からの夢だったWCSの予選へ出場することを決意した。


私が逃げ続けていた三年間。


親友であり最大のライバルである茜は、
私への羨望と嫉妬を抱えながら、
たった一人でWCSの頂点だけを目指して戦い続けていた。


互いの夢と意地が交錯する、予選最終戦。


盤面に向かう私の手元には、
文字すら読めなくなった無機質なカードたち。


けれど、絶望はない。
過去の記憶と頭の中のシミュレーション。

そして相棒が残した「信じている」という言葉があるから。


たとえ親友のたった一つの夢を壊してでも、
私には証明しなければならない奇跡があるから。


二度と悲劇では終わらせない。
相棒と紡ぐ最高の物語の結末を。


今、私たちの手で描き出す。


第十一章 : この悲劇を、最高の物語にするために

「…深月。」


茜は静かに、けれどその声には、
微かな切なさが滲んでいた。


深月みつきってさ、
高校卒業したらやっぱりKO大学に進学するの?」



それは、いつかの夕暮れ。
茜色に染まる帰り道で交わした会話の続きだった。

私はあの時と少しも変わらない温度で、静かに頷く。



「……うん、そのつもりだよ。」

「その後は?」



探るような茜のまっすぐな瞳が、私を捉える。
私は――



「小説家。」

迷いなく、ひとこと告げた。



「子供の頃から、ずっと変わらない夢なんだ。
成功するかどうかは分からないけど……
それでも勉強しながら、働きながら、私は自分の手で物語を紡ぎたい」



「…そっか。」


茜はふわりと微笑んだ。

眩しいものを見るような羨望と、
安堵が入り混じったひどく優しい表情で。


「やっぱり凄いね、深月は」
「茜こそ」



ふたりの間に落ちた温かな余韻を、鋭く断ち切るように。


熱気で茹だるような会場の喧騒を切り裂いて、
無機質なマイクの声がホール全体に響き渡った。





『――それでは、最終戦を開始いたします。
バトル、HorizonNotes』





互いの夢と託された想い。
ーーー私たちの、幼少の頃からの夢を懸けた戦いが


今、始まる。




テーマ3 /作(編)曲 :魔王魂
イベント演出 | フリーBGM・無料ダウンロード 魔王魂


ーーー先行、茜のターン。



まずは、お互いが交互に行動を展開する、チャージフェイズ。



「私は、『恩寵の鐘-グレイス・ベル-』をエーテル変換!!!」











ーーー『恩寵の鐘-グレイス・ベル-のエーテルエフェクト発動! デッキからフォロワーカードを一枚持ってくるよ!』









――この効果を、私は知っている。










あの頃、茜が嬉しそうに見せてくれたカード。


「このコンボすごいでしょ!」と、目を輝かせていた放課後の教室。


デズデモーナと一緒に駆け抜けた数え切れないほどの思い出が、
目の前にある茜のカードの効果を、私に完璧に教えてくれる。



「……私は、『ワイルドハント』のエーテルエフェクトを発動!
茜の盤面にいるすべてのアルカステラに、1d6+3点のダメージ!!!」



私の淀みないカウンターに、茜の表情が微かに引き締まるのが分かった。




「……やるじゃん。なら、メインフェイズ!!!」




私は盤面の要であり、唯一無二の相棒へと思いを託す。




そして、対面の彼女の盤面にはーーー

ーーーきっと、私の最愛の相棒デズデモーナと同じ姿をした
彼女の相棒デズデモーナがそこに立っているのだろう。




「私の『デズデモーナ』で、あんたの『デズデモーナ』に攻撃!!
――純白の落涙(イノセント・ティア)!!!」







「くっ…!」



デズデモーナからの手痛い一撃。


彼女を暗い箱に閉じ込め、
三年間も失ってしまったという私自身の罪悪感が、
数値以上の重いダメージとなって心に響いた。



「まだだ!
デズデモーナの支援スキル、|嫉妬の反転《ジェラシー・リヴァーサル》発動。
デズデモーナをアンタップ(未行動状態)に」





茜は止まらない。





「更に、フォロワー『シルフ』を召還!!!」









『フォロワー?』
『そう!
デズデモーナのクラス、ホノリウスは仲間を召喚できるんだよ!
そのフォロワーもデズデモーナみたいに攻撃したり、サポートしたりできるんだ!
これで私のデズデモーナを守ることが出来るの!』

『えー、そんなのズルだよ……』
『深月、大丈夫ですわ! そういう時は……』









脳裏に蘇る、あたたかな声。
私は目を閉じ、
記憶の中の相棒が教えてくれた「答え」を盤面へと引き抜いた。



「……私は、
ホノリウススペルカード『ピュリファイ・スパイク』を発動」


空白の盤面から放たれたのは、神聖な魔力が形作った、
鋭利な『浄化の棘』だ。


それは茜が召喚したばかりの風の精霊シルフの胸元を、
一瞬の猶予もなく貫き通した。


鈴の音が弾けるような音を立てて、シルフの姿が崩れ落ちる。


かつて三人で共有した思い出のように、
シルフは色褪せた光の破片となって、静かに光の中へと溶けていった。




「召喚されたばかりのシルフに、3点ダメージ!
……戦闘脱落したシルフは残照カードとなって、再利用できなくなる。
だよね?」


「……深月っ!」


こちらの完璧なカウンターを受け、茜は唇を噛み、
悔しそうな、けれどどこか嬉しそうな複雑な表情を浮かべた。



その後も、静まり返ったテーブルの上で、熾烈な攻防が続いた。



互いの意地と意地がぶつかり合うように、
各々がスペルカードやスキルを撃ち合い、
見えない火花を散らしていく。






テキストが読めない私と、三年間のすべてを懸ける茜。
手札と願いの力エーテルを極限まで削り合う、
息の詰まるような駆け引き。




やがて、盤面にひとときの静寂が落ちた。


「……ターンエンド」



茜が小さく息を吐き出し、私を真っ直ぐに見据える。


「深月の番だよ」


***


続く、私のターン。


ドローしたカードに触れた瞬間、指先から伝わる確かな質量が、
私の意識を遠い過去の、セピア色の記憶へと引き戻していく。


『えー、手札を二枚も捨てなくちゃいけないの?』

幼かった私が、自分のデズデモーナのテキストを見て不満げに声を上げる。

私の相棒のデズデモーナには、
他のアルカステラにはない、あまりにも大きすぎるデメリットが存在していた。



それは、ターンが経過するごとに形を変えて強制的に発動する、
『オセローの悲劇』。



手札の破棄、スキルの封印、被ダメージの倍化、エーテルの全喪失――。



ターンが進むごとに残酷さを増していく、
余りにも重すぎるその『七つの悲劇(デメリット)』を毎ターン突きつけられるのが嫌で、
私はいつしか戯曲の『オセロー』という作品自体が嫌いになってしまったほどだ。



『うぅ……深月、こればかりはどうしようもないのですわ。
ごめんなさいですわ……』



デズデモーナは、しょんぼりとした様子でこちらを見つめる。
その瞳に浮かぶ申し訳なさそうな顔を見て、
私はそれ以上文句を言うことができなかった。



『……ですが、深月。
わたくしをどうか、どうか最後まで信じて欲しいのですわ。
たとえ世界中の誰もがわたくしを疑っても……
深月だけが、最後までわたくしのことを信じてさえ下されば。
わたくし、きっと奇跡を起こして見せますの』



『……本当?』


『もちろんですわ!
深月の為なら、どんな悲劇だって打ち破って見せますわ!』

『……その奇跡って、一体何が起きるの?』


『ふふ……それは、みんなには内緒ですわよ?
――その奇跡というのはね、深月。実は……』


脳裏に蘇る、彼女の悪戯っぽい、
けれど世界で一番優しい、確かな熱を帯びた声。

その「答え」を思い出した瞬間ーーー





「……信じるよ、デズデモーナ」





私は真っ直ぐに前を向き、茜を見据えた。


この空白のカードを握りしめて。
現実の世界で、私がデズデモーナの奇跡を証明するーーー!!

「私のメインフェイズ。
私は、『天の梯子-ラダー・オブ・ヘヴン-』を発動。
追加コストを3点支払い…カードを三枚ドロー」


私は、手札のカードの枚数を増やすと、
それ以上の展開は行わず、手元にカードを伏せた。


「私はこれでターンエンド!」


即座にターンエンドを宣言した私に、会場全体に一瞬の静寂が落ちる。



「アルカステラのスキルも使わない。
スペルカードも他に使わないでターンエンド…正気?」


「うん。
私の勝利へのプランはもう、決まってるから。」

勝ち筋……。

その言葉を聞いた茜の表情が、一瞬で引き締まる。


同じデズデモーナを使い、そのデメリットを知り尽くしているからこそ、
彼女は私の『真意』に気づくことができた。




「……深月、正気?
その作戦、フリー対戦ならまだしも……
公式戦なんかじゃ、この私ですら一回も成功したことないよ?」




それは、ただの警告ではなかった。
同じ相棒と戦い続けてきたからこそ分かる、その作戦の絶望的な難易度。




ーーでも、それでも私は。




「デズデモーナを…最後まで信じるって決めたから。」



真っ直ぐに見据えて告げた私の言葉に。

茜は一瞬、驚いたように目を見開いたが――
直後、その瞳は激しい怒気を帯びた。




「……信じる?」





ギリッ、と茜が奥歯を噛み締める音が聞こえた気がした。


「一番大切な相棒を…三年間も捨ててたあんたが……
そんな言葉、軽々しく口にしないでよっ!!
私のターン!!!」



第十二章 :見破られた戦術と、紅き月食の絶望

フリーBGM「月下美人」/作(編)曲 : まんぼう二等兵
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 まんぼう二等兵

二ターン目、茜のターン。


彼女は流れるような動作で、
手札が規定の5枚になるようカードをドローした。

「あんたの狙いが『オセローの悲劇』を耐え抜くことだとしたら…

わざわざ言う必要もないけど、デズデモーナの使い手は、
先攻プレイヤーのターンが回ってきた時に必ず悲劇デメリットが襲いかかる」



ターンが経過するごとに、段階的に凶悪になっていくデメリット。
もちろん、長年デズデモーナを使っていた私には痛いほど理解している。




「悲劇を回避する方法は二つ。
一つは、ここでデズデモーナを犠牲リタイアにすること。

それを選択すればこのデメリットを完全に回避して、更にプレイヤーは5点のエーテルを獲得できる」


「もう一つは、デズデモーナを一度も戦闘不能にさせることなく、
8ターン目を迎えること……だよね?」



私が間髪を入れずに引き継ぐと、茜は僅かに口角を上げた。



「第2ターンの悲劇の内容は、『自分の手札を2枚捨てる』こと。
……私は、このデメリットを受け入れる」


「私も当然、受け入れるよ」



その為に、私は1ターン目の行動リソースを最小限に留め、
手札を補充する『天の梯子ラダー・オブ・ヘヴン』のドローに回したのだ。

私と茜は同時に、手札から2枚のカードを選び抜き、トラッシュ(墓地)へと叩き落とした




「……さて。1ターン目の動きで分かったことがある」




茜の鋭い視線が、私の瞳を射抜く。



「あんたのデッキは『スペルデッキ』。
アルカステラのスキルではなく、スペルカードを主体としたデッキ構成だ」



「……」


「考えてみれば当然か。
今のあんたには、アルカステラの姿が見えていない。
声も聞こえないし、コミュニケーションを取るのも難しい。

だからこそ、自分の手で的確にプレイをコントロール出来る『スペルカード』を主体にしたデッキを作った」





……流石は茜だ。
まだ2ターン目に入ったばかりだというのに、
たった1ターンの動きで、私のデッキコンセプトと『弱点』を的確に見抜いてくる。




「『オセローの悲劇』
……そんなものに頼らなくても、
あたしがあんたに直接、試練を与えてあげる」



茜の指先が、切り札のカードを力強く盤面に押し出した。




「アストラルコード発動!
『絶望の月食(イクリプス・オブ・ディスペア)』!!!」




宣言と共に、頭上の空間に巨大で禍々しい『赤い月食』のホログラムが浮かび上がる。




デズデモーナのアストラルコード絶望の月食




本来、デッキを一巡ライブラリアウトさせないと発動出来ない大技のアストラルコードだが、

この能力だけは『次に獲得するアストラルコードの権利を一つ失う』という前借りの代償を払うことで、即座に発動することが出来る特例中の特例だ。




――そして、その恐るべき効果は。





「『お互いの全てのアルカステラは、スペルカードを発動するたびに、自身のHPを3点失う』」


「……っ!」


「そう。これは私のアルカステラにも影響を与えてしまう諸刃の剣だけど……」




茜は盤面の月食を見上げ、勝利を確信したように薄く笑った。




「スペルカードを連打して立ち回るあんたのデッキなら、
この効果は致命的でしょ?」


***

絶望の月食イクリプス・オブ・ディスペア……)

私も、現役の頃に何度か使ったデズデモーナの必殺技。


相手が今の私の様に呪文スペルカードを主体としたデッキの場合、
幾度となく私を助けてくれた心強い大技だ。


それが今、最大の障壁として立ちはだかり、私をひどく苦しめている。


(……ここから先は、最小の動きで茜の猛攻をいなしつつ、
『悲劇』に備えないといけない)


私は、脳内に刻まれた『オセローの悲劇』の効果をもう一度思い出す。





次のターン、3ターン目の悲劇は『支援スキルの使用不可』。



アルカステラたちからのスキル支援が元から見込めない今の私にとっては、さほど致命的な脅威ではない。



問題は…


4ターン目――『アルカステラが受けるダメージが2倍になる』ターン。


この絶対的な隙を突いて、茜は確実にデズデモーナを仕留めにくるはずだ。



茜の猛攻を凌ぐための防御カードを、
今のうちに引き込んでおく必要がある。





手札に目を落とした瞬間。
また一つ、温かくて懐かしい記憶がふっとよみがえった。





***
『わぁ……! みてみて、デズデモーナ! キラキラのカードを引き当てたよ!』

少ないお小遣いをやりくりして、初めて買ったカードの拡張パック。

その中には、幼かった私にとって宝石のように輝いて見える一枚のカードがあった。

『まぁ! 凄いですわ! そのカードはURと言って、とっても希少なカードですわ』

『え? そうなの?』

『えぇ! このカードがあれば、私たちはもっともっと強くなれますわよ!』

ホログラム加工されたカードを夕日にかざし、
私は隣で微笑む相棒に言った。

『……そっか! じゃあ、このカードは私とデズデモーナの切り札だね!』

***






その「切り札」は今、私の手の中にある。
たとえカードのテキストが読めなくても、あの日のカードのイラストと、紙の確かな手触りだけで分かる。






「……私は、ホノリウスクラス・スペルカード『ドミナティオ・トリケファルス』を発動。」



「っ……!」



スペルを発動した瞬間、絶望の月食イクリプス・オブ・ディスペアの呪いが発動し、
私のデズデモーナのHPが3点削り取られる感覚を覚える。




「このスペルカードは、三つの効果を同時に発動する。
第一の効果、私は山札からカードを2枚ドロー」





私は、山札から二枚のカードを引き抜く。





「第二の効果……山札から好きなスペルカードを1枚手札に加える!
私は、防御スペル『アルティメットセキュア』を手札に」


「くっ……! 4ターン目の悲劇に備えた防御カードか!」



私の狙いを悟り、茜が忌々しげに顔をしかめる。



「そして第三の効果。
このターン、私が発動するホノリウスクラスのスペルカードのコストはマイナス1される。
私は、この効果でコストが減った状態で、2枚目の『天の梯子-ラダー・オブ・ヘヴン-』を発動!」



「っ、またドローカードを……!」




再び《絶望の月食》が赤黒く発光し、デズデモーナのHPがさらに3点失われる。
合計6点ものHP消耗。
だが、これが未来を切り開くための代償だ。



「カードを追加で3枚ドロー。
……私は、これでターンエンド!」



絶望の月食イクリプス・オブ・ディスペアによるこれ以上の自傷ダメージを警戒し、
私は4ターン目を生き残るための手札(リソース)だけを確保して、早々にターンを終了した。


第十三章 : 七つの悲劇の果てに、奇跡の名前を呼ぶ

ーーー三ターン目。

『支援スキルの使用不可』という悲劇が、静かに盤面へと降り注いだ。


アルカステラたちの声が聞こえず、
その姿も見えない今の私にとって、
この悲劇はさほど致命的な意味を持たなかった。


けれど、茜にとっては違う。


盤面を維持し続けるための、
彼女のデズデモーナが持つ優秀な支援スキル群が根こそぎ封じられ、
その攻勢が一瞬だけ鈍る。


私はその僅かな隙を衝いて手札を整え、来るべき4ターン目へと備えた。



***

ーーー四ターン目。


『アルカステラが受けるダメージが二倍になる』。


この悲劇こそが、茜が最初から照準を合わせてきた、
私たちにとっての最大の山場だった。


「……来た。いけぇ! デズデモーナ!!!!」


茜の指先が鋭く盤面を走り、必殺の攻撃が宣言される。
これが通れば、ダメージは二倍。
このあとの悲劇を耐え切る可能性はなくなる。


しかし。


「——防御スペル、『アルティメットセキュア』発動!!!」



私は第2ターンに|私の切り札《ドミナティオ・トリケファルスで、
温存し続けていたその一枚を、ここで惜しみなく盤面へ叩き出した。


「くっ……!」


茜が悔しげに歯を食いしばる。
この絶対防御のカードがある以上、彼女の攻撃はこのターン、
絶対に私のデズデモーナへは届かない。


……でも、それで凌ぎ切れるのはこのターンだけだ。
次の悲劇が来るまでの時間は、あまりにも短い。

***

五ターン目。

それは最も静かで、最も残酷な悲劇だった。


『自分の願いの力エーテルを、すべて失う』。



場に積み上げてきた、
スペルカードを動かすための魔力(燃料)が、
まるで砂時計の砂が底を突くように、一粒残らず消え去っていく。



「……っ」



スペルカードを主体として戦っている私のデッキは、
この一瞬で全ての歯車が止まったも同然だった。


空になった手のひらを力強く握り締め、私は唇の端を噛む。


目の前の茜は何も言わない。
ただ、わずかに目を細め、じっと私の表情を観察していた。

(……まだだ。まだ諦めない)



脳裏に刻み込んだ残りの悲劇のテキストを、
もう一度静かに辿る。 次のターン。
6ターン目の悲劇は——。


***

【解説席にて】


「……信じられない。
あの重すぎるデメリットを抱えながら、
スペルデッキでここまで凌いでいる……!」


 「……にゃむ」


珍しく、沙弥は短い相槌しか返さなかった。
その真剣な視線は、画面の中に映る深月の手元から一切離れていない。



「沙弥……?」

 「分かってる。
かのぷー、黙って見ててくれにゃむ」



モニターの中。
5ターン目の悲劇で願いの力エーテルを全て失い、
身動きが取れなくなっても、
深月は盤面から決して目を逸らさなかった。


その横顔には、恐怖も焦りも見えない。
ただ、何かひとつのことだけをまっすぐに信じて待っているような
——不思議な静けさと、覚悟があった。


***

ーーー六ターン目。


『自分のメインフェイズをスキップする』。


このターンは、お互いにデズデモーナを使っている以上、
行動が制限され束の間の休息が訪れる。


最後の悲劇に備えた、最後のモラトリアム。


(……デズデモーナ)


声は届かない。返事も来ない。
でも、私は盤面の中のたった一人の相棒に向かって、
声にならない言葉を送り続けた。


***

そして——七ターン目が来た。

先攻プレイヤーである茜のターン開始と同時に、
デズデモーナの悲劇の中で最も凶悪な効果が、盤面全体に暗い影を落とす。





『自分の全てのアルカステラの最大HPは1になる。
その後、手札をすべて捨て、カードを1枚ドローする』





……これが、七つ目の悲劇だ。
デズデモーナたちの最大HPが、一瞬にして「1」に書き換えられる。


今まで必死に積み上げてきた守りが。


一枚一枚重ねてきた盤面への工夫が——全て、無意味になる。
茜の攻撃がかすりでもすれば、それで終わりだ。



「……」


私は、震える手で手札を全てトラッシュ(墓地)へと送り出した。


手札の全ての希望カードが、音も立てずに捨て場へと落ちていく。
そして、山札に残った最後の一枚を——引く。
指先に触れる、紙の確かな重さ。


……たった、これだけ。


引いたこの一枚が、今の私に残された全てだった。



***


「……深月は、悲劇を受け入れたんだね。」



茜が静かに聞いた。

感情を読み取れない声だった。



「うん」


「そっか」


しばらく、カードを切る音だけが二人の間に流れた。




茜は、ゆっくりと自分の手元に目を落とす。

その指先が、微かに——本当に微かに、震えた。





「……七ターン目の悲劇は、私にも来る」




茜の声は、静かだった。


「デズデモーナの最大HPが1になる。
……このターン、あんたから攻撃を受けたら終わる」


「……うん」


「だから私は——」


茜はそこで一度、言葉を切った。

膝の上に置かれた彼女の手が、固く握り締められる。








「……ごめん、デズデモーナ」








それだけを言った。


感傷的ではなかった。
涙も、迷いも見えなかった。


ただ、三年間ずっと夢だけを栄養にして戦い続けてきた、
一人の競技プレイヤーの顔がそこにあった。



茜は自分のデズデモーナのカードを、静かに手に取った。



「あんたと一緒に戦ってきた時間は、本物だったよ。
……でも、私には夢がある」







デズデモーナを——戦闘脱落リタイアさせる。







「WCS優勝っていう、私の唯一の夢を叶えるために。
それだけのために、ここまで来た」




5点のエーテルが、茜の盤面に流れ込む。

それは確かに正しい選択だった。




三年間、誰よりも真剣に、
誰よりも真っ直ぐに夢と向き合ってきた彼女にとって——
それは、正しい選択だったのだ。




「……あんたがカードを辞めて逃げていた三年間。
私はずっと、これだけのために戦い続けた」




茜の瞳が、私を真っ直ぐに射抜く。







「私には絶対に負けられない理由がある。
……深月、あんたにはあるの?」










ある。







確かに——ある。


私の背中には、消えゆく間際に「信じている」と微笑んでくれた、
たった一人の相棒との誓いがあるのだから。



盤面のデズデモーナたちのHPは、今や「1」だ。


茜の攻撃が通れば、全てが終わる。


そして、今の私の手元には——たった一枚のカードしかない。

「……私は。」

私はそのカードを静かに手に取り、指の腹でそっとスリーブの感触を確かめた。






『その願いが、たとえ子供の頃の純粋な憧れで……やがて社会という大きなうねりに飲まれ、
多くの人と出会って、見えなくなってしまったとしても。

あなたの本当の夢はいつも、あなたの傍にありますのよ。
わたくしが、ずっとそうであったように』






暗い引き出しの奥から、遠い記憶の底から
——あの声が、響いてくる気がした。








「私は……ホノリウススペルカード『ドミナティオ・トリケファルス』を発動。」



「なっ…!!!」

***

【解説席にて】

「あれは……切り札『ドミナティオ・トリケファルス』!?
最後の最後に、手札を全て捨てた直後のあの1ドローで、
彼女はあのカードを引き当てたというんですか!?
奇跡です!!!!
今私たちの前で、信じられない奇跡を目の当たりにしています!!!」


沙弥は、答えなかった。
モニターから目を離さないまま、ただ口をつぐんでいた。



「……沙弥?」

「…かのぷー」


沙弥の声は、いつになく低かった。



沙弥 「カードゲームを長くやっていると、
時々、確率や理屈じゃ説明できない考えられないことが起こるにゃむ」



沙弥は続ける。


「負けそうになっても、心が折れそうになっても……
自分のデッキを、自分のカードを信じ抜いた者にだけ起こる不思議なこと。
……これを人は、『奇跡』って呼ぶんだろうね」


***

7ターン目、茜のターン。


彼女の指が、祈るように盤面を走る。
私に残されたHP1のデズデモーナへの、止めを刺す攻撃宣言——。


「いけぇっ!!!」


「っ……!」



けれど。
奇跡のドローから発動した『ドミナティオ・トリケファルス』の効果で、
私の手元に舞い降りたカードが、最後の防壁となった。

一ターンだけ、攻撃を完全に無効にする——絶対防御カード。






「私は、サーチしてきた『アルティメットセキュア』を発動!!!」





光の壁が展開され、それが今、私のデズデモーナを完璧に守り切った。



「……っ!」



茜が息を呑む。 私は、胸の奥で静かに何かが弾けるのを感じた。
7ターンに及ぶ、長く苦しい悲劇の連鎖が、今、終わったのだ。








「……ターンエンド、だよ」







茜の声が、微かに上ずっていた。

***

——そして、運命の八ターン目が来た。


先攻プレイヤー茜のターン開始。


今まで積み上げてきた全ての悲劇の最果てに辿り着いた、この瞬間。


ターンの宣言と同時に——盤面に、かつてないほど暖かく、
静かな光が満ちた。





『自分の全てのアルカステラの最大HPを100に変更して全回復させ、
最大レベルLv3として進化インクルードする』





七つの悲劇を最後まで耐え続けた者にだけ与えられる、奇跡の最終効果。




……最大HP、100。 ……全回復。 ……最終段階Lv3への、進化インクルード



目の前の盤面で、とてつもないエネルギーが渦巻いているのは分かった。


でも、魔法が解けた私の目には何も見えない。
声も聞こえない。


それでも——盤面に置いた指先から、
確かな熱と鼓動が伝わってくる気がした。



震える手で、山札からカードを引く。
指先に触れた瞬間。
脳裏に、全てが鮮やかに蘇った。


あの日。地元の小さなショップ大会の決勝戦。
最後の一枚を引いた瞬間に、私より先に泣きながら叫んでくれた
——世界で一番うるさくて、世界で一番愛おしい声が。









『——深月みつき、今ですわ!!!』












聴こえた、気がした。


引き出しの奥に閉じ込めていた三年間も、
消えゆく間際に微笑んでくれたあの夜も、全てを超えて——確かに。





「…………」





私はそっと目を閉じ、それからゆっくりと開いた。
手の中のカードに触れる指先は、もう震えていなかった。





「……私の、メインフェイズ」



私の声は、ひどく落ち着いていた。







「デズデモーナLv3のアストラルコード。
悲劇の終幕トラジック・エンド——発動。」






茜の表情が、一瞬で固まった。
それは、凄惨な悲劇を乗り越えた先にある、たった一つの『奇跡』。




「更に——ホノリウスクラス・スペルカード、発動」




次々と展開される、怒涛のコンボ。
カードのテキストが読めなくても。
イラストの形と紙の手触りと、
そして——あの声が教えてくれた記憶だけで、
私は全てのカードを正確に動かしてみせた。







「……嘘」






圧倒的な光の奔流を前に、茜が呆然と呟いた。


***

しばらく、二人の間に沈黙が落ちた。


システムが私の勝利を告げても、
周囲の喧騒が、水の底にいるかのように遠く感じられた。



茜は自分の盤面を見つめたまま、
長い間、何も言わなかった。


やがて——ふっ、と。 小さな息が、彼女の口からこぼれ落ちた。



笑い声だった。
悔しさと、それから——どこか懐かしいような、
誇らしいような、複雑な色が混じった笑い声。



「……バカじゃないの」



茜は、涙を拭うでも隠すでもなく、ただまっすぐに私を見た。



「デズデモーナを最後まで信じるなんて……。
そんな馬鹿なことを、公式戦で本当にやり遂げるなんて」

「……茜」

「……でも」



茜は目を細め。
そして——かつて学校の屋上で見た、
あの太陽みたいに眩しい笑顔を浮かべた。



「そっか。そういうことか。 そういうことだったんだね、深月」



その言葉の本当の意味は、私には全ては分からなかった。
でも、彼女が次に口を開いた言葉は——。



「……WCS本戦、絶対に頑張って。私、応援してるから」



私にとって、それだけで、十分すぎるほどだった。


エピローグ : 茜色の空と、白い月。

茜色に燃える坂道。


長く伸びた影法師たちが、連れ立って家路を急いでいく。


どこかの開いた窓から漂ってくる、夕飯の甘辛い匂い。

遠くで響くカラスの鳴き声と、一番星を指さしてはしゃぐ子どもたちの声。

古びた商店街のアーケードが、ぽつり、ぽつりと温かなオレンジ色の街灯を灯し始める。


私が生まれ育った、どこにでもある小さな街の夕暮れ。


ガードレールに腰掛けながら、私はいつも通り、この見慣れた景色をただ無関心に眺めていた。

人々がどうしてこの時間帯に「ノスタルジー」や「郷愁きょうしゅう」という名前をつけて、心を揺さぶられるのか、その理由がどうしても分からなかったからだ。



明日も、明後日も、この退屈で穏やかな時間がただ等間隔に繰り返されていく。


そう信じて疑わなかった。


あの日の夕焼けを、今でもこうして原稿用紙に書き起こしてしまうのは、
私がまだ、あの場所から一歩も進めていないからだろう。


終わってしまったはずの時間を言葉で繋ぎ止めているのは、
彼女のいない明日を、私がまだ受け入れられていないからだ。


歩き慣れたはずの通学路の匂いも、遠くから聞こえる電車の踏切音も。


ポケットの中で少し溶けかけたチョコレートの甘さも。


あの日、幼少の夢の中で彼女と出会ってから、
世界のすべては全く違う意味を持ち始めた。


彼女の優しい瞳が、彼女の言葉が、私に教えてくれたのだ。


未来を信じたいという切実な願いも、自分を疑うことの耐え難い恐怖も。


不器用な心の裏にある哀しみも、本当の優しさの形も。

人の心が持つ、どうしようもなく厄介で美しい感情のすべてを。


彼女の存在は、空っぽだった私の世界を鮮やかに塗り替えた、ただ一つの色彩だった。


いや、違う。


今、私は上を向いて、確かにこうして物語を紡いでいる。


悲劇じゃなくて、温かな思い出と共に。


あの茜色に染まる空の向こうで、きっと今も——


私を信じて、微笑んでいるだろう。


私の大切なあの白い月デズデモーナへ。





これが、私たちの最高の物語。










ここまでお読みいただきありがとうございました✨


そして…最後に



カピタンさん、ありがとうございました!

ゲーム楽しみに待ってます😎


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